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2章14話。桜に宿る神。



新たに足を踏み入れたこの国では、桜が名物らしい。開花時期は過ぎているが、観光地として有名な庭園に訪れてみた。


「庭園の中心に聳え立つ桜の大樹は、三千年前に神が植樹したと云う逸話が遺されており、御神木として大切に崇められております。

この桜には女神様達がいらっしゃる。桜の女神様達は人々の願いが詰まった宝袋をそれぞれ抱え、大樹と共に守護しているとされているんですよ。」


窓口で作務衣姿の青年から軽く説明を受け、入園する。綺麗に整備された遊歩道の先に、葉桜の美しい大樹が遠くにそびえ立つのが見える。大樹を中心に、四季折々の草木が多くの観光客を楽しませるようで、賑わい活気付いている。

これだけの人がいるのなら、宝袋が本当にあるとしても、既に見つけられているだろう。


「葉桜も美しいと思いませんか?」


竹箒を持った老人に話しかけられた。作務衣姿に首から名札を下げているので、職員の一人のようだ。


「そうですね。桜を見るのは初めてですが、満開の時はもっと綺麗なんでしょうね。」


「寒い冬を超え、蕾を膨らませ、花開く。美しい姿を見る為に長年手入れをさせていただいとるんです。どうぞ、来年は花の時期に来て下され。」


老人は日に焼けた顔を綻ばせ、頭を丁寧に下げて仕事に戻った。僕もそれにならい、頭を下げる。この国は礼儀に煩いみたいだね。気を付けないと。


大樹の根本付近を歩き、桜を楽しんでいると。ふと、違和感を感じた。気のせいだと思いたいが、そうでもなさそうで。違和感を現実とするために周囲を歩いて調べる。


「10………いや、11かな。」


確かな感覚に、僕はこの桜の本性を見た。そして、僕を鋭く貫く視線も感じている。勘付いたとバレたようだ。どうしようかな。


「こういう時は、さっさと逃げるに越した事はないね。」


急ぐ様子を見せずに大勢の観光客を掻い潜り、庭園から出て歩みを進めると。窓口業務をしていた作務衣姿の青年が僕に向かって走ってきた。


「あの!旅の方。」


「何でしょうか?」


「唐突に申し訳ございません。あの、私の姉を貴方様の旅のお供に加えてもらえませんか?」


よく見れば、青年は酷く疲れ果てている様子で。僕に救いを求めているのだろうが、この様子だと…。


「でも、君の姉はそれを望んでいない。」


「はい…。ですが、私は…。」


ギュッと硬く握りしめた拳が、青年が姉に向ける気持ちを表している。


「僕について来ても、君の願い通りになる保証はないよ。」


「……わかって、います……ですが。満月の今夜が、桜の大樹にて宝袋が開かれるので。もう、時間が無いんです。」


「……はぁ……。そこの橋の袂まで連れておいで。3時間だけ待ってあげるよ。」


「!?あっ、ありがとうございます!必ず!」


結果はわかっている。青年は駆けて行き、そして約束の時間を過ぎても戻らなかった。

折角なので、ここの文化に触れるのも悪くないか。見届けに行こう。


ーーー


こっそり庭園に侵入し、桜の大樹に登り身を隠した。夜空を見上げると、桜越しに満月が美しい。


遠くから鈴の音がシャン、シャンと厳かに鳴り響きながら近付いてくる。枝から下を伺うと、100人程の白装束の人々が大樹へ参列に来た。

先頭を歩く皺の深い老人が大樹の側に立ち、参列者数名に指示して根本付近を鋤で掘り起こす。暫く掘ると、大きな袋が姿を現した。僕の調べでは、この袋は大樹を中心に等間隔で5個埋められている。


「一番古いのだね。なる程、一定の周期で交換するのか。」


袋が取り出された場所の前に、美しい羽織を纏った一人の女性が立たされる。老人が指示すると、女性は膨らんだ腹部を両手で優しく抱えながら、準備された新しい袋に入り横たわる。

老人が声をかけると、例の青年が参列者の中から出てきて袋に土をかけていく。その表情はここからだと伺えないが、全てを受け入れたようだ。


全ての儀式が終わり、鈴の音と共に人々が去って行ったのを見届けてから僕も大樹から降りる。


「『宝袋を抱えた女神』は神に捧げられ、来年も開花できるよう願いと共に眠る。」


僕は宝袋の眠る場所に向かい、深く嘆息する。そして満月の下、次の目的地に向かう。


「さて、次はミミックに出会えるかな。」







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