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ヒロイン、襲われる

予約投稿していたはすが、何故かされておらず??時間がズレてしまい、失礼しました。

引きずりこまれたのは一階の階段下を倉庫にしてある小部屋だった。

犯人は目の前の女生徒二人。

口にあてた手からして女性なのはわかっていたが、まさかこの二人だとは。

行儀見習いの時にいた令嬢モドキ(もはや令嬢とすら呼べないのでモドキで充分!)のうちの二人だ。


そのうちのひとりが、

「あんたが悪いのよ……」

チャキン、と音をさせたその手にはナイフが光っている。

震えているが何かイッちゃってる感じはある。

引き換えもうひとりは、

「ね、ねぇ?さすがに不味いわよ。もうやめましょう?」

と止めにかかっている。

こっちはイッちゃってはいないけど止めるタイミングが完全に間違っている。

この場をどうするか__、考える間も無くナイフは振り下ろされ、それと同時にアルフレッドが飛び込んで来た。




飛び込んだアルフレッドは目の前の光景を瞬時に把握しチッ、と舌打ちするとすぐにナイフを持ち手から容赦なくはたき落とし、アリスティアに駆け寄った。

「メイデン嬢!!怪我はっ?」

「大丈夫です。髪を少し切られただけですから」

驚く程冷静に返されたのとその内容に「っ……!」自分を罵りながら彼女が弄ぶ手の先にはそこだけ途中から無惨に先がなくなった金の髪があった。

それを痛ましそうに見やってからゆっくりと加害者の方に目をやり、

「これは、何のつもりだ?」と驚くほど低い声で詰問する。

「っわ、私は止めたのです!でもエレノア様は止まらなくて!!」

 必死に言い訳する令嬢モドキの横で被疑者は慌てる素ぶりも見せず一拍置いて、

「__何故、ですの?」

と発した。


(___は?)

三者三様に思ったが、続けられた言葉は更にその上を行く。

「何故、王子殿下ともあろうお方がそんな下賤な娘の心配を一番になさるんです?そんな風に優しく肩を抱いて。あり得ませんわ。今みたいに大丈夫か?と駆け込んで来るならばそれは一番の婚約者候補である私にやらなければいけません」

薄暗い中あくまで淡々と述べるその様が余計に気味が悪い。

(ホラーだなー。幼い頃から絶対に王子の妃の座を射止めろ、とか言われながら育つとこうなるのかな?)


そう思ったのは私だけではないらしい。


「気持ち悪いな。妖しい術にかかってたにしろ、自己暗示にしろ無罪にはならない。覚悟しておけ」

アルフレッドはそれだけ言い置いて私の手を取り、部屋から連れ出すと「ちょっと待ってね」と"伝魔法"で教師や他の生徒会メンバーを呼び、「彼女はこちらで簡単に事情を聴いたあと寮まで送り届けます」と令嬢モドキを押し付け…、もとい任せて生徒会室まで私を連れて来た。

まさかこんな形で生徒会室に入る事になろうとは。


目の前にはあの日の執務室と同じ面子が居並ぶ。

(何だかなあ)

「はい、とりあえずここ座って。カミラ、お茶淹れてあげてくれる?」

「ええ勿論」

と席を立つ。

「いえ、私はー…」慌てて立ち上がろうとするが、私の肩に手を置いたままのアルフレッドに止められる。

「君は座ってて。被害者なんだから。ね?」

「その通りだ。大変な目に遭ったのだから」

沈痛な__というかそういえば全員が全員、痛ましそうに私を見ている。

(あ なんかヤバい?)

これ何かのフラグ立っちゃった?

いやでも"ヒロインが髪を切られる"なんてイベントなかったよね?

とか考えてるうちに、良い香りの紅茶や菓子が目の前に運ばれて来る。


「ありがとうございます。それで、あの、殿下は何故あの場に?」

「君を探してたんだ。投書箱に手紙を入れたろう?あの手紙だが、君が読む前にすり替えられた可能性がある」

「えっ?!」

すり替えた?あんな内容の、しかも無記名の手紙を??

何の意味があって??

