3人目 ≦・ケミカ 吉
ハルルはクァレオが酔っ払っている原因を突き止めたようで、屋上から観ていたクラスBの担当であるヒメノ先生に向かい睨みをきかせた。そして、先生がその手に持つ酒瓶を、創造した弓矢で見事撃ち抜いた。
「それですよね。先生」
その行動と言動は、観ていたものの心を魅了した。それはケミカも然り、ついつい、かっこいいと思ってしまったみたいだ。
すると、それに答えるように、ヒメノ先生が口を開いた。
「君は合格だ。明日の定期考査は受けなくてよし」
「…はい?何を言っているんですか」
「それにしても凄いではないか。少ないヒントから答えを導き出し、そして、すぐさまそれを実行して、成功させる。うんうんうんうん!先生は感動した!」
ヒメノ先生は目を輝かせ、大喜びしているようだ。
そして、先生は屋上から大胆にダイブした。御年26歳、腰の痛みを気にしつつのダイブだ。
当然ながら、生徒の反応は驚きで染まっている。基本的に、落下を防げる手段は限られている。一体どうやって落下に備えるというのか。
「『創作 魔法化』」
先生がそう言うと、その体は光り始めた。
「『シャインブラスト』」
次の瞬間には、その体はその魔法へと変化し、異常なスピードでハルルの下へと移動した。そして、目的地へと到着した瞬間、また人の姿へと形を戻す。
「…先生?こんなことは、2度としないでくださいね」
「おっと、どうやって屋上からあのお酒を飲ませたのか、もう理解しているのか」
「シンプルにお酒を、魔法化して口に入るように動かしていたんでしょう?」
「大正解!何で君はクラスBにいるんだい?」
すると地面が突然揺れ始める。これをただの自然現象だと勘違いしたのなら、それは大間違いだ。
「…ヒメノ先生?こんなことは…2度とすることは無いように…頼めますか?」
彼は今、少し先生がやり過ぎたということを忠告している。その顔こそ、ニコニコとはしているが、その裏側がどうなっているのかは、この場では本人とリュレ、クァレオしか分かりそうにないだろう。
彼は今、モツ煮の準備が整っている状況だ。
「あ、ああ、すまない。やり過ぎたよ」
流石に先生も、ハルルの気持ちに気がついたようだ。その顔はなぜだか、怯えが含まれているように思えた。
「ヒメノ先生、私と一騎打ちといきましょう。定期考査は…今からです」
リュレから流麗を貸してもらい、切っ先を先生に向けての問いかけ。リュレはウットリとした面持ちで、ハルルのその姿を見つめている。
「…いいよ。今出せる最高の力を、先生に魅せてくれ」
そして、ハルルの定期考査は前倒しに始められた。
「力を貸してください、流麗」
「『創作 魔法化』好きなタイミングで来るといい」
観戦している者にも緊張が走る。どちらが勝つのか、それは正直なところ、ヒメノ先生が勝つという意見のほうが多いだろう。ハルルの隠し玉を見なければ、皆そのように判断するだろう。
「『固有 変身』凰龍人」
そう言うと、ハルルの姿は光りに包まれた。目を閉じていても、少し眩しいくらいの閃光がハルルの体を包んでいる。やがて、その光は収まりを見せた。
「な、その姿は…」
その姿は、ハルルが正統に成長したらそうなるであろうと感じさせる見た目だ。まるで、鎧でも身に着けているかのような鱗が全身に生えており、その背にはドラゴンのような、それでいて鳥類のそれを彷彿とさせる翼を拵えている。髪型はオールバックになっており、額の角がいい味を出している。その他にも、紹介どころが大量にあるが、それはまた今度。今は、彼の独擅場だ。
〘では、行きます…〙
ハルルは流麗を構え、臨戦態勢に入った。が、どうやら、もう既に相手の戦意は無いようだ。
「待っ、待ってくれ!先生の負けだ!降参する!これには絶対に勝てない!」
〘え?少し拍子抜けですね…〙
