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短編・童話集

黒羽つぐみはカタツムリが苦手

掲載日:2023/07/07

 六月の中頃、梅雨のはじまりの朝だった。


 梅雨らしくなく、早朝に大雨が降った。

 さほど堅牢な作りでない我が家の屋根がたてた雨音は、ちょっとした騒音被害とでも呼べるものだった。

 おかげでぼくは普段よりもずっと早く目を覚ました。


 そしていま、朝から派手に水分を放出したせいか、空は晴れていた。

 日差しがキラキラとぬれた路面や道端の木々を照らす。

 これはこれで悪くないなと思っていた。

 もう今日のところは、雨は降らないらしい。


 ぼくはひとり、高校へ続く川沿いの道を歩いていた。


「ひゃいっ!」


 なんていう、謎の悲鳴のような音が聞こえたのは、そのときだった。

 川べりに生えた草木に目をやっていたぼくは、音が聞こえた前方へと目を向けた。


 その道は、川の両側を挟む土手の上に作られていた。

 アスファルトで舗装されており、道端には、ところどころ、不規則に木々が植えられていた。


 悲鳴らしき音が聞こえた方向には、一人の少女が立っていた。

 ぼくと同じ高校の制服を着ている。

 細身で、髪の毛は黒くて長く、ストレート。


 その後ろ姿には見覚えがある。


 周囲に目を向けても、授業のはじまりまで三十分以上ある今の時間、他の生徒は誰もいない。

 声を出したのはその少女に違いない。


 彼女はなぜか体をこわばらせて、その場に立ち尽くしていた。

 木々の影が、彼女の頭上に落ちている。


 はじめ、ぼくは別にその謎の悲鳴に関わるつもりはなかった。

 だけどやがて、固まったままの彼女の後姿に、歩みを進めていたぼくが追いついてしまった。


 ぼくの気配か、あるいは足音を聞きつけたのか、近づいたぼくに彼女は振り返った。


「……助けて、ください」


 実に情けない声でそう懇願する彼女は、ぼくのクラスメイトであり、所属するクラスのクラス委員でもあり、だけどこれまで一度も話したことのない生徒だった。

 黒羽つぐみというのが、その生徒の名前だった。



 ※※※



 黒羽つぐみのことを、ぼくはあまり知らなかった。

 外から見ているだけの彼女の印象は、優等生で教師からの信頼も厚く、成績優秀。

 スポーツもできる、という万能少女だ。

 その一方で、どこかツンとすました、冷たいイメージがある。


 そしてクラスメイトになってから約二か月、ぼくとはほとんど話すこともなかった。

 その原因は黒羽つぐみの方ではなく、主にぼくの方にある。


 ぼくはどちらかといえば人付き合いが苦手だ。

 高校に入って周囲になじめず、クラスでも特に親しい友人も出来ず、一人で時間をつぶすだけの毎日を送っていた。


