2人目 Ⅹ・カラマイア 承
「むぅ…朝か」
部屋の窓を開け、部屋の換気をする。
今の時刻を確かめ、朝食の準備を始める。
食堂で食べるのも良いが、朝食だけは自分自身で用意している。
そして、いつも通りキッチンにて朝食を作ろうとしていたが…そこにはいつもと違う風景があった。
「あ…おはよう」
「帰れ。…いややっぱり待て、何故ここに居る?」
「部屋の鍵空いてたから。昨日の夜入った。貴方と一緒に寝れば、寝坊をしないと踏んでいたから。やっぱり正解」
「なるほど…」
いつの間に部屋に…全く気が付かなかった。………同じベッドで寝ていたのか?ま、全く気が付かなかった。余の寝相は酷くなかっただろうか?
「朝ご飯を作ったけど、食べる?」
「うむ、いただこう」
何故こんなにも警戒していないのか?
それは決まっているだろう。カラマイア嬢は余に危害を加えられない。ならば別に良い。
近くの丸テーブルの椅子を引き、腰掛けた。
「何を作ったのだ?」
「ハンバーグ」
「ほう…」
ハンバーグ?なんだそれは?少なくとも、余の家では聞いたことがない。
そして、カラマイア嬢は別の所から椅子を隣に移動させ、料理を丸テーブルの上に置いた。その後、椅子に腰掛け口を開いた。
「はい、召し上がれ」
「うむ、有り難くいただこう」
なるほど、肉か。であれば余の好物だ。
ナイフで一口大に切り分け、口に運ぶ。
「どう?」
「うまい!【料理】持ちか?」
「いいえ。私の実力」
「ほぉ!それはすごいな。専属の料理人にでもなってほしいと思うほど美味いぞ」
「ふふ。良かった」
「………隣に来る必要はなくないか?」
「私も食べる」
「なら早くそう申せば良かろう?既に半分は食べてしまったぞ。残りはカラマイア嬢が食べると良い」
そうして料理をカラマイア嬢の方へ動かした。
……新しいフォークでも持ってこよう。
「うん。美味しい」
「……これが普通なのか?」
「何が?」
「いや、何でもない」
というか、先程はエプロンを付けていたので気が付かなかったが、既に制服に着替えている。
余も着替えなければな。
「どこ行くの?」
「着替えだ」
そして制服をクローゼットから取り出し、別の部屋に移動した。
「流石に目の前では着替えられぬ」
そして学校の制服へ腕を通した。
男女共に同じ白色ベースの制服だ。汚れがついたら落ちなさそうで、どうも落ち着かない。
見た目はカッコ良いから気に入っているがな。
そして、先程の部屋に戻った。
「遅い」
「何故怒る?頬も膨らませて…お主はリスか?」
「怒るよ?」
「すまない。余は何かしてしまったのか?」
「……許す」
どういう事だ?全く理解が追いつかない。余はいったい何を許されたというのか。
「既に食べ終わっておるな」
食器を手に取り、台所へ場所を移し、制服の袖をまくった。
「私が洗うよ」
「いや、洗わせてくれないか?美味い朝食を振る舞ってくれたのだ、少しくらいは恩を返したい」
「……でも、洗いづらそう」
「仕方ないだろう?余にとって位置が低すぎる…だからって任せるわけでもないが。部屋に戻ったらどうだ?荷物はそこにあるのだろう?」
「荷物も持ってきてる」
「…………そうであるか」
綺麗に食器を洗い終わって、身支度を正し、寮を出る準備をした。
「よし、忘れ物は無いか?」
「おはようのキスを貰ってない」
「ぬ?」
「私はもうした」
「ぬ!?」
「いつもそれが無いと、やる気が出ない。寮に入ってからはクスルにしてもらってた」
……最近の子は随分とアグレッシブの様だな?
ぬぅ…だぁ~…どうしよう?どうすればよいのだろう?郷に入っては郷に従えか?
