独白〜アッシュバルトとカミラ
*補足
前世記憶があるのはアリスティア、ミリディアナ、カミラの女性三名だけです。男性陣には前世記憶はありません。幼い頃からミリディアナに聞かされていた為知ってはいても本当の意味でどこまでわかっているのかは「??」です。
自分より、弟の方が王太子に相応しいのではないか とずっと考えていた。
我が国は長子相続ではなく、国王の指名制だ。
自分が王太子に選ばれたのは偶々であって、自分の方が弟より優秀だなどと思ったことはない。
むしろ、物事を多角的に捉えて速やかに実行に移す柔軟さや行動力は弟に遠く及ばない。
ミリディアナの言う“ヒロイン”だというメイデン嬢を内々に監視しようとした時も弟の方がずっと上手くやっっのけただだろう、自分と違って。
行儀見習いとして城にあがってきた時も、学園内で襲撃された時も、彼女の手を取ったのは弟だった。
自分達が愚かにもメイデン嬢を疑ってかかった時も味方に回って私達を宥め、距離を置かれてはいても決定的に敵対するのだけは回避できるよう動いてくれていたのだ。
思えば弟はいつも彼女を見ていて、助けが必要な時はいつだって手を差し伸べていた。
そんな弟の想いは最初私が間違えたせいでなかなか彼女に伝わらなかった__他でもない、彼女が私達を信用していなかったから__私がそう仕向けたから、だ。
思い出すだけでも当時の自分の頭を殴りたい__いや、今からでも弟と義妹どのに頼もうか。
そんな困難に見舞われはしたが、というか被ったのはほぼメイデン嬢なのだが__二人は漸く互いの手を取った。弟に抱きついて泣く姿に柄にもなく感動してしまった、私もあんな風にミリディアナに全力で胸に飛び込まれてみたい___いや、漸く結婚できるのだからその日は近い__じゃなくてそう、弟とメイデン嬢はめでたく婚約し、メイデン嬢は未来の義妹になったのだ。
他でもない、ナディル準公主の些細な悪心とそれに呼応した愚王ルカスのしでかした悪行によって。
その件についての処罰は全て弟に一任した。私に口を出す権利はない。
ナディル準公主については同情の余地がなくもないが弟曰く、
「結果ティアが俺への気持ちに気付いたんだとしても俺は招ばない、許さないよ。けど、」
「けど?」
「兄上が王太子として奴と婚約者の式に出たいって言うなら止めはしないよ?俺は行かないけど。口先だけでもヤツに“お幸せに”なんて言えそうにないからね」
「そうか……、だが招待状だけは来るだろう、断るにしてもその場で破り捨てたりしてくれるなよ?」
「しないよ?そのまま兄上が処理してよ、ティアに思い出させたくないから俺にもティアの目にも映らないようにやってね?」
「わかった。好きにしろ、対外的に下手さえ打たなければ問題ない」
と返したがそのまま自分達の結婚式についても、
「ナディル準公主には便宜上招待状を出さないわけにはいかないだろうけど“来るな、その辺りは自分で上手くやれ“て言っといてね?」
「わかった」
そしてアルフレッドが言うまま送ったが、「仔細、承知しました」とナディル準公主は出席の返事を出し、招待に応じるべく国を立ったあと国境沿いでアクシデントに遭い自国にとって引き返す事となり、祝いの品々だけがレジェンディアに届いた。
弟の怒りは正当だがひとつだけ気になることがある。
「カイルを手元に残して……良かったのか?」
「ティアを守るのにあれ程適した存在はいないからね、逆に敵にまわしたら厄介でしょ?」
「奴は義妹どのを想っているのだろう?」
「あれはただ野生の獣が懐いてるだけだよ、今はね。だからとにかく守ろうとしてる、恋心なんて自覚はしてないよ、まだね。まあ、ティアも大概似たようなもんだけど」
「確かに義妹どのはそのあたり鈍いみたいだが、カイルが自覚したらどうするつもりだ?」
「どうもしないよ?虎族は番いを大事にするっていうなら、自覚したところでアイツには何もできない、ティアが嫌がることはね。ティアが連れて逃げてって言えば連れて逃げるだろうけど、逆にティアがここで幸せだったら何も出来ないよ」
「……お前はそれで良いのか」
「ティアが羽根を広げたままで幸せを感じてくれるならそれでいい。俺も__おそらくカイルもね」
「全力で守る王子が、いや騎士が二人、か。流石伝説の乙女というところか?」
苦笑するアッシュバルトに、
「……二人で足りればそれこそ儲けもんだよ」
アルフレッドぽつりと返した。