 そんなだから、第一声はどう発したものか戸惑う。

 彼女の見る方向には、他に誰もいない。

 無視することも出来ず、さりとて彼女をどう呼べばいいかもわからず。


「……どうしたの、黒羽さん」


 やむなくそんな、堅実な一言を返した。

 一瞬、彼女はこっちをクラスメイトと認識していないのでは? という疑問は湧いたけれど、彼女の方はそれどころじゃなさそうだった。


 ぼくの方に目を向けたまま、震わせた指先を地面へと向ける。


「こっ、これ、これを見てください」


 はじめ、彼女が何を指し示しているのかわからなかった。

 川沿いの道を舗装しているアスファルトは雨に濡れ、黒くなめらかに輝いている。


 よく見ると、そこには花びらのように、白い何かが散っている。

 春の終わりに見る、桜吹雪のなれの果てに似ている。

 何らかの花びらが降り注いだ結果、点々と無数の白い点がアスファルトに残っている――最初はそう思った。


 だが、よく見るとその白い点は動いている。

 その事実に気づいたとき、さすがにぼくも、うわっとなった。


「カタツムリ?」


 顔をしかめながら黒羽さんの方へと目を向ける。

 彼女はこくこくと何度もうなずいた。


「気持ち悪いですよね、気持ち悪いですよね」


 そんな風に、彼女は同じ言葉を二度繰り返す。


 川沿いの道は三メートルほどの幅しかない。

 その幅の多くを埋め尽くすように、ごく小さなカタツムリの大群が道をふさいでいた。


 といっても、足の踏み場がない、というほどではない。

 慎重に歩けば、一つも踏まずに無事、通過できるぐらいの隙間はある。


「……カタツムリ、苦手なの?」


 彼女はぎゅっと目をつぶり、うなずいた。


 ぼくは後ろを振り返る。

 他の生徒たちの姿はない。

 川を渡る橋が、はるか遠くへと見える。


 川沿いを通るこの通学路は、ぼくらの高校への通学には便利な代わりに、他の用途はあまりなかった。

 土手を下った先は自動車専用の道になっており、その道路との境は、比較的高いフェンスが区切っている。

 すなわち、回り道が難しい。

 あの橋まで戻るとすると、朝にしてはかなりの時間のロスになる。


「ゆっくり行けば大丈夫だよ。足の踏み場はある」


「……わたし、コレ、見るのもダメなんです」


 先ほどから決して視線を前方に向けなかったのはそのせいか。


「じゃあ、どうするの? 橋まで、戻る?」


「実は、その、少しばかり早く登校したい事情がありまして……」


 ぼくらはしばしの間、見つめ合う。


「……もし、よかったら、ガイドとかしてもらえません?」


 ひどくすまなそうな声でそう言う彼女。

 そんな彼女がした提案を、ぼくは断り切れなかった。

 


