一章。1話。ミミックが好き。
ミミック は「真似る」「似せる」を意味する英単語であり、生物学における「擬態」を意味する。
つまり、ミミックは箱である定義は無い。
ミミックに魅了された主人公は、今日も新たなミミックを探し求める。
地下ダンジョンを1人で歩いていると、遠くから冒険者達の声が響いてきた。
『……これ、絶対にミミックだ!』
『やっつけろ!』
ミミック。その言葉に僕は声の主の所まで全速力で向かった。
「ぎゃははは!口を閉じてやがる!おい!襲ってみろよ!」
通路の途中、右手を曲がった一つの部屋に声の主達はいた。若者4人がかりで宝箱を蹴り飛ばしている。堪らず声をかけた。
「君達。一体何をしているんだい?」
「はぁ?見ればわかるだろ。魔物退治だ。」
「一方的な暴力にしか見えないよ。」
「あ?……この鎧の紋章!どう見ても俺達は勇者だろ!人々が安心して暮らせるように、こうしてダンジョンに巣食う魔物を退治しているんだ。」
勇者と言う者は鞘から剣を取り出すと、箱に突き付ける。すると、幾度となく蹴られた箱は固く口を閉ざして小刻みに震えている。これはミミックで間違いない。
「このミミックは、80年は生きている風貌だ。こんなに外見が朽ちるまで、狩られる事なく生き延びてきた個体なんだ。ここは寛大に、見逃してあげないかい?」
「頭おかしいのか?誰か襲われたらどうすんだ。」
僕は隙をついてミミックを抱え、勇者達から距離をとる。ここでヤらせてたまるか。
「おいおいおい。まるで俺達が悪も………おいっ!!?」
僕の体温を感じたのか、ミミックが腕にガブリと噛み付いてきた。これだけ朽ちていても強い力だ。おそらく全盛期と左程変わらない筋力を保持しているのだろう。
「おいおいおい!!噛まれてるぞ!!」
「よしよし、良い噛まれ心地だよ。」
「なんだコイツ……。あっ!おい!」
勇者達が隙を見せた瞬間、僕はミミックを抱えてダンジョンの入り口へと走る。そろそろ着く頃、腕に噛み付いていたミミックからガクリと力が抜けた。
「大丈夫かい?」
ダンジョンの外に出ると、木々に明るい陽射しがさし心地良い風が吹いている。ミミックを確認すると、力尽きていた。
中を開いて確認すると、歯の一部が欠けており光沢もなくボロボロだ。最後の力を振り絞ったのだろう。獲物の体温を感じとって噛み付く、ミミックの元祖の種類だ。とても珍しい。
箱の内部に張り付くように覆っている腹膜を開き、内臓をみれば。数ヶ月何も食べていないのが見て取れた。最後は静かに穏やかに逝きたかったのかな。可哀想な事をした。
「……お疲れ様。」
僕はミミックを両手に抱え直し、木々の揺れる穏やかな道を歩む。このまま乾燥させれば、良いコレクションになる。嬉しい。
「さて、次はどんなミミックに出会えるかな。」
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