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二年目のお茶会

直し切れていない部分がありますがご容赦くださいm(_ _)m

 そしていつの間にか話題は王子二人とアレックスと私がキメラに襲われた際の事になっていった。

「まあ!そんな事があったのですね!メイデン様は見かけによらず……そんな強くて逞しい方もこの国の貴族にはいらっしゃるのですね。王族の方や身分高い方たちも安心ですわね?」

「「「「「…………」」」」」

 私をどうこう、は今更だが子は遠回しに彼らの事も莫迦にしてるような……

 と、

思ったのは私だけではないと思う。場にしらけた空気が漂ってたから。

(身分低くて魔力高い生徒が王族を守る施設じゃないっての)

 と私は心中で突っ込んだ。


今日はジュリアも一緒(代わりにアレックスがいない)に生徒会の面子でお昼にしているのは簡単な伝達事項があったからで、それは初めに済んだ。

 済んだがじゃあ、とこれで席を立つのは流石に無礼ー…かと思ったがそうでもなかったか。とっとと立っときゃ良かった。マセガキのご高説が止まらない。

「皆さまご存知でしょうが我が国とこの国の王族や高位貴族は積極的に婚姻を結ぶ事が多くー…」

 まあ、皇族多いもんね隣国。さっさと嫁なり婿なり出さないと破綻しますよね色々と。


 まあ、私にとっては僥倖だ。


「…ユリアナ様はまるで(勉強じゃなく)婿探しにいらっしゃったようですわねぇ」

 赤子をあやすようにそれは優しく言ってやると

「__何か問題があって?」とそれはそれはきっつーい目でギルバートの腕にしがみついたまま返してこられた。

「いいえ?」

問題は別にないですよ。

むしろ歓迎です。

とっとと婿取りでも逆ハーでもやって下さい。

 なんか、お花畑ヒロインの見本みたいなコだなぁ…こんなキャラいなかった筈だけど。

 まあ、私的には大歓迎よいことだから

「素晴らしい事だと思いますわ」と心の底から微笑んでみせた。

 が、

 見た事ないアリスティアヒロインの顔に他の面子が凍った。

 実際、彼女が初めてみせる心からの笑みではあったのだが、反応は様々だった。



 流石ヒロイン……! と

 思わず紅潮して見つめてしまうミリディアナに、


 ぱっと見可愛いらしいが何だ、この迫力は…? と

 訝る王太子。


 ぱっと見可愛いけど、実は怒ってんじゃないのかなぁコレ… と

 推測する弟王子に、


 __何で嬉しそうなんだ?? と眉をひそめるギルバート、そして


 やるなぁこの娘。笑顔に迫力こめるって案外高等技術なんだけど… と

 冷静に分析しているのがカミラだった。




 心からの笑みが、何故怖ろしく感じるのか。

 そう、この微笑み方は王妃に似ている。普段から完璧な所作を崩さない王妃は、本気で怒る時もそれを崩さない。それはそれは慈愛に満ちた微笑みを浮かべたまま完膚無きまでに相手を落とす王妃の笑顔は本気で怖い。

それをよーーく知ってる彼等は何だかそれを思い出してうすら寒くなったのだ。


 そして、王子にくっつく虫が増えて余程嬉しいんだなー… とわかっているジュリアは苦笑い。

 そのジュリアの苦笑いの意味が何となくわかるアルフレッドは苦虫を噛み潰したような顔になり、それを見たカミラは複雑な顔になる。


 こんな場面で嫉妬してみせるような可愛げや幼さは持ち合わせていない。

 だが、この皇女サマに既にうんざりしているのも確かだった。

 ついでに言えば先程からユリアナがギルバートやアルフレッドに仕掛けている仕草は(胸のある)アリスティアならば効果抜群だろうが〝お転婆〟が売りって感じのこの子がやっても(胸絶壁だし)イタいだけで魅力半減だ。

もっと子供っぽい容姿を最大限に生かして憧れの王子や騎士にまとわりつく無垢な子供でも演じきったら効果抜群だろうに。


まあ、単細胞のギルはともかくアルフレッドにそれが通じるとも思えないが 、そもそも敢えて教えてやるつもりもない。

 それに、ヒロインのはずの当のアリスティアは全くやらないどころか無関心もいいとこだ。

 生徒会に入れさえすれば何とかなると思っていたのだが…

 (これ、何とかなるの?)


