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ヒロインは突っ込みが止まらない

「アリスティア様!今日の放課後ヴィオラ先生と私達で音楽談義のお茶会がありますの!是非いらして下さいませ!」

 ある朝、唐突に友人のひとりが朝一番に言ってきた。

 友達といってもジュリア以外とはさほど親しくない私には、ほんとに僅かな付き合い(一緒に教室移動とかたまーにグループでランチとか放課後にお茶とか…まあそんなくらいだ)ではあるのだが。

ジュリアは〝アリス信奉者シンパ〟と呼んでいるが私はそんなものを作った覚えはない。


「えぇと…、それ、どういう集まりですの?」

「あ、難しく考えないで下さいませね?ただ色々な国を廻っておられるヴィオラ先生を中心に音楽についてお茶でも飲みながら語りあいましょう、ってだけの会ですの。男女問わず参加は自由です。お茶やお菓子は各自持ち寄りの簡単な集まりで… …、授業だけでは聞けないお話とか、色々ありますでしょう?ヴィオラ先生の都合の良い時に何度かやっているのですけど、そのー…、」

 もじもじしだした女生徒に、

「その、何なの?」

 もじもした様子に苛々してきたのだろう、ジュリアがやや強い口調で先を促す。

「あ、アリスティア様とジュリア様は生徒会入りしてしまってからめっきりご一緒に過ごせる事がなくなってしまったので!たまには私達の集まりにも参加して下さらないかと!」

顔を赤くして怒鳴るように言っている言葉に、私とジュリアは顔を見合わせた。


成る程、そういう事か。

確かに生徒会に入った分、彼女達との時間は減った。

おまけにそれ以外もジュリアと二人で作戦(避ける方法とか会わずに済む方法とか早く辞める方法とか?)を練ってることが多いので基本二人で人目を避ける事が多くなっているのだ。

生徒会では油断出来ないし、いつもどこか緊迫した感じになりがちではあった。


__たまに息抜きは良いかもしれない。


 何よりヴィオラ先生は生徒会やつらと関係がない(むしろ険悪に見える)し教師だ。

この学園は教師の選定も厳しいから(名門子弟多いし)、問題のある人物ひとなわけはないし近付いても一番問題ない人物に思える__今の時点では。

言動がやたら気障だけれど嫌味には感じないし、女子だけにえこ贔屓するわけでもなく、授業内容も的確で面白い。


行ってみるのも良いかもしれない。


ジュリアに目線でどうかと尋ねると頷かれたので、

「なら、お邪魔してみましょうか」




「メイデン嬢!バーネット嬢も。良くいらして下さいました」

 相変わらず全く隙のない立ち居振る舞いで迎えてくれたヴィオラ先生や友人達との語らいは存外楽しいものだった。

 ヴィオラ先生は授業より朗らかな様子で以前居た国の事などを面白おかしく語り、それについて生徒が質問したり、この場合、自分だったらどうするか__他の人はそれをどう思うか?と下手したら議論になりそうな内容をあくまでゆったりとしたお茶会のペースを崩さずに語り合う。

「これは授業ではなく息抜きだからね」

というヴィオラ先生の発言のせいもあるのだろう、皆リラックスして話に花を咲かせている。


 (悪くないわねこういうのも……)


 お茶を手にしたまま思う。

 そもそも、生徒会というのは強制ボランティアに近い。

 他の人はどう考えるか知らないが私にとってはそうだ。

 生徒会役員には専用執務室だけでなく専用休憩室もあるのだが〝役員に限り出入り自由〟であるその部屋は私には休憩場所にはならない。


あの連中と親密度あげてどうする。


 ヴィオラ先生は何か話したそうな生徒にはそれとなく話を振り、話したくなさそうな生徒からはさりげなく話題を逸らす。

 見事な仕切りっぷりだ。

 そうした場にいながら特に何も求められず(意見とか仕切りとか雑務とか)、お茶を飲んでいられるのは楽だった。

それに、ヴィオラ先生の体験談は聞いていて楽しい。

声が良いからだろうか、聴いていて耳に心地よい。

 それに、異国の話は聞いておきたい。

ついつい話し手をじっと見つめて聞き入ってしまっていた。

大半の女生徒はそもそも最初から見惚れっぱなしなので問題はない。


終わった後、私の顔をしげしげと見つめたジュリアは、

「……気に入ったみたいね」

と呟いた。

「まあそうね。気晴らしになったわ」


(この子からしてみたら自分が注目されないから居心地良かったのかもしれないけど、男子生徒はこの娘を見てたし女生徒にしても「あぁアリスティア様とヴィオラ先生、並ぶとほんとにお似合い…!」なんて密かに溜め息つく連中が混じってたんだけど__言わない方が良さそうね)

正直あのマセガキも鬱陶しかったし、アレックスやアルフレッドの誘いを避けるにちょうど良かったのもあって、以降私たちはヴィオラ先生の教室に良く行くようになった。






「良いか?この学園は生徒が平等に学ぶ場であって、己の身分を誇示するところではない。それは皇族であっても同じ事だ」

「私は叔父に貴女の事を頼まれてはいるが無条件に甘やかすつもりはない。学園のいち生徒として学ぶ手伝いをするだけだ」

 だから、今後あのような真似は絶対にしてはいけない。


 あの一件の後、ギルバートが懇懇と子供に言い聞かせるように諭し、納得させたはず、


__なのだが。


またしても勝手に生徒会の集まりタイムに勝手に乱入してきたマセガキが今日もひとり、いや従者いれたら二人?ではしゃいで語っている。


「この魔法学園へ留学するのは我が皇室の伝統ですから皆幼い頃にその質を確認し魔法の才があるものはそれを伸ばす教育を受けますの。もっとも皇族といえど必ずしも魔力があるとは限らず、この学園で求められる魔力は高いので魔力があるからといって必ず留学出来るとも限りません。何しろ私の前はクレイグ候に嫁いだ皇女殿下が最後…ここ数十年、私ほど魔力が高い皇族は生まれなかったと驚かれましたの。ですから私がここにいることは、」


変わってない。


多分、あの時いた中で今ここにいる全員がそう思った。



 「そりゃあ、元々隣国は魔法使い自体少ないし?」

 「この皇女様、帝位継承権に於いても遠いわよね?」

 と私とジュリアが目で会話してる横で、


「あの時は神妙に頷いていたが、頷いていただけか……」

 と頭を抱え、

「ダメだ。まともに言葉が通じん」

と嘆くギルバートだったが、そもそもアリスティアが行儀見習いにあがった際の自分達がそうだった自覚があまりないので、

(生まれついての王侯貴族ってみんなこんななのかー)

と いう思い(ツッコみ)に気付くことはなかった。


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