第9話 部屋から消えたニート②
「瀬良さん、手分けして探しますか?一緒に一部屋ずつ手がかりを探しますか?」
小町家の玄関は上り框がなく綺麗な石で玄関の範囲を示していた。
「私は一人で勝手に調べるから小林くんも勝手に調べて」
「はい..」
怒られたわけでもないのだが、何故だか喉がうまく開かず答えに詰まってしまった。
瀬良さんは長く伸びるローカを歩き右へと曲がっていた。まるでこの家の構造を既に知っているかのように行動するので気になって後を追ってみることにした。
瀬良さんが曲がったところには階段があり、既に彼女は階段の曲がり角に差し掛かっていた。存在を認識されても関係何のだが、何故だか摺り足になり、音を立てないよう意識していた。
瀬良さんは初めに初めに亮太さんの部屋から手がかりを探すのだと思っていた。しかし、瀬良さんが取った行動には彼女の体を押さえてでも止めなくてはならなかった。
「瀬良さん、そこは大吾さんの部屋です」
ふわりとした服越しから細い腕を掴み彼女の行動を制した。依頼者が入っていけないと忠告した部屋に彼女は躊躇いもなく入ろうとしたのだ。
「知ってる」
掴んでいる手を振り解くでもなく彼女はドアノブを回した。
「いや、なら入ってはダメです」
「ここに依頼者が求める人がいても?」
彼女はそのままドアを押し込み部屋の中に入っていた。
掴んだ腕から手が簡単に離れたことに今更ながら気づき、そのまでフリーズしていた。その後すぐに周りを確認し、付き人の私情さんに見られていないことに胸を撫で下ろした。
彼女が部屋に入ってしまったことは、もう取り返しがつかない。この状況で最善の手は、彼女が部屋を調べ上げるまで私情さんを足止めすることだろう。
ため息をつきながら階段を下り、私情さんを探していると彼女は給湯室でお茶を汲んでいた。
「すみません、お飲み物に関しては隣にある客室に置いておくので自由にお飲みください」
背後から近寄ったことで私情さんを驚かしてしまったのか湯呑みから透明な緑茶がはみ出した。
「いえ、こちからこそすみません。それと、少し質問をしてもよろしいですか?」
元々、亮太さんの件で話を聞きたかったこともあり凪は私情さんと客室に入り机を挟んだ。
「あの、話というのは..」
私情さんは目線を湯呑みからゆっくりと凪に向け話の内容を促した。
警戒した目線をこちらに向けてくるが、知事のお付きとなる人は護身術もしっかりと心得ているはずだ。今見せている警戒心は、習慣化したものだろう。
「亮太さんはなぜ、居なくなったのですか?それと、なぜ探すのが私たちであり、ご自宅なのでしょうか」
善弥さんから小町大吾の家で息子の小町亮太を探してこいということだった。自宅を探せば大体のことがわかると言っていた。でも、それはあなただけですよっと心の中で呟いた。
「まず、居なくなった原因はわかっていません。事前情報からご存知だと思いますが亮太さんは約二年前から引きこもり、ニートとなっていました」
小町亮太
年齢25歳
1年間A社に勤務。翌年退職。退職理由は心身の不調。
退職後自宅にて小町大吾の仕事を手伝っていた。しかし、二ヶ月を持たずして部屋に引き篭もってしまった。
「事前情報では仕事のせいで引き篭もりになってしまったと」
自分は引き篭もりになった事がないからどうして部屋から出て来れないのかわからない。1日、3日までなら家の中の生活でも耐えられるが長い期間家から出ないのは考えられない。
「私も最初、仕事が理由と思っていました。でも、亮太さんは退職した次の日には旦那様に仕事をさせて欲しいと願いを出していました」
心身の不調により仕事ができなくなった。でも、すぐに仕事を求めて身内に頼った...
「それでは、他の要因...」
自然に考えるのならば仕事を辞めてスッキリしてすぐにまた挑戦した。ということだろうか、流石に1日となると早すぎる気もするが。でも、それよりも気になることが一つ。
「なぜ、家の中を探す依頼を出したのですか?」
亮太さんは家から姿を消した。それが確実ならば外を捜索するのが普通だと思う。しかし、依頼では家の中を探して手がかりを見つけることだった。
「家の周りには防犯カメラが常時稼働しております。そのカメラに映らずに家を出ることは不可能なのです」
「不可能…」
「はい。絶対に姿を確認されず逃げ出すことはできないのです」
「キャリーケースなどで姿を画して抜け出すことは可能なのでは?」
「その場合共犯者がおりません。家の中は全て私が行なっているため共犯になる人物はおりません。また、外部の者と協力するなども防犯カメラを確認しました不可能だと結論づけました」
そこまで言い切るのだから何度もチェックをして確認をとっているのだろう。この家ならおそらくカメラの性能もいいはずだ。しかし、そうなると本当に亮太さんはこの家から抜け出さず姿を消したことになってしまう。
他にどこか逃げ出すところ、もしくは隠れて生活できるところはあるのだろうか。