 なんて周りに思われているとは毛ほども気付かない皇女様は、

「__ですから、生徒会入りしてもきっと皆様の役に立つと思いますの」

 と続けた。


 しん、と辺りに沈黙が漂う。


 〝成る程、生徒会に入りたいんだ?〟

 〝上手くすれば私達抜け出せるかしら?〟

 〝いやこの皇女様の魔力レベルは知らないけどそもそもまだ正式に編入すらしてないのにどーやって役員になんのよ…〟

 〝…そうだった〟

 この沈黙の間にジュリアと私とが目でした会話である。


 そして、一番先に言葉にしたのはアルフレッドだった。

「何を言うかと思えば。なれるわけないでしょ〜?」

 デフォルトスマイルはそのままなのに、発する言葉は辛辣だった。

「っ?!なんで、ですのっ…」

「この学園の生徒会役員は一年生のうちに優秀な成績を修めかつ補佐を務めた生徒が中心になってる組織だよ?君の成績はまだ不明だけど正式に生徒にすらなっていない聴講生けんがくしゃがなりたいって言ったからってなれるもんじゃない」

「でもっー…」

「身分や出自は関係ないよ?ここは実力主義だからね?」

「〜〜っ!」

 歯噛みする皇女様を見兼ねたのか、

「僭越ながら一言よろしいでしょうか、アルフレッド王子殿下」

 背後に控えていた(この学園の王族が使っていない特例利用の)側仕えが声を掛ける。

「いいよ〜どうぞ?」

「そちらのアリスティア・メイデン嬢とジュリア・バーネット嬢は一年生時生徒会には在籍しておられなかったときいております。それでいくと皇女殿下が一年生時役員でなかったから、という理屈は通らないのではないかと思いますがー…」

 皇女殿下マセガキの忠実なしもべです的な褐色執事、じゃない従僕くんは不躾な視線をこちらにくれる。

『主人が皇女コレなら部下も類友アレ

 私とジュリアは無言で頷き合って視線を受け流す。

 が、マセガキはそれに力を得たようで、

「っそうですわ!それなら私にだってーっ…」

「いいかげんにしないか、ユリアナ」

 ギルバートがどすの効いた声で黙らせる。


 (あれ?)

 私は目を瞬かせた。


「アルフレッドの言う通りだな。生徒会役員になりたいのなら正式に生徒になってからその能力を存分に見せつければ良いだけだ」

「そういうこと〜役員に必要なのは学力、魔力、とっさの判断力…あと 人望とか?それらを全部でなくていい、それなりに備えた人材なら生徒会こちらから指名せざるを得なくなる」

「っでもー、」マセガキは納得出来ない、と私と王子たちとを交互に見やる。

()()()()()()()もう何度も言ったよね?」

 莫迦なの?

 とその似非スマイルが言ってるような気がするのは私だけだろうか。

「彼女達が一年生時役員をしていなかったのはこちらの再三の指名を彼女達が断り続けていたからだ。現在彼女達が役員として在籍してくれているのは前生徒会長と現生徒会われわれの要請に応えてくれたからにすぎない。それでいて彼女達が役職に足りない人材であったならそれこそこちらから指名しておきながら失礼な話だがー…補佐から外される事も起こり得る」

