12話。選択。
城下町から山岳地帯を2日かけて抜けた先に、遺棄された洞窟がある。
僕はここに来る道中、運命的な出会いをした。あの子との別れを惜しみつつ先に進み、今は目当ての洞窟内部を探索している。
ここは昔は鉱山として栄えていたようで、掘り出された横穴が無数にある。巨大な迷路のようだ。それでも風の流れを感じ取れば、行く先は見える。僕はミミックを探して歩みを進めた。ある程度進んだ辺りで、人の気配を感じた。向かってみると、開けた場所に出た。
「うわー。ここだけ違う雰囲気だね。」
その場所は大きな筒のように地上に向かい、ポッカリと穴が空いている。切り立った地面から下を見ると底が見えない。
40メートル程向こうの崖に、大きな一本の木と側に宝箱がある。周囲を見渡しても繋がる道は無い。恐らくこの洞窟内部を大きく迂回しないと辿り着けないのだろう。
あんな周りくどい所にある宝箱なんてお宝に違いない。僕は底に耳を澄まし、風のにおいを嗅いで宝箱まで跳んだ。
「うわ〜やっぱり!!なんて素敵なミミック。自身に蔓延らせた苔によって湿度を保ち光合成もしているんだね。ちょっと中を見させてくれるかい?………なる程。こんな場所じゃあ獲物は滅多に来ないから、普段は植物を自家栽培して栄養分にしているんだね。」
「……俺は無視かよ………。」
折角、お宝に巡り会えた喜びを噛み締めているのに。木の根本にもたれ掛かって寝ていた男が、掠れた声で呼び掛けてきた。
衣服は良い素材だが、冒険者と言うには貧相な体格。小金持ちの子供といった所だろうか。両足に怪我を負っている。
「水と…食糧を少し分けてくれ…礼は、街に連れて行ってくれたら…望むだけやる…俺の家は金持ちだ。」
見捨てても良いけれど、騒がれたらミミックが気分を害するかもしれない。腰に下げた鞄から水筒を取り出し男に渡した。男は僕から奪うようにして受け取り、貪るように一滴残らず飲み干す。
「……食い物は?」
「僕はひと月に一度の栄養補給で充分だから、持ち歩く習慣が無いんだ。」
「んなわけあるか!」
本当の事なんだけどなぁ。いくら説明しても、ここの人間達には理解されない。まぁ、いいけれど。
「度胸試しに不法侵入して、挙句、道に迷ったんじゃないのかい?」
「う、うるせぇ!さっさと、食い物よこせ!俺の親が黙ってないからな!」
極限状態なのか、男は宝石の嵌め込まれた簡素な短剣を抜き、力なく僕に向けてくる。仕方ない。僕はミミックに断りを入れてから蓋を再度開け、中に溜まっている藻の一部をちぎり取る。
「はい。コレでもお食べ。」
「ふっざけんなぁ!」
「タンパク質、糖質、脂質、ビタミン、カルシウム、鉄、亜鉛などもたっぷり。
新鮮な食糧を常に補給できる環境ではない冒険者にとって、ミネラルの宝石箱といえるんじゃないかい?」
「だ、だからって…俺がこんな物を食うなんて。」
僕は藻を男に渡して立ち上がる。食べるか食べないかは、この男次第だ。
「じゃあ、僕は行くね。」
「待てよっ……この俺を見捨てるのか?」
「最悪の場合も想定して来たんじゃないのかい?」
「………俺は悪くねぇ。」
「崖下にいる女性達に対しても、それを言えるのかい?」
跳ぶ時に、崖下から上がってくる空気の臭いに新鮮な血の臭いが複数混ざっていた。
「だって、俺は悪くねぇ。親が心配してるんだ。絶対に探してる。だから助けろよ。」
「僕は仕事を選ぶんだ。だから、君の依頼は受けない。君のご家族が捜索願を出しているなら、救助申請は出すよ。……見せてくれてありがとう。じゃあね。」
ミミックに挨拶をして向こう側の崖に跳ぶ。男の罵声が反響して響き渡るが、魔物を引き寄せる危険があるし無駄な体力の消耗は避けるのが定石なのに。それもまた、男が自分で選択したんだ。自業自得さ。
「さて、次はどんなミミックに出会えるかな。」




