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11話。嘆きの館。

※5話から読まれますと、内容が更にわかります。




「あの、すいません。」


冒険者組合に許可書の発行に来ている時。1人の若者に声を掛けられた。


「なんだい?」


「私の兄は勇者でして。貴方、以前兄に同伴して『嘆きの館』に行かれた方ですよね?」


「違うよ。」


嘘は言っていない。正しくは勝手に付いてきただね。


「……責任を感じなくて良いんです。あれから兄は別人のように変わりました。見た目もそうですが、勇者としての責務を放棄して畑を耕し、何かに怯えながら暮らしているんです。肉も食べなくなりました。」


生きていたのか。流石勇者。


「何があったのかは本人もよく覚えていないそうでして。兎に角、肉に異様な恐怖感を感じるそうです。貴方は大丈夫でしたか?」


「特に何も。では、用事があるから失礼。」


去ろうとすると、僕の腕を掴んで引き留めようとしてくる。勿論避けた。


「…やはり。私にはわかる。貴方は凄腕の冒険者だと。お願いだ、どうか『嘆きの館』に同行してくれませんか?」


「お値段こちらになります。」


指を立てて金額を提示した。


「……兄の身に何があったのか。真相究明すれば

、きっと以前のような兄に戻れると思うんです。」


「正規金額です。」


少しの沈黙があった後、若者は顔面が崩壊するように泣き出した。周囲の視線を浴びる。この状況、凄く嫌だ。


「あなたはぁっ!ひぃっくぁ……私はぁ、兄をたすけたくってぇ……っいへぇえいんっ……命がけでぇっへっへへぇいっ!…一生懸命あぁっおへはぁっ!ぶびぃいっ!」


ようは、タダで着いてきて欲しいのだろう。勿論却下だ。僕は暇ではない…けど、嘆きの館で何があったかは興味がある。


僕は周囲に語りかけるように言った。


「そうかー。君は親切で勇敢で、人々の幸福の為に行動できる人を求めているんだねー。」


ここは冒険者組合だ。色々な輩がいる。なので。


「何か困り事かな?俺たちで良ければ話を聞くぜ。」


「もうっ、お人好しなんだからっ。」


「でも、そこがコイツの良い所だ。知っているだろ。」


「ここで出会ったのも神の導き。」


よくわからない4人組の冒険者がノコノコと若者に寄ってきた。僕はさっさと受付に向かい許可書を貰って外へ出る。

これからお互いの苦労話を語り合うだろうから、買い物を済ませてから嘆きの館で待ち伏せしていよう。6時間後って所かな?


ーーー


「……思ったより遅かったねー。」


翌日の夕方まで来ないとは思わなかった。若者達は目を腫らして肩を組み会い『嘆きの館』に来た。


夜になっても来ないので、事前調査として嘆きの館に入り隅々まで見回ってみたけど。例の箱と胸飾り以外に、持ち帰り易い物は無かった。


若者達が館に入って暫くして、僕も気配を消して着いていく。すると、やはりと言って良いか。全員で家探しをしている。僕は天井に張り付いて様子を伺う。


「スプーン一個も無い。ここも全部盗られてる。」


「ここも空っぽだわ。」


「金目の物が全部盗られて無いから『嘆きの館』って言うんじゃね?」


一人が例の箱がある部屋に入ろうとしたら、仲間が別の部屋から声を荒げた。


「おい!鏡台を見つけたぜ。これすげぇよ!全員なら持って帰れるんじゃないか?……おぉ!すげぇ!これが俺!?」


「えー。どこどこ?……すごぉい!こんなの初めて見た。私ってやっぱり素敵ぃ!」


「いえっへぇへぇ、どうだ兄ちゃん?俺の方が凄いだろぉ!」


「おお……これぞ、私の求めていた境地!!」


天井に張り付いたまま移動して様子を伺ってみれば、若者達が挙って鏡台に向かい、鏡をじっと見つめて喜び始めている。暫くして、彼等は言葉もなくただ座り込みだす。


「「……………」」


頃合いを見計らい、鏡台の引き出しが開いて髪の毛のように長く細い触手が獲物に絡みついた。粘液は金属をも溶かす強い酸性のようだが、獲物は何をされても反応しない。剣や鎧がボロボロになり、肌が爛れても。恍惚とした表情に僕は既視感を覚える。


鏡台の底が持ち上がり、溶けた体液を啜ろうとまるで貝の足のような巨大な臓器が出てきた。このミミック欲しいな。


僕は地面に降り立ち鏡台に向かう。すると、無臭だが散布剤の空気を感じる。鏡台ミミックはこれを獲物に吸引させ自由を奪うようだ。鏡には特に変わった様子は無い。


僕がひっかからないので更に散布してくるが、勿体無い。鏡台を見渡すと鏡の頂部に無数の空気穴を発見した。なる程。鏡台ミミックを傷付けないように持ち上げて裏を見ると、複数の臓器が蠢いている。暴食なようで大きい。


「うん、健康優良児だね。」


散布剤を精製する臓器はこれだろう。そして、消化液はここかな。ミミック自体は物理攻撃手段を持っていないようで、大人しい。僕は腰の鞄から注射器を取り出して其々の箇所から液体を少し貰う。


鏡台をそっと戻して帰ろうとしたら若者達は目を覚ましていた。悶えている。こうなる覚悟があって来ているのだから、このまま去っても良いけど。ミミックが心配だ。


5人を玄関まで引きずってミミックから引き剥がす。急いで別の鏡台を館の庭に運び、消し炭になるまで燃やしてミミックを退治したと見せかけた。そして彼等を手当をして城下町まで運んだ。


その足で冒険者組合に向かい事情を報告すると、有能な調査団を即時派遣してくれる手筈となった。彼等の痕跡は残されているので、僕に濡れ衣はかからないだろう。


「という事で。君は今日からここで可愛がって貰ってね。」


以前ミミックを観光に使っていた者と知り合いになり、新種を欲しがっていたので鏡台ミミックを紹介した。きっと大切にされるだろう。


「いやー。ありがとうございます。これでまた商売を始められます。」


「こちらこそ。また観光地化した際には寄らせていただきますね。」


鏡台ミミックは荷馬車に乗せられ去っていく。少しだけ、寂しい。


僕は定住地が無い。だからあの個体を幸せにはしてあげられない。これが今出来る一番の最善策だと思っている。


「さて、次はどんなミミックに出会えるかな。」











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