「……分かった。顔を寄せろ」
「ん…」
身長差的に少し屈まないといけないのが、洗い物くらい腰にくる。
「チュッ…」
「…っ!?今っ!口に?」
「早く学校に行くぞ!それとも、足りなかったのか?」
「い、いや。充分だよ」
何故顔を赤くしているのだ。こっちまで恥ずかしくなる。
外に出て、学校への道を2人で歩む。今日は遂に、学校に向けての初登校だ。
距離はそこまでない、3kmくらいだ。
走れば10分程で付くだろう。
「おはよう!」
「おお、ヤクイ殿!おはよう」
「うん!この人」
「何だ?噛み合わなかったぞ」
「…確かに、珍しい組み合わせだな。どういう風の吹き回しなんだ?」
「さあ、余も知らぬ。カラマイア嬢よ、余に関わってくる真意は何だ?」
「お仕事」
「…らしい」
「いや、らしいって言われても……カラマイア嬢、仕事って?」
「余の真似をするでない」
「別にいいべ?」
「クロス家の仕事で、コンクルード家の人を監視しないといけないの」
「こんなに堂々と…」
「だけど、私の代で絶対に終わらせる」
「おお!それはかっこいいな!」
「明確な人生の目標があるのか。余よりもしっかりとしておるな」
「そういえば、ご主人合格してるかな〜?」
「主人だと?誰かに雇われておるのか?」
「まぁ、そんな感じ」
「フード……いいなぁ」
フード?何だ急に?
あぁ…街中の人間の服装を観ていたのか。
「先程から気になっておったのだが、我々とは違う色の制服だな」
「あぁ、これね。一般枠の人はみんなそうよ」
「ほう。では、ハルルやウリキドも?」
「うん。それと、これ!」
「それは…鈴か?耳飾りになっておるな。だがそれでは、うるさくならないのか?」
「これ、特殊な鈴でね…」
△ ▷ ▽ ◁ △
2人が話に熱中している。
「カラマイアさん…もしかして…彼は」
「うん。コンクルード家だよ」
「ああ…だから…自分と目が…合わないんだ」
「……貴方、もしかしてビギニング家?」
「うん…そうだよ。…ラフアンって名前だから…よろしくね」
「うん。よろしくラフアン」
それからしばらく歩き続けて、正門まで辿り着いた。
一つの看板がそこには建てられていた。
「中庭集合?そこへ向かえば良いのか?」
「多分そう」
「カタバさん…背が本当に高い…」
「そうなんだよ!俺もこのくらい…いや、高望みは良くないか」
「ぬ?何の話を?」
「気にしないでくれ!こっちの話だ」
「そうか?わかった」
看板に書いてあるとおりに、正門を抜けて、菜園を通り、時計回りに進んだ。
しばらくして、中庭と思われるスペースに到着した。
「学校の外観だけでも、1時間以上楽しめそうだな…」
「余も同意見だ」
「かなり広いよね……迷子になったら大変そう」
「その時は、私が見つけるから安心して」
「かっこいい事言うじゃん!」
「…何だ?もう1人誰か…」
「あ!ご主人!お~い、俺合格しましたよ!」
「あ…ヤクイさん…待って!」
どうやら、先程言っていた主人に会えたらしい。
あの人は確か…
「パルファム公爵か…」
「何?…今なんと?」
「え?ピャッチ・N・パルファム公爵が主人なんだなって」
「……パルファム……公爵?」
「うん。あの人が今の代の公爵。すごいよね、まだ14なのに」
「…先代は?」
「先代?…あの人のお父さん?さぁ…そういえばここ何年間も見てない」
「そうであるか…」
「何かあったの?」
「いや…そういうわけではない。気にしないでくれ」
すると、別の所から声がかけられた。
毎日聞く声だ。
「あ~!こんなところにいた二ャ!」
私を見つけて、此方側にかけてくる。
が、足元のちょっとした段差に気づかずそのまま転んだ。
「いだ〜!…ニャ」
「それが貴方の素?」
「違うニャ!これは不意な出来事だったから!これはノーカン!…だニャ」
「動揺してるの?」
「そ、そんなことより!どこ行ってたニャ?朝起きたら跡形も無くて、蒸発したかと思ったニャ!」
「私は蒸発しない」
「知ってるニャ…まぁ、無事で良かったニャ」
「カタバ君にお世話になってた」
「……え?……それって」
「何だ?今日は見つめられる事が多いな?」
「そういう…ことニャ?」
「何を指しているのか分からない」
「……同じベッドで寝たニャ?」
「うん。暖かかった」
「朝起きてみればビックリだ。部屋にいつの間にか居たのだ」
「み、見かけによらず、積極的ニャンね〜。ね、寝込みを…」
「何か焦ってる?」
「い〜や?全然そんなこと無いニャ」
「そう?」
会場も少しずつ賑を増してゆく。
どうやらもう少しで時間のようだ。
すると、王様が学内から出てきて高台に足をかけた。これで全員揃ったのか?
