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4人目 Ⅻ・ヤクイ 日

「この世界も、夏は暑いな…」


 学校に入学してから早数ヶ月が経過した。


 気が付けば、もう夏休みである。


 どうやら、本校の夏休みは2ヶ月程あるようだ。


 それだけ長いと素直に喜ないな、逆に暇になるのでは?と思ってしまう。


 ここ数ヶ月を振り返ると、定期考査もまぁまぁな結果で良かったし、何人か友人も出来た。


 この世界の勉強も恙無く出来ているし、なかなかに順調な学生生活を送れているのではなかろうか。


 現在はといえば、ピャッチの屋敷の執務室にて、書類仕事をペタペタと進めている。


 判子を押して、次の紙を捲って、判子を押して……気の遠くなるほどの量が、机の上に積まれている。今はそれが只々恨めしい。


 かれこれ数時間はこの作業をしている。


「………仕事…きつい…辞めたい…」


 ボソボソと苦言を漏らしながらその作業を続けていると、不意に、執務室の扉が開かれた。


 そこから顔を覗かせたのは、眼の下に少し隈ができているピャッチである。


「………」


 現在の時刻を確認したが、特に食事だとか、休憩だとかの時間ではない。


 どうしてこんな半端な時間に執務室へと足を運んだのだろう?


 そんな疑問も、先方からの突慳貪な物言いを受けて明らかとなる。


 ブロンドヘアーの彼は、銀色の瞳を此方に向けながら、突拍子もない事を言ってみせた。


「荷物を纏めろ、明日から神様に挨拶巡りをしに行くぞ」


「うぇ?…神様?……確かに…いそうだもんな……って!唐突すぎないですか?」


「仕方ないだろう?すっかり、忘れていたんだから」


「開き直ってるよ……アレがご主人かぁ」


「なんだ?随分と態度が大きくなったな?」


「いいえ!ピャッチ様は最高の公爵であります!はい!」


「…まぁ、仕事は切り上げて、荷物を早く纏めるんだ」


「はい!仰せのままに!」


「お前…そんなウザかったっけ?」


「もともと、こんなんですけどね」


「やめたほうがいいと思うぞ。友人が減るぞ?」


「…はい…」


 痛い…めっちゃ的確に突かれたわ…痛いなぁ。うっ!嫌な記憶が!


 …さて、仕事も切りが良いし、ささっと荷物を纏めますか。何も無いけどね。


「ところで、荷物を纏める程、時間が掛かるもんなんですか?それって」


「ああ。距離も遠いし、目的地も一箇所だけではないからな。数日は屋敷を空ける」


「ご主人はもう荷物纏めたんですか?」


「ああ。今はお前待ち」


「なら早く言って下さいよ。人を待たせるのが、どれだけ申し訳無いか…」


 それからは、学校から屋敷に戻る際に購入した大きめの鞄に、執事服やら、私服やらを纏めた。


 それ以外のものが特に何もないからだろう。さほど時間は掛からなかったように思える。


「準備出来たな。それでは、愚王の所へ向かうぞ」


「え?今から行くんですか?」


「そうだ。…そういえば言ってなかったな」


「よし、なら早く行きましょう。今は動きたくて仕方ないっすわ」


「馬車はもう着いている。行くぞ」


 ピャッチは執務室の扉を開き、廊下へ出た。そして、俺もそれに続く。


 そうして、屋敷の外を目指して歩いていると、ある事に疑問を覚えた。


 どうして、ピャッチも【移動】を所持しているのに、瞬間移動的なことをしないんだろう?と。


 ザバやカイスは、よく瞬間移動を使用していた。ならば、同じく【移動】持ちであるピャッチにも同じ芸当が可能なのでは?


