第6話 復讐の火種
彼女の服は重苦しいほどの装飾がついている。よく見ると首にもチョーカーとネックレス。両手には合計11個の指輪。右手の薬指には三つもついていた。長い服で隠れているがブレスレットも両手首についている。頭には白のふわっとしたピンの他に、様々な形のピンが五つ。そして彼女の容姿はとても端麗だった。
「代償になるものに関してはランダムか?」
善弥さんは今どれほどの情報を得ているのだろうか。12個の指輪が11個になったことがわかる男だ。もしかしたら彼女が応募してきた時点で超能力を持っていると考えていたのかもしれない。
「いえ、正確にはわかりませんが、小物の場合は今みたいな指輪やヘアピン、ヘアクリップ。少し大きいもの、例えばこのコップとか」瀬良はコップを善弥と凪に見せつけるように持ち上げた。
「これを瞬間移動させると...」
彼女が再び目を閉じると直ぐに手に持っているコップが消えた。大きいもので超能力を使うとその光景は異常なものと見えやすくなった。
「コップの行方は?」
善弥さんは代償に興味はないのかコップの行方を気にし彼女に聞いたが意外な答えが返ってきた。
「わかりません」
「え...」凪の驚いて出た声に瀬良は申し訳ないと目を細め顔に影を落とした。
「この超能力に気が付いたのは去年、妹の葬儀の時でした」
ーーー
私はどうしても納得いかないことがある。妹が殺されたこともそうだが警察が事件に関して話してくれないことだった。
「私は全ての情報を教えて欲しいなんて言ってません。ただ、どうやって妹を殺したのかを教えて欲しいんです」
自分でも口が横に裂けてヒリヒリとするのがわかる。でも、今この人たちに詰め寄り情報を聞き出さないと私は事件解決まで宙ぶらりんな状態だ。その事件が解決されないことがあったら私は一生地に足がつかない状態なのだ。それならば、自分でも犯人を探し出して地に足をつけたい。
「ご遺族の方でも情報を開示する事ができないのです」
「でも、なんで死んだかでも教えてくれても...」
今から妹の棺を開けて中を確認するなんてやりたくない。妹の顔が綺麗な状態なのは知っている。でも、彼女の体の中には既に何も残っていないのだ。心臓も胃も肺も腎臓も子宮だってない。どうやって取られたんだろう。首を腹を切られる時は...
涙が止まらなかった。大人達が周りを囲んで慰めてくれているのだろうが、胃液が奥歯を溶かしてしまいそうで、ただただ苦しく無力な自分に腹が立った。
「お願いです。なんでもしますから、事件の情報を教えてください」
「すみません。これ以上は、私も次の予定がありますので」
家に訪れた刑事はその後二、三度言葉を交わして帰っていった。
「ほら、由花葬儀場に行くよ」
朝早く、気持ち良いはずの空気はとても重苦しく憂鬱を吸っているかのようで息を止めてしまいたい。車に乗り込んで、父がこちらをミラーで確認してくるが話す気持ちにもなれずシートベルトに貼り付けられ葬儀場についた時には車に乗っている記憶はまるでなかった。
父と母は葬儀の打ち合わせや来訪者の相手に忙しなく働いていたが私は棺の中にいる妹の前で正座をし顔を見ることしかできなかった。
葬儀は順調に執り行われ、棺の蓋を閉める前皆で花束を持ち寄り妹の周りに添えていった。
妹の友達も目を腫らし花を添え数珠を両手で挟み合唱をする。涙を堪えていた父も母もダムが決壊したように大量の涙を流していたが私は昨日枯れてしまった。
こんなはずではなかった。妹が高校生になったら沢山おしゃれをしてカフェを巡って勉強を教えてあげたかった。だけど、その夢ももう叶わないと思うと体が硬直して身動きが取れなくなってしまう。
私は妹を殺したやつに同じ報いを受けさせれば立ち直れるのだろうか。復讐は意味ないというが私は昨日からどうにも妹を殺した犯人を同じように殺してやりたかった。だから、せめてどのように殺したかだけでも...知りたかった。
「えっ」葬儀場にいる瀬良以外の人が一斉に声を上げた。