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ByNRia〜私達の学び舎は、何が起きても心配ありません〜(下書き&一旦停止)  作者: 差氏 ミズキ
〝起承転結〟 1人目〜3人目
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3人目 Ⅶ・ケミカ 承

 ケミカは今、バンドゥとの模擬戦を始めようとしている。


「もしやめるんだったら、今のうちだぞ?」


「ビビってるのかしら?何だか申し訳ないわ」


「あ~そうかい!捻り潰す!」


 煽り耐性のないバンドゥは、臨戦態勢に入ったようだ。そしてケミカも同じく、左耳のイヤリングを取り、レイピアを用意した。


「今回は精霊の力はいらないわ。この一撃で終わるもの」


「んだとコラ」


 本来の力を出さずに一撃で仕留めるという宣言を受けたことで、バンドゥは怒り心頭の様子。


 2人の戦闘の準備が整ったことを確認して、リュレが地べたから立ち上がり、開始の点呼を取った。


「よ~し!2人共、準備はいいね?じゃぁ、僕が上に『ウォーターボール』を放つから、それが地面に触れた瞬間に開始ね」


「ええ、いいわよ」


「はやくしろ」


「よぅし!『ウォーターボール』!」


 空に手のひらを向けて真上にそれを撃ち放つ。バレボール程の大きさで象を成した水球は、リュレの手元に出現したかと思えば、次の瞬間には天高くに打ち上がり、自由落下を始める。


 そして、それが地面につくタイミングを見計らい、バンドゥが仕掛けた。


「【移動】!」


 ケミカの背後へと【移動】を使い、いつの間にか創造した魔法剣をケミカへと振り下ろす。彼の魔法剣の創造スピードは0.1秒である。因みに、ウリキドは0.5秒程掛かるらしい。