『え』

 〝そうなの?〟

 〝…知らなかった〟

 ショックを受ける(?)私達にかまわず王太子は続ける。

「だが、彼女達は役員としての経験がないにも関わらずその責務を難なくこなしている。その意味がわかるか?」

「………」

「ユリアナ。役員であり上級生でもある彼女達にまともな礼節ひとつ弁えられないようでは生徒会どころか一般生徒としても落第だ」

「そうそ。まだ正式な生徒じゃないから処分されないってだけだからね〜?その辺勘違いしないように」

 軽く言われたアルフレッドの言葉に主従ともども青くなり、次にわなわなと震えた後、皇女様は従僕と共に去って行った。


 「「……………」」

 私とジュリアは珍しく戸惑い気味に瞳を見合わせた。


 きっと二人共動揺していたのだと思う。


「…やれやれ。これで少しはおとなしくなるといいんだけど。悪かったね二人とも。静かになったとこでデザートどぉ?奢るよ」

 といういつもなら即座に「「結構です」」と返すアルフレッドの申し出にとっさに反応出来なかったのだから。




咄嗟に反応出来なかった為、現在いまに至る。

「うわぁ美味しそう。いただきまーす!」

 カミラ様が可愛いらしい(実際カミラ様の見かけは愛らしい)声をあげ、目の前のデザートプレートに手を延ばす。

 私とジュリアの目の前にも、同じ物が置かれている。

「「………」」


 あの後「それいいわね!私も食べたいわ。もちろん私達にもご馳走して下さるのよね?」カミラが戯おどけて言い、

苦笑した王太子が「勿論だ。カミラとミリディアナの分は私が出そう」と続け、

「では私が購入してきましょう」とギルバートがさっとカフェテリアのカウンターに向かい、四人分のデザートプレートを運んできてしまった。

 しかも、その名も〝本日のスペシャルデザートプレート〟。

 前世で言えばフルコースの最後に出てくるデザートの盛り合わせみたいな物が置かれている。


 早速口に運んだカミラが、

「うん、美味しい!このタルト絶品!」

 と顔を綻ばせれば、

「このフルーツババロア、甘さ控えめに抑えてあるけれど素晴らしいわ」

 ミリディアナ様は感想も上品だ。

 なんて思いつつ手を出せずにいると、

「アイス、溶けちゃうわよ?」

 とカミラ様に促されてしまった。

 ジュリアも もう悟り顔で、

「…いただきましょうか」

 と 言ったので、

「…そうね」

 なんか狐につままれた気分だが、ここはありがたくご馳走になるしかないだろう、とスプーンに手を伸ばした。

 私は言われた木苺のアイスから、ジュリアはチョコレートソースとフルーツのかかったガレットから手を付けた。

「あ 美味しい…」木苺のアイスは季節限定ものと銘打たれてるだけあって定番のいちごアイスとは違い、何とも言えない凝った味__というか口に残り、クセになってしまいそうな美味しさだ。

「そうね。ガレットも熱いうちにチョコレートソースと冷たいフルーツをからめてあって凝ってて美味しいわ」

 ジュリアも開き直ってデザートを楽しむ事に決めたらしい。

「「ありがとうございます、アルフレッド殿下」」

 私とジュリアが口を揃えて(普段目と目で会話してる分こういう息を合わせるのは私とジュリアの得意技となっている)言うと、アルフレッドが虚をつかれた顔になる。

「え…と、いや どういたしまして?」

「良かったわ。ほんっとにあの皇女様、うるさかったもんねー、ミリィ?」

「カミラっ!」

「ミリィだって思ってたでしょー?最初っから出来れば王族、でなきゃ公爵か侯爵家、それ以外は範疇外!て婚約者がいようといまいと私が気に入ればそれで良いのよ光栄に思いなさい!と言わんばかりの、留学とは名ばかりで実は婿ハントに来たんですー、感丸出しの小娘なんてうざいに決まってるじゃない。アッシュにまで最初コナかけてたしさ?まるきり相手にされないもんで最近はアルフレッドとギルに絞ったみたいだけど」

「カ カ カ カミラっ…!それ以上は」

「だいじょーぶよ、ここ私達だけだし声が聞こえる範囲には今誰もいないから」

「それにしたって、」

 ミリディアナ様はわたわたしてるけど、王太子はじめ男性三人が止めないと言う事はアリなのか…ギルバートも別に追ってかないし。

ほんとにただ親戚だからってだけみたいだな。にしても私たちがいる前でここまで言っちゃっていいのか?