 そう思い、数歩先を進むピャッチへと声を掛けた。


「そういえばなんですけど、【移動】持ってますよね?」


「ああ、それがどうした?」


「いやぁ…それ使って、直接王様の所まで瞬間移動出来ないのかなと…」


「…うちが使える【移動】は、無機物限定なんだ。だから、命あるものには効果を示さない」


「へぇ~、個人によって少し違うんですね」


「大まかに【移動】って括っているだけだろうからな」


「なるほど、ありがとうございます」


 大まかに…か。


 じゃあ、他のやつもそうなのかな?


 そうして、色々な事を考えているうちに、馬車の前へと到達していた。


 ピャッチが先にそれに乗り、俺はその対面へと腰を落ち着けた。


 やっぱり、座るところが柔らかいと、何だか落ち着かないな。


 それからは、王様のいる王宮へと馬車で向かった。


  ▲ ▶ ▼ ◀ ▲


 王宮へと到着すると、王様ともう1人とが此方側に身体を向けて立っていた。


 その傍らには、今乗っているものよりも、さらに豪華さが増した馬車が停められている。


 俺とピャッチは馬車から降り、その2名の下へと足を動かした。


 すると、1番に出迎えてくれたのは、王様からのお叱りの言葉である。


「遅刻だぞ?もっと時間に余裕を持ちなさいな」


「っは!お前が言えたたちじゃないだろう」


 ピャッチは相変わらず、王様に対しての距離感がおかしい。普通はそんなこと言い返したら、捕まるのでは?


