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6話。美味い。



今日は『氷結の洞窟』という場所に行ってみたい。近くの村の役所に向かい、管理している職員に尋ねると、困ったような笑みが返ってきた。


「1年前から観光客は立ち入り禁止なんだよ。あそこは綺麗だから賑わっていたのにな。はぁ〜。参ったよ。」


「何かあったのですか?」


「1年前、観光客2人が洞窟内で行方不明になってな。捜索隊が探しに入ったが、見つからなかった。

魔物が潜んでいる危険があるって事で、観光客は立ち入り禁止にしたんだ。そんで今では冒険者含め29名が戻って来てない。無許可で入った者もいるだろうから、実際はもっと多いだろう。噂が広まり、今じゃ命知らずがたまに来るだけさ。やめときな。」


「自分で責任は取るので入りたいのですが。」


「何かあったらどうする?やめときなって。」


「いや、僕は…」


お互いに困っていると、話が聞こえていたようで村長がやってきた。


「ワシにはわかる。アンタは腕に覚えがありそうだ。入りたかったら止めはしない。だが、届出は書いてもらう。何があってもうちは一切責任を負わないからな。1週間経っても戻って来なかった場合、死亡届が発行される。行方不明者が10人を超えたあたりから書いてもらうようにしてるんだ。…捜索問い合わせが多くて、業務に支障をきたしていてね。」


「わかりました。記入します。」


「手続きしてあげなさい。」


「………はい。」


届出を書いて職員に出すと、訝しがられた。


「……これ、本当ですか?」


「はい。」


僕は身分証を提示した。


「あ……そう、ですか。大変失礼しました。……あの、私が氷結の洞窟の入り口まで案内します。宜しいでしょうか?」


「ありがとうございます。では、お願いします。」


洞窟前まで職員に案内してもらい、地図を貰うと見守られながら一人階段を降りる。

一年前まで人の手が入っていたからか、洞窟内の床は整備されていて歩き易い。そして、流石名の通り寒い。暑い時期でも洞窟内の温度が氷点下であるため、氷結の洞窟と名が付いたそうだ。

地図があると探索も効率よく進む。小さな滝壺や魚が住む場所を見に行くが、魔物はいなかった。


最後に洞窟の最奥に着くと、若干腐食した茶色の宝箱がポツンと置かれていた。気配もある。これはミミックだ!開けよう。


「…カラッポの箱だ。」


中は空。でも気配はある。何だコレ?足元に違和感が。

靴で地面をグリグリとすると、僕を転ばせようと何かは動いた。だが、力を入れ逃さないようにしてから掴み上げる。


「薄くて大きい海月みたいだ。」


向こうの景色が透き通って見える。でも目を凝らすと胃腸などの透明な臓器がわかる。全体的にブヨンブヨンしていて気持ち良い感触だ。

何処に口があるか調べようとしたら、海月モドキが必死に抵抗する。


生態を知りたいので手を離すと、素早く宝箱の中に入り蓋を閉められた。蓋を開けると、水が溜まっているだけのように見える。こうやって擬態しているのか。

指でつっつくとブヨンブヨンと跳ね返る。楽しい。この後、どうやって獲物を捕まえるのかな。


捕まりたいのでしつこく突っついていると、海月は飛び出して僕に伸びて張り付いてきた。


顔にもぺっとりと張り付き、窒息させようとしている。こうして獲物は逃れられず捕食されるのだろう。

僕は口を大きく開けて海月モドキに優しく噛み付く。歯を立てると、中の物質のグニョグニョとした食感が楽しくて。どれくらい歯を立てたら噛み切れるかな。少しグッと力を入れると。


『ぶしゃあああ〜〜』


海月の膜、もとい皮膚が破れ中から不凍液が溢れ出す。やり過ぎちゃった。


「あれ、これ美味しいね。」


不凍液は甘く強いアルコールを感じる。腰に下げた鞄から水筒を取り出し、残りを中に注いだ。

薄皮だけになった海月ミミックを置いて、入っていた箱を抱える。側の壁の隙間に手を突っ込むと、海月ミミックの幼体がボロボロと出てきた。全部箱に仕舞う。良い土産が出来た。


箱を抱えて洞窟から出ると、職員と村長までいた。僕を待っていたそうだ。


「ご無事の帰還、お疲れ様です。」


「流石ワシの見込んだ者。無事帰ってと信じておりました。所で、その箱は何でしょうか?」


魔物の正体を伝えると、近くの海に生息する海月の魔物の亜種だと判明した。海水でしか生きられない筈が、偶然洞窟に紛れ込んだ個体が淡水に適応し、数を増やしたみたいだ。


「こちらは危険なので処分します。」


「え〜残念。まあ、仕方ないですね。」


「ご理解いただき、ありがとうございます。貴方様のおかげで、安全確認が取れ次第観光業も再開できるでしょう。

お礼と言っては何ですが、今日は我が家に泊まって行って下さい。大したものは御座いませんが、食事もご用意させていただきます。」


食事と聞いて、僕は鞄から水筒を取り出す。


「良い物がありまして。みんなでどうですか?」


「えっ?私も宜しいのですか?」


「ええ。美味しい物はみんなで分かち合いましょう。」


こうして僕達は夜を楽しんだ。


翌日。2人とも寝込んでしまった。いくら美味しいからと、殆ど飲むとは。事前に試験管に少し取っておいて良かった。


僕は挨拶をして村を出る。


「さて、次はどんなミミックに出会えるかな。」
















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