第13話『クーデター』
【 国葬当日 】
【 東京都千代田区皇居北の丸 日本武道館 】
「外が騒がしいようですが」
と天皇は述べた。
「陛下の御心を騒がせ奉り、畏れ多きことながら」
宮内庁職員がパソコンにビデオ通話の器具を着けて、天皇のもとへ歩み寄る。
「陛下、こちらの画面をご覧いただけますか?」
それは、畠山正晴内閣総理大臣臨時代理からのビデオ通話だった。
『このような形での拝謁を賜ることをお赦しください、お耳に入れるべき一大事でございます』
「それはつまり、自衛隊、米軍の反乱ですね? 皇宮警察から報告がありました」
『陛下はご承知でいらっしゃいましたか……先程、内閣は、国葬直後の国会召集を電話で閣議決定しました。私がやられた場合、後任の内閣総理大臣を選ぶためです。そうでなくとも私はあくまで総理大臣臨時代理です。国会で正式に首班指名を受ける必要があります。陛下のお手を煩わし恐縮ではございますが、詔書への御名御璽をお願いいたします』
「A27号による叛逆はわたくしの首を絞めるにひとしい。わたくしにできることがあれば、なんでもいとわない」
【 08時15分 A27号への対応が天皇陛下のお耳に入る。 】
『まもなく国葬が始まります。黒部新造前内閣総理大臣の遺骨が到着しました。葬儀委員長の畠山正晴内閣総理大臣臨時代理が黒部夫人を出迎えます』
【 午前11時30分 黒部新造前内閣総理大臣国葬儀開式。 】
勅使、皇族、三権の長、各国首脳、各国大使、地方公共団体代表、各政党党首、各界代表がこの会場に集った。
皇居近くでは、市民団体が国葬反対のデモ行進を行っている。
『黙祷』
ピ、ピ、ピ、ポーンと時報が鳴った。恐ろしく静かな一分間であった。
国葬での黙祷は鎮圧部隊、クーデター勢力双方にとって、作戦開始の号令であった。
『国葬が始まった! ヤタガラス作戦行動開始!』
【 12時00分 曽根崎徹統合作戦司令官、在日米軍・自衛隊統合司令部にヤタガラス作戦発動を命令。 】
『A27号を鎮圧せよ! 全警戒員は配置につけ!』
【 12時01分 仁科完治警視総監、最高警備本部にて、A27号の鎮圧を命令。 】
参列者が献花を終えた。
『続いて、畠山正晴内閣総理大臣臨時代理による弔辞です』
畠山正晴は何か決意した面持ちで、マイクの前に進み出た。
『黒部新造前内閣総理大臣は、不条理な最期を迎えました。日中戦争で漁夫の利を狙うCIAが引き起こした一連の政変によって』
【 12時10分 畠山正晴内閣総理大臣臨時代理、公安事案A27号を糾弾 】
『おのれ! ハタケヤマめ!』
【 同時刻 アメリカ合衆国 ホワイトハウス 】
『今すぐ国葬の中継、配信をやめさせろ!』
『CIA傘下のマスメディアに停波圧力をかけます!』
【 12時12分 アメリカ合衆国国務省、駐日米国大使館を通じて、公共放送と民放に停波圧力。 】
『CIA工作員を動かせ、破壊活動で国内騒乱状態を作り治安出動に導く』
【 12時13分 皇居北の丸日本武道館、ほか都内各所にて同時多発的に爆発 】
警察無線が鳴る。
『至急至急、警視庁より各局、本日12時13分、日本武道館において、爆発物を使用したゲリラ事件が発生した! 本件につき現在、麹町署を中心とした強員態勢を発令中である! 全警戒員はすみやかに立ち上がり、G配備に定められた所定の警戒を実施されたい! 回信は各方面系で行う! 以上警視庁』
【 警視庁内 国葬最高警備本部指揮所 】
【 12時14分 110番通報多数入電、回線飽和状態 】
『在日米軍、自衛隊の動きに注意しろ』
『会場に負傷者多数、数えきれない』
『現在地にレスキューの要請を願いたい。要請者は麹町署警備課長』
『麹町署にあっては、署長が指揮中、署長が指揮中』
『何!? 総理が!?』
【 12時15分 日本武道館に陸上自衛隊特別儀仗隊が攻撃を行う。 】
『SP!』
SPは即座に射殺された。
自衛隊らが畠山正晴内閣総理大臣臨時代理を取り囲み、銃を突きつける。
「総理、我々と同行していただきたい。SPは用済みです」
「貴様らっ」
「防衛省にて指揮を取っていただきたい」
【 12時17分 畠山正晴内閣総理大臣臨時代理を陸上自衛隊警務隊が確保。 】
警務隊隊員が畠山の両脇を抱える。
『総理代理を防衛省まで移送する!』
【 12時23分 自衛隊車両、畠山記念館正晴内閣総理大臣臨時代理を拉致し防衛省へ発進。 】
『総理代理が拉致されました!』
『緊急時初動対応部隊を向かわせろ!』
【 12時30分 自衛隊、警察を突破。銃撃戦。 】
【 13時00分 畠山正晴内閣総理大臣臨時代理に対し、防衛省制服組が指揮を要請 】
大河内和夫が畠山正晴の担当であった。
「君は確か息子の同僚だな」
「不自由を強いて申し訳ありません、総理」
「わしに何をさせたい?」
「自衛隊に治安出動命令を出してください」
「断る!」
内閣総理大臣臨時代理は拒絶した。
「治安出動命令が出れば警察の治安維持の役割は自衛隊に移り、A27号に主導権が渡る。クーデターが成功してしまう』
【 14時00分 国会召集 】
『これより会議を開きます』
『議長! 内閣総理大臣の指名選挙を行うことを望みます!』
『この動議にご異議ありませんか』
『なし』
『首班指名選挙に入ります』
【 同時刻 防衛省 】
畠山正晴はなかなか折れない。
「そうか。あくまでも自衛隊は動かさず、警察だけで事態を収めると? ならばこちらも米泉首相に復帰願うまでだ」
「米泉総理は今頃警察病院から退院しているだろうよ!」
「奪還したと言うことか。それはどうかな? 国会が今私を正式な内閣総理大臣にしようと動いている」
「ほざけ! 米泉総理大臣さえ戻れば単なる臨時代理など更迭できる!」
「中野一佐、大変です!
「なんだ!」
「国葬反対派賛成派双方のデモ隊が、米泉総理大臣を運ぶ車を足止めしています!」
「……まさか、一般市民が」
『クーデターはゆるさないぞ! 米軍自衛隊は出ていけ!』
『国賊在日米軍を日本から、叩き出せ!』
畠山正晴内閣総理大臣臨時代理は感極まって涙をこぼした。
大河内和夫が挙手する。
「中野一佐、意見してもよろしいでしょうか」
「言ってみろ……いや、別室で話そう」
ドアが閉まる。
「桜祐警部補をここへ呼び出して、畠山正晴内閣総理大臣臨時代理の前で痛めつけて、代理に治安出動を強要するのです」
「任せよう」