「えぉっほん!皆の者、注目!合格者が全員揃ったので、前倒しでプログラムを進める。王様兼校長のニギちゃんだ!よろしく頼む!ここでは校長と呼ぶように!」
よく通る声だな。私もあのくらい声が出ればいいのに。
「それでは!皆さんお待ちかねのクラス分けを行う!先ずは、年齢順に合格者の点呼をする!」
…クラス。カタバと同じがいい…観察が楽だから。
「先ずは、今回の合格者の中で最年少である、クスル・グクス。その年はなんと12歳!」
「え、貴方ってそんなに若いの?」
「じ、実はね。でも最年少とは思わなかったニャ」
「そして、次は13歳の方々を一気に言います!マクネア・N・ネイン。ヘロメ・B・アッシュ。ラリ・C・カント、以上3名」
…B…C。珍しい。
「で、14歳は、ピャッチ・N・パルファム。カイス・N・フォル。ザバ・N・ドゥ。ウリキド、以上4名」
皆若いな。もしかして私の寮って10代後半が集中してるのかな。
「15歳、キュルテ・N・ノーム。タカヤ・N・サティー。リュレ・N・ノエ、以上3名」
何かハルルさんが嬉しそうな顔をしている。誰か知り合いがいたのだろうか?何故かウリキドもドヤ顔だ。
「16歳、ラナク・N・トロワ。ケミカ・N・セブル、以上2名」
「もしや、カラマイア嬢は余と同じなのか?」
「17歳、バダル・N・ノウノ。シェイ・N・フィフト
。カタバ・コンクルード。ラフアン・ビギニング、以上4名」
「む?3名分しか読み上げてなかった気がするのだが?…………もしや聞き逃してしまったのか?…って、カラマイア嬢は余より歳上だったのか!?」
「18歳、カラマイア・N・クロス。ギャザット・N・トゥウェン。ヤクイ、以上3名」
「ニャ!?歳上?しかも6つも……」
「そんなに驚く?」
「歳下と思ってたニャ」
「余もクスル嬢と同意見だ」
「19歳、オース・N・ナーブン。ラクマ・N・ナイシ
。ハルル、以上3名」
「ぬぅ…Nが多いな…」
「当たり前でしょう?私たち貴族は王様に忠誠を誓ってるの。Nは忠誠の証」
「成る程な、余は頭が足りていなかったようだ」
「そして最後!やっと!…年齢不詳の最年長!」
本心が垣間見える。確かに長かったけど。
「その名も、ヴィル・ナクト。謎の毛糸玉だ」
確かに、私もそう連想していたけど、改めて聞くと酷いね。
「以上!計24名が今回の合格者だ!おめでとう!」
所々から拍手が聞こえる。私も拍手しとこう。
「で…ここからが本題!クラス分け気になるよね〜?どう分けたのかというと、君たちのランクで分けさせてもらった。もしも、ランクが一つ下で、あの人と同じクラスになれなかった…とかがあっても、ランクが上がればそのランクのクラスへ行けるから、落ち込むなよ?」
「ふ~ん」
「何か気になるのか?」
「私は貴方と同じクラスが良いけど、望み薄だなと思って」
「そうか?」
「うん。だって貴方の強さは昨日観てたし。それに比べると私は膝下くらい」
「音も聞こえていたのか」
「一方通行で申し訳ないけどね」
「ふ、ふむ」
「では、クラスCからだ!優秀だな、今回の生徒たちは。前回、前々回はFからの発表だったと聞いている」
「私はどこかな」
「クラスCは、キュルテ、ラナク、オース、ラクマ、シェイ、へロメ、ラリの以上7名」
誰が誰だか分からない。他のランクのクラスと交友を謀る場は設けられるのだろうか。
「クラスBは、カラマイア、ピャッチ、ギャザット、タカヤ、マクネア、ラフアン、ハルル、クスルの以上8名」
Bか………カタバと同じクラスになれなかった。当然と言えば当然か。
「そして、天才の領域のクラスA、バダル、リュレ、カイス、ザバ、ケミカ、ヤクイ、カタバの以上7名。かなり豊作だな」
ヤクイ…昨日観た限りではカタバに届きうる人だから納得だ。
「そして…極稀に現れるはずのランクSが今回は2人だ!ウリキドとヴィル!因みに俺、ニギちゃんのランクはB+止まりだ」