 王様は、そんなピャッチの物言いを気にした様子もなく、言葉を続けた。


「…まあ、そんなことはどうだって良い。さっさと行くぞ、良い宿がとれたんだ。先ずはそこで夕食をいただく」


 それからは、4人全員が馬車に乗り、王様の言ういい宿とやらに向かった。


 対面にピャッチ、その隣に王様、俺の隣に謎の子といった配置での移動である。


 道中は、ピャッチと王様が会話をしていたくらいで、俺は特に何も喋ることはなく時間は過ぎていった。


 かくして到着したのは、一概に宿と評して良いものか疑うレベルの代物であった。


 ってか、どちらかといえば、建物の規模や造りが宿よりも旅館とかに近しいように思える。


 今からここで夕食を摂るのだと考えると、なかなかに楽しみな気持ちになってくる。


 そして、贅沢な事に、この旅館は夕食を摂り、風呂に入り、寝る。それだけの為に使用して、明日の朝には、馬車にて次の予約している宿へ向かうのだとか。


 神様に会いに行くために、費用を掛け過ぎでは?と思ってしまうが、日本のそれとはまた違うものなのかもしれないな。


 まぁ、行ったことないけど。


 因みに今は、風呂に入り、皆が和服に着替えての夕食タイムである。


 お刺身とか、天ぷらとか、やけにこの世界観に似つかわしくない食べ物が出てきているが、俺からしたら、知らない食べ物が出てくるよりも有り難く感てしまう。


 それにしても…思ったよりも多いのね。次々と運ばれてくるから、俺はわんこそばでもしてるのかって思ってしまった。……良い例えが無かったんだよ。


「うめぇ~」


 王様…めっちゃ食うやん。


 料理が一番初めに運ばれてきてから、一向にそのペースは落ちない。昼飯抜いてたの?ってくらい、ご飯を食べ進めているその姿には、少し気圧されてしまう。


 俺はもう、お腹いっぱいかな。


「ごちそうさまでした…」


「おっ、ヤクイはもういいのか?なら、ヤクイの分も俺にくれぃ」


「凄いなぁ…」


「お前引かれてんじゃん」


 おっと、ピャッチが余計な事を言ったぞ。


 余りにも沢山食べる王様には少し引いてしまっているのは事実だけど、わざわざ言わんでいいやんか。


「そういうピャッチも、割と食ってんだろ?俺のこと言えねぇー」


「うちは育ち盛りだからな。お前はもうその期間は過ぎただろ」


「いいや?去年から8ミリくらい身長伸びたぜ?」


「うわ…」


「引くなよ、俺はまだ10代だぞ?成長が続いてても何らおかしくないはずだ」


 さてと、先に寝室にてゴロゴロしてようかな。座ってるだけでも疲れるもんだね。


 俺は王様に断りを入れてから寝室へと向かった。


  ▲ ▶ ▼ ◀ ▲


「うわぁ~、綺麗な中庭。風流を感じるわ」


 まじで、この世界の文化はどうなっているんだ?やけに日本感が強いように思える。


 学校の史学にも、何処となく和名に近いものも出てくるし、過去にこの世界へと訪れた日本人がいたのだろうか?いや、いるんだろうな。


 ハルルみたいに、人間じゃない姿の可能性もあるし、このお参りでも、気が付かないうちにすれ違ったりとかしそうだな。


「さっさと寝室行くか。明日の朝は早そうだし」


 スタスタと寝室へ一直線に向かった。


 俺が廊下を迷わずに済んでいるのは、一度、旅館の人に案内を受けたからである。…俺一応、記憶力なら自信あるんでね。


「まじで日本だな」


 そう呟きながら寝室の襖を開き、室内へと入った。


 おっ、先客がいる。


 そういえば、夕食を早々に切り上げて、先に寝室に行ってたんだっけな。この子。


 これは気まずい。


「取り敢えず…布団くるまるか」


 部屋の中央に4つ敷かれている内の1つに潜り込んだ。


 そうそうこれこれ、やっぱり、俺はベッドよりも布団が好きだな。


 布団からヌッと顔を出して、ずっと気になっていた謎の子を観やった。


「誰だっけな…視たことあるんだよな…」


 謎の子の特徴はと言えば、先ず眼に入るのは、親近感を抱くその黒髪だ。三編みのポニテが可愛らしい。


 彼女はピンクの瞳であり、右目には片眼鏡が掛けられている。


「……………」


 女の子かぁ…。


 馬車で隣になった時は、馬車の壁に身体を押し付ける羽目となった。なんだか、彼女だから拒絶をしている、みたいで申し訳無かったな。


 でも…怖いもんは怖い。


 人間誰しも苦手なものの1つや2つはある。


 俺の場合、それが女性だったってだけ。でも、それのせいでかなり生きづらかったのを、記憶力の良い俺は覚えている。


 これ以上考えるのはやめよう。


「…おやすみなさい」


 さて、寝るか。


  ▲ ▶ ▼ ◀ ▲


 ……ん?…なんだ?誰かに頬を突かれてるのか…?


「うぅ…」


 俺は虚ろな視界なまま身体を起こし、室内を見渡した。


「…ほんのり明るい?」


 今は恐らく、朝焼けが出始めた頃おい。


 そんな時間帯にいったい誰が俺の頬を突いていたのだろう。


「…おわっ…!」


 眠気を堪えながらボーっとしていると、突然腕を掴まれ、立ち上がらせられた。


 何て力をしているんだ。


 そして俺は、まだ眠気によりぼやけている視界のまま、廊下へと連れ出された。


 鈴が鳴らないということは、危険な状況では無いということだろう。


 そうして腕を引かれて辿り着いたのは、旅館の浴場。その頃には眠気も収まりを見せ始めていた。


 朝風呂に入れられるということだろうか。何気に、朝風呂の経験はあまり無いので、楽しみな気持ちが出てきている。


「…何か、脱がされてるな…」


 気が付けば俺はスッポンポンで、左手にタオルを持たされていた。


 そしてそのまま浴場の中へと腕を引かれて、気がつけば背中を流されている。


 人に背中を流されるのって、思ってたよりも良いな。


 そうして、のほほんとされるがままの状態でボーッとしていると、自身の眼が赤い事に気が付いた。


「ん~…?気の所為か…、瞳が赤いな…。カタバと、カラマイア嬢みたいだ……ふあぁ〜あ」


 すると、不意に背中を流してくれている人から声が掛けられた。


「前も洗う?」


 …?何か女の子みたいな声が………あれ?