 ※※※



 路面には小さなカタツムリがびっしりだ。

 別にカタツムリに何の感情も持っていないぼくだって、うごめく生物の集合体がそこにいる、というだけで、嫌悪感をもよおさせられる。


 はじめに確認したのは、その生物たちの密度が薄いところだ。

 道路の中央近くは、なぜだか彼らが嫌っているようだった。


 そしてぼくは足元を確かめながら、片足を一歩、後ろ向きのままで足を踏み出す。

 その瞬間、黒羽さんはうぇ、とか奇妙な声をあげ、顔をゆがめる。

 だがぼくの足はしっかりアスファルトを踏みしめる。


「大丈夫そうだけど」


「本当にやるのぉ……?」


 自分で提案したくせに、彼女はそんな情けない声を出す。


 それでも、ぼくが差し出した両腕のひじあたりを、彼女が両手でつかむ。

 その接触の瞬間、さすがにドキリとしたけれど、黒羽さんの声がそんなぼくの心の揺らぎをかき消す。


「こんな無脊椎動物に脅かされるなんて……」


 脊椎動物としては恥だよな、と思いながら、ぼくは黒羽さんの体を支える。

 ダンスをしているような姿勢になりながら、ゆっくりと、背後に伸ばす足の置き場を探しながら、片足をさらに一歩下げる。


「ゆっくり行くからね。ずれてたら、教える」


 地面に向けていた顔をあげると、黒羽さんの顔が間近に見える。

 彼女は必至で視線を上に向けており、ぼくの言葉に何とかうなずいている、という様子だった。


 ぼくはさらに一歩下がる。

 そのぼくの足が空けたスペースに、黒羽さんが片足を踏み出す。

 しかし、彼女はなかなか足を地面に触れない。


「本当に大丈夫です? 踏み潰さない? もしも踏んだら、わたし……」


「どうなるの?」


「つい、叫びます」


 そりゃ大変だ、とぼくは思う。

 教室で見る黒羽さんには、とても叫びそうなイメージはない。


 そんな彼女の足元へと目を向ける。

 黒羽さんのスカートは際立って短くもないけれど、それでも膝のあたりはあらわになっている。

 肌は白い。

 膝の先には紺のハイソックス。

 そして黒のローファー。


 いま、ぼくは仲が良くもない女子の足先をじろじろ見ている。

 なんというか、ヘンな気分にならないこともないけれど、だけど今は仕方がないんだ、とも思う。

 何しろぼくには、彼女の精神崩壊を阻止する、という重大な使命が課せられているわけだし。


「そのまま、足を下ろしていいよ。大丈夫」


 そのぼくの声に応じて、黒羽さんがゆっくりと足をつく。

 踏み潰された哀れな無脊椎動物は、そこにはいないはずだった。


「やりましたね」


 謎の達成感に浸る声を出す黒羽さんに、ぼくは現実を突きつける。


「あと五、六歩だね」


「えぇ……」


 なんで嫌そうなんだよ。

 ぼくはそう思いながらも、大した反応は返さず、さらに一歩下がる。


「待って、待って、早いですって、ほら、心の準備ってやつが……」



  ※※※



 それでも何とか無事にカタツムリの小川を渡り終えるまでには、そう時間はかからなかった。

 長く見積もっても五分ぐらいだ。


 だけどその間、ぼくらは結構な会話をした。

 その言葉の数はたぶん、この四月にぼくが高校生になって以後、異性と交わした会話よりも多かったし、ひょっとすると、同性のクラスメイトとの会話よりも多かった。


 そしていま、黒羽つぐみはぼくの隣ですました表情をしている。

 それはいつも、クラスの中で見る彼女の雰囲気とそう変わらない。


「クラスメイトなのに、恥ずかしいところ、見られちゃいましたね」


 少しツンとした口調でそう言う彼女には、先ほどまでカタツムリから必死の形相で目を反らしていた、そんな情けなさはない。

 その反応を見て、ぼくはなんだか少し距離を感じる。


 ついさっきまでの黒羽さんは、通りすがりのぼくにさえ助けを求める、必死な溺れかけの存在だった。

 だけど今の彼女はもう、違う。

 そう思いかけたところに、彼女は嬉しそうな笑顔を見せる。


「でも、本当に助かりました。あの橋まで歩いて戻ると、十分から十五分は違いましたからね」


 ぼくは少しほっとして、彼女にたずねる。


「そんなに早く教室に行って、何をするの?」


 彼女は固い表情をする。

 聞いてはならないことを聞いたかもしれない。

 そう不安を覚えたときに、彼女は眉をハの字にして、ため息をつく。


「……わたし、昨日の教科書、全部机の中に忘れたんです。リュック、あんなに軽かったのに気づかなかった」


 ひどく暗い顔をしてそう言う彼女の憂鬱が、ぼくには理解できない。

 何ならぼくは意図的にすべてを教室に残していくことさえある。


「それが?」


「カッコ悪いじゃないですか。だから机の中の教科書を、さっさとロッカーにぶち込んで、証拠隠滅するんです」


 首をかしげるぼくにちらりと目を向け、黒羽さんは言葉を続ける。


「……わかりますよ。教科書を残していったぐらいでどうした、って思うんでしょう。だけどわたしはクラス委員で、しっかりものですから。みんなにそんなカッコ悪いところ、見せられない。見せたくない」