彼の姿は瞬きをしている間に、いつものハルルの姿へと戻った。ただその時に、指パッチンが聴こえたのは確かだ。
「ふぅ…気は済みました。私もまだまだ子供ですね」
そして、観戦していた皆はハルルへ称賛の声を上げた。午後の授業は、予定を変更してハルルの祝勝会を開く運びへと相成った。後日に控える定期考査を、もう少し意識したほうが良いのではと思わないでもないが、今は祝うのが先だろう。
ケミカはその圧倒的な力を前にして、それの攻略法を頭の中で練っていた。その勉強熱心な性格が、このような状況でもその行動をさせるのだろう。
「戦ってみたいわね…」
誰も言うでもなく、1人ポツリと呟く。その口元は、少しニヤけているように見える。どうやら、勝ち星をあげる手立てが見つかっているようだ。
「でも、今はお祝いが先ね」
ハルルの下へ集まりゆく皆を眺めて、ケミカもまた、その集まりへと足を向かわせた。
▲ ▶ ▼ ◀ ▲
その日は午後の授業の代わりに、ハルルの祝勝会が行われた。定期考査を次の日に控えている事なんて、今は忘れて楽しもうと、校長室から観ていた王様まで参加して楽しんだ。祝勝会の途中で酔いが覚めたのか、顔を真っ赤にしながらハルルに頭を下げるクァレオは皆の心を和ませた。
そして、祝勝会を終えてから数時間が過ぎた頃、ケミカは寮の自室でテスト勉強をしている。作文は早々に書き終えたようで、今は座学に専念しているようだ。
「………で、英雄ヘルトは……へ去った……」
ケミカは考え事が口から漏れてしまうタイプだ。不意に口から出た自身の言葉に戸惑いを見せつつも、着々とその勉強を進める。
「…よぉーし、一段落もついたし…そろそろ休憩でもしようかしら。たしか、紅茶が棚に入ってたわよね…」
リビングからキッチンへ向かい、慣れた手つきで紅茶を淹れた。そして、ベランダに足を動かし、夜風に当たりながら紅茶を愉しんだ。
そうして、チビチビと紅茶を口に傾けながらリラックスしている時に、ふと頭によぎったものがある。それは、自身の抱える問題の事だ。
ケミカは自身の手のひらを見て、難しい顔をした。
「……調べないといけないわよね」
本当は、定期考査の後に調べる予定だったが、お昼の時のハルルに啓発されたのか、勇気が出たようだ。
ケミカは、まだ湯気の昇っている紅茶を一息に飲み込み、それを片付けた。そして、〈魔法陣写し〉をリビングの本棚から抜き取り、またベランダに戻りそれを開いた。少し喉を火傷してしまったのか、喉元を気にする仕草をしつつの一連の行動だ。
ケミカが既に試した系統は、炎、水、風、雷、光、闇の一般的によく見かける系統に加え、氷、岩、毒、植物などのマイナーな系統までもが含まれている。
「……系統として纏められているのは…残り3つ」
その3つとは、地面系統と爆裂系統、そして…
「血液系統…」
もし、その中から適性が見つからなければ、ケミカは潔く諦めるつもりである。いや、1時間はヘコむかもしれない、なんなら明日まで引きずる可能性だってある。だが、ケミカは既に覚悟を決めていた。
「先ずは、血液系統からいこうかしら」
△ ▷ ▽ ◁ △
クァレオは今、ケミカの部屋の寝室でずっっっと、昼に晒した自身の痴態に悶えている。なかなか心の切り替えが出来ないようで、ふと思い起こしてはその顔を赤く染め上げている。
「…いかん!このままでは駄目だな。気分転換も兼ねて、ヴィルの所にでも行こうかな…というか、クラスSは学外での活動をしていると聞いたが、どうしてここにいるのだろうか…」
ぶつぶつと色々なことを呟きながら寝室から廊下へと出た。何も言わずに部屋から出るのは気が引けるということで、ケミカに何か一言伝えてからヴィルのもとへ向かうと決めたようだ。