え、そうなんだ。意外。
……………カタバと同じクラスなら良かったのに。
すると不意に頭を撫でられた。
「心配せずとも、すぐに同じクラスになれるだろう。それに、クラスが違うからといっても、会えない訳では無い。さらに言えば、カラマイア嬢はいつでも余を観れるだろう?」
「や、やめて」
「おっと、すまない。歳上であったな」
「関係ない」
「そういえばニャンだけど、おはようのキスって、まだだったニャンよね?大丈夫ニャ?」
「ああ、それに関しては余がさせてもらった」
「あ…うん。してもらった」
……顔が熱い。
「驚いたぞ、おはようのキスをしていたなんてな」
「そうだね、ニャーも最初は戸惑ったけど、手にすればいいって言われたから、毎日してたニャ」
「手に…?」
「あの言い方的に最初は口だって思っちゃったけど、手でよくて安心したニャ。危うくファーストを奪いかけたニャ」
「ふ、ふむ。なるほど、そうであったか。それは…危なかったな」
「ごめんね…勘違いするような言い方で」
「別に誰も責めてないニャンよ〜」
「というわけで!それぞれのクラスに移動するように!教室内に入ったら、担当の教師も其処にいるから。皆ランクA++の化け物だ、気を引き締めろよ?それでは、解散!自分のクラスへ移ってくれ。地図は…今皆の手元に【移動】させてもらった。これを見て行ってくれ。それではまた会おう!」
そう言い残すと、【移動】で何処かに行った。恐らくは校長室的なところではないかと思っている。
「では…それぞれの場所で頑張るとしようか」
「そうニャンね〜。んじゃ、またね〜」
「じゃあ、またね」
そうして各クラスへと足を進めた。
クラスBに向かう途中で1人、見知らぬ人を見かけた。クスルには先に行ってもらい、私が対応した。さっきのクラス発表時には見かけなかった人だ。
一体誰なのだろう?
「あ、そこの君。クラスSって何処だっけ?」
「ああ、それは…」
手元にある校内の地図を、彼に開いて見せた。
「ここにある」
「ふ~むぅ…了解!ありがと、お嬢さん」
そう言うと彼はクラスSに向かって歩き出した。
あの特徴的な腕はなんだろう?義手?いや、外装のようなものだろうか?
………まぁ…いいか。
…もう少しでクラスBに到着する。
「ここを右に曲がり、真っ直ぐ進むと看板が見えてくる」
あった。
随分と時間がかかってしまった。
そして、教室の両開きの扉の片方に手をかけて、中に入る。
中に入るとみんな揃っていた。
私が最後のようだ。
「随分と遅いではないか?他の者は全員揃っているぞ?迷子にでもなったか?」
「あ、すみません。少し迷子になりました」
「そうか、では最初の授業は校内の案内としよう。だが、まずは先生から自己紹介だ。カラマイア、空いている席に座ると良い」
「はい、わかりました」
そして、空いている席に腰掛けた。前列4名、後列4名となっている内の、前列の扉に近い側から2番目の席だ。
今日はキャラが多くて大変だ。
▲ ▶ ▼ ◀ ▲
……手であったとは。いや、確かに、冷静に考えればそれしかないな。
「どうしたんだ?浮かない顔をして。好きな女子が別のクラスにでも行った?」
「それはヤクイ殿の話であろう?」
「グッ…いや、でもすぐ上がってくると思うな」
「……朝に疑問ができたのだが、訊いていいか?」
「おお、珍しい。なんでも言いな。俺が答えられる範囲なら、問題無いから」
「それは頼もしい限りであるな。…して、その疑問なのだが、もしや…朝に登校していたとき、ビギニング家の者が居たのでは?」
「ビギニング?う~ん…ラフアンのことか?」
「ぬ?今何と?」
「ラーフーアーン」
「アウアン…母音なら口の動きで分かる。そして、余が述べた名前が間違っていることも」
「何で聞こえないんだ?」
「呪いの後遺症というか、別の呪いと言えば良いか…」
「R…F…アン」