「オレの勝…」


 すると突然、バンドゥは全身の力が抜けたかのようにその場に倒れ込んだ。彼の魔法剣も、彼が倒れると同時に消失した。0.1秒で創造し、1秒も経過せず消失したのだ。


「あら?いつの間にそこに居たのかしら」


「えぇ〜!?何それぇ!」


 外野から見れば、いったい何が起こったのか分からないだろう。与えられた情報があるとすれば、突然、バンドゥが地面に倒れたということくらいだ。


 なら、ケミカはいったい何をしたのか?その答えは本人の口から語られた。


「彼の全身に、固有魔法を少し使っただけよ。特に大したことは何もないわ」


「そ、その固有魔法って何?」


「『固有 脱力』よ。普段は力が入りすぎないように、自分自身の身体に使用しているわ」


「さっきそれを使われてたら、普通に僕負けてたんじゃ…」


「あら?随分と弱気なことを言うわね」


「この模擬戦を見たあとだからね…さっきどうやって降参って言わせたのか思い出せないよぉ」


 すると、ずっと放置されていたバンドゥが体を起こした。どうやら、ケミカの固有魔法は解かれたようだ。


「………」


「私がやっておいてなんだけど、怪我とかはないかしら?」


「………い」


「え?なんて言ったのかしら」


「認めたくない!こんな負け方、ダサいにも程がある〜!!」


 バンドゥは座った体勢で頭を抱えて悶えている。自身の呆気ない負け方に納得がいかないようだ。


「ちくしょう、負けた!」


 そう言い放ち、その場を去る負け犬。


「……嵐みたいな子よね。ザバって」


「だねぇ〜」


「よし、それじゃあ休憩は終わりにして、模擬戦やりましょう」


「ちょっと僕、別の人と模擬戦してくるよ」


「あら、それは残念ね」


「ヤクイくんに模擬戦申し込んでこようかな」


「なら丁度良くヨーちゃんが暇になるわね」


「ヨーちゃんも強そうだよねぇ。僕まだヨーちゃんと模擬戦したことないんだよね」


 ヨーちゃんとは誰か?それは、ケミカやリュレと同じ、クラスAの仲間であるカタバ・コンクルードの事だ。因みに、ヨーちゃんとは彼の一人称から付けられている。


「よし、じゃぁ、ヤクイくんに申し込んでくるついでに、ヨーちゃんにケミカちゃんの相手をしてもらうように言ってくるねぇ」


「ええ、お願いするわ」


  ▲ ▶ ▼ ◀ ▲


 リュレが模擬戦終わりの2名のもとへ向かい、話をしている。


 そして、話し終えたのか、ヨーちゃんがこちらに向かい歩いてきた。


「リュレ嬢にケミカと模擬戦をするように言われたのだが」


「ええ、その言葉の通りよ。私と模擬戦をしましょう?」


「うむ。では、よろしく頼むぞ」


「お手柔らかにね」


「ふんっ、何をいうか。ケミカは普通に強いだろう」


「あら、嬉しいこと言うじゃないの」


「余は本当のことを言ったつもりだが」


「ええ、わかってるわ。じゃあ早速、模擬戦を始めましょう」


「うむ。それでは、始めよう」


 ケミカは空へと水球を放った。


「あれが落ちたら開始よ」


「なるほどな、ヤクイ殿とはまた違う始め方なのだな」


 そして、天高く放たれたそれは、弧を描き落下していく。


 ケミカの作戦としては、バンドゥの時と同様に、水球が落ちたタイミングで『固有 脱力』を仕掛けるつもりである。


 相手が初見なら、何が起きたかわからずにその場に倒れるだろうそれは、騎士道精神を疑う代物だ。


 ヨーちゃんには申し訳ないが、初戦となれば、ケミカの方に軍配が上がることだろう。


 そして、水球は地面へと到達した。


 ケミカはすぐに『固有 脱力』をヨーちゃんへと使用した。そして、直撃を免れることが出来なかった彼は、地面へとぐったりと膝から崩れ落ちた。


「な、何だこれは…力が入らないではないか」


「すごいでしょ?私の固有魔法は、強制的に体を脱力させ………」


 彼女は自身がしてやられている事に気づかずに、その場に気絶してしまった。どうやら、彼に【幻覚】を魅せられていたようだ。


「なんと、体に力が入らなくなる固有魔法を所持しておったとはな。まともに食らっては、余は呆気なく敗北していたことであろう」


 彼は水球が落ちたタイミングで、【幻覚】をケミカに使用していた。それに気が付かずに、偽のヨーちゃんへと固有魔法を使った彼女は、隣にまで来ていたカタバに気が付かず、気絶させられたのだ。


 彼はケミカが想定していたよりも、ずっと高みへいるようだ。


 このままでは呆気なさすぎるということで、精霊の出番がやってきた。体に直接宿り、その体をケミカの代わりに動かそうと思う。


「さて、スイ先の所にでも運ぶとしよう」


「待って、まだもう一匹分残機あるから」


「ぬ?いつもの喋り方とは違うな。誰だ?」


「どうも初めまして。『カルゼ』って名前を付けられている精霊です」


「余はカタバ・コンクルード。よろしく頼む」


「よし、瞬殺されたケミカの名誉挽回といかせてもらいます」


「あ、ああ」


「それでは、『ウォーターボール』出してもらえますか?如何せん魔法は不得手でしてね」


「そうなのか?…では、余は『ウォーターボール』などの水系統の魔法には縁が無いのでな、この『ストーンアロー』で代用させてもらう」


「構いませんよ。早速打ち上げてください」


「では」


 カタバは空に向かい軽く『ストーンアロー』を放った。


 さて、どうしようか。落ちる数秒の間で作戦を練るのは無茶だろうか。


 まずは大きく距離を取りつつ、精霊力で大量の竜巻を生み出し、吹き飛ばしてしまおう。レイピアや剣に宿っている時は人間サイズのものしか出せなかったが、今は人間だ。


 宿ったものの大きさや魔力量次第で、力が増すタイプといえばわかりやすいだろうか。先程に魔法が使えないと言ったのに、魔力量が関係あるのかって?あるさ、魔力は精霊力に変換しやすいから便利なんだ。


 今回は2階建ての民家くらいの大きさの竜巻が出せそうな感覚がある。ケミカの残りの魔力量を考えると、5発撃てれば上々だ。


 ただし、5発で勝たないといけないので、かなりの集中力を求められるだろう。相手の隙を見逃さず、無駄撃ちをしないようにするための集中力が。


 あ~…早いな。地面まで1m程の段階まで来てしまった。ろくに作戦も組めていないというのに。


 取り敢えず、5発で撃破する。これを頭に入れよう。


 そして、地面に『ストーンアロー』が触れ、砕け散った。


「よっと!」


 大きく距離を取り、すかさず1発目をお見舞いした。残り4発。


「ふん。魔法なら余には効かぬな。『バリア』!」


「にわかですか?精霊は魔力なんて使えませんよ!」


「なっ!『バリア』をすり抜けて来たではないか。魔法ではないのか?」


 カタバはすかさず、魔力で靴を覆い、竜巻方面にバリアの階段を創り、それに駆け上った。その間一秒。なんて器用なのだろうか。


 そのままこちらに向かいダイブしてきた。


「少しだけ使おう。『魔法の王』15%解放だ」


「『魔法の王』?2代目の創った魔法ですか?」


 すると、彼の手元に何か出てきた。…………なんだあれは?


「炸裂するのだ『ダークボム』!」


「ボ、ボムだって?」


 手元にあるそれを落下しながらぶん投げてきた。………さて、ど、どうしようか。


「あ~!勿体ない!……竜巻よ!」


 竜巻を放つことにより、ボムはそのまま竜巻にキャッチされ、不発に終わらせられた。あと3発。


「あ……そうか」


 これ、地面に出す必要ないな。


「精霊力とは、また便利なものだな。余も使いたい」


「『名無しの精霊』」


「ぬ?何だそれは?………よっと」


 地面に着地した彼の足元に竜巻を出して、空に強制的に浮かせた。


「ぬわぁ!気を抜いていた!」


 空に浮かび上がった彼が魔法を使用する前に、彼の頭上にも逆さの状態で竜巻を生み出す。物理法則なんてクソ喰らえだ。あと1発。


「くっ…呼吸が…やり辛い」


 彼は今、円錐と逆さの円錐をピッタリとくっつけた中にいる。上からも、下からも、止め処なく風が様々の方向に吹き荒れている。…………彼の骨が頑丈だと強く願おう。


「ケミカ。そろそろ起きてください。あとは貴方の『固有 鎌鼬』で……あで!」


「そこの君、ちょっとやり過ぎですよ。少なくとも、このバダル的に考えて」


 いつの間にか後ろにいたバダルという男に脳天をチョップされた。


 彼はブレザーを腰に巻いていて、上はYシャツの代わりにコンプレッションウェア的なものを着用している。その体は筋骨隆々としたものであり、無駄に身の丈が190程はあるせいで威圧感が高い。


 髪の色は頭頂部から毛先にかけて、茶色から黄色へグラデーションになっている。また、その瞳も同様だ。


「なんです?いきなり」


「早く解除してあげてはくれませんか?彼ももう限界が近そうですし」


「あ~…この勝ち方は不服ではありますが、勝ちは勝ちなので、解除しますか」


 すると、竜巻の中から声が聴こえてきた。カタバの声だ。


「まて、まだ負けておらぬぞ」


「いえいえ、そろそろ解除してもらわないと貴方は窒息死しますよ」


「『魔法の王』18%解放だ」


 また2代目か。3%上がったところで何になるのか。無駄な足掻きとしか思えない。


「『魔王時間』!1秒でいいぞ!」


 魔王時間?何だそれ?


 すると1秒間だけ、カタバの体は衣装ごと少し変わった。なんとなく2代目を思わせる顔つきや体、衣装になり、そしてすぐに元通りに。


 どうやら、その1秒間で竜巻から抜け出したみたいだ。どうやったのかまるで解らないが、2代目ならあり得るという考えになってしまうのが、魔王の怖いところだ。


「よし、余の体だ。どうやら少なくとも1秒間だけなら使えるようだ」


「おっと…これは驚きましたね。先程の言葉は撤回させてもらいます。そして、軽率な発言をしてしまい申し訳ございませんでした」


「いや、別に気にしてないぞ。結果的に、バダルに焚き付けられたおかげで、こうして成長へ一歩踏み出せたのだからな」


「それは、なんとお優しいことでしょう」


「再開します?まだ竜巻は出せますし」


「いや、よい。今の余は力が漲っている状態なのだ。これで模擬戦をすれば、呆気なく終わってしまうだろうしな」


「ほう?それは舐めすぎてはいませんか?」


「さてな」


 ……煽られているというのに、それに乗らないというのは少しダサいよな。だが…今のカタバに勝てるとは思えない。彼は今、ベストコンディションという状態なのだろう。


「では、バダルはこれにて失礼させてもらいます。勝手な行動をしてしまい誠に申し訳ございませんでした」


「よいよい。……もし申し訳ないと言うのなら、バダル、余と模擬戦をしないか?それで、チャラということにしよう。そのほうが気持ちに整理がつくだろう?」


「バダル様…お心遣い感謝します。それでは、そのご厚意に預からせてもらいます」


「あ…じゃあ失礼します」


「うむ。カルゼ、良き試合であった」


「…そりゃどうもです」


 そして2人の下から離れて、ベンチへと足を動かす。


「ふぅ…何なんだこの学校は」


 そして、ベンチに横になり、ケミカへとその体の主導権を返す。すると、すぐにケミカは目を覚ました。


「……ん…ううん?」


 どうやら、ある程度回復していたようだ。


「あら?私…何でベンチに?ヨーちゃんと模擬戦をして…それで勝って…そこから……だめね。思い出せないわ。あの後にどうなってたのか、後でヨーちゃんに聞いてみましょうか」