ケミカから、事前にリビングで勉強をしていると伝えられていたので、その足取りはそこへと一直線に向かった。そして、リビングの扉に手を掛けた頃合いのこと、何やら誰かのすすり泣く声が聴こえてきた。クァレオはその音の出どころをケミカではないかとすぐに考えたが、どうして彼女が泪を流しているのかまでは判らなかったようだ。
クァレオは恐る恐るといった調子で、扉越しながらも、ケミカに声をかけた。
「ケ、ケミカ?泣いているのか?」
クァレオがそう問いかけてから数秒ほど経過し、ケミカの返事は返ってきた。
「え…あ、いや、私じゃないわ。…口でこの状況説明するのは少し難しいの。悪いけど、入ってきてもらえるかしら」
「あ、ああ」
ケミカからの返事を受け取り、その内容に疑問を抱きつつもリビングの扉を開いた。そしてリビングに入り、ケミカの座るソファーの対面へと足を動かす。すると、ケミカに近づくにつれて、その影からある者の姿が段々と見えてきた。
リビングの入口からだと、ケミカの体に隠れて死角になっていたのだろう。クァレオは驚愕からその目を見開いた。そこにいたのは、ここ最近において、何かと接点が多い人物の姿が。どうやら、ベランダまでその翼を用いて飛んできていたようで、彼女の背中にはその特徴的な翼が開かれている。
そう、その人物とは変態の事である。何故この部屋にいるのか、何故泣いているのか等々、色々思うところはある。しかしクァレオは。ケミカに身を傾けて泪を流している彼女に対して、少し優しさを意識した声色で問い掛けた。
「どうしたんだ?何か辛いことでもあったのか?もしそうなら話を聞かせてはもらえないだろうか?」
声を掛けられた側である変態は、ケミカに傾けていた体を起こし、ソファーから立ち上がった。グスンと音を立てながらクァレオの下へと足を向かわせる。どうやら足に力が入らないようで、その膝はガクガクとしていた。
そして、1m程の距離に数秒掛けつつ、彼女はクァレオの正面に到達した。
「うぅ~…」
「ど、どうしたんだ?」
すると突然、彼女はクァレオに抱きついた。
「っ何を………」
クァレオはその体を強張らせた。彼女に対しての印象といえば、変態である事くらいしかない。更に言えば、2名はまだ出会ってから日も浅い間柄である。当然ながら体も強張るだろう。
だが、その体の強張りも次第に無くなっていく。なぜなら、目の前にいる少女からは、ここ数日の間に感じていたような不安感は無く、逆に庇護欲が掻き立てられるような状態であったからだ。
クァレオは彼女の頭を撫でながら問い掛けた。
「ラリ…といったか?」
「…………」
「どうしたんだ?何か悩みがあるのだろう?」
クァレオの着ている服には、確実にラリの涎や鼻水といったものが付着してしまっていると思われるが、それを気にした様子もなく、彼女に優しく問い掛けている。
ラリはその問いかけを受けて、コクコクと小さくも頷いてみせた。そして、そのまま顔を上に向けて、ジッとクァレオの顔を見つめ始めた。
「……かわいい顔…ちゅーしていい…?」
「…いつもの調子に戻ってきたようだな。少しは落ち着いたか?」
「……うん…」
「誰かと喧嘩でもしたのか?それとも…」
「知らないオッサンに嫁がないといけなくなったんだ…」
「お、おおぅふ…」
クァレオは余りにも唐突に言い放たれた、その重たい事情に潰されかけた。それと同時に、生前の記憶が少し頭を過った。自身も同じ様な経験をしたな、と頭を巡らせていると、ケミカがソファーからラリに問い掛けた。
「それって…本当に言ってるのかしら?」
「あたりめぇだ!じゃなきゃこんなに辛い気持ちになってない」
「ご、ごめんなさい…そうよね」
「でも…何が辛いのか解らねぇんだ…その相手から来た手紙によると、学業はこの学校で続けて構わないって書いてあったんだ…」
「あら、思っていたよりは交渉が出来そうな感じね?」
「…でも…でも!…結婚…しないといけないんだよ…俺の家の為に…」
