ヒロイン、してやられる
さすがに受け身の練習はしていない。
私は床に叩きつけられるのを覚悟したが____(あれ?痛くない)
目を開くと目の前にヴィオラ先生の麗しい顔があった。
「怪我はないかい?メイデン嬢」
心配げに問うヴィオラ先生の声に、
「何故こんな真似をしたっ?!」
上からの生徒会長の恫喝が重なった。
驚いて見上げると生徒会長がひとりの女生徒を拘束していた。
犯人を捕まえてくれたらしい。
「わ、私は何もっ…!」
明らかに狼狽しつつ言い逃れを計る令嬢に、
「嘘をつけ。確かに見たぞ、君がすれ違いざま巧妙にメイデン嬢を突き落したのを。それだけじゃない、君は絶妙に距離を測りメイデン嬢があの場所に差し掛かるまでは離れて張り付いていたのにあの場所に彼女が近づくと同時に歩を早めた。さりげなくしていたつもりかもしれないが側はたから見れば一目瞭然だ。計画的だな?話はゆっくり指導室で聴く」
「犯人も無事捕まったようだね。医務室に行こう」
とヴィオラ先生が改めて私を抱き上げ、周りから先程とは違う悲鳴があがる。
「せ、先生?!私怪我してませんから!」
「あの高さから落ちたんだ。気付かない場所に負ってるかもしれないだろう?」
「だとしても医務室までくらい歩けます。運んでいただくには及びません」
「ここで降ろしたら私の方が悪者になるよ」
それこそ世の乙女ゲー信者が卒倒しそうな笑みで、美形の音楽講師は言った。
かくして、私は美形の音楽講師にお姫様抱っこで医務室に運ばれる事になったのだが、
「女生徒の医務室への付き添いが男性教師というのは感心出来ませんよ先生」
犯人を拘束したままの会長から待ったがかかった。
「もちろんそんなつもりはないよ。医務室まで運んだあとは速やかに退出する。付き添いはバーネット嬢が適任だろう。 君、伝言を頼めるかな?」
素早く周囲を見回し近くにいた女生徒に伝言を託し会長の顔を窺う。
「それならば良いでしょう。こちらからもクラリス嬢を向かわせます__よろしくお願いします、先生」
会長が踵を返すと、ヴィオラ先生が何とも言えず不敵に笑った__のは、会長を凝視していた私は気が付かなかった。
(〝ヒロインが階段から突き落とされる〟って乙女ゲームには鉄板イベントだけど、あのゲームにはなかったはずなのに、何故?)
という思考に頭が占領されていたからだ。
「イベントだわ」
「やっぱりイベントなの?」
「ええ。階段から突き落とされたヒロインをオルフェ様が受け止めるっていうイベントがあったわ。でも、生徒会長が犯人を捕まえる、なんて出来事はなかったわ」
「それにその場合突き落としたのって〝悪役令嬢〟であるミリィって事になるんでしょう?」
「私が指示した取り巻きの仕業って話になってたわね、確か」
「ミリィがやる訳ない、て事は__」
「生徒会長が調べている。じき明らかになるだろう」
「そうすんなり行けばいいけど。生徒会長の存在ってイレギュラーでしょ?僕たちも大概イレギュラーな行動してるけど、それはメイデン嬢も一緒だし」
「彼女の場合は我々がイレギュラーに行動した結果だろう」
「……だといいね」
気に入らない。このところあの男と彼女はどんどん距離が近くなっている気がする。
(あいつ、教師のクセにいち女生徒に距離近過ぎなんだよ……!)
〜伝説の乙女〜……通称、〝薔薇オト〟。
あのゲームに〝階段から突き落とされる〟イベントなんてなかったはずなのに。
いきなり突き落とされてしかもいかにも乙女ゲームの攻略対象っぽい人に抱き留められてさらにお姫様抱っこで医務室に連れてかれるって、なんの公開処刑イベント?
(まさかー…知らない間にゲームが始まってる?)