「おそらくだけど、元々の手紙の主は利用されただけだと思う。詳しくはこれから調べるけどごめん、間に合わなくて」

「は?」

ちゃんと助けてくれたと思う__舌打ちされながらだったけど。

あの時は“どう反撃しようか“と考える間も武器を無く振り下ろされて、吃驚して固まってしまってたから。


()()

とアルフレッドは切られた髪の部分を指す。

まあ、確かに切られたがちょこっとだし、ただこのままだと左右アンバランスになるから反対側も揃えた方が良いかなー、とは思うが。

「なんでそんなに落ち着いていられるの?もう少し刃がずれてたら顔を切られてたかもしれないのよ?貴女」

堪らずカミラが言うと、

「えぇと、そうですね。その時はあちら払いで腕の良い治癒魔法師を呼んで治していただけば良いかと。まぁ、“喉をかっさばかれたりしなくて良かったな“と思ってはいます」

何しろ刃物なんて持った事ない令嬢がふるふるした手で切りかかってきたのだ。

顔を狙ったとしたらそっちの方が怖い。髪で済めば儲けものだ。

「髪なら、また伸びますし?」

「………」

またしても沈黙が落ちる。そんなにおかしな事を言っただろうか。

皆が驚愕の表情の中、ミリディアナの顔色だけが異常に白い。

「あの、シュタイン令嬢?どこか具合でも悪いのですか?顔色が、」

と言いかけた途端、

「__君はミリィを疑ってるのか?!」

と王太子が怒鳴り、

「っ何だと!そうなのか?!ミリィ様がそんな事するはずないだろう!」

とアレックスも続いて怒鳴った。

悪役令嬢の両側に立つそのさまはお姫様を守る騎士っぽい立ち位置ではあったが、私はキレた。

なんだその理屈?

「誰がそんな事を言いました?私はシュタイン令嬢のお顔の色があまりにも優れなかったのでどこか具合でも悪いのですか?と声を掛けただけです。ここには事情聴取の為とやらに来たはずですがそんな言い掛かりをつけるつもりで呼んだのですか?馬鹿馬鹿しい、かつ不愉快です。帰らせていただきますわ」

と立ち上がって振り返った途端じっと自分を見下ろすアルフレッドがいて、

「っ?!」

と仰け反る。

(挟み討ち?!)

と思ったが違ったらしい。

「ごめんね?メイデン嬢。兄上は婚約者にとことん過保護だから過剰反応しちゃうし、アレックスも幼馴染みでミリィに対しては異常に心配性なんだ」

「_っ!_」

 背後の二人が何か言おうとしたが、それもアルフレッドが遮る。

「二人とも、まともな謝罪以外は今は黙って?」

口調は砕けているが笑ってはいない__笑う事を許さない瞳のアルフレッドに二人は呑まれた様に黙る。


そこへ、

「何やら物騒だな」

と声がかかり、

「生徒会長!?」

王太子とアレックスの声が被った。



背後からの生徒会長の登場にアルフレッドも一歩下がり礼を取る。

二年のアルフォンス・レイド。公爵家嫡男にしてこの学園の生徒会長。黒髪黒目のこの人は、王子達程の派手さはなくても整った顔立ちといい落ち着いた立ち居振る舞いといい攻略対象にいてもおかしくない美形である。

 流石に彼を前にしてはアレックス達の背筋も伸びる。

「失礼。ノックはしたのだが応答がなかったのでな。で?何があった?メイデン嬢」

「私に来た手紙はどうやらすり替えられたものらしい、と聞いたところです。詳しい事はまだわからない との事ですので帰らせていただくところです」

勝手に纏めたが異論はないだろう、たぶん。

「そうか」

言いながら室内にいる全員の顔をひと通り見渡す(アレックスは悪さがみつかった子供みたいな顔だし、ミリディアナ様は蒼白だし、王太子とアルフレッドは別の意味で憮然とした顔なのでかなりの違和感だと思う)と

