13話。恩返し。
城下町から向かう山岳地帯の奥底に、遺棄された洞窟があるらしい。早速向かっている。道幅にかなりゆとりがあるので、昔は荷馬車が多く行き交い賑わった山道だったのだろう。
鳥達の優しい鳴き声に癒されつつ歩みを進めていると。
ガタガタゴロゴロゴロ
凄い勢いをつけて白い箱が岩壁から転がり落ちてきた。半開きになった蓋からは鋭い歯列が覗いているので、これはミミックだね。
「大丈夫かい?」
心配になって駆け寄り触診するが、箱には怪我はなさそうだ。
手頃な大きさのミミックからは、今は折り畳まれているが翼が生えている。これで浮遊し移動しているようだ。すっごく可愛い。
「翼に怪我をしているね。……うわー。ここは白い翼ミミックの巣窟なんだね。」
空を見上げれば、僕の持っているミミックを心配してか、同族のミミックが何処から共なく飛んできた。20個体程いるだろうか。グルグルと空を旋回してガチガチと蓋を開け閉めしている。威嚇しているようだ。
みればこの個体より大きい。と、なると。
「あれは君の親や親戚なのかな?」
僕の手の中で震えながらも必死に威嚇してくるこの子は、誕生してまだ日が浅いのだろう。飛ぶ練習をしている時に誤って落下したようだ。
「怪我を診せてくれないかい?君を助けたいんだ。」
子ミミックは僕の手に噛み付いてきたが、そのままにさせて翼を触診する。骨は折れていなさそうだ。腰に下げた鞄から包帯と薬を取り出して手当をする。
「この傷薬はね、とあるミミックの体液を真似て作ったんだよ。直ぐに効くから、また飛べるようになれるよ。」
手当を終える頃、子ミミックは僕に噛み付くのを止めた。気持ちが伝わったようで何より。
子ミミックを抱えて崖をよじ登り、外敵に襲われない位置に子ミミックを優しく置く。これなら親ミミック達も安心だろう。
「元気でね。」
ミミック達に別れを告げて、洞窟に向かう。
ーーー
「はぁ〜。折角素敵な出会いをしたのに。面倒だけど、冒険者組合に報告はしておかないと。」
洞窟探検を終え帰路についている時だ。山道の先に10人の殺意を感じる。これは僕に向けたものだ。面倒だから崖を適当に下って帰ろうかな。あ、弓矢が3本飛んできた。
「俺の弟をあんな目にあわせやがって。ゆるさねぇ!逃げようとしても、この高さから落ちたら、流石のお前でも無傷では居られないだろう。」
振り返ってみれば、いつかの勇者が先導している。顔が爛れているので、兄弟そろって鏡台にやられた訳だね。頭と手癖の悪さは、さすが兄弟。一緒だね。
「へっへっへっ。口止め料込みで良い金貰ってるからなぁ。」
「どんな大男かと思ったら、こんなヒョロヒョロかよ。楽勝だぜ。」
「甘く見るなと言っただろ。コイツは俺が認めた男だ。強い。」
勇者は逆恨みであることを自覚しているから、コソコソと狙ってきている。ここでどうにかしないと、変な噂を流される可能性もある。
「困ったなぁ。」
「ははっ!お前でもこの数は手におえまいっ!」
剣やら弓を構えているが、僕ばかり見ていたら駄目だと思うんだよね。
白い翼ミミック達が無数に上空を行き交って、僕達を狙っている。久しぶりに大勢の獲物が現れたんだ。逃がす気はないだろう。
ミミック達が白い液体を撒いてくる。これは強酸のようで、男達から悲鳴が上がった。僕にもかけてくれるかな。試験管を用意しようとしたその時。
『ぴぃ!ぴぃ!』
小さなミミックが僕の上をクルクルと必死に鳴きながら飛び回る。あの翼の包帯は、治療した子ミミックだ。
僕を襲おうとしたミミックは、子ミミックに応えるように標的を替えて離れていく。
「僕を助けてくれたのかい?……ありがっ!?」
子ミミックにお礼を言おうとしたその時。勇者一行の放っていた流れ矢が子ミミックを貫通した。
子ミミックは僕の側にコツンと軽い音を立てて落ちた。慌てて駆け寄るが、即死している。
「………だから僕は、人間が嫌いなんだ。」
子ミミックから矢を抜き、ありがとうと何度も呟きながら抱き締める。
辺りから悲鳴が聞こえなくなり、ミミック達が食事を始めた頃。親であろう個体が僕の側に降り立った。僕は子を差し出すと、親は僕から奪うように取り上げ音を立てて食べた。
「ゴメンね。2度とここに立ち入らないよ。」
僕は行き先を変えて崖を降り、この国から脱出した。
「さて、次はどんなミミックに出会えるかな。」