いや、でも私は誰の攻略にも動いてないし、そもそも出会いイベントすら発生していないのだからそれは有り得ない。
あり得ない、はずだ。
とにかく、わかってるのは攻略対象の私に対する立ち位置が変わってきた事だ。
まず、王太子。
元々好意的ではないがやけに挑戦的な態度だったのが最近なりを潜めつつある。
アルフレッド王子__は、当初からあまり変わらない。
ただ、ヴィオラ先生に対して妙に敵愾心を抱いてるような言動が目立つ。
アレックス ・ランバート。
あんなに悪態ついてたのが嘘のように愛想よく寄ってきてはお茶に誘ってくるようになった。
そう、まるでまるでまるで乙女ゲームの攻略対象そのものみたいな態度に変化した。
__正直言って気持ち悪い。
ギルバート・クレイグ。
あんなに事あるごとにキャンキャン吠えてたのに最近会話どころか姿すら見かけない。
まあ、ありがたいけど。
生徒会長……は隠しキャラなのかそれとも単にカミラのようにゲームとは関係ない関係者なのかわからないが何故か絡みが多い。
ヴィオラ先生。
限りなく隠しキャラっぽいし、やけに親しげに寄ってこられる気がするが真意は不明。
__こんな感じかな?
で、私がじゃあどうかって言うと、特に誰の事も何とも思ってない。
甘いセリフを囁かれてもドキッとなんかしないし、話してて楽しいとか会えて嬉しいとか、何にもない。
むしろ、
ジュリアと話してる方が楽しい。
「………………私って、」
つくづくヒロイン向いてないな。
「……いつの間にかヒロインすり替わってましたーってバグとかないのかな……」
そうすりゃいらん事考えないで済むのに。
なんて事を考えていても、翌日も誰かしらやって来る日常は変えられない。
因みに突き落とした彼女も、あの三人(アルフレッドとアレックスと生徒会長)に毎日のように誘いを受けながら(実際毎日誰かしら来ているが)、ひとりに絞らず(注:私は恋人選びをしに来ているわけではない!)、その上ヴィオラ先生とも親しげに近付く(これも私から近付いた覚えはない)私に日々憎悪を募らせあの暴挙に出たという。
当人によると「殺そうとしたわけじゃない、ちょっと痛い目みて怪我でもすればいい気味と思っただけ」だそうだが、やった事は殺人未遂である。
二階からだって、いや下手したら一階のバルコニーからだって、打ち所が悪ければ死ぬぞ?
四階から一階の階段になんか落ちたらそもそも死なない方がおかしくね?
いや、別に死にたいわけじゃないけど。
謝罪も賠償もいらないから犯人さんには是非自分で落ちて試してもらいたい。
比喩でなく、目立つ彼等が私に近づいて来れば私も一緒に目立つ羽目になる。
だからこんな事が起こりうるのは立派な風評被害だ。
私じゃなくってあいつらを止めろ誰か。
「はあ……」
疲れる。
どこにいても、誰といても、周りに見られて落ち着かない。
そんな疲れた親友に目をやり、
(そりゃ見るでしょう)
とジュリアは心中で突っ込んだ。
学園一、いや国中の貴族の娘を集めたってこの子以上の子はいない。
可愛いくて胸が大きくてスタイルが良くって成績も常に上位、マナーも完璧。
これで見かけが良くても頭が残念とかだったならまあ、、正直、私も友達にならなかったかもしれないし求婚者もろくなのが寄って__いや、自分が主導権を握れる頭の弱い女じゃないとイヤだとかって奴ならいるかもしれないけど。
現状、彼女に近付いてくる男が揃いもそろって無駄にハイスペックなのは当人のせいだと思うのだ。
そしてそれに生徒会長も気付いている。
だから誘ってくるのだろうし、そもそも入学当初から彼女は目立っていた。
見た目の美しさも際立っていた入学式で入学試験の成績の優秀さから生徒会役員に指名されながらそれを断り、その後も生徒会に入らないものの気位の高い傲慢さがあるわけでない彼女に周りもどう声をかけたらいいかわからなかっただけなのだ。
(まあ、私もそのひとりだったんだけど)
そして今は言い寄ってくる相手がよりにもよってハイスペックな奴らばかりなので他の男子生徒は萎縮して寄れないだけで、言い寄ってくる男子生徒にしろ他の生徒にしろ、アリスなら選び放題だろう。
(本人、全くそんな気なさそうだけど)
いっそ誰かひとりを選んでしまえば虫除けになりそうなのだが、どうも見た限りでは「学園を出てから好きな人を見つける」のが本人にとって既定路線らしい。
言っちゃなんだがここは国内最高峰機関。魔力持ちと金持ちが詰め込まれたお見合いシステム完備といっても過言ではない。
在学中に婚約、卒業と共に結婚は珍しくない。
かくいう私もここで生活しながらなら社交だけの付き合いより、より相手を知った上で将来の伴侶を見つけられたらなー、とか思ってはいる。一応。
なのに、この子ときたら。
「もーあの方々が卒業するまで休学とか出来ないかしら?」
「他国の魔法学園に留学とか転校とか、出来ないかなー、王子さまとかがいないとこ」
「あ、あと美形の音楽講師とかも別にいなくていいから平穏に卒業できるとこー」
などなど呟く内容が他の女生徒に聞かれたら盛大に呪われそうな内容ばかりである。
「貴女ねぇ……」
「だって、」
近付きたくないんだもの。あの人たち、真意が不明なんだもの。
私の事を〝ヒロイン〟と認識してるフシはある。
その上で、態度はどちらかというと冷たい。
それでいて、学園にはどうしても留まって欲しいらしい。
ツンにも程がある(そのうえデレない)態度のくせに、じゃあ学園辞めますとか言うと全力で慰留にかかってくる。
この差は何だ?