「ラフアン?ラフアン・ビギニング?」
「そうそう!ビギニングかは知らないけど!」
「……こうもあっさりと、この呪いの後遺症をスルー出来るとはな。感謝する」
「そりゃどうも」
知ったからといって、この後遺症を治す手がかりにはならないよな。………余の代で治す。絶対に。
1限目の自己紹介を終え、教室内でヤクイ殿と会話をしているのが今だ。
そして、その1限目が終わった休憩時に、同じクラスの人間から話しかけられた。
先程の自己紹介では、カイス・N・フォルと名のっていた。綺麗な金色の瞳に、尖った耳、茶髪、口元には常に黒いマスクを着けている。背丈は150程だろうか。
「どもッス!友達になってほしいッス。後は、このクラスでは君たちだけッス」
「おう!よろしく」
「よろしく頼む」
「よろしくッス!特に…カタバ・コンクルードさん」
「俺は?」
「…ああ……」
「ヤ、ヤクイだよ!」
「まぁまぁ、そう怒らないでほしいッス。ただの冗談スから」
「本当か〜?」
「本当ッスよ!因みに自慢じゃ無いんですけど、嘘ついたことないんで」
「怪しいな〜?」
「信じてくださいってぇ!んじゃ、次は別のクラスにでも…」
「待て。カイス…といったか?」
「うす。カイスって名前ッス」
「………コンクルードに何か因縁でもあるのか?かなり混沌とした、心の声が聴こえてきてな」
「……ななな、ない、無いッスよ!…そんな…いや、ないッスね!」
「分かり易いにも程があるのではないか?」
「い、いや、ほんと!ほん…本当にないッス!…………少なくとも、言うのは今じゃないッス」
「そうであるか。では、話せるときに聴かせてくれないか?」
「心を読んで全て知ってるくせに?」
「一瞬しか使わん。聴きたくない情報を、聴いてしまうのは怖いからな」
「…………じゃっ、リュレちゃんと話でもしに行くッス。ほいじゃっ」
「…うむ」
コンクルード家には、真顔で人間を死に至らしめる者がたまに産まれる。皆はその者を先祖返りと呼ぶ。
きっとカイスもまた、その被害者なのであろう。
先祖返りが発覚すると、家を追放され、コンクルードを名乗ることを禁じられる。…だが、守らなかった者が居たようだな?
「………これは…また一悶着的な?」
「恐らくはな」
すると、別所から空気を轟かせる程の爆発音が発せられた。
聴こえてきた方向的に、クラスSだ。
何か実践的な授業でもしているのだろうか?
そう考えていたのも束の間、突然扉が吹き飛ばされた。そして、見知らぬ者が入ってきた。
〚あれぇ?ここも違う?ったくどこだよ、ウリキドの奴は…〛
そして踵を返そうとしているその者に、ヤクイ殿が声高らかに問いかけた。
「まて!アベルだろ?どうしてここに居るんだ?」
〚ん~?あ!お前、え~と…あっそうだ!ヤクイじゃないか?〛
「そうだ!で、何でここに居る?牢獄から出れるのか?」
〚何故か?そりゃオメェ決まってんだろ。ウリキドを攫いに来た〛
「攫いに?」
〚で、牢獄からは裏口から出てきた〛
「裏口があるのか?」
〚そう!世界の隙間っつうの?カインが開けてくれてさ、そこからひょいと来た〛
「ウリキドを攫ってどうする?」
これは…どうやら緊急事態のようだ。
ヤクイ殿が時間を稼いでいるうちに、この者を拘束しなければ。
一つ一つの質問に答えるところを見ると、律儀な性格のようだな?扉は蹴破ったようだが。
アベルと言ったか?
長身で、褐色。それにあの目、人をなんとも思ってない目だ。ウリキドが攫われた後に、何をする予定か心を読まずともわかる。
そして、他のクラスの人間も状況を察したようで、全員臨戦態勢に入っている。
〚攫った後は…確か、ファミリーに歓迎する予定だったかな…それまで生きてたらだけどな。………おっといけない!カイン探さないと!〛
「カイン?カインもここへ来ているのか?」
〚ああ〛
こやつ…律儀なのではなく、馬鹿なだけか?
