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第10話『属国のイージス』

『こんごうトマホーク発射!』

『発射コード、在日米軍からです!』

 灰色の重厚な船体に轟音が響き、トマホーク巡航ミサイルが発射される。

 イージス艦こんごうが米軍のシステムジャックを受け、遠隔操作でミサイルを発射したのだ。

 艦長の東郷一等海佐は歯噛みする。周囲の幹部自衛官が呼びかけるが、ひとり逡巡する。

「(こんごうにトマホークを遠隔で撃たせ、俺たちを悪者にする作戦だろう……俺たち? たちとは誰のことだ? 制服組、背広組を飛び越えて、現政権の責任になる)」

「(現政権黒部新造内閣総理大臣は核シェアリングを提唱し、敵基地攻撃能力を閣議決定した。すなわちトマホーク暴発事故は現政権の責任となってしまう、政権が吹っ飛ぶ前にトマホークを叩き落とす!)」

 東郷は決意を固めた。

「主砲攻撃はじめ! 目標、トマホーク」

「対空戦闘用意! これは演習ではない。これは演習ではない」

「主砲、うちーかたーはじめ!」

「撃て!」

 イージス艦こんごうの艦砲射撃をかわしつつ、間もなくトマホークはまたも米軍の遠隔操作により自爆した。

「自爆!?」

「艦長! 米海軍駆逐艦ベンフォルドからの停船命令です!」


      *    *


 在日米海軍司令官エドワード・サウスマウンテン中将は受話器を置いた。

「コンゴウを海兵隊で鎮圧しろ、トマホーク発射、主砲発射、罪を被せる。日米地位協定を発動する」

「中将、ホワイトハウスからです」

 元陸軍将官のオーディン国防長官だ。

『イージス艦コンゴウにトマホークを遠隔で撃たせたのは君の手柄だ。これでオペレーションJ、ヤタガラス作戦が更なるフェイズに入った』

 デヴァイン大統領の姿もある。

『CIA傘下のマスコミを使って黒部新造の核シェア密約をばらし、トマホーク配備閣議決定の責任論を展開する。取材では口裏を合わせたまえよ』

『かしこまりました、ミスタープレジデント』

  

     *     *

 

 同日。

 CIAの影響を受ける公共放送1チャンネルと民放4チャンネルでは護衛艦こんごうトマホーク暴発事故について、そもそもトマホーク配備を閣議決定した黒部新造内閣総理大臣の責任論が喧伝された。また、CIAのリークによって、黒部新造が持たず作らず持ち込ませずの非核三原則を破り、日本国内に米軍の核を持ち込み、核共同保有の地ならしを行っていたとのスクープを発表した。

 黒部新造は急遽記者会見を開き、今期限りでの退陣と、衆議院解散を発表した。

 その頃、活動を凍結された公安事案A 27号特別捜査本部諜報専従対策室のメンバーは警察病院に押し込まれていた。

 狭い机に顔を合わせ、テレビをつける。

「いや、まさか日米核密約が実在するとは」

「それよりも私たち。ここに軟禁されるとはね」

 君塚が腕を組む。

「職務再開に向けて上が頑張ってる。今は我々を守るという意味合いもあるんだろう」

「確かにその通りですよ」

 桜祐のほうを皆向く。

「父さん、いや、畠山法務大臣はあえて我々を軟禁することでA27号への帰順を示したふりをしたんです。君塚警部の仰る通り、守るという意味合いで」

 千代田春は桜祐の親子愛に感心した。

「祐君、お父さんのことを信じているんだね」


      *     *


 都内。

 黒塗りのワンボックスカーが畠山正晴法務大臣を乗せて走る。

 畠山は車内のモニターを点けた。

 モニターに映るのは、実の息子の桜祐警部補だ。

「このやり方で通信の秘密は守れるのかね?」

「大丈夫です」

 桜祐は本題を切り出した。

「永田町での後任の総理大臣選びはどんな情勢でしょうか」

「米泉統一郎環境大臣だな。須田官房長官が支援している。新自由主義だの構造改革だのあの国の影響をもろに受けた総理総裁候補だ」

「今後の政局は?」

「まもなく退陣する黒部内閣で衆議院解散され、そのあとに民自党両院議員総会で米泉が新総裁に指名。そのまま新総理に就く流れだ」

 畠山法務大臣は眉間に深い皺を寄せる。

「その米泉から副総理か幹事長のポストを内示されている。わしを取り込む気かな」

『取り込まれそうになっているのはいい兆候です。米泉らA27号は、畠山正晴法務大臣が自身の息子を含む特捜専対メンバーを警察病院に軟禁した事実を以て、クーデター勢力に従うと思い込んでいます。新内閣では党の要職ではなく副総理か官房長官になってください。そうすれば』

「そうすれば?」

『閣内から閣僚としてクーデターを食い止められます』

「わかっておる! 新政権ではなりふり構わず副総理か官房長官に留まってみせる! 他のどんな重量級ポストを提示されても断る!

『何卒よろしくお願いします!!』


【NKHニュース速報:黒部首相、衆議院を解散。日米核密約と海上自衛隊ミサイル暴発問題の批判を受けて】


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