「彼女は我々が保護して寮まで送り届ける。君達も早々に帰寮するように」

「えっ」と声を上げるアルフレッドに追従して「彼女にはまだ殿下がたからの話が、」と声をあげるアレックスに、

「君たちは今がどういう状況かわかって言ってるのか?生徒会役員として彼女を保護したのではなかったのか?それを、殿下がたからの話だと?そんな理由で彼女を生徒会室ここに留めおいたのか?まさかこの学園の原則を忘れたのではないだろうな?」

「え……っと、」ここで口籠もるアレックスを心底「だっさ……」と思う私は悪くない。

むしろ、普通だと思う。

「申し訳ありません生徒会長。今回彼女が被害を受けてしまった事といい、その後のケアといい僕達のやり方が不味かったみたいです。力及ばず申し訳ありません。彼女の保護をよろしくお願いします。すまないメイデン嬢。お詫びはまた改めて」と頭を下げるアルフレッドに「いりませんそんなもの」と言いたくなったが、助けてもらったことは確かなので「助けていただいてありがとうございます(棒読み)。二度とここに呼ばれずに済むよう祈っておりますわ」訳すと二度と呼ばないで下さいね?と思いを込めた事が伝わってればいいと願いながら生徒会室を後にした。


生徒会長に先導され、後ろには二年生の役員補佐の女生徒がついてくれている。

彼女の事は寮が同じだから知っているし、何度か言葉を交わした事もある。

寮まで保護して送り届けるのが男子生徒のみというわけにもいかない という配慮なのだろう。

このまま寮に向かうのかと思ったが、

「疲れているところを申し訳ないが、今回の処理にあたっている先生がたが話を聞きたいそうだ。君さえ良ければ、寮に戻る前に寄ってほしいそうなのだが」

どうだろう?と目で訊いてくる生徒会長に「はい、構いません」と頷き返した。


「そうか、わかった」と言って連れてこられたのは生徒指導室や教員室ではなく、来客などをもてなすサロンのような作りになってる応接室だった。

さらにはそこで待っていたのはマダム・ラッセルだった。

「アリスティア嬢、貴女に幾つか確認したい事項があるのですが構わないでしょうか?」

と言ったマダム・ラッセルの纏う雰囲気に知らず背筋が伸びる。

叱られに来たわけではないはずだが、なんだか迫力ありすぎて怖い。

「は、はい」

だが、怒っているのは私にではなく令嬢モドキの言い分に、だったらしい。

「エレノア嬢の供述によると貴女はマナーレッスンをサボタージュしてばかりなのに上級だなんておかしい、先生がたも殿下がたもあの子ばかり贔屓しておかしい、というような事を喚いているのですが……」

「…………」

……そんな事喚いてるのか。

元気だな?

「贔屓とは聞き捨てなりません」

まあ、()()()()()()()()()マダムならそうですよね……。


「貴女とエレノア嬢は同時期に城へ行儀見習いにあがっていたのですか?」

「はい」

「マナーレッスンを一緒に受けていたのですか?」

「はい。最初の一日だけですが」

「レベル分けがあったのですか?」

「いいえ」

「では、何故?」

__これ、言っちゃっていいんだろうか?ここにはマダム・ラッセルだけでなく生徒会長も二年生役員のクラリス様もいる。

が、マダム・ラッセルが構わない、と仕種で促したので口を開く。

「えぇと、お城に着いた際に王太子殿下に『行儀見習い中雑用などを頼まれる事もあるかもしれないがそういう時はこころよく手伝ってやって欲しい。この学園はどんな身分の者でも自分の事は自分でやるのが基本だから』と言われまして……」

と口火を切ると、

「なんですって?」

とマダムが目を剥く。

「自分の事と城の雑用は関係ないだろう?」

生徒会長も眉を顰める。

いえ、その通りなんですけどね?__あの時はわかってませんでしたし。

「ですが、その……人手が足りなかったのか、言いつけられる雑用が思いのほか多くてですね、レッスンの時間に間に合わなくて。行けてなかったのは本当ですから“サボっていた“と言われても仕方ないかなーと?」

