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第6話『警務隊長中野衛』

 陸上自衛隊朝霞駐屯地。  

 東部方面隊司令部、陸上総隊司令部の入居する、自衛隊の司令部である。

 自衛隊の内部警察機能を担う警務隊、その東部方面警務隊、隊長室もそこに入居している。 


 この日、警務隊長室に若い警務隊員が入室した。

 刈り上げられた髪に吊り上がった目はいかにも性格が悪そうだ。

「一佐失礼いたします。警視庁公安部に潜入捜査中の大河内三佐から報告が」

「まあ、座れ」

 対照的に、彼に応対した東部方面警務隊の隊長たる中野衛一等陸佐は、短いながらも洒落た髪型に、整った顔立ちで、いかにもやり手な敵幹部と言った見た目だ。

「失礼します」

 部下は黒革のソファーにつき、テーブルに報告書を広げる。

「まず結論から申し上げますと。大河内三佐の位置情報と、定時報告を総合しますと、マル自は警察庁を訪れたのち、新宿地下に潜伏したようです」

「彼らは特捜専対か、ふざけた名だ」

 中野は報告書のページをめくる。

「秘密保持が狙いだな」

「ヤタガラス作戦を察知しての動きかと」

「……」

「一佐、小野田警察庁長官からの協力は得られましたか?」

 報告書を見る中野衛の沈黙に耐えかね、部下はそう訊ねる。

「腹のうちの読めない御仁でね、自衛隊と警察双方とやりとりしているよ」

 小野田公現警察庁長官。警察の権限強化を目論む曲者だ。警察庁を警察省に格上げし、ゆくゆくは戦前の内務省を復活の上、警察主導の諜報機関創設を考えている。

 小野田が警察庁長官でありながらヤタガラス作戦に協力するのは、ヤタガラス作戦による安全保障の危機が結局は彼の野望にプラスに作用するからであろう、と中野は付け加える。

 中野は続ける……

「まあ、どちらに味方するかはっきりしていないからこそお付き合いできるのさ。小野田長官に裁可を得て、特捜専対に面会の約束を取り付けてくれ、警務隊長である私自身が赴く!」

 中野は狡猾だ。確かに中野は自衛隊警務隊の指揮官であり、実際はクーデター勢力A27号の協力者なのだが、クーデターを鎮圧する側に見せかけられ、公安の信用を得られるだろう。

「かしこまりました一佐」

 部下は退室した。


     *    *


 警察庁──警察庁長官室。


 警察庁警備局長たる稲田大成警視監は上官たる小野田公現警察庁長官に怒気を滲ませた。 

 自衛隊警務隊が特捜専対へ接触したいとの希望を伝えられ、その裁可の過程が長官からの事後報告だったからである。

 小野田長官は仕出しのうなぎ弁当と味噌汁を竹箸で食べている。

「公安事案A27号の捜査は、公安警察と警務隊が合同で行うからね」

「私は反対です。そもそもなぜ自衛隊側が特捜専対の情報を知っているのですか」

「君の部下に裏切り者がいるんじゃない?」

 小野田の言葉は半分正しい。大河内巡査部長は別班の三等陸佐でもあるのだ。そこから情報が別班を通じて警務隊に漏れている。だが小野田警察庁長官自身もA27号の主要人物であるのだ。

「もしそうなら警察官としての正義感を疑います」

 バン! と小野田が箸を置いた。

「絶対的な正義が存在すると、君本気で思っている?」

 稲田が眉間に皺を寄せる。

「用件は済んだから。もういいよね」

 稲田は退室しない。

「もういいよね」

 小野田は語気をやや強めて言った。


     *    *


 特捜専対新宿地下拠点においては、奇しくもミーティングの席において、稲田警視監と桜警部補が同じ見解を示していた。すなわち、特捜専対に面会を求めてきた自衛隊警務隊がA27号グループに属しているとの疑念である。

「絶対罠ですよ」

 桜祐は乃木康信を止めようとしたが。

「罠?根拠はなんだ」

「それは……」

「警務隊は自衛隊の内部警察機能を担う存在だ。まさかクーデターに加担はしないだろう。何より警察庁長官が裁可済みだ」

 千代田春は桜祐を心配そうに見る。

 一方、特捜専対の情報をリークした貝戸強こと大河内和夫三等陸佐は冷や汗をかいた。


      *    *


 法務省の応接室において、ふたりの男が名刺を交換する。

 一方は、特捜専対室長ではなくあくまで公安調査庁首席調査官の身分でやってきた乃木康信。

 もう一方は、A27号であることを隠してあくまでクーデター鎮圧側であることを強調する中野衛。

 ふたりの会談の中身は彼らしか知らないが、中野衛はこう部下に命じた──


「特捜専対を追跡、拘束しろ!」

 




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