私の存在を好ましいと感じてはいないのにこの学園にどうしてもとどめておきたい理由は何だ?
訊いてみたいが、まず本当のところは答えないだろう。
見た感じ王太子は婚約者であるミリディアナ様を大事にしている。
そのミリディアナを悪役令嬢にさせない為には、私はいない方がいい。
だがそもそもミリディアナは私をライバル視しているようには見えない。
だが 、実際ヒロインである私はそれなりの嫌がらせを受けている。
それをミリディアナ様のせいだと思った事はないけど__ん?でも、もし していなくてもミリディアナ様のせいにされる事はあるよね?
濡れ衣だけでどうこうされちゃうパターンもあれば逆にヒロインが「自作自演だろう」てざまあ返しされちゃうパターンも乙女ゲー転生には良く「あ」
(__て、ことはまさか、悪役令嬢とヒロインの立場の逆転を計ってるとか?だから学園にはいて欲しいと言いながらあんな態度?)
あり得ない話ではない。
現状、彼等と一緒にいる時何かあれば疑われるのは悪役令嬢じゃなくて私なのだ。それは今までの出来事から身に沁みている。
だとしたら__ヤバい。
さすがに(基本自分達以外の者の心の機微に疎い)彼等もそこまで悪辣な考えを持ってはいない。
いないが、これは初手の扱いを間違えた方が悪いので自業自得とも言える。
そして、その自分の考えにアリスティアは納得した。
(良かったぁ、その可能性に気付いて)
と。
ならば、尚更彼らとは距離を置かなければいけない。
下手に接触して万が一にでも、断罪イベントで断罪がえし、なんてのは御免だ。
アレックスからしてみれば目が覚めたらアリスティアに助けられたと聞かされお礼を言わなければ、と機会をうかがっていたらあの仔猫救出現場に居合わせ、その笑顔に落ちてしまっただけなのだが。
そんな事は本人は知る由もない。
そんな親友の様子を見て王子やギルバートよりはアレックスの方がマシなんじゃない?と振ってみたジュリアだったが、
「あれは単に入学以来近付かないようにしてただけよ」
そう、実際行儀見習いにあがった時いち番ひどかったのがアレックスだ。
入学以降私に近づいて来なかったのは王子達の差し金だろう、今のギルバートみたいに。
そんなことで、絆されるものか。
「そうなの?」
「そうよ」
「そういえば、〝アレックスに叱責ばかりされた〟とかなんのこと?」
「あぁ、アレは」
アリスティアは入学前の城での一件をひと通り話した。
聞かされたジュリアは目を剥いて、
(はあ?この子に雑用させまくって重い物運んでる最中に呼び止めては嫌味言いまくったあ?何様のつもりなのアイツ。次会ったら同じ真似、じゃ生ぬるいわねどうしてやろうかしら?)
