序 トイレの花子さん
花子さんは昔この高校にいた生徒でした。
可愛らしく明るい少女でしたが、テストの点はあまりよくありません。
大変に教育熱心だった彼女の母親はそれを叱り、何人もの家庭教師を雇って毎日毎日、勉強させるようになりました。
それでもテストの点はなかなか上がりません。
どんなに勉強をしたところで、いつも平均点を下回ります。
それが余計に母親を怒らせてしまいます。
楽しかった部活動も辞めさせられ、休日に友達と遊ぶ約束も反故させられました。
それでも成績は上がらず、母親はついに学校へ乗り込んできました。
授業中に教師を「役立たずの給料泥棒」と罵り、花子さんのクラスメイト達には「二度と娘に近付くな、馬鹿がうつる」と怒鳴りつけるほどでした。
花子さんは孤立しました。
精神的なプレッシャーからいつもげえげえと吐いているような有様で、やがて一日中トイレにいるような状況になります。
それを知った母親は学校を訪れ、髪を逆立ててトイレへと怒鳴り込みました。
壊れそうなほど激しく扉を叩きながら、花子さんの母親は自分の娘に幾度も酷い言葉を投げかけ、いますぐ勉強しろと叫び続けました。
やがて扉は破られます。
中にいた花子さんは、自分の首にボールペンを突き刺して自殺していました。
それ以来、この高校のトイレには花子さんが出ます。
勉強ができる人はねたまれるとも言いますし、友達が多い人もイタズラをされるそうです。親と仲がいい人にも災いが降りかかるとか。
ですが彼女を呼び出すには手順があります。
女子トイレには四つの個室が並んでおり、その手前から八回、七回、五回、三回とノックをし、「花子さん、遊びましょう」と唱えるのが彼女を呼び出す合図です。
その儀式さえおこなわなければ問題はありません。ですが。
もしおこなってしまえば、花子さんはあなたの前に現れる。