 ケミカはベンチから起き上がり、皆の模擬戦の観戦を始めた。どうやら他者の戦闘方法を観て、 そこから学ぶつもりらしい。先程まで気絶していたというのに、実に勉強熱心な性格の持ち主だ。


 ケミカは皆の戦闘方法を観て、それぞれの特徴をこのようにまとめた。


 バダルは、武術を基本とした攻撃をしている。魔法は添えるだけという感覚だ。魔力をあまり使わずに戦闘をすることで、いざというときにはその魔力を用いることで有利が取れそうだ。主に使用しているのは雷系統の魔法で、打撃の際に相手に直接打ち込んでいるのではと思う。


 リュレは、それぞれの剣の特徴を活かしている印象。あまり直接その剣で攻撃をしているところは少ないように思える。そして、自身が有利な状況を得るために舞台作りからしているようだ。


 ヤクイは、【変換】に頼り切りな印象を受けた。もっと別の魔法にも視野を広げたほうが良いのではないだろうか。頼り切りと言っても、彼の発想力は目を見張る物がある。『雨乞い』や『煙幕』などの広範囲で効果をなす魔法を、攻撃系の魔法へと【変換】することで、高確率で相手に攻撃を当てることが可能のようだ。恐らくは、複数の相手と模擬戦をしても有利な状況を作れるのではないか、と感じる。


 カタバは、まだ自身の力を扱いきれていないのでは?と思う。それを克服すれば、ランクS相当の力を発揮できそうだ。基本的に、『バリア』を常に張っているので魔法が効かない。物理で相手が攻撃してきても、その相手の体をピタリと止めることが可能のようで、どう倒せばいいのかまるで判らない。


 カイスは、【移動】を保持しているようで、相手の意識していない方向を見極め、放った魔法をそこへ【移動】させることで、相手の虚を突いて攻撃をするタイプだ。彼の洞察力はかなり優れているようだ。それに、常に炎魔法を発動させている点を鑑みると、彼の魔力は回復速度が速いのか、または、魔力量が多すぎるのかのどちらかではないかと思える。


 ザバは、基本的に舐めプをしているせいか、本日の模擬戦の戦績は芳しくないようで、ムスッとしている。彼の魔法剣の創造スピードや、【移動】を保持していることを考えると、かなり戦闘を優位に進められると思うのだが、彼の性格が災いして、それを無駄にしてしまっている。宝の持ち腐れという言葉がよく似合う。それを改善できれば、クラスA内で上位の力を発揮できると思われる。


 それぞれの特徴を個人的な解釈によりまとめたのはいいが、改めてクラスメイトの戦闘方法を知ると、ケミカは少し自信を失ったようだ。恐らくは、適性のある系統の魔法が、彼女には未だに見つかっていないからだと推測できる。MPは無駄にあるのだが。


 適性のない魔法を使っても、通常より威力や効果が出にくく、適性者よりもMPを多く消費し、無駄に使ってしまうため、一般的には適性のある魔法しか使わない。ケミカは普段から、適性のない魔法を無理矢理使うので、無駄にしてきたMPの統計はかなりのものだろう。


「適性…見つけないとよね。…でも」


 彼女は怖かった。もしも、もしも何も適性が無かったら…そう思うと、確認作業も億劫となり、後回しにしてしまう。そして、今回もまた。


「…定期考査前に心にダメージを負うのはだめよね。定期考査で、ミスをしてしまう可能性が上がってしまうわ」


 毎度そう自分に言い聞かせ、心の平穏を保ってきた彼女である。恐らくは、定期考査が終わっても確認はしないだろう。


「もうすぐで模擬戦も終わりね。さてと!気持ちを入れ替えないとよね」


 彼女はベンチから立ち上がり、深く深呼吸をした。


  ▲ ▶ ▼ ◀ ▲


 模擬戦を終え、お昼を終え、5限、6限も終えての放課後。ケミカは夕日の差し込む図書室に1人、ポツンと勉強中である。


 それは彼女の日課であり、その日の授業の範囲を復習している。たったそれだけの勉強で頭の中に入るのだから、彼女の吸収力は大したものだ。


 1ページ、また1ページとノートに写してある内容を教科書と照らし合わせ、その日の振り返りをする。彼女にとって何ら変わりのない放課後、もはや日常と称しても差し支えないだろう。


