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第二章 そしてゲームは終わり、物語は続く

「絶対あのアリスティアと結婚する。妃が無理なら王子をやめてついて行くよ、彼女の行く先に」

そう清々しく宣言したアルフレッドは有言実行であらゆる方法でアリスティアにアプローチを試みた。

「ただでさえ初手(出会い)が最悪なんだ。後悔してるよ。いくら義姉上の為だろうとアッシュの命令だろうと、あんな真似をすべきじゃなかった。しちゃいけなかったんだ__あの時、一番先に疑問を感じた時、俺だけでもあの子の味方をするべきだった。彼女が城を出て行く決心なんてする前に、夜の庭園で暗がりから手なんかのばされる前にちゃんと保護すべきだった!」

「っ!それは、」

「間違ってないわね」

言い淀むアッシュバルトに迷いなく頷くカミラとアルフレッドに周囲は何も言えない。


返事を待つつもりもないアルフレッドは、

「だからこれから先、何があっても俺は彼女の味方につく。例え彼女がいらないって言っても彼女のやりたいことを見守って行くつもりだから、そこんとこよろしく」

「レッド……」

哀しげに瞳を細めるミリディアナの声を流して、アルフレッドは明るく笑った。

「まあ王子の身分を返上して冒険者になってあちこち放浪する身になったとしても情報収集その他で裏からアッシュの王様業の手伝いはするから心配しないで。じゃ」

そう言って部屋を出て行く弟の背中が酷く遠く見えて、アッシュバルトは翠緑の瞳を眇めた。






*・゜゜・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゜・*


アルフレッドのそんな宣言から半年後、その間に行われた建国祭の最中に大量のドラゴンが目覚めたり、その過程でアリスティアが本領発揮(?)で“伝説の王妃“からのメッセージを受け取って聖竜と友達になって巣に招かれたり王家の禁書庫まで出入り自由な“金色の鍵“まで手に入れたりとなんやかやあったのだが、アリスティア本人も前世の記憶があり、攻略対象である自分たちを避けてゲームのような展開にならないよう行動していたことがわかり、互いの誤解というか思惑を理解した両者は避けるより協力に近い関係になった彼らの距離感は近くなり、信じられないことに本来なら断罪劇の場となる卒業パーティーの最中、アルフレッドの想いは実った。


「僕を君の婚約者にして欲しい」というアルフレッドの求婚プロポーズにアリスティアが頷いたのだ。


お伽話なら「それから二人は幸せに暮らしました。めでたしめでたし」となる所だが、そうは問屋がおろさない。

人が生きて紡ぐ物語な以上、それで済むわけがない。

待っていなくともやってくるものなのだ、厄介事というものは。




*・゜゜・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゜・*


学園を卒業して数日、私はギルド拠点でなくお城に滞在してミリディアナ、カミラと城の庭園でお茶会をしていた。

あの時“油断がならない”と思った考えに間違いはなく、アルフレッドは事前に父に求婚の許可を得ており、私が承諾すればそのまま城に滞在も可能な状態にされていた__勿論部屋は別棟だが。


「良かったわ、アルフレッドの想いが届いて、貴女がここに来てくれて」

ミリディアナが心底嬉しそうに言うのをアリスティアは居心地が悪そうに、カミラは複雑そうに聞いていた。


「貴女とね、ずっとこんな風に話してみたいと思ってたの」

はにかむミリディアナ様は可愛らしい。

ほんとにお姫様みたいで、つくづくこの人の方がヒロインみたいだ__なんでヒロインに転生しなかったんだろう?

「まあ、私は意外だったけどね」

カミラが手にしたカップをソーサーに戻しながら言う。

「アリスはまた断るかと思った」

「……ああくるとは思いませんでしたからね」

まさか“身分もなにもかも捨てます、下僕にして下さい“な体で来るとは思わなかった、捨て身にも程がある。

けど、勢いとか雰囲気に負けたと言うよりは__、


「冒険者になるつもりだったんでしょう?それでもアルフレッドは気にせず付いてったと思うわよ?」

アリスティアが伯爵令嬢になるのを卒業前に早めたのも、アルフレッドと婚約した事を周知させるのを急いだのも、卒業と同時にアリスティアに矢のように降りかかる求婚めんどうごとから守るためでもある。

勿論、アルフレッドがアリスティアを熱愛してるからでもあるが。

それがこの子にどこまで通じているのか。

敵認定はしなくなったようだが、恋心を抱いているのかというと甚だ疑問なので、水を向けてみた。

「こう、王子に恋する乙女っぽく熱っぽい目で上目遣いとか、それこそどっかの皇女様みたいにさり気なく腕絡めて胸押し付けてみるとかさぁ……?」

「その仕種って、ぶっちゃけ可愛いですか?」

応えつつ、心の中で答えを探して__思い出してしまったからだ、初めてこのゲームのスチルを目にした時の事を。


「ヒロインならアリじゃない?ていうかアリスの見掛けなら違和感ないというか……でもねぇ、アリスって中身が男前すぎるのよね」

「ええ。ヒロインぽくないわけじゃないのよ?むしろまさにヒロイン!なんだけど何ていうか、その、守られるヒロインていうよりは闘うヒロイン!て感じ?」

二人に口々に言われて、

うぐっ…!という仕草と言葉を呑み込む。

そう、

確かに前世の私はいかにも乙女系ゲームよりはアドベンチャーゲーム、恋愛映画よりアクション映画を好むタイプだった。


そんな私がなんでこんないかにもな乙女ゲームに手を出してみたかといえば__アリスティアはそのソフトを初めて目にしたときのことを思い返す。


店頭でたまたま見かけたそのソフトに思わず手を延ばしてしまった時の事を。


不覚にもあの時のアルフレッドの様子があの時の感覚とぴったり一致して、拒否する言葉が出て来ず、思わず“諾”と取れる返事をしてしまった訳だが。

婚約は書類上直ぐに整えられたが「私が何がしかの理由で解消したいと思った際にはすぐに解消が可能」と言う条件が含まれており、魔法の誓約に縛られてはおらず、解消の際メイデン家に何らかのはペナルティーが発生する事もないという、とてもこちらに有利なものだった。

このことからも、アルフレッドは本当に私の自由意思を尊重していてくれるのだとわかる。

実際、アルフレッドはこれまでもあれこれ手を出してくる割には、力ずくでどうこうしてくるような事はなく、肝心なときにはちょうどいいタイミングで助けてくれていたし、その点からもアルフレッドが強硬手段に出てくる事は無いだろうと判断してもいた。

あとひとつの理由は、言わないでおく。


アルフレッドは、信頼に値する人物ではある__恋だの愛だのは、まだよくわからないけれど。







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