「なんだって?オッサン側ではなく、家側に問題が?」
「ああ…相手のオッサンの爵位が伯爵なんだ。どうやら没落貴族の財政難に…助け舟を出してくれたみたいで…それで、断ったら家族がまた苦しい思いをしちゃうから…でも、……何かが辛くて…素直に頷けなくて…でもそれが解んなくて…」
ラリはクァレオの胸元に顔を埋めた。ラリは依然としてクァレオに抱きついたままの状態だ。ちゃっかりとその匂いを嗅いでいるのは、クァレオには気づかれていないようだ。彼女の手は再び、ラリの頭を撫でようと動いている。
数秒の間その匂いを堪能していたラリは、再び顔を上げた。その顔には、先ほどとは違い、覚悟が見て取れた。どうやら腹を決めたようだ。
「俺…結婚するよ。特に不利益はないし、なんなら…得しかないしな。それに、この学校に通い続けていいって言ってくれたしな!」
その声は震えていた。顔を窺えない位置にいるケミカから見ても、それは、から元気にしか感じ取れなかった。
「それじゃあな!長居して悪かったな!」
「そうか……何かあったら、気軽に相談しに来てくれ。次は紅茶でも用意しよう」
「…私に手伝えることは限られているかもしれないけれど…これ、御守として持っていて欲しいわ」
ベランダへと向かい歩くラリに、ケミカは右手を差し出した。その手の上には、剣の形をしたイヤリングが乗せられていた。
「それ…いいのか?」
「ええ、是非貰っといてくれないかしら」
「…ありがと」
ラリは心の内に何か温かいものを感じた。それは、過去に数度あったような、と朧気ながらも知っている感情だった。
ケミカの手からイヤリングを取り、早速耳につけてみせた。
「似合ってるか?」
「ええ、とてもね」
「へへ…」
ラリはその顔に、小さく笑みを浮かべて、同所をベランダから飛び立った。その後ろ姿は宵闇に飲まれてすぐに見えなくなった。それはまるで、これから起きることを暗示しているかのようで、部屋にいる2名は自然と心配そうな面持ちとなる。
「こればかりは、私達はどうにも出来ないわね」
「ああ、そうだな。相手の家の事情に首を突っ込むのは…いつの時代も良くないからな」
2人はその背を見送り、それぞれの仕事に戻った。ケミカは明日に行われる定期考査に向けての勉強を、クァレオは…特にすることがなかったようで、ケミカの勉強風景を、ローテーブルを挟んで対面のソファーに座りながら眺めている。
▲ ▶ ▼ ◀ ▲
翌日、ケミカはいつもよりも早めに登校をした。教室内で勉強をする予定ようだ。クァレオはハルルの部屋へと赴いて、リュレの居る寮(屋敷B)へと一緒に向かったようだ。また修羅場になる予感がしなくもないが、昨日の祝勝会のおかげか、既に打ち解けているようだった。
ケミカは教室の扉を開き、自室へと腰掛ける。まだ誰もいない教室で、1人黙々と勉強を始めた。
しばらくして、バダルが教材を片手に教室に入り、少ししてリュレが入りと、少しずつ教室にクラスAの面々が揃っていく。
そこからまた時間が経ち、遅刻ギリギリのタイミングに、教室に到着したザバが席についた事でクラスAが全員揃った。そして、すぐに朝礼は始められた。スイ先生が皆の勉強時間に配慮してのことだろう。因みに、この先生はケミカが気づいていなかっただけで、ずっと教室の天井からハンモックをかけて寝ていたみたいだ。
スイ先生が朝礼を終えてから、数十分の時間が過ぎ、クラスAの定期考査の記述試験は始まった。それぞれの生徒の顔には、余裕や、焦り、諦めなど、様々な表情が浮かべられていた。
▲ ▶ ▼ ◀ ▲
記述試験を終えた生徒の表情は多種多様なものとなっており、そのテストを徹夜で作っていたスイ先生はとても意地悪な笑みを浮かべて満足している。