「隣国はこの国にとってさほど重要な国じゃないからね」

 私の疑問を見透かしたようにアルフレッドが言う。

「そう…、なんですか」

「そうなんだよ。すぐ隣だから友好を保つ必要はあるけどご機嫌取りをしなきゃいけないわけじゃない、隣国からの留学生なんて来てもこなくてもうちはどっちでもいいからね。むしろ足手まといになるようなら来ない方がいい」

 茶化した言い方をしてはいるが本気の目で言うアルフレッドにどう返したものか窮していると


「ねぇ、アイス好きなの?」

 いきなりカミラが話を振ってきた。

「え え と…はい、好きですが、コレから食べたのは言われた通り溶けちゃうかなって思ったからでー…」

「どれが一番好みだった?」

「どれもとても美味しいですがそうですね、フルーツをいっぱい使ったものが好きです。そういう意味では苺が一番かもしれません」

「苺を使ったスイーツが一番好きってこと?」

「敢えて言えば、ですが…」

「じゃあフルーツ単体で食べるとしたら何が好きなのかしら?」

ミリディアナまで質問攻めに乗っかってくる。

「えぇーと、そうですね…順位つけたことないですけど、桃と林檎?でしょうか」

 果物は大体好きだ。まあ、中にはちょっと苦手なものもあるけど。

「じ、じゃあ紅茶は?特にお気に入りのものとかあるかしらっ?」

ミリディアナがどもりながらさらにたたみかけてくる。


なんでこんなに食いついてくるのだろう、私の好みなんてどうでもいいと思うのだが、答えないわけにもいかない。

「えぇー…と?王道ならアールグレイでしょうか、ブレックファーストよりオレンジペコの方が好きです」

「じゃあ、今度はそれを生徒会室にも常備しておくわね?」

「それがいいわね」

 何故かカミラ様とミリディアナ様に嬉しそうに言われるが、(いや、準備されても)と心中でツッコむ。

 生徒会の業務以外で専用室あのへやでお茶なんかしないし。

 実際それ以外の放課後や休みの予定はいっぱいなのだ。


 魔法の秘密実践特訓もしているし、ヴィオラ先生の茶話会(あまりに希望者が多い為三日に一度は開催されるようになり、呼び方もこう統一された)にも行きたい。

 外国の話を聞くのは楽しいし、ヴィオラ先生の詠うような声は聴いてて落ち着くのだ。


 なんてアリスティアの思考に考えが及ぶはずもなく。


(よしっ!ヒロインの好きな物がわかった!)と心の中でガッツポーズを決めるカミラ。


(ちょっとは距離が縮まったかしら?もう少し砕けた会話が出来るようになると良いのだけど…)とヒロインを見つめるミリディアナ。


(うーん、こうも手放しで賞賛されちゃうとやりづらいわね…)と悩むジュリアに、


(えぇー あのマセガキが自己中花畑ヒロイン思考の持ち主ならそのままヒロインポジやってくれれば良かったのに…!そしたら私、傍観者モブAとかになれたかもしれないじゃない、諦めんの早くない?まさかの攻略対象から全否定だから無理もない、のか…?

あれ でもそーいえばアルフレッドって女の子が大好きで誰にでも優しくて人懐っこいフェミニストで攻略が一番楽なキャラじゃなかったっけ?)

 中身はまさかの毒吐き系だったのか、、仮にも隣国の皇女をここまでこき下ろすとは。

 それでいてなんださっきの手放しの賞賛は?好感度上げなんか私してないのに…


(__なんでだ?)