と遠慮がちに言うと、

「「「はぁ?!」」」

とその場にいる全員の声が重なった。

「あ、あのでもその後王城から正式に使者を領地に寄越されまして父男爵に謝罪も済んでいる事ですので!」

と何とか詳細を語らずに終わらそうとしたが、

「謝罪の使者……つまり、それ程の不手際があったのですね?」

はい、無理でした。

「その謝罪の際に口止めもされているという事ですか?」

「い、いえ、それは特には__」

「メイデン嬢、それはじっくりと聞かねばなりません」

とマダムの低い声が続いた。


結局全部白状させられてしまったがその際、

「行儀見習いにあがった際に私と他の令嬢がたを区別しろ、とのご指示は確かにあったと伺っています。私だけ離れの宮へ部屋を用意されたのも私は王都に慣れていないだろ との王太子殿下の指示だったそうで」

「ですが雑用については殿下がたはご存知なかったそうです。殿下がたの"他の令嬢より私には厳しくせよ"とのお達しをご家来の方が"何をさせても良い"と受け取ってしまったからだそうで」

「私が毎日寝る暇もないくらい山のような用事を言い付けられているのを"レッスンの時間に間に合わないのは単に私の要領が悪いせい"だと二ヶ月の間信じておらしたらしく」

と一見擁護してるようで全くしていない言い回しになってしまったのは仕方ない。だって(先程の言い掛かりに)ムカついてたからさ?


因みに、父は詫びの手紙を受け取りはしたが慰謝料は受け取らなかった事、詫びの品も菓子や花は受け取ったが宝石など高価な物はお断りした事もしっかり伝えておいた。ここは はっきり言っておかないといけないと思ったから。


話してるうちにマダム・ラッセルのお顔が般若みたいになっていって怖かった。

横で聞いていた生徒会長も呆れと気の毒が入り混じった複雑な表情で溜め息をついた。

クラリス様に至っては「……貴女も大変ね」と心底同情された。

クラリス様は貴族ではなく商家のお嬢様で、貴族ではないながら生徒会役員として一年生にも良く目を配って下さる優しい先輩である。


「その話が本当であれば__もちろん貴女を疑ってるわけではありませんよ?再教育が必要なのは殿下がたのようですね。わかりました。今日は貴女も疲れたでしょうから早く寮に戻っておやすみなさい。エレノア嬢の処分その他は決まり次第貴女にも申し伝えるようにしましょう。では生徒会長、頼みましたよ」

「はい先生。行こうか」

と漸く私は解放された。

寮の玄関ホールまでは生徒会長が付き添い、部屋の扉の前まではクラリス様が付き添って下さった。

「ありがとうございました。今日は色々とお時間を取らせてしまって…、」

「色々されたのは貴女の方でしょう。堅苦しい挨拶はいいから早くお休みなさい。何か困った事があったらいつでも言って頂戴。じゃあね」


長い一日が、漸く終わった。




一方アリスティアが去った後の執務室では、珍しくアルフレッドが激昂していた。

「あーもー、二人とも馬鹿なのっ?折角彼女が初めて生徒会を頼ってくれて、少しは距離縮められたかと思ったのにいきなり怒鳴りつけるとかっ!台無しじゃん!助けた分も漏れなくマイナスに転化されちゃったじゃん!何て事してくれるの?!」

「も、申し訳ありません、殿下」

アルフレッドと王太子を交互に見やり困ったように告げるアレックスに、

「悪かったが、そこまで気にするような事か?」

と訝る王太子。

「気にするような事だよ!今兄さん達がやった事は被害者に対する脅迫と変わらないってことわかってる?!」

そんなアルフレッドの必死さは王太子には今いちぴんと来ないようで、

「?お前、まさか__」

と言いかけたところにノックの音が響いた。



「生徒会長!」

「やはりまだいたか__はぁ、まあいい。メイデン嬢は無事寮に送り届けた」

「ありがとうございます」アルフレッドが神妙に頭を下げる。

これだけの人数がいてそんな事すら出来ないのはひたすら情け無いに尽きるのは全員一緒だからだ。


「いや、むしろ彼女の事は君たちに任せない方が良いような気がしてるのでね__確認しておきたいのだがアルフレッド、ナノルグ嬢が君の妃候補だというのは本当か?」

「いえ、名前が挙がった事はありますが。城での茶会で話をした事がある程度で特に親しい間柄ではありません」

「そうなのか?彼女は"自分が一番の妃候補"だと信じて疑っていなかったようなのだが__だからこそ、君に特別扱いされているメイデン嬢が許せなかったのだと供述しているのだが?」