相手に情報を提供し過ぎだろう。…いや、ブラフ?
「隙あり!!」
クラスメイトの一人がアベルに飛び掛かった。何故隙ありと叫んでしまうのか。
「ちょっ、待て!そいつは!」
今飛び掛かったクラスメイトの名は、 ザバ・N・ドゥ。特に外見に特徴のない男だ。あるとすれば、たまに見える舌ピアスくらいだろう。
彼は魔法剣を創造し、アベルへ振るった。
だが、アベルには当たらなかった。
………アベルが消えた。周りをぐるりと見渡しても、その姿はない。一体どこに行ったというのか。
「クソ!誰かに召喚されやがったか!」
「召喚?………あ!そういえば、ウリキドはアベルを召喚出来るんだった。それで消えたのか?」
「ウリキドが召喚したって?なら、安心だな。ランクSなんて人間の領域じゃないし。…………彼奴、オレの事を一ミリたりとも気にかけていなかった。まだまだ鍛錬不足だな」
「それじゃっ、俺はクラスSに向かう」
「はぁ?馬鹿だろ。勝てる見込みがあんのかよ?そしてなにより、アンタはオレより弱そうだ。戦ったとして、瞬きしてる間に終わるぞ?」
「見込みはある。たった今、俺にも召喚が使えるのを思い出した。腕に自信があるなら、ザバもついて来るか?あと、何気に初会話だな」
「初会話とかはどうでもいい!何上から目線に指示してくれてんの?」
「喧嘩したいなら、後でしよう。今は早く向こうに行きたい。一緒に行くのか、行かないのか、教えてくれ」
「………行くぞ!早く行きたいんだろ?オレは【移動】持ちだ!」
「よっしゃ!じゃあ早…」
どうやら、ヤクイ殿が最後まで言い切る前に【移動】をしたようだ。いつもカッコつかない所は、実に彼らしい。
教室内に残された者たちはというと、今すぐ援軍に向かおうと燥いでいる。
大勢で向かってもヤクイ殿の邪魔になるだけだろう。ならば、余の仕事は決まっている。
喧騒の中でも、全員に聞こえるよう声を張り、無駄に腕を組んだ。
「皆のもの!我らは此処に残るべきだ!あの二人と、クラスSの者だけでなんとかなるだろう。それにだ!クラスSの教師を任される程の人間がおるのだ、何も心配することはないだろう?」
そして、余の呼びかけに先んじて声を上げたのは、カイスだ。
「確かに、そうッスけど……そういうあんたは行く気満々って顔してるじゃないッスか」
「当たり前だろう?余は特等席で戦闘を見たいのだ」
すると、1時限目が終わってからずっと寝ていた先生が起きた。皆の表情を伺うと、そういえば居たな、という顔になっていた。
「………ふぁぁ〜…ああ~!よく寝た。………どうした、皆?………て!あれ?扉が!」
「それまじで言ってんッスか……スイ先?」
たった今、眠りから覚めたこの人間は、このクラスの担任。自己紹介の際にスイ先と呼ぶようにと、言ってきた。眼鏡を掛けているが、伊達らしい。
「ふ~むふむ、そんなことが!ほぇ~…」
「な、何をしておるのだ?」
何も無い空間に指をたて、壁に指を這わせるかのような動きをしている。
「まぁ、状況は大体わかった。それじゃあ、2限目始めるよ〜」
すると、先生の言葉が終わると同時に、文句があると言わんばかりの表情でバダルという男が口を開いた。
「この状況でですか?少なくとも、このバダルからすれば、流石にどうかと思いますよ」
「まぁまぁ、落ち着きたまえ。料理系男子のバダル君。今から始める授業は鑑賞会だから」
そう言うと、また空中に指を這わせた。そして数秒と経たないうちに、空中に映像が映し出された。
ヤクイ殿とザバの姿が映っている。
「先生実は、こういう系の専門家だから」
「こういう系とはなんだ?」
「なんて言えばいいかな〜…う~ん…映像系かな?」
「何を言っておるのかさっぱりわからぬ」
「まぁまぁ、なんとか察してほしいかな。…では、これより2限目の授業を開始する。あ、号令はいらないよ」
そして、スイ先の宣言と共に2限目の戦闘鑑賞会は開かれた。