なんでも何も、二人が生徒会入りしてから生徒会の処理能力はもちろん、求心力も上がってるのは紛れもない事実であるから、単に有能っぷりを指摘されただけ又はしただけなのだが、アリスティアからしたら最初が最初だっただけに無条件に警戒が薄まる事はなく、


(うーーん、やっぱり、私じゃなきゃ悪役令嬢(ミリディアナさま)の代わりってダメなの?)

と何とも残念な思考ところに着地した。


ご馳走さまでした。と丁寧に二人が頭を下げて立ち去った後、

「あそこまで言って良かったのか?」

「言わなくてもあの二人ならそこまで考えつくよ。むしろ表面だけの態度なんかすぐ見抜かれる。そんなんならやらない方がまだまし」

「それはそうかもしれないが…」

 何とも言えない面持ちの王太子を筆頭に今までと違う感触を得た事にそれぞれの思惑を滲ませつつ、奇妙なティータイムは終わりを告げた。




私とジュリアはああ言われては全く顔を出さないわけにはいかず、申し訳程度に役員専用休憩室にお茶をしに行くようになった。

 時々かち合うミリィやカミラと雑談程度ならするが、誰か来たら速やかに出て行くようにしている。ついでに魔力の実践特訓もどんどんハードになってきているが手は抜かない。


学園をどんな形で出たとしても、魔法使いとしてやっていけるように。

方向性は間違ってないー…、筈だ。







放課後の日課が増えたので、ヴィオラ先生の茶話会に行ける回数が減ってしまい、その日は半月ぶりに私とジュリアはヴィオラ先生の茶話会に赴いていた。

「いらっしゃいメイデン嬢、バーネット嬢。いつもお二人仲がよろしいですね。そして今日もお美しい」

 こういうセリフが自然に出て全く違和感がないところが凄い。女生徒からきゃーっと(アイドルのコンサートの黄色い悲鳴とは違い、あくまでお上品なため息混じりのキャーだ)声があがる。