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私にある前世の記憶に乙女ゲームをプレイした記憶はない。
現実に生きるのに必死で、いっぱい いっぱいで、甘い夢を見る余裕なんてなかった。
不幸だったとは思わないけど、やり直したいとか前世の旦那に今世でも逢いたいとかは思わない。
だって今の私にはギルがいるから。
クソ真面目で頭でっかちで、融通がきかないけどそれは認めた相手に対してどこまでも忠実であろうとするからで、弱者が困ってるのを絶対見過ごせない人だって知ってる。
ヒロインに籠絡なんかされたら全力で叩き潰してやるつもりだったけど、ギルは見向きもしなかった。
どころか全力で嫌われにいって(いるようにしか見えなかった)、目論見どおり(?)全力で避けられていた__気の毒になる程に。
“ヒロイン”だと思われるアリスティアの方が何倍も大人で、軽く遇らわれてすらいた。
それもそのはずで、彼女も前世の記憶を持っていた。
自分がヒロインにあたる立場だとわかっていた上で避けていたのだ、乙女ゲームのイベント諸々を。
だが、前世の記憶があるアリスティアでも知らない情報があった。
“王家に伝わる予言と伝説の乙女について”だ。
互いに記憶があることをもう少し早く知れたら、もっと話が早かったろうに__私は頭を抱えたがこんがらがった糸はもう簡単には解けないところまできていた。
アリスティアはこの国を離れようとしていたし、それに伴ってアルフレッドまでが国を去ろうとしていた。
絶対に表には出さないけどアッシュバルトはアルフレッドを頼りにしているし、災厄が去ったといってもこのまま行かせてしまって良いのか、どうすればいいか本当に迷った。
そしてアリスティアを観察するうち気付いた……幸運なことに。
アリスティアも前世日本人だった記憶があること、自分たちに不信感を持っていること、「信用も信頼もしていないが嫌ってるわけではない」こと__等々。
やらかしてきた過去を考えれば当たり前ではあるのだが、
「ゲームのキャラ扱いも妃狙いと思われるのも不快です、参加したくないので私抜きで勝手にやって下さい」
との言になんて清々しい吹っ切り方かと感心した。
「じゃあ、とりあえずそれを奴らにぶつけてみない?」
そう提案してひと芝居うったのだがだがあれは傑作だった。
目の前で本物の乙女ゲームイベント実写版しかも本人主演である、アリスティアの演技も演技賞ものだったがギルとアッシュバルトの狼狽えぶりに心底笑った__申し訳ないが。
この一件を経て思ったのだが、前世で同じ乙女ゲームのプレイヤーだったといっても幼さを感じさせるミリィと違い、アリスティアにはそういった幼さが感じられないことからアリスティアの方が前世で年上だったのだろうと思う、確認してはいないしこれから先も確認するつもりもないけれど__、誰だって詮索されたくない過去はあるだろう。
そうして互いの蟠りを解消してギリギリのところでアルフレッドの求婚にアリスティアが頷いて。
でもそこからさらにゴタゴタがあって__、どうにかこうにか収まるところに収まったものの、ここまでの経緯が経緯だけに、「Ⅱは、やめてほしいわ……」とカミラはテラスで呟いた。
現在カミラはアリスティアとミリディアナ、ジュリアと共にテラスでお茶会をしていた。アルフレッドが自分以外の男性が近付くのを極端に嫌がるからだ。
話題はアリスティアが救出された時発動したコードLLについて。
大抵の魔法なら無詠唱で使えるアリスティアだが、コードLLに関してだけは「裂帛の気迫で叫ばないと使えない」と言っていた。なのに救出された時は無詠唱で使えたのか、という話で「口を塞がれていて唱えられなかったので止む無く。やってみたら出来ました、必死だったからでしょうね多分?」とごく普通のテンションで言われつくづく「敵にまわさなくて良かった…」と胸を撫で下ろす一同、「口を塞がれていた」の辺りで怒りを露わにするひと(ジュリア)もいたが、当のルカスは相応の罰を既に受けている。今頃生まれてきたことを後悔しているだろう。
まあ、これから先関わることももうないだろうからどうでもいい、今が大事だ。
*ここまでお読みくださりありがとうございます。ここから先は作者も未知の領域ですので連投まで数日お時間をいただきます。また次回からは毎日19時に更新させていただきます、よろしくお願いしますm(_ _)m