「…………」


 だが、ここ直近の彼女は少し違うところがある。本当に些細なことだが、いつもと違うところがある。


「………ん~ぅ?今日はなんだか駄目ね。頭に入りにくいわ」


 それは、1回だけでいいから恋愛をしてみたいという気持ちだ。それが起因してか普段よりも勉強の効率が悪いようだ。恐らくは、その情報が雑念として頭の中をぐるぐると掻き乱しているのだろう。


「ちょっと気分転換でもしようかしら…」


 そう言うと彼女は、左耳のイヤリングを取り、それをレイピアに変え、手入れをし始めた。


 レイピアってどのように手入れするのだろうか。当の本人もそんなに分かっていない様子だ。適当にハンカチなどでフキフキしている。


 気が済むまでレイピアをフキフキする。メガネのフレームを満足いくまで拭くかのように、それはもうじっくりと。


「………よし」


 数分が経過した後、どうやら満足したようだ。レイピアを左耳に戻して、彼女は再び教材に向き直った。


 だが、どうやら眠そうだ。


 夕暮れ時ということもあり、ちょうどよい温度、ちょうどよい明るさが揃っているこの状況。次第に、彼女はうつらうつらとし始める。


「ナフカード大国の…………成立は…えっと……………」


 あらら…寝てしまったようだ。本日は模擬戦があったという事を加味すれば、寝てしまうのも頷けるだろう。


 さて、部屋に戻そうか。


「ふぅ~…体重いな。相当疲れてるぞこれは」


 教材を鞄の中に入れて、図書室をあとにする。


「はぁ~…3kmも歩くのか。改めて考えると【移動】って便利だな」


 そろそろ昇降口に到着するというタイミングで、気になるものを見つけた。


「ん?あれは…」


 ちょっと寄り道といこうか。


 目的の場所へと足を進める。


「これは…いやはや。私も有名になったものだな」


 そこには本校の創立時に、初代の校長を務めた人物の銅像があった。因みに、その人物とは私のことだ。


 校長になる気も、この領地を献上する気も当時は考えていなかった私だが、今の世界を見てみれば、2代目にも、アダムにも先見の明がしっかりと合ったんだなと思える。


「それにしても…もう少し胸とか、尻とか身長とか盛ってくれても良いのでは?」


 くるりと一周、その銅像の周りを歩くと、私の銅像の後ろに、手を合わせ何かを願っている姿の石像が別にもう一つあった。


「おや、これは懐かしい」


 その石像の額に指先をトンと当てる。そして、宿主をケミカからその石像へと移す。


  △ ▷ ▽ ◁ △


 石像の表面にヒビが入り、内側から全裸の少女が姿を現す。その姿は今まさに目の前にある銅像の姿と瓜二つだ。


「カインが持って来たんだろうな。いい仕事するね」


 ケミカのブレザーをその体から取り、自身の体が隠れるように身に着ける。


「ありゃ、これはギリギリだな」


 少し下の角度から見ればモロ見えだが、致し方なしだろう。


 眠っているケミカを抱き上げて、今度こそ昇降口へ向かう。勿論この体には筋力が少ないので、精霊力でケミカを浮かばせつつの抱っこだ。


 昇降口に到着し、ケミカの上靴を脱がして靴入れに戻し、外靴は自分が履いた。


 気がつけば外はすっかり暗くなっていた。校門の外へ出て、寮へと足を進める。


  △ ▷ ▽ ◁ △


 寮まであと1km程の地点にて、とある現場を目撃した。人攫いの現場だ。


 当然見逃すことも出来なくて、精霊力こっそりと付着させ、相手の位置を常に把握できるようにした。


「先にケミカを部屋に戻そうか」


 風の精霊力を使い、寮までの距離を凄まじい勢いで駆け走る。20秒程経過した後に、寮のケミカの部屋に到着した。ベッドにケミカを放り投げ、人攫いの現在位置へ急行だ。

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