 鏡に映る自身の後ろには、黒い髪が視えた。


「い、いや、前はいいよ」


 気が付いた頃には、全身に鳥肌が立った。


 俺は本能的に女性が苦手なのだろうな。ってか、ここまでの反応はアレルギーと評しても、問題はないのではと思う。


 ポンプ式のソレから泡を出して前側に塗り広げ、ささっと流した。


 そして、今の今まで左手に持っていたタオルを腰に巻き、浴槽へと向かった。


「王様かと思ってたわ……」


 なんか同じ風呂だし、スムーズに脱がされたし、力強かったし、王様かと思ってたわ。髪も黒いから紛らわしかったんだろうな。


 肩までゆっくりと浸かり、10秒を数えてからそそくさと更衣室へと足を動かした。


 さっさと出て、外気に当たろう。そう考えて足を動かしていたところに、謎の子は俺の腕を掴み、浴槽へと引っ張った。


 本当に力が強いのこの子。抵抗も出来ない。


「早い」


「うす…」


 そのまま浴槽に押し込まれた現在は、彼女に肩を揉まれたり、手をグッグッとされたり、足の裏をグッと……めっちゃ痛い!


「っ!?」


 駄目だ!振りほどけんわこれ!


「いてててててててて!」


 何なの!?この子は何をしているんだ?


 朝に起こされて、お風呂に入れられて、そのままマッサージされて気分は貴族様だよ。


 やがて痛みに耐える時間は終わり、今は更衣室にて着替え中である。


 先に自身の服をかごから取り、その場から離れた位置で服を着た。


 そうした一連の動きを視ていた彼女の顔は、何処となく不満気であった。何でそんなに世話を焼きたがっているのだろうか?


 それから廊下へ足を踏み出すと、謎の世話焼きっ子から声を掛けられた。


「髪乾かしてない」


「…は~い」


 俺は渋々と彼女に従った。


 腕を掴まれた時点で俺は逃げられない。抵抗する事も出来ない。


 また更衣室の中へと入り、髪を乾かされた。


 ドライヤーが備え付けられていたのに、何故か魔法を使って乾かしていた。何か乾く速度が違うのだろうか?


 その後は櫛で髪を整えられて、廊下へと連れて行かれた。


 一応訊いた方が良いのだろうか?どうしてここまでしてくれるのかを。……でも、自発的に出会って1日と満たない女の子に声を掛けるのは、なんだか気が引ける思いだ。


 そうして腕を引かれて訪れたのは、外の景色を一望できるスペースであった。


 夏なのに桜が咲いており、何だかエモい気持ちになった。彼女が黒髪である事も、この場のエモさを際立たせているのだろう。


「まるで、日本にいるみたいだ…」


 おっと、気が付けば口から溢れていた。


「眼は覚めた?」


「ああ…はい、お陰様で」


「…………」


「…………」


 やっぱり、この子は無口なスタイルの子だ。


 でも、この景色を眺めながらなら、それも気にならないな。


「っと…」


 またも腕を引かれた。


 今度は何処に連れて行かれるのか。なんだか少しずつ楽しくなってきている自分がいる。


「ね、ねぇ!名前…教えてよ」


 よし!ナイスだ!よく勇気を振り絞った!声が震えていたのは…まぁ、仕方がない!


