24話。やっぱりね。後編。
屋敷から港町に無事着いたが、この生物をどこの誰に引き渡せば良いのだろう。悩んでいると。
「わぐ。」
生物は僕と繋いだ手を引き、こっちだと案内するように僕の手を優しくひいて大通りを進む。大勢の人々は宝石に夢中で、この奇妙な生物には関心が無いようだ。
案内されたのは役場。畜産課に行くのかな。そう思っていたら、受付の男性が僕達を見て駆け寄ってきた。
直ぐに別室に案内され暫く待つと、隣国の大臣が現れた。『ワグマ』と呼ばれるこの生物と飼い主との感動の再会。周囲は歓喜の涙を流す。
僕は依頼を受けていないのに、何故犯人側として取り扱われないのか。おそらくだが、手が回っているのだろう。
報酬を渡したいと言われるが、僕の分を彼に渡してもらおう。僕の感情が平常に戻っていくのを感じた。
「わぐぅ。」
出発しようとした僕に、ワグマが近寄ってきたが避ける。黒く丸い目で僕をじっと見つめてきた。感謝したいらしい。
非常に困った。こんな状況は初めてだ。すると、生物は右手を差し出してきた。握手を求めているそうで、それならと手を握る。やはり、柔らかくて心地よい温もりの肉球だね。口元が緩みそうな新感覚になる。嫌な気分ではない。
「さようなら。」
役場を出て賑やかな大通りを歩き、街の外に出ようとしたら笑顔の執事が待っていた。怪我もなく服が綺麗になっている。僕がここに来るのをわかっていたんだな。手回しが良い。
「殿下を無事に連れてきて下さり、ありがとうございます。」
「いいさ。さて、説明してくれるかい?」
「私が生きていると不都合な方々も多いので、一度死んでおきました。今後は隣国に籍を置き、殿下の側仕えとして生きていきます。」
執事は赤い液体の入った袋を腹部から取り出す。これで血を演出していたのか。用意周到だね。
「そうかい。で、あの時言いかけていたミミックの話を聞かせてくれないかい?」
僕の問いに、元執事は懐からハンカチに包まれたダイヤモンドを開いて見せてくる。
「先程おしおきした隣国の密猟者共が、この港町に『宝石ミミック』を売り捌いていたんですよ。
買った者達がミミックに宝石を作らせて売り捌き、出所を知ろうとしない宝石を人々が買い求める。それがこの港町で流行しているのです。」
「宝石の原材料は?」
「骨や毛です。なので、先程屋敷から大柄な方の大腿骨を一本いただき、ミミックに食べさせてから殿下に献上しました。ひと月もあれば質の良いダイヤモンドが作られているでしょう。」
働かずして金になる。なる程、これは良い儲け話になるね。
「宝石ミミックは大変凶暴でして。空腹時はどんなに世話をしている者であろうとも、容赦なく襲います。回収しようにも、摘発する法律が無く。
自主的に手放してくれたら良いのですが。指を食いちぎられようが、自堕落な生活は手放したくないようで。食われた自分を人に見られないよう、部屋に引き篭もる者が増えてきているそうですよ。」
それだと確かに旅に連れていけないね。油断した隙に方々食い荒らしそうだ。
「こちらの町長も深刻な問題だと受け止めているそうなので、条約を制定してミミックを回収しようとした折。殿下が攫われてしまったのです。
ああ、なんてお可哀想な殿下。ですが、私が側仕えとなったからには、悪党から指一本も触れさせないようお守りするのです。あのような世界一美しい方に仕えられるなんて、私は幸せ者ですよ。」
僕は自分の容姿が多数に好まれるのを自覚している。だから、あの『ワグマ』より劣っていると遠回しに言われ複雑な気分だ。
「そんな顔をして。可愛いらしい方ですね。」
「それ、僕に言ってるのかい?」
「貴方様との熱情的な日々は、一生の宝となるでしょう。いつでもベッドの左は開けておきすので遊びにいらして下さいませ。」
「出会って2日しか経ってないんだけどね。」
「では、またお会いしましょう。」
執事が優しく笑うと深々と頭を下げて、新しい主人の所へ帰っていった。僕も次の目的地に向かおう。
海風に背中を押されながら歩いていくと、次第に冷たい風になっていく。ああ、あそこは暖かかったのか。
普段の静謐な日常に戻ったが、少し物足りなさを感じる。きっと、あの嵐のような男の影響だろう。
「さて、次はどんなミミックに出会えるかな。」
この違和感は直ぐに消えるさ。




