第三章 5 ヒロインは小さな竜と出会う
「大至急来い」
と伝えたにも関わらず一時間以上経って現れた(尤も王族が人前に出て来るまで時間がかかるのが普通だが緊急事態は別である)イアン達にどういうつもりなのか問いただし始めたところ、やはりこの連中は事の重大さを理解していないらしく、
「先程の彼女への無礼な態度は何だ、このままでは一切“聖竜の乙女“の力は借りられないし自分たちはすぐに帰らせてもらう。今後の国交も見合わせる」
というアッシュの言葉にも笑って誤魔化そうとする始末だ。
「いやいや待てってアッシュ、俺たちの仲じゃないか」
「メイデン嬢とは初対面だろう、彼女は将来私の義妹となる令嬢だ。あの目つきや態度は何の真似だ?」
「いや、俺達は王族同士の付き合いなど初めてだろう彼女が気楽になれるようにだな__、」
というふざけた言い訳を遮るように被った言葉は、
「へぇ?」
と
「ふ〜ん」
という二種類の言葉だった。
ひとつは言わずもがなアルフレッドから、もうひとつは窓の外から。
「っ、__ティア?!」
真っ先に反応したアルフレッドが窓の外へ目をやると、空色の小さなドラゴンの背に乗ったアリスティアが半眼でこちらを睨んでいた。
「なっ、」
「ドラゴン?!」
イアンとウルスラが悲鳴をあげるが、アルフレッドはじめレジェンディアの王子達は息を呑んだだけで悲鳴はあげなかった。
空色のドラゴンならば、風竜__風竜は人間の敵ではないと知っていたからだ。
時は少し遡る。
*・゜゜・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゜・*
「傷……痛そうね、触れても良いかしら?」
アリスティアが手を伸ばすとその生き物は一瞬警戒を見せるが、
「私は“ジャヴァウォッキー“と友達なの。あなた達の敵ではないわ」
相変わらず“ジャヴァウォッキー“という単語はアリスティア以外には濁音にしか聞こえないはずだが、目の前の子竜は反応を示した。
『!伝説の聖竜と友達?!』
「ええそう。聖竜にこの名を付けた方からの遺言を受け取ったのが私だったから、名を呼ぶことと背に乗ることを許されたの」
話すのでなく直接頭に語りかけてくる念話のようだが、言葉は通じるらしい。
『そうなんだ……聖竜が眠りについて、火竜も水竜も氷雪竜もどんどん駆逐されたり封印されたりして行ったら僕たち風竜の居場所もどんどんなくなっていって……」
「そう……それであなたはどうしてひとりでここに?お母さん竜はどうしたの?」
「それがー…」
話を聞いて顔に漫画でいうところの怒りマークを浮かべたアリスティアは傷を治した後、
「じゃあいきましょうか?__あなたに怪我をさせた諸悪の根源に会いに」
と迫力のある笑顔を浮かべた。
*・゜゜・*:。. .。:*・゜゜・*
そして現在の状況に至る。
「ド、ドラゴン……?!」
「ひぃっ!」
「きゃあ!」
「兵を、いや騎士団を呼べ!!」
と各々叫ぶサーギスの王族たちに(ほんとにドラゴンのこと何にも知らないんだ……)と冷めた瞳を向けながら、
「ここ最近の騒動の一部はこの子が関係しているらしいですわ」
とレジェンディアの王族にだけ告げた。
「と、言うと?」
「アッシュ!何をのんきな_ぶっ「黙って、イアン。ティアが話してるでしょ?」?!」
騒ごうとしたイアンの口元に裏拳をかましながらギルバートに目配せすると、
「失礼、皆さま」
と全員を押し退けて騒がしくなっていた扉の前に陣取り、同時にアルフレッドがこの部屋を空間魔法で覆って閉じた。
それを見たアッシュバルトもやれやれという風情で小さく呪文を唱え、イアン達の声を封じる。
合わせてカミラとミリディアナが強制的にサーギスの王族一同をソファに座らせた。
とりあえず、アリスティアが怒っていることだけは察せられたので。
「以前の騒動の時、各地でドラゴンが目覚めたことはご存知でしょう?この子もあの時目覚めたらしいのですが、起きた時近くに仲間はおらず、母竜の気配だけは近くに感じたものの探しに行く前に消えてしまったらしいんです。この城の魔法使いがところ構わず大きな魔法の発動練習を続けてしたせいで。__その時、この子も傷を負ってしまったそうで何度か力をコントロール出来ず暴走させてしまったそうですわ。本当にこの国の人間は無知ですわね」
「あ〜……」
目元を覆って天を仰ぐアルフレッドに、
「それが原因か……」
驚きながらも合点がいったアッシュバルトの呟きが続き、
「義妹どn、いやメイデン嬢はどうすべきだと_「ティアはどうしたい?」_」
またしても他人の言葉を遮るアルフレッドは顔にこそだしてないが必死である。
「ん〜…そうですねぇ、」
当のアリスティアは口元に指を当てて考える仕草をしたものの、答えは既に出ていた。
また明日19時にm(_ _)m