 そうした問いかけを受けて、先方は足を止めてこちらに向き直り、その口を開いた。


「私はギャザット・N・トゥウェン。よろしく」


「ああ…どうも。…俺は、ニシロ ヤクイ。ヤクイでいいよ」


「…………」


「……なっ、何か?」


「いえ」


 そして彼女は再度俺の腕を引き、先日にも夕食を摂った部屋へと連れてってくれた。


 襖を開けると、そこには王様とピャッチの姿があり、先日と同様に仲良く会話をしていた。


「やっぱりお前の胃袋はおかしい!どうして昨日あんなに食べたのに、朝からそんなに食えるんだよ」


「ん~!うめぇ~!ほら、もっと食えよピャッチ!大きくなるには、まずは食え!栄養バランスがいいぞ、ここは」


「もう沢山食べたわ……っていうかお前、昔は少食だったろ?どうしてそんなに沢山食べるようになったんだ?」


「…お、ヤクイとギャザットじゃん。おはよ〜、早く朝食を食わないと、俺が食い尽くすぞ」


 こちらの存在に気が付いた王様が、俺達に声を掛けた。


 それに対して一番に返答してみせたのは、隣で俺の腕を掴んでいるギャザットである。


「はい、王様」


 それからは朝食を皆で食べ進めた。


 味噌汁が五臓六腑にしみわたる。焼き鮭は丁寧に骨を抜かれていて、丸かじりしても問題なかった。漬物は食えないから王様に献上した。茶碗蒸しは味が濃く、俺の好みの味をしていた。


「ごちそうさまでした…」


 ふ〜っ…食った食った。美味かったなぁ。


 料理が用意されるのって素晴らしい!しかも美味しいとか、本当にかなり有り難い。


「うむむ…」


 不意に口をハンカチで拭われた。


 手の伸びてきた方向へと視線を向けると、ギャザットがハンカチを片手にこちらを視ていた。


 世話焼きさんの次元を超えているのでは?いや…まさか、俺は子供として視られているとか?


 いや…たしか、俺の記憶が正しければ、この子とはタメだったはず。俺の記憶が正しければだがな。


「…………」


 相変わらず何も喋んないのね。…でも、それは俺も同じか。されるがままで、ボーッとしてたしな。


「ん?」


 今…この子が何かを喋ったような気がするな。独り言か?だとしたら、返事をした事がなんだか申し訳ないな。


 それから、朝食を食べ終わった俺は、寝室へと戻り、荷物を纏めた。


 そして、王様から伝えられた次の中継地点は、ナフカード国を出て、バドルオル共和国に向かうのだとか。


 イマイチ…ピンと来ないが、まぁ、行ったら分かるだろう。


  ▲ ▶ ▲ ◀ ▲


 かくして訪れたるは、バドルオル共和国の王宮の中、お客様用の寝室である。


 この王様は…宿を知らないのだろうか?


 そして、寝室まで案内をしてくれたのは、なんと、日本で言う天皇の地位のお偉いさんだった。後から教えられたもんだから、無礼がなかったかとても心配である。


 現在は、そのクソ広くて、クソ豪華な寝室のベランダにて、ティーセットを口に傾けてリラックス中だ。クソ美味いよこの紅茶?みたいなの。


 2人掛けのテーブルセットの片方に俺、そして、その対面には何故かギャザット。


 なんだろう…距離近くない?


 俺は荘厳造りの綺麗な庭を眺めているけども、彼女は俺しか視てない気がする。視界の隅から、めっちゃこっちを見つめる顔が視える。


 怖いなぁ…俺、何かしたかな?


 俺はそういうの、指摘されてから気が付くからな。本当に怖い…。


 そうして眺め眺められを続けること数分、突然にも寝室の扉が開かれて、王様が中に入ってきた。その傍らにはピャッチもいる。


「ヤクイ!ギャザット!観光に出掛けるぞー!」


「はい、王様」


「あ、はい!分かりました!」


 それからは身支度を整えて、王様達と共に街へと繰り出した。


 そうして王宮を出てしばらく、今は街の大通りを4人並んで歩いている。因みに、この街の名前はトロノイというらしい。


 この街の特徴は一目見た限りではあるが、天使が沢山いることだろう。というか、人間よりも天使系の方のほうが多いのではと思える。


 道行く人の背や頭部には翼が伺える。それを用いて実際に飛べたりするのだろうか?