実技に移るために、中庭に移動している最中のクラスAの面々は、自身のテストの具合を話し合っていた。だが、何故か問題の内容が噛み合わず、皆が首を傾げている。その雑談を先頭で聞いていたスイ先生は、またも意地悪な笑みを顔に浮かべて皆に対して言い放った。
「だって、一人一人違うものを出したからね。それぞれ、君たちの苦手な問題が多かったんじゃないかな?」
その言葉を聞いて、確かに自身の苦手としていた科目の問題が多かったと、口に出すものが多く現れた。意地悪な笑みは、自身が一人一人のために用意したテストに対して、苦闘していた生徒達の様子を、頭に思い浮かべての愉悦感から来ていたようだった。
なんと性格のネジ曲がっていることか。
それからは、実技試験が中庭にて行われた。クラスBの定期考査である一騎打ちも中庭にて行われていたが、どうやら、教室で記述試験を行っているうちに済まされていたようだった。そして、後はお昼まで自由な時間なようで、クラスAの実技を観るために、外壁沿いにあるベンチや、中庭から出てすぐにある高台等に、クラスBの生徒の姿がちらほらと伺えた。
「なんだか、緊張してしまうわね…」
これは、他の同クラスの面々も同様のようだった。ただこれには例外もいるようで、2名ほど、自信満々とした表情を浮かべている者がいる。それは、バダルとザバの2名だ。この2名はクラスAの中でも、良い意味でも、悪い意味でも、一際目立っている。
かくして、クラスAの実技試験は進められた。それぞれが、それぞれのやり方で、スイ先生が手元の端末から何処からともなく召喚したゴーレムを打倒していく。どうやら、ゴーレムを倒すまでのタイムや、それに使用したMPの量、それに加えて、その生徒の動き方もその手記にメモを取っているようだ。そして、ケミカにも順番が訪れた。
ケミカは深く息をして、その緊張を落ち着けようとしたが、どうやらかなり緊張の度合いは高いようで、その手はプルプルと震えている。
「では、ケミカさん。始めてください」
先生から開始の合図が伝えられたケミカは、右耳に向かい手を伸ばした。本来であれば、剣を模したイヤリングがその耳についているのだが、本日からは違うようだ。
いつの間に創っていたのか、それを右耳から外して現物に変えてみせたところ、それを見ていた2名が驚いたような反応を示した。驚いた反応を示した2名とは、ヤクイとハルルのことだ。その2名は、位置的に見れば遠く離れた所にいるのだが、ケミカの右手にあるそれを見て、同じ言葉を呟いた。
「「ピストル…?」」
それは、日本人の2人からすれば、この魔法の世界に似つかわしくないものだった。どうやらこの世界の住人達は、それが何か解っていないようで、新しい武器か、杖か何かだと思っているような発言が目立つ。
「………いくわよ」
ケミカは右手に構えたピストルの銃口を、ゴーレムに対して向けた。その頃には、手の震えもなくなっており、その標準はピタリとゴーレムを抑えている。スイ先生は、初めて見るアイテムにその胸を期待で一杯にしているようだ。
もはや、精霊も騎士も関係のないそれは、セブル家の者にとっては完全にアウトローである。
「……先ずは試験として、一発いくわね」
誰に言うでもなくそうつぶやき、引き金を人差し指で引いた。安全装置の付いていないそのピストルもどきからは、音もなく、凄まじい勢いで小さい光の球が撃ち出された。
撃ち出されたその光の球は、ゴーレムに接触したかと思えば、まるで花が咲いたかのように火花を散らせ爆発した。それと同時に、轟音と強烈な閃光が、人知れずに観客の心を鷲掴みにした。
「……良かった…成功したのね」
実は、昨日試した中に、ケミカは適性を見つけていた。それは、爆裂系統の括りとして纏められているものであり、その魔法陣には華としか説明がなかった謎多きものである。
実は、ケミカは昨晩、夜空に向かいそれを放っていた。それが結果的に泣きながら夜の空を彷徨っていたラリの目に入り、あの状況になったのだ。