 のと同時に、教室の扉が開閉する音がしさらに新たな悲鳴があがった。

「お邪魔しまーす」

 と 無邪気(を装った)笑顔で入ってきたのはアルフレッド王子だった。


 私は固まったが女生徒たちが素早く席を空けてこちらへどうぞ、とばかりに促す。なんだかんだ言って人気は健在なようだ。

「ありがとー。あ お菓子は持ち寄りだって聞いたからこれ」

 と大きな菓子箱まで持参している。

「まぁっ!ありがとうございますアルフレッド殿下!早速お出ししますね」差し出された女生徒が頬を赤らめて受け取り、皆に配り始める。

本気で参加する気らしい。

「…ようこそいらっしゃいました。アルフレッド殿下」

「どうも。ヴィオラ先生。この茶話会は今大変な人気だそうなので僕も興味が湧きまして。生徒は誰でも自由参加なんですよね?」

「もちろんです。歓迎しますよアルフレッド殿下。尤もこれでは皆殿下に気をとられて私の話など聞いてもらえないかもしれませんね」

 決して嫌味な口調ではないのに何故か妙な緊張感をはらんだ会話は続く。

「嫌だなぁ絶大な人気を誇るヴィオラ先生を前にしてそんなわけないじゃないですか」

 いつものデフォルトスマイルで返すアルフレッドにもいつもと違う感じは見当たらない。


 が、会話に確実に含みがある。


 そして、そんな始まりであった茶話会は当然いつもとは違う様相を呈した。

 有り体に言えばもう茶話会ではなかった。

 〝アルフレッドの一方的な質問攻めをヴィオラ先生が華麗に受け流すのをはらはらしながらみつめる〟会になっていた。


「先生は非常に音楽に造詣が深いのは勿論ですが、芸術全般に興味がおありだとか?」

「ええ。音楽、美術、それに詩や文学。どれも素晴らしい芸術です」

「美術にも大変お詳しいと窺いましたが?」

「詳しいという程ではー…、興味があったら没頭してしまうたちではありますが」

「詩を書いてみたり、絵を描いてみたりだとか?」

「そうですね。詩はあまり書きませんが絵は描きますよ。というか好きな題材を見つけたら描かずにいられないたちで」

「今も描いていらっしゃる?」

「ええ。描いていますよ」

「今は何を?」

「今は風景画です。この学園には素晴らしい景色が多い」

 こんな感じで、表面は穏やかなのに誤魔化しは許さない、という雰囲気を纏ったアルフレッドにまるで気付かないフリでヴィオラ先生は艶やかな微笑みで答え続ける。



「本当に先生は随分沢山の国を行き来されてるんですね。ひとつ国に留まる期間が異様に短いのは何か理由が?」

「…放浪癖があるようでね。性分ですよ」

「ふうん?僕はてっきり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のかと」

 !!!??

 あまりにもあからさまな挑発に場の空気が一瞬凍る。が、ヴィオラ先生の態度が変わることはなかった。またアルフレッドも何事もなかったかのように

「また来てもいいですか?ヴィオラ()()

「ええ。お待ちしてますよ、アルフレッド殿()()

 その答えに満足そうに頷いたアルフレッドは突然こちらに視線を向け

「二人とも、外国の話なら僕でもしてあげられるよ?外交でそこそこ行ってるし。ヴィオラ先生ほどじゃないけど、いつでも訊いて?生徒会の合間とかにでもさ」

 いや、結構です。と口にするわけにもいかないので、

「ありがとうございます、殿下」と私が、

「おそれいります」とジュリアが無難に返した。


 そんな軽く頭を下げた私達の頭上でぱちっと男性二人の視線が弾けた。


「…?…」

 何だろコレ?とアリスティアは瞳を瞬かせる。


(アルフレッドってなんでこんなにヴィオラ先生に敵意丸出しなんだろ?)

茶話会メンバーに意中の女生徒でもいるんだろうか。私は周囲を見回す。

 みんな、王子に声をかけられれば喜びそうな子ばかりだ。

(そのまま親しくなって手に手を取って駆け落ちでもされる と思ってるとか?…まさかね。アルフレッド(コイツ)、恋に身を焦がすタイプじゃない)

むしろ計算に計算を重ねた上での政略絡みを相手に恋だと誤解させた上で合法的に囲い込みそうだ。あくまで主観だけど。

 無表情で結論づけるアリスティアの横でジュリアもまたその光景を不審げに見ていた。


 彼らからしてみれば当たらずとも遠からずの考えをアリスティアは即座に打ち消した。


 弾けた二人の男の視線をたまたま目にしたジュリアはやはり、同じ思いを抱いて男たちを見た。


 〝()()()、要注意だーー…〟




アルフレッドに話をせがむ(?)事はなかったが代わりに茶話会にアルフレッドがちょいちょい出没するようになった。

代わりに私とジュリアはあまり行かなくなった。面倒が増す気配しかしないからだ。



そんな日々の中、私は自分にとって〝課題〟だった魔法を成功させた。

「ーっしゃあ!」

この声とガッツポーズは淑女にはほど遠いが許して頂きたい、ここは私の秘密の鍛錬場であり、誰にも見えないし聞こえやしないのだから。

 これが成功したとなれば、もうギルドに行っても大丈夫だ。

これが使える魔法使いは希少だ。さらに精度を上げていく必要はあるが__だが、どちらにしてもジュリアは付いてくるというだろう。学園を去るにしても、タイミングが大事だ。


ジュリアの未来に、影がささないようにしなければ。


学園二年目の前期の終わりが近付いてきていた。






あのゲームの中で変動値の大きいイベントは一年、二年共に夏と冬のパーティーの二回ずつだけで、二年生は生徒会役員としての参加になる。

 生徒会に入っている予定ではなかったからそこは目算が狂ったが、主役は一年生で生徒会の2年は裏方だから大丈夫とは思うが、思いきりこき下ろされたマセガキ…、もとい皇女様はほんとにあれ以来姿を現さず、聞くところによれば城に滞在してあちこちの夜会に顔を出してはめぼしい貴族子弟を漁る、じゃない婿探しをしているらしい。


