第三章 4 ヒロインの行動力を舐めてはいけない
2024明けましたね、今更ですが。
年末から発熱等で体調を崩し、声も出なくなったりしていたので予定通りに更新できずm(_ _)m。
ただの風邪も侮っちゃいけませんね、皆様もお気をつけください。
⭐︎わかりにくいと思うので補足・サーギスの王族
第一王子 イアン 25歳
第一王女 ウルスラ 21歳
第二王子 エレン 19歳
第三王子 オリオン 17歳
第二王女 カナリア 12歳
全員独身⭐︎
そのアリスティアが展開していた魔法を解いて数分後、ドレスを届けにきたアルフレッドはアリスティアの顔をひと目見るなり顔色を変えた。
無表情でも怒っているのがわかったからだ。
「テ、ティア……?何かあった?ここの女官に無礼な態度とか、」
「まあまさかそんな」
にっこり作り笑いを浮かべるアリスティアにアルフレッドの顔色はさらに悪くなる。
(うわぁ、めちゃくちゃ怒ってる……!)
作り笑いと本物の笑みの区別は容易い。
怒ったお姫様の機嫌を直すことは容易ではないが。
「私、今夜の歓迎レセプションとやらには出ません」
そして愛しい婚約者は予想に違わず、爆弾を落としてきた。
「__と、いうわけで」
その三十分後、王太子妃夫妻に割り当てられたスイートルームのソファセットでアルフレッドがお手上げポーズで報告していた。
あの後何とか宥めて理由を聞き出そうとしたアルフレッドだが、
「そんな事はご自分で察知なりしてください、私に説明義務はありません。とにかく、私は出ません!!」
と一切取り合わないアリスティアにぐいぐいと部屋の外に追い出されてしまった。
一旦諦めたアルフレッドは仕方なく怒りの時間冷却を祈って皆を召集して事の次第を報告した。
「そりゃーあの女たらしバカ王子エレンの視線が不躾すぎたもの。カナリアだって無礼千万な態度だったし?普通怒るんじゃない?」
「確かにエレン王子は明らかに値踏みしていたが、カナリアは子供だからではないのか?」
「あれは子供っぽさを演出して毒を隠してるだけよ、アンタ気付かなかったの?」
「そう、なのか?ただ単に幼いだけかと」
「全く……堅物とはいえあんな稚拙な演技に騙されるなんて護衛が聞いて呆れるわ。ねぇミリィ?」
「え?……と、私はその__、」
いつも通り妹みたいに頭を撫でまわしてしまったミリディアナは言葉に詰まる。
「ちょ、まさか気付かなかったの?!アッシュも!」
「っ、カナリアは元々こまっしゃくれた子供だったからあんなものかと__」
「はぁあ?!明らかにアルフレッド狙いでアリスを敵視してたじゃない!」
「そ そう、かしら?元々アッシュ様をお兄さまって呼んでたしアルフにも似たようなものだったかと」
「うむ。私もそう思っていたが」
頷きあう似た者夫婦にカミラは頭を抱え、
「アルフは?まさかあんたもじゃないでしょうね?」
「まさか。イアンの挨拶は口先だけだった。ウルスラは目が笑ってなかったし、エレンは邪心に塗れた目だったし、カナリアは明らかにティアを見下してた。マシだったのはオリオンくらいだったな」
「よかったわ。あんたまで幼馴染相手だからって見えてなかったらアリスの婚約者やめろって言うとこだった」
「酷いなぁ、見損なわないでよ。けど、以前と随分違う感じを受けるな__アイツらって昔からああだったっけ?」
「私とギルは後から何となく加わった程度だからそこまで親しくはないけど……年をとるにつれて腹黒さが隠しきれなくなってきたんじゃないの?カナリアなんてとくに」
「それは言えてる。俺狙いだって顔に書いてあったもんね」
「わかってるならはっきりきっぱり振ってやりなさいよ。アリスの前でね」
そう言い切るカミラに、
「いや、しかしそれは」
「そこまでするのは」
王太子夫妻は難色を示し、
「カミラ、いきなりそこまでは」
と仲裁(?)に入るギルバートに対し、
「甘い!そもそもよ?あのカナリアってガキ十二歳でしょ?アリスが初めてお城にきた時、何歳だったかわかってて言ってんの?」
「ティアは同級生の中では一番最後にあたる季節生まれだから当時十三になる前、今のカナリアと同じ歳だね」
「「「っ?!」」」
にっこりと皮肉げな笑みで答えるアルフレッドに、三人は絶句した。
前世の記憶があるとはいえ当時のアリスティアの達観した様子と比べ、カナリアとはあまりに違ったからだ。
そして、一応は義妹(予定)のアリスティアの行動力を思い知っている王太子は、
「ではやはり、義妹殿が怒っているのはそのせいか?」
とすぐに態度を切り替えた。
「んーそれだけならあそこまで怒らないと思うから、それプラスで何かあったんじゃないかな」
「その何かに心当たりはあるか?」
「あったらわざわざ兄上たちを召集してないよ」
「とりあえずイアンたちに謝罪させよう。私たちの立ち会いのもとで。早い方がいいだろう、今すぐ呼び出せ」
と侍従に合図を出すと空気のように控えていた侍従が一礼してすぐ命令を実行すべく扉を出て行く。
「……即決だね」
「成長したじゃない、アッシュ」
弟とカミラの褒めているとは到底思えないがおそらく本気で感心しているのだろう言葉にアッシュバルトは苦虫を噛みつぶしたような顔になるが、一瞬で王太子の表情に戻る。
「褒められている気がしないが、肝に銘じておこう」
__だが、時は既に遅し、だったのである。
アルフレッドを部屋から追い出してすぐ、アリスティアは身軽な服装に着替え、窓(アリスティアの滞在している部屋は四階に相当する高さだったのだが)からひょいっと飛び降りた。
浮遊魔法を勢いを殺して音もなく地面に降りたったアリスティアは、この城に来た時から僅かに感じる魔力の気配の元へと向かった。
ここに到着した時はアルフレッドに告げて一緒に調べに行くつもりだったが、先程の王族の態度に加え、アルフレッドらがそれに碌に反応しないうえに本当にアレらと友達付き合いを続けるつもりなら自分には到底無理だと悟ったからだ。
ゆえに、「レセプションでも何でも勝手にやっとれ」と単独行動に奔ったわけである。
尤も呼ばなくてもカイルが付いて来るのはわかっていたので不安はなかった。
そして覚えのある魔力を辿っていった結果、見つけたのである。
おそらく今回の騒ぎの元であり覚えのある魔力を持つ生き物、聖竜の気配に慣れ親しんだ自分には、どこか懐かしささえ覚える存在__風の色を纏ったその存在に。
「あぁ……貴方だったのね。ずっと私を呼んでいたのは」
アリスティアは先程とは打って変わってやわらかく微笑んだ。
次話は明日19時です。