 軽く唇をかみしめるような表情をする黒羽さんに、ぼくは何というべきか迷った。


 ぼくはそもそも教室の隅っこにいる存在だ。

 中心にいる彼女の気持ちなんてわかるはずがない。


 だけど、ある一点では彼女に共感できた。

 そりゃ、誰だって、カッコ悪いところなんか見せたくない。

 例えばぼくも、クラスメイトとうまく会話ができないところは、決して誰にも見られたくない。


「黒羽さんも大変なんだね」


「そうなんですよ!」


 必死でそう声をあげる彼女に、ぼくはつい、笑ってしまった。


 それから川沿いの道を、ぼくらは並んで歩いた。

 他に生徒は誰もいない。


 路面が濡れているところに出くわすと、黒羽さんはぼくに地面を指さして見せた。


「ごめんなさい、チェックお願いします」


 だけどもう、その道の他の地点にはカタツムリの群生地は発見されなかった。



 ※※※



「どうしてカタツムリが苦手なの?」


 何気なくそうたずねると、黒羽さんは遠い目をした。


「……暗い話になりますけど、いいですか」


「話したくなければ、別にいいけど」


「いえ、せっかくですから聞いてください」


 なんだよそれ、と思ったけれども、その話は案外、本当に暗い話だった。


「わたし、今の家には引っ越して来たんです。でも、その引っ越す前の家というのがですね、湿地と木々に囲まれた、ひどくジメジメした家だったんです」


 そのせいで、季節になると、その家の周りにはカタツムリがよく出た。

 一度など、登校中に、どこからか現れたカタツムリがランドセルにくっついていた。

 その事実に気づかないまま登校してしまい、カタツムリ女、なんてあだ名をつけられたこともあるそうだ。


「そのころ、わたしは引込み思案で、性格も暗かったんですよ。だから……湿っぽいイメージを持つあの軟体生物の名前が、クラスメイトのクソガキどもにとっては、わたしのあだ名としてベストマッチに思えたのでしょう」


「そのせいで、カタツムリが苦手に……」


 ぼくが憐れみを寄せると、彼女は首を横に振った。


「いえ、それが直接的な原因ではないんです」


 彼女は冷たくそう言い放ち、理由を説明してくれた。


「家に行く砂利道に、よくあの両性具有の陸生貝類が出たんです。だから車で出かけるときなんか、バッキバキにヤツらをつぶしていくことになる。その音が車の中に届くんです。……想像すると、気持ち悪くて」


「……さっきのカタツムリ女の話は?」


「だから、そんなヤツらと同一視されていたこともまた、気持ち悪いという話ですよ!」


 わかるような、わからないような。


 やがてぼくらは川沿いの道を抜ける。

 高校の周辺は住宅街になっている。

 なんの変哲もない、アスファルトで舗装され、塀に左右を挟まれた道をぼくらは歩く。

 そのうちに、高校に赴く最後の曲がり角へとたどりつく。

 妙な出会い方をしたクラスメイトとの、ヘンな朝の時間もこれで終わりか。

 ぼくが少し残念がっていると、不意に黒羽さんが「ひゃいっ」と小さく叫んだ。


「……み、見てください。そこ、そこに……」


 彼女が背を向けんばかりして目を反らしながら指さす先には、灰色のブロック塀があり、そこに一匹のカタツムリがはりついていた。

 先ほど群生していた、生まれたばかりのようなヤツらとは違う、かなり大きな、いわば大人のカタツムリだ。


「別に、冷静になってみれば、そう気持ち悪いものでもないと思うけどなあ」


 ぼくが何気なくそうつぶやくと、ほとんど背を向けんばかりにしている黒羽さんに、何やら耳を傾けるような間がある。


 ぼくはそっとカタツムリに手を伸ばす。

 伸びている目の先まで指を伸ばすと、その目はそっと縮んでいく。

 さすがに触るのははばかれるけれども、その奇妙な動きはユーモラスでもある。


「ぼくも昔、クモが苦手だったんだ。脚が多くて、嫌悪感があった。だけどあるとき、雨粒がひっかかったクモの巣がとてもきれいに見えて、さ。そのクモの巣の持ち主をじっと見ていたら、……なんていうんだろう、機能美を感じた。よくできているな、と思って、その日からクモが苦手じゃなくなった」