(諦めんの早いな、皇女なら王子狙えよ?アルフレッドにこれでもかってくらいくっついてまわれば茶話会にもほいほい来なかったろうにー…)

まあ、じきに夏期休暇だ。学園、いや王都から暫く離れるのだからアルフレッドと顔を合わせる機会もなくなるし、あまり気にしなくても良いだろう。



 〝夏休みに生徒会メンバーで別荘に行こうイベント〟は一年生時にクリアしていなければ二年生時に発生する。

それは知っていた、というか覚えていた。

いたのだが、全員がそれぞれ声をかけ、ヒロインが誰の誘いを受けるかでその後の展開が変わってくる。

何がどう変わるかは知らないがまあ、別荘に誘われる程親しくなった覚えはないから気にしなくていいか。


そう思ってたから教室での授業終わりにいきなり、

「メイデン嬢、夏期休暇、予定はあるのか?」

とアレックスに訊かれ、

「はい?…えぇ、色々と」

 と返せたのは上出来だと思う。

「そう、か…だが全部詰まってるわけではないのだろう?」

「え…と、確かに大まかではありますがー…詳しく詰めていくのはこれからなので」

(なんで?)

 こんな会話…まさかのフラグ?

「我が伯爵家の所領には夏用のコテージがあるんだ。文字通りとても涼しい場所で暑い夏を過ごすにはうってつけなんだ。良かったら…、」

 ごくっ、とその場にいるほぼ全員が唾を飲み込んだ。


(はぁ?何言ってんのコイツ)

 と思うのが一人、

 (へぇ。やるなぁアレックス)

と感心するのがひとり、

(いきなりそんなハードル高いとこ行く?)

と突っ込んだのがカミラで、

 (頑張ってアレックス…!!)と念じたのはミリディアナだ。

他の居合わせたクラスメイトは固唾をのんで成り行きを見守っていた。


 が、当のアリスティアは、

「大変恐縮ですが、特別親しくしていない方の別荘にいきなり行く理由がさっぱりわかりません」

ときっぱり断られ、アレックスが膝から崩れ落ちる。そこへ、

「まあ!夏用の別荘!是非お伺いしたいですわ!」

 とマセガキが乱入してきた。


__いたのか。

ていうかどっから沸いて出てきた?


「いや、僕はメイデン嬢をー…」

 何とか立ち上がったアレックスが戸惑い気味に告げると、

「まあ!メイデン男爵のご令嬢を誘われるのにまさか隣国の皇族である私には資格がないとおっしゃるの?」

とアレックスの腕に胸元を押し付けるようにすがりつく(カミラが逆効果と評したアレである)。

 周りは白い目だ。

 無理もない、このマセガキは目を付けた公・侯家子弟たちからことごとく断られ、妥協とばかりに伯爵家子弟を漁り出したのだ。アレックスもそのひとりというわけである。

 もちろんアレックスもわかっているので相手にしていない。

「ねぇ?良いでしょう?アレックス様、私も別荘に招待して下さいな」

「いや、そう言われてもー…」

 君に、興味ないし。

 というアレックスの言葉が聞こえて来るようだ。

 そこへ、

「誘われてもいない貴族の別荘に押しかけるのは感心しないな」

 という声がかかる。


「レイド様!」「生徒会長!」

 アレックスは勿論周りにいる何名かから声があがる。

 なんでここにいるんだ、とは誰も突っ込まない。何やかや言って卒業後も有名人であり人気者である。

「まあレイド様!何故こちらに?」マセガキがすらりとアレックスから腕を解いてレイド様に巻き付…こうとしたのをまたさらりと躱したレイド様はまるでマセガキの存在を無視して

「アレックスの別荘に行く事にしたのかい?」

 と私に向かって微笑む。


「いえ。お断りしたところです」

「なら王家所有の別荘はどう?」お茶みたく気軽に誘うな、王子様アルフレッド。

「ならカルディ家うちのパーティーに来ない?王家よりは砕けて過ごせるわよ」侯爵家の夜会をパジャマパーティーみたいに言わないで下さい、カミラ様。

「ならシュタイン家うちでお茶会ならどうかしら?」

 だから今日のお茶菓子何にする?みたく軽く言わないで下さい悪役令嬢ミリディアナ様。

と心中ツッコみに忙しい私にさらに爆弾が投げられた。

「ではレイド家の別邸はどうかな?」

 ………

ーーはあ?