とジュリアを筆頭としたアリスティアへのガードは一段と固くなったのは言うまでもない。
そしてもちろん、アリスティアは冬期休暇前にあるダンスパーティーにも「姉が倒れましたので終業式前に領地に戻らせていただきます」と断って開催数日前に寮を発った。
(あの時王妃様からドレスとか宝石とか贈られたりしなくて良かった〜)
実家に戻ったアリスティアは部屋に入って息を吐いた。
(されてたら冬のパーティーをバックれるの難しくなるとこだったわ。危ない、危ない)
元々ゲーム内において(現実でもそれなりに)大きなイベントは回避するつもりで来てるのだ。
今回は「私どなたとも踊りたくないんですの。毎回お父様に倒れていただくわけに参りませんから、申し訳ありませんがお姉様、ちょっとだけ病気になって下さいませ」とイリーナ姉様にお願いしておいたのだ。
姉はもちろん父含め家族全員、というかメイデン家全員で頷いて全力でバックアップしてくれたので今回も無事イベント回避する事が出来た。
王太子達はまたも頭を抱えていたが知った事ではない。
あの人たちと関わらずにすむには学園を辞すのが一番いい。
だが、王妃様からの謝罪を受け「くれぐれもよろしく」的な事言われた後すぐにはよろしくない。
何より今はなんだか生徒会長が……接触過多なのだ。
週二〜三ペースでお昼に誘うとかおかしいだろ、幼馴染じゃあるまいし。
その分一年生の役員からの接触は減っているので防波堤になってると言えなくもないが、会長との話は主に役員への(あからさまでないだけで)勧誘なのだ。
ストーリー通りなら、次に生徒会長に指名されるのは王太子だ。
それが別の誰かになったとしても、アルフレッドかギルバートかアレックスか__要するに私的には大差ない、ありがたくない事に。
生徒会長は是非ジュリアも一緒に、と言っているがそれではいざという時ジュリアを巻き込んでしまう。
それはだめ。
だから、私が学園を去るのが一番いい。
そう思ったのでジュリアには改めて詳しく話した。
行儀見習いにあがった際何があったのか、それを知った上で彼らが何をしたか。
もちろん厳重に口止めをした上でだが、そもそもこの話は会長もクラリス様もマダム・ラッセルも知っているのだしジュリアも秘密は守れる人なので問題ないだろう。
聞いてる最中のジュリアが纏う雰囲気がだんだん物騒になっていってなんか怖かったけど、ひと通り話し終わると私は出来るだけさりげなく繋げた。
「だから、私はあの方たちを信用できないの。生徒会入りは断り続けているし今は会長が抑えてくれているけど二年生になって彼らが中心になったら何があるかわからない。(王妃様から謝罪を受けてる手前)今すぐは無理でも、会長が卒業して、少ししてからなら良いと思うから……そうしたら私は他国の魔法学園に、編入が無理なら入学からでも、その、入り直そうと思うの。怖いのよ、何か企んでいそうで。もちろんジュリアとは離れたくないけれど__「わかった」…え?」
てっきり反対するかと思ったジュリアの反応に私は目を丸くする。
「貴女がアイツらと関わりたくないのはよーーーくわかった。貴女が身の危険を感じてそう行動しようと思うなら止めない」
「ほ、ほんとに?」
「た だ し、ひとつ条件があるわ。その転入先を必ず私に事前に知らせること、私との連絡を絶やさないこと」
「?」
それはもちろん他国からだって便りは送るつもりだったが__事前に知らせる??
「ええ。時期をずらして私もその学園に転校するから」
「えぇっ?!」
「私は在学中も卒業後も、貴女の親友をやめるつもりはないのよ?」
「ジュリア……」
でも、バーネット侯爵家的にはそれ不味いんじゃ?
「まあ、確かにこの学園にいる間に良い婚約者見繕うつもりも多少はあったけど。別に、この学園じゃなくたっていいワケだし」
「ほ、ほんとに?」
正直、それは嬉しい。嬉しいがしかし、それはジュリアの運命を狂わすことにならないか?
「私がそう決めてるの。卒業しても、互いが結婚しても、貴女とは親友でいるつもりだから」
そう宣言して笑う顔は、なんだか凄くカッコ良くて。
(ああ、ジュリアが男だったら絶対お嫁さんにしてもらうのに)
ジュリアと意思疎通出来てからはかなり楽で、ならば二年生になって具体的にいつ頃にするか、早い方がいい。
ならいっそ二年生になってすぐから塞ぎ込んで休みがちになってはどうか?とか相談し始めた。
同時に、会長からの誘いも極力避けるように努めた。
もちろん避けきれるわけではないが当初よりは減った。
会長も気付いてるだろう、苦笑しつつ追求する事はなく後期も終わりに近づいた頃、
「メイデン嬢、私の卒業式には見送ってくれるんだろう?」
と何やら心配そうに言ってきたので、
「もちろんです。先輩がたが憂いなく卒業出来るよう見送らせていただきます」
と笑顔で返した。
卒業する二年生を見送るのは一年生全員の義務だ。二年制なのだから当然だ。
__そう、思っていたのだが。
卒業式の終盤、生徒代表であるアッシュバルトとミリディアナから花束を受け取った会長はお礼の言葉を述べ、続いて時期生徒会役員の指名に入った。
恒例の流れである。
だが、その内容が恒例ではなかった。
「次期生徒会長にはアッシュバルト・L、会長補佐にミリディアナ・シュタイン。副会長ギルバート・クレイグ、補佐にカミラ・カルディ。書記にアレックス・ランバート、補佐にアリスティア・メイデン、会計アルフレッド・L、補佐にジュリア・バーネット」
と会長は宣ったのだ。
(__はあぁ?!)