「…っ…」

全員が気まずい顔でアルフレッドを見る。


__まさか口実の人数合わせのツケがこんなところに来るとは。


「ナノルグ嬢によると『以前は自分に一番にお声掛け下さったのに、入学してからは毎日メイデン嬢に笑顔で声をかけているのに自分は見向きもされなくなった』というのが動機のようだよ?」

「「「「「「…………」」」」」」

確かにヒロインを行儀見習いとして城にあげる時彼女達も城にあげた。

だがヒロインを観察する為とはいえ、ひとりだけを呼ぶわけにもいかなかったので人数合わせで喜んで来そうな連中に声を掛けたにすぎない。

ただの頭数合わせだ。


沈黙する彼等に追い打ちをかけるように、

「それで、確かに行儀見習いでお城にあがった時にはメイデン嬢と自分達とを明確に区別してくれていたのに、マナーのレッスンもサボってばかりいたメイデン嬢に構う王子も上級にしたマダムも贔屓だと宣っていてね」

生徒会長の前でなかったから全員「叫び」のポーズになっていたかもしれない。

「会長、それは__ !」

慌てて言い募る王太子を制し、

「その事情については聞き及んでいるよ。確かにメイデン嬢だけ随分と差のある扱いをしていたそうだね?」

「しかし、あれはー…!」

「「ギルバート」」

双子が揃って遮り、アルフレッドが続ける。

「それは、メイデン嬢が?」

「ああ。誤解しないで欲しいのだがメイデン嬢はこの件については口を噤んで話そうとはしなかった。マダム・ラッセルが"贔屓とは聞き捨てならない"と凄い迫力で詳しく話すよう迫った結果だよ。城から正式な使者を送って謝罪済みな事も聞いている。君たちとメイデン家ではそれで片がついているようだが、他の令嬢がたにはそうではなかったようだな」


「申し訳ありません。彼女達に勘違いさせたままだったこちらの不手際です」

アルフレッドが潔く頭を下げる。

「そうだな。君達の立場が大変な事はわかるが、こんな騒ぎはこれきりにしてもらわねば困る。それと、メイデン嬢に関しては今後暫くは二年生こちらに委せてくれ。こんな事があったのだし、君達とはしばらく距離をおいた方が良いだろう」

「っ!それは、」

「何か不都合があるのか?君達とメイデン嬢の経緯いきさつからするとそれが最良だと思うが?」

会長の有無を言わさぬ調子に“これは無理だな“と早々にアルフレッドは見切りをつける。

「わかりました、申し訳ありませんでした」

「一年のフォローも仕事のうちだからな。マダム・ラッセルもお怒りのようだし健闘を祈るよ」

苦笑して生徒会長が去ると、全員が机に突っ伏した。

「なんでこ〜なるのよ〜」

と呻くカミラの横で、

「マダム・ラッセルか……不味いな」

同じく机に突っ伏したまま呻く様に言う王太子。

彼がここまで打ちのめされている状態は珍しい。


マダム・ラッセルは元・王室のマナー教師である。

双子の王子も幼少のみぎりに教授を受けており、現在は学園のマナー教師兼王妃(つまり王子たちの母親)の茶飲み友達。

要するに、彼らも頭が上がらないタイプのご婦人だ。

これは絶対次の休みにでも「マナーのやり直し」と言う名のお仕置き説教タイム確定だ。


尤もアリスティアはそんな彼等の人間関係は知らないので、ここまで効果的な意趣返しを狙ったわけではない。


「マダム・ラッセルもだけど〜…」

がばっといち早く起き上がったアルフレッドが派手に頭を抱えて叫ぶ。

「何なのこれ?!なにあの娘が襲撃されたの僕のせい?!助けたとしてもイーブンがいいとこじゃんプラスにはなんないじゃん!?あ゛〜人数合わせの選択間違えた!ナノルグ伯爵なんて権力思考の真っ黒ジジイじゃんそれそっくりな娘なんて候補にあがるワケないじゃん興味なさすぎて気にもしてなかったよそれが不味いとか言われてもいや実際マズかったけどいきなりナイフ持って襲撃とかないでしょ普通?!あゝもーこれ絶対"この令嬢が妃候補とか趣味悪い"とか思われてるよしかも距離おけとか夏期休暇前に言われたらもー誘う目ないじゃんー!!!」


ひと息に言うアルフレッドに感心しつつ後半の叫びに引っかかった王太子は、

「アル、お前まさか__彼女の魅了にかかってるのか?」

「何ゆってんの?んなわけないじゃん魅了どころかあの娘が僕たちの気を引こうとした事なんかないでしょ?!それどころか全力で避けられてるでしょー!!今の時点じゃお茶に百遍誘っても来てくれる確率ゼロだからっ!むしろそれすらマイナスになり兼ねないからっ!」

せっかくこの機会に彼女を優しく慰めて夏期休暇中お城のお茶会とか、図書館に勉強に来たら?とか、誘ってみるつもりだったのに__唇を噛み締めてそれらを口には出さなかったもののアルフレッドは苦々しい表情を隠せず、デフォルトの笑顔には暫く戻れなかった。






部屋に戻って漸く息を吐いた私は、

「〝遠見〟の発動やめちゃってたのまずったなー…常時発動が癖になっちゃうと不味いから必要時以外は止めるようにしといたんけど」

今回みたいな事がまたあるなら、放課後も気を抜けなくなる。

だが、"遠見"をずっと使い続けると本来の周りへの注意力が鈍る。

使い続けても魔力は大して消耗しないが生来の勘が鈍るのはよろしくない。


「とにかくシャワー浴びよっと、その前に」

鋏を持って鏡の前に立つと、切られた髪とは反対側の部分を同じ長さにしゃきん、と切り落とす。

切り落とされた部分がちょうどフェイスラインにそっていて髪を後ろでまとめたとしても長さが足りずちょうど顔の真横に落ちてしまう為こうする以外ないのだ。

そうして切った髪を処分してシャワールーム(と呼べる程大きくはないが部屋を出なくて済むのはありがたい)へと向かった。


髪にタオルをあてながら考えにふける。先程の様子は明らかに不自然だ。

まるで私が『ミリディアナ様に嫌がらせされた』と言い出すに違いないとでも言うような__まさか、向こうも転生者?

自分という例があるからいたっておかしくはないが、全員は無理がある。

そんな事があるならば出てくるキャラ全員を疑わなければならない。

なら、王太子だけか?アレックスとギルバートは単に王太子に右に倣えみたいに従ってるだけみたいだし__悪役令嬢に関してはとにかくしゃべらないのでよくわからない。

見た限りひたすら王太子に庇われてるか弱きご令嬢って感じだ。

高飛車なところも見当たらない。

だが、王太子がわかりやすい(私への態度が好意的でないのは間違いない)のに対しアルフレッドはとにかく読めない。


敵意を示さないだけで味方とも思えない。

というかギルバートのように見せかけて一番実動してんの、あいつじゃない?

あとカミラもだ。

城での時もそうだったが常に会話をリードしてるのは彼女でそれを誰も咎めないし(慰謝料を王太子の個人資産から払わせるとか勝手に決めてたにもかかわらず)、当たり前のようにしてるって事は常からああなのだろう。

そして当のカミラはこっちを観察して何が効果的なのか測ってるようなところがある。

転生者は彼女で周りはそれがわかってて従ってるとか?

「〝あなたは前世の記憶がありますか〟って訊くわけにもいかないしなー」

なんか怪しい宗教みたいだ。

まぁ、ナイフ持って襲いかかってくる人がそうそういるわけないし(いたらそれはもう違うゲームだ)、じきに夏期休暇だ。それまで遠見の乱用をしてでも気をつければ良いか。


そう結論付けて、私は寝ることにした。






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― 新着の感想 ―
[気になる点] 全体的に主人公の行動にモヤモヤする。 色々酷い目にあってるのにまったく反撃、反論しない。(心の中で反論してるだけ) この後スカッとする場面とかあるのでしょうか?
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