「お〜!ギルドっぽ、あの建物。冒険者とか、この世界にはいるのかな?」


 すると、俺のそんな呟きを受けて、王様が解説をしてくれた。


「昔はいたみたいだぞ。だが、今は魔物なんていやしない、現代で一番怖いのは、人間とドラゴンだけだな」


「へぇ~、そうなんですか」


 この世界って魔物いないんだ。どこかのタイミングで全滅したのかな?でも…ドラゴンはいるらしい。ハルル以外のドラゴンは視たことないなぁ…他のドラゴン…いつかは視てみたいな。


 すると、どうやら目的地に到着したようだ。


 眼の前には、横に長い建物がドンとその身を構えていた。


「よし、着いたぞ。世界情報局に」


 そう言うと王様はズカズカと室内へと足を踏み入れ、受付の人に向かってある人物の呼び出しをした。


「こんにちは、スイ・トーピー局長は居ますか?」


 スイ……トーピー?スイ先生みたいな名前だな。ってか、スイートピーじゃんね。


 王様からの物言いを受けて受付は訝しげな表情となった。


 そりゃそうである。いきなり局長を出せと言われても、素直に従えないのは当然だろう。


「俺、テグルマニス学校で校長をやってるんだけど、知らない?あと…王様も一応やってるんだけど」


 すると、受付の人は突然にもその眼を大きく見開き、慌てた様子で裏へと引っ込んだ。


 それから待つこと数分、エントランスには見覚えのある人物が顔を出した。


「はいはい〜…お待たせしました、スイ先生です。本日はどのようなご要件で?」


「おはようスイートピー!今日は職場見学をしにきたぜ!」


「はぁ…なるほど。でもさ、特に視るもん無いよネギカス」


「えぇ~!」


「それにさぁ、困るよ?アポとってくれないと。いくら王様とはいえ、職権乱用だと思うんだけど?」


「いやぁ~、そういえば此処に職場あったよなって思ったんだよ」


「まぁ、今日は許すよ。でも…次に同じ事したら、そのときはこちらも職権乱用させてもらうかんな?」


「ガチ?」


「ガチガチのガチ」


「そっかぁ〜…観光と称して、情報局の内装を探索するつもりだったのに」


「クソガキめ!酒が飲める歳になったらまた来いよ。そのときは良いもん用意して待ってるから」


「じゃあ、来年か」


「そゆこと。じゃあ、仕事で忙しいから。此処にはまた来年なネギカス」


「おう!急ですまなかったなスイートピー」


 スイ先生は奥へと引っ込み、王様は少し残念そうな面持ちにて自分達の下へ戻ってきた。


 これを視せられたら、愚王という呼びにしっくりきてしまう。愚かな王とは、よくいったものだ。


「ごめんよ皆、駄目だったわ」


「そりゃそうに決まってんだろ?本当に愚王だなお前」


 これにて、今回の観光は街中の散歩で終わった。


 王様の計画性のなさに、お国の将来に不安が一入だろうか。


  ▲ ▶ ▼ ◀ ▲


 王様とピャッチは王宮へと戻ったが、俺は散歩を続行中だ。そして、俺の隣には何故かギャザットがいる。


 なんで?怖い…顔では平然を装ってるけど、内心穏やかではないよ?


 何がそんなに気になってるのこの子は。


「あった、元冒険者ギルド」


 先程から頭から離れなかった場所へ到着した。


 建物内を覗いた限りではあるが、今は経営していない、廃墟って感じである。または、記念物的な建物?天然文化財的な…なんとか遺産的なあれなのか?


「入ってみるか」


 特に仕切りもないし、入ってはいけないとも表記されているものもない。ならば、真正面から堂々と入ろう。


 そう思いギルドの大きな扉へと手を伸ばした。


 これはその時の出来事である。

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