現役員と違い、壇上にすらいない私とジュリアは顔を見合わせる。
「知ってた?」
「んなワケない」
と目で会話しながら。
そんな私達にお構いなく周囲は拍手に包まれ盛り上がり、私たちは壇上に促される。
壇上にあがった(×あげさせられた)私は小さな声で(どうせ盛り上がってる会場にはきこえない)、
「会長っ、どういう……!」
「あゝ、君達が正式に〝諾〟と言ってないのはわかっているが聡明な君たちならわかるだろう?我々が卒業した後の次期生徒会は人員不足だ。身分に関わらず心を開ける人材にうってつけの君たちに是非頼みたいと思ってね__言ってくれたろう?〝先輩がたが憂いなく卒業出来るよう見送らせていただきます〟と」
「「……………」」
やられた。
が、
「っそれは単にいち後輩として です!私もアリスも、そんな事は一切考えてもいませんでした!」
私が何か言う前に、ジュリアが食ってかかるが会長はどこ吹く風だ。
「もちろん、君たちがどうしても嫌だと言うなら訂正するよ。無理強いはしない」
とくえない笑みで告げてくる。
実際、こんな盛り上がった場に水は差せない。
それを見越しての行動だろう。
これはどう断っても角が立つ__いや、断りようがない。
だが、私も一応の抵抗を試みる。
「全く経験なしの私達がいきなり役職付き指名など受けたら、他の補佐の方たちにどう思われるかは考えて下さらなかったのですか?」
静かな私の非難にも会長は動じない。
「問題ないよ。〝私が次期役員に誰を任じようと一切口出し しない〟事は現役員全員が了承済みだ。もしこの上で君達を非難するような事があれば即ち私への翻意と受け取り即座に対処すると伝えてある。私は卒業後もこの学園とは敷地伝いの魔法院研究学科に籍を置く事になっているから何かあればすぐに言ってくるといい」
つまり、卒業後も目も届くし口も出せる場所にいるということか。
((__誰が))と私も思ったがジュリアも思ったのだと思う。
「会長ともあろう方が反則ぎりぎりどころか反則ど真ん中のテを使って来るなんて、、」
と真っ向非難し、
「ですわね。私達の認識が間違っていたようですわ」
私も乗っかった。
「あ、貴女たち……!」
私達の毒に流石にミリディアナ様が止めに入るが、
「あー…義姉…、じゃないミリィ、大丈夫だから」
「え?」
「私にそう言える君達だからこそ安心して任せられる。あとを頼んだよ?」
お断りです、の代わりに、
「卒業おめでとうございます、センパイ」
ジュリアが棒読みで言い踵を返すと、
「会長お疲れ様でした。(二度と会いたくないので)研究棟に行く事はないと思いますが(人格者のふりしてふざけた真似しやがってこの野郎)、どーぞ研究に勤しんで下さいませ」
と私も棒読みして後に続いた。
見ていなかったが会長はそれをとてもイイ笑みで見送っていたらしい。
そしてその日会う人全員に、
「役員入りおめでとうございます」
「お二人ともさすがですわ!」
などなど祝い(呪いの間違いでは?)の言葉を述べられた。
中でも多かったのは、
「お二人が入ってくれて心強いです」
というものだ。
「「…………」」
私とジュリアは何とも言えない顔を見合わせた。
観念するしかないのはわかっていても、感情的に割りきれるものでもない。
頼みの綱としてマダム・ラッセルにも事と次第を報告し助力を乞うてはみたが、「確かに褒められたやり方ではありませんし貴女がたには拒否する権利があります。ですが、私個人としても貴女がたのような人材は生徒会に必要と感じています。今の生徒会の中心には高い身分の者しかいませんから、生徒たちが声を上げづらいのも確かです」
と言われてしまった。
腹をくくるしかなさそうだ__会長、呪って良いですか?
Lはミドルネームの頭文字です。この国の王子には伝統的に同じミドルネームが付けられていますが先達への敬意を表する意味合いなので発音はせず、が慣例と化しています。