周囲から悲鳴のような歓声のような声と溜め息がもたらされる。

 待てまて。

 ーーこれじゃ私が誰かの家とこに行くのは確定してて選んでるみたいでしょうが。

「アリスティア様…、凄い」と誰かが呟いたのは聞かなかった事にする。

「夏期休暇、行く予定があるのはジュリアのところだけです」

 私はきっぱり言い切る。

「ではせめてレイド家の夏の夜会に来ないか?」

「は?いえー…」

「日帰りならば問題ないだろう?言ってくれれば送迎馬車もこちらから向かわせよう。待っているよ」

 いつの間にか手にした招待状を私に渡すとレイド様はにこやかに立ち去った。

 ーーやられた。

 こんな大勢の前では招待状を突き返す事も、その場でお断り(どっちも王子達に対してやったけど)も難しい。返事はどうあれ受け取っておくしかない。別邸は前フリ、本題は(断られるのを見越した上で)招待状こっちのパフォーマンスだろう、策士め。


 周りがきゃあきゃあ騒ぐなか、呆然としたアレックスと、それを同情気味に見つめるアルフレッドとカミラとミリディアナーーあと忘れてたけど隣国の皇女様ーーも茫然と立ち竦んでいる。人生でここまで華麗に無視スルーされた事がないのかもしれない。


て、


 をい、待て元・生徒会長。


 こいつらを責任もって回収…、じゃない事態の収拾付けていけや。

 招待状ばくだんだけ残して行きやがって。

 途方にくれた矢先、

 ぱん!と手を叩いて「はい!見せ物じゃないわよ!各自用がないなら速やかに帰寮しなさい!」

声をあげたのはジュリアだった。

 周囲は各々残念そう かつ 不服そうな表情になった者が多数いたがー…ジュリアの注意は生徒会役員としては真っ当な行動なので皆帰り始めた。



周囲が静かになり皇女の姿もいつのまにか消えていた。


 その事に安堵してジュリアに感謝しながら手にした封筒をかざしとりあえず

「……いる?」と上目遣いで訊いてみた。

「いらない。だいいち私宛じゃないでしょそれ。他人宛の招待状貰ってどうするのよ?」

「…だよね」いちいち全部ごもっともです。でも出来たら引き取ってくれないかなーって。

まあ、ジュリアならおうちにいっぱい招待状来てるだろうけど。






祝祭の主催は生徒会で一年生は主役なので当然免除で二年生がフル稼動だ。

そして裏方でサポートする役員と表でサポートする役員とに別れる。

この話が出た途端二人は「「裏方で」」ときっぱり告げた。

「あーうん。わかった」あっさり返したアルフレッドに

「よろしくお願いします」

「では本日はここで」

と頭を下げる。

「おつかれ。本番もよろしく」

「「はい」」

 二人が出て行くと、

「…なんで」ミリディアナが呟く。

 地位も、身分も。

「うーん…」カミラも頭を捻る。

 美貌も、人望も。

 兼ね備えてるのに。

「マナーだって完璧の筈だろう」王太子が訝る。

そもそも、本来ならばヒロインは王子達ときゃっきゃうふふな感じで表だっての手伝いをする筈で。

悪役令嬢はそんな彼等を不機嫌に見つめる筈のイベント。

なのに__ そもそも、こういった場に出ないなら、何の為に学んでいるのだろう?


その疑問に答えられる人物は 残念ながらこの場にはいなかった。







今日中に切りの良い所まで投稿します。

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