「だから、わたしにも、この『ツノ出せヤリ出せ』をじっと見ろ、と?」


「……いや、無理にそうしろ、とは言わないけれど。少しは苦手じゃなくなるかな、と。大群でもないし、ここにいるのは一匹だけだしさ」


 ぼくはたぶん、黒羽さんはすぐに、高校へ向けて歩き出すんだろう、と思っていた。

 でも彼女は、そっと肩越しに振り返った。

 そのカタツムリが視界の端に入るか入らないかの角度のまま、首筋を維持し、やがて彼女は言った。


「どうやら、これが限界のようです。やっぱり、キモイですよ」


 そう言って、黒羽さんはゆっくりと歩き出す。

 その隣に追いつくようにして歩くと、彼女が言った。


「でも、すぐそばでクラスメイトが平気そうにしているのを見ると、多少はイケるのでは、と闘志が湧いてきました」


 別にカタツムリと闘えとは言ってないけどな、と思いつつもぼくはうなずく。

 そうしてぼくらは高校の校門を抜ける。そのときふと、黒羽さんがたずねてくる。


「わたしからもひとつ、聞いてもいいですか」


「どうぞ」


「一人がお好きなんですか? クラスだと、だいたいいつも、お一人でいられるようですが」


 その不意な問いかけに、何と答えればいいのか、ぼくは迷う。


 別に、たった一人でいるのが好きなわけではない。

 ただ、苦手なだけだ。

 馴染みのない、他の人と会話をはじめるのが。


 答えあぐねていると、黒羽さんが先に口を開く。


「ああ、別に話したくなければいいんです。……だけどもし、クラスメイトが苦手というのなら、克服してみるのもいいかも、ですよ」


「いや、」と否定をしようとするぼくの言葉にかぶせるように、黒羽さんが言葉を続ける。


「わたしだって、できればあの、不気味なヌルヌル巻貝を克服したいと思っていますし。ついさっき、その第一歩を踏み出したところでもあります」


 背筋を張る黒羽さんに、ぼくはため息混じりにたずねる。


「チラッと見ただけじゃなかった?」


「ええ。それでも、第一歩は第一歩。それに、大群が得意じゃないのなら、一匹ずつ、じっと見ていくのがいいらしいです。あるえらい人がそう言ってました」


 ぼくらは見つめ合う。

 黒羽さんは平然とした表情を崩さない。

 それでぼくはつい、笑ってしまう。


「それ、ぼくがさっき言ったことじゃないか」


「そうでしたっけ?」


 黒羽さんはとぼけた表情のまま、自分を指さして見せる。


「一匹ずつ、じっと見つめてみてください。それにわたしなら、お互いに弱みを知り合った仲じゃないですか。楽勝ですよ」


「……きみはカタツムリが苦手で、クラスメイトにカッコ悪いところを見られたくない」


 黒羽さんはうなずく。


「そしてあなたはクモに機能美を感じる妙な人で、クラスメイトと話すのがちょっと苦手。それに加えて、あなたはわたしをあの難局から救ってくれた」


 そうして黒羽さんは、ぼくに微笑みかける。


「すなわち、優しい、ということです」


 ぼくはつい、そんな彼女の言葉にうなずいてしまう。


 そうしてぼくらは校門から続くアプローチを進み、校舎が近付いてくる。

 それまで見当たらなかった他の生徒が、昇降口の付近にパラパラと見える。


 そのとき、ふと、黒羽さんがつぶやく。


「マズいですね。誰かクラスメイトがもう来ていたら、証拠隠滅ができなくなる」


 彼女は素早くぼくに目を向け、てきぱきとした口調で言う。


「それじゃ、わたしはもう行きますので。重ね重ねになりますが、今日は本当に、ありがとうございました」


 黒羽さんは、さっと軽やかに校舎へ向かって駆け出す。

 数歩進んで振り返り、小さく手を振りながらぼくに言う。


「クラスでもまた、お話しましょうね!」



  ※※※



 そうしてぼくたちは友達になった。

 六月の中頃、明け方に雨の降った朝。

 黒羽つぐみの手を引いたこの朝のことは、たぶんこの先もずっと忘れない。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 本人にとっては結構深刻なので、こういうとアレかもしれませんが、ちょっとした出来事をきっかけにクラスメイト二人が交流を始める様子が微笑ましかったです。 格好悪いところを見せるのは嫌だとか、ど…
[一言] と、とても良かったです……! 可愛い二人だ。好きです!!
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