第7話 羞恥と出現
花の香りが瀬良にも届き妄想から現実に戻った時彼女は目を疑った。
花が渦を巻きながら棺の中から宙に浮かんでいた。
そんな花束の渦の中心にハラリと白い布がふらふらと目的地を無くしていた。私はその布にハッとして後方にいた筈がいつの間にか人の輪の中に入っている。
あれは死装束だと気づいた時には居ても立ってもいられなくなった。不謹慎だが好機だと思った。妹の体の状態が確認できると。
無我夢中で人を払いのけ棺桶の中を確認する。もちろん数珠を両の手のひらで挟むことはできなかった。
「ない...」
死んだ人の体は重たかった。女の子とはいえ背中を確認するために体を動かすのにも強い力が必要だった。
「背中にもない...」
妹が出会ってしまった事件は臓器が取られ体は捨てられる事件だった。臓器が抜かれるということは腹もしくは背中に切り傷がないと取れない筈だ。まさか口から抜いたわけではないだろう。肛門からも勿論難しい。さらに全ての遺体は綺麗な状態であると噂だっていたが切り傷まで存在しない。
身体という密室のような場所で臓器はどのように脱出したのだろうか。
花の渦が収まり部屋全体に花が落ちた頃、私は服を着ていない、下着姿の自分に強い羞恥を抱いた。
ーーー
「私は移動させたものと代償による自身に付いている物がなくなる現象を正確に操れていません。いや、操れるかもわかりません」
彼女が足を気にする素振りを見せたので視線を下げると左足にあったはずの底が高い黒い靴が無くなっていた。
「超能力は使いこなせる。もちろん人によるがな」
善弥はソファーから立ち上がり流し台の方へ歩いて行った。徐に流し台に手を入れ何かを掴んだ。
「君を採用するよ」
善弥は流し台から靴底の厚い黒い靴を取り出し瀬良に渡した。
「ありがとうございます」
瀬良は靴を受け取り深くお辞儀をした。
どうしてだろうか、瀬良さんは善弥さんの事を既に深く信用しているように思えた。自分が求めている事件の情報を聞き出すためにしている行動なのか、それとも他に何か要因が...
「それでだが、明日時間はあるか?」
善弥は再びソファーに座り凪と瀬良両方に目を向ける。
「オリエンテンションが午後に終わるのでそれ以降なら問題ないです」
「俺も明日は実力試験が午前で終わるので大丈夫です」
「なら、初仕事だ。もし、俺が行くまでに達成できたなら2人の事件に関して情報をやる」
善弥さんはニヤリと笑いソファーから立ち上がった。そして、隣の瀬良さんは下を向き奥歯を噛み締め口を結んだ。
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