ヤクイとハルルは開いた口が塞がらないようで、粉々に破壊されたゴーレムを見つめて、驚いていた。ピストルから花火が出た…とは、2名の心の声である。
「…よし。じゃあ、本番…いかせてもらうわね」
スイ先生は慌てた様子で、再びゴーレムを召喚した。何やら、先程のゴーレムよりもグレードが高そうである。
「よし、始めてください!」
どうやら、自身の作成した最高傑作を試してみたくなったようで、その口元はニヤつきを隠せていない。
未だにその魔法の概要を、映像系としか教えてくれないスイ先生は、ケミカの構えたそれに目を輝かせながら改めて開始の合図をした。
「…未だにこの魔法に名前がついていないのは、使える人が本当に少なかったかららしいのよね。なら、私が名付けても誰も文句を言う人は出てこないわよね」
ケミカはボソリとそう呟き、リロード要らずのピストルもどきを再び構えた。
「なら、この魔法の名前は…」
ケミカはピストルもどきから、もう一度光の球を撃ち出した。気のせいか、先程のものよりも少し大きく感じられるそれは、スイ先生の傑作のゴーレムを木っ端微塵に破壊した。
「『心照華』にしましょう」
すると、昨日のお昼の時よりも大きな歓声が、随所からケミカの下へと押し寄せた。因みに、その中でも一際煩いのはスイ先生だ。自身の最高傑作だったものを抱えて、嬉しそうに泣いている。今の彼の心の中は複雑な状態となっているみたいだ。
そんな彼を尻目にケミカは、ベンチで目を見開いているクァレオに叫んでみせた。
「…あったわよ!!」
何が、とまでは言っていないが、クァレオには確かに伝わったようで、すぐにその声は返ってきた。
「おめでとー!!」
ケミカはかなり嬉しいようで、その顔には満面の笑みが浮かんでいる。先程までの緊張した顔は何処かに消え去ったようだ。
▲ ▶ ▼ ◀ ▲
あれから数日が経過した。
ケミカはクラスAの教室の、外の壁に向かいその目を動かしている。なぜなら、スイ先生の魔法により、その結果が投影されているからだ。
「わ…私って、そんなに記述が…」
本人は記述試験の順位を見て慄いていた。因みに、その順位はといえば。
上から
1位 バダル リュレ 100点
2位 ヤクイ 96点
3位 カイス 95点
4位 ケミカ 90点
5位 カタバ 87点
6位 ザバ 62点
どうやら、下から3番であったようだ。だがしかし、その点数を見て、ケミカは自信を取り戻した。私の点数も高いじゃない…でも、と心の中で呟き、クラスAの面々の学力に再び慄いた。
そして、その視線を隣にある実技の順位に移した。
順位は上から
1位 バダル ケミカ 100点
2位 リュレ 95点
3位 カタバ カイス 90点
4位 ザバ 85点
5位 ヤクイ 70点
これにはケミカは驚いた。自身の順位が1位であることに対しても、バダルがまたも1位であることにも。
「っ〜!」
ケミカは嬉しそうにその順位を噛み締めた。その口元はまさに昨日のスイ先生と同じ形だ。
「ふふふ」
ケミカは自身の結果を見て、つい笑い声が漏れてしまった。どうやら本当に嬉しかったみたいだ。
だが、その順位で満足することなく、もっと高みへと行こうと心に決めたようだ。今回の定期考査で、ケミカのモチベーションがこれでもかと刺激されたようで、これまでの自身に対する不安は過去のものになった。
「次も…頑張らないといけないわね!」
ケミカは満足気な顔で教室の扉を開き、自身の席に腰を落ち着けた。しばらくして、バダルが機嫌良さげに教室に入り、そこから少しして、リュレも嬉しそうな顔で室内に入ってきた。
ケミカは次の定期考査で、この2人をライバルとして頑張る予定だ。その顔には曇りや陰りが感じられない。ケミカは今回の一件で、大きく成長したようだ。




