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19話。狭い世界。後編



翌日。村役場に長期滞在許可書を受け取りに向かおうとすると、村長からミミックも連れて行って欲しいと頼まれた。たまに散歩がてら新鮮な花を食べさせているらしい。

近くの川で紫陽花が満開なので、後で行こう。僕はミミックを村長から受け取り、腰に下げた鞄の中に入れた。


家から然程離れていない役場に向かい、窓口で手続きをしていると、次期村長だという男が話しかけてきた。


「ほぉ。貴方は医学に精通しておいでなのですね。しかも、これは素晴らしい。」


「ええ。ここに滞在中は診療所でお手伝いできればと思っています。」


「それは有難い。このところ、出生率が上がっているおかげで産婆さんでは難しい案件が増えてきていまして。街に求人を出そうとしていたんですよ。本当に助かります。」


「微力ながら尽力致します。」


「それはそうと………ちょっと、こちらにお願いします。」


手続きを済ませると、会議室に通された。他に聞かれたくない話のようだ。


「村長の家に滞在されるとか。いえ、こちらとしても有難いんですよ。その〜、村長の趣味とかはご存じですかね?」


遠回しに僕を探ってくる。という事は。


「ミミックの世話を頼まれたんです。もう長くないそうなので、看取るまで滞在します。」


僕の言葉に彼は顔をパッと輝かせた。


「そうでしたか。良かった。本当に良かった。


いえね。村長は隠しているつもりなんでしょうが、殆どの者が知っているんですよ。

村長は怖がらせまいとして隠しているのでしょうが、害は無いのは皆知っているので。知らないフリをしているのです。


村長が施設に入所するにあたり、代表として私や子供達で面倒を見させて欲しいとお願いする手筈になってたんですが。

貴方のような適任者が来て下さって、村長も我々も神に感謝しかありません。」


彼は僕に手を合わせて拝んできた。僕はそれに対して会釈をする。


「あなた方のような人達を育ててきた村長は、余程の人格者なのですね。安心して下さい。ココに一緒に来ていますよ。」


僕は鞄からミミックを取り出して扉の向こうに向かい声を掛ける。すると、扉が開いて大勢の職員達が顔を覗かせた。暇人だね。


「久しぶりだね。元気そう、では無いみたいだけど。会えて嬉しいよ。」


「バレてましたか。いやー、本当に良かった。この子、村長の目を盗んでたまに水瓶から出て散歩しているんですよ。いつも挨拶しに家まで来てくれて、可愛いんです。」


「うちの干し柿も毎年食べにくるんです。婆ちゃんの良いお茶友達なんでさぁ。」


ミミックはパカパカと蓋を開け閉めしている。僕にはまだわからないけれど、彼等には長年かけた深い絆が紡がれている。ああ、こういう人間達もいるんだな。


談笑していると、バタバタと何人もの足音が廊下に響きはじめた。何かあったのだろうか。すると、一人の女性が血相を変えて会議室に飛び込んできた。


「大変です!!村長の家が燃えています!!」


「なんだって!?」


僕は女性の言葉に、意識する前に駆け出していた。役場を出ると、村長の家から黒煙が立ち上がり空を染めている。

足を強く踏み締め全速力で道を駆けていくと、燃え上がる村長の家の前で4人の若い男が立っていた。昨日の奴らだ。手足が返り血で赤く染まっている。


「これはどういう事だい?」


僕は思っていたより声が殺気だっていた。


「他所もんを巻き込まないようにしてやったんだ。有り難く思えよ。」


「最後まで隠し金の在処を吐かなかったんだ。当然の報いだ!」


この様子だと、全てが終わっている。せめてミミックの培養液は取りに向かわないと。

家から少し離れた地面に鞄を置いて行こうとすると、鞄が開いてミミックが飛び出してきた。


「君は危ないからここにいてね。こら、ダメだよっ!?」


ミミックが家に入ろうとするので止めると、手に噛み付いてきた。優しく、とても優しく。ミミックの気持ちが、僕にも伝わった。僕はそっとミミックを抱えて家に向かい、炎の吹き出す玄関前に置く。


「君に会えて、僕は人間にも良い人がいるんだって知れたよ。ありがとう……さようなら。」


ミミックはパカパカと蓋を開け閉めして、村長の元に向かって行った。穴の空いた背中を僕は見送らず、鞄を持って立ち上がる。去る僕と入れ違いで次期村長達が走ってきた。


「お前達!なんて事をしてくれたんだ!」


「俺たちはわるくねぇ!酒とかキンキラを出さない村長が悪い!」


「お前達にも………話しておけば……こんな、こんな酷い。」


「だから言ったのに!こんなクズは村から追い出せって!」


「いってぇなぁ!何で俺たちを捕まえんだよ!悪者をやっつけてやったんだ!」


次期村長に指示され、村人達によって抵抗する4人は連行されて行った。

自分達が正義だと叫ぶ様子に、村人達は怒りを向けてはいるが石を投げたり私刑が始まらない辺り、この村の教育水準は高いのだろう。この精神が受け継いがれていって欲しいな。


「僕は行きますね。」


次期村長に声を掛けると、落胆した様子で僕を見てきた。


「こんな事になるなんて。大変申し訳ございません。他に家を用意するので、とどまっていただけませんか?貴方様のお力をお貸しして欲しい。」


今にも泣き崩れそうなのを必死に堪え、仕事を全うする様子に心打たれなかったとは言わない。だけれど。


「僕は根無し草なので。では。」


赤く染まり崩れ落ちていく家。僕は水瓶の底で楽園をみた。だけど、それも夢と消えた。


川沿いを歩いて村を出ると、青い紫陽花が土手に咲き乱れていた。風に乗って黒煙のにおいが花を包む。


「『無情』だね。さて、次はどんなミミックに出会えるかな。」

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