やっぱりヒロインは狙われやすい
「はあ……」
授業の合間、ジュリアしか側にいない状態で私は盛大に溜息をついた。
生徒会長とのお昼は、主に生徒会の活動内容説明に終始したと言える。
勧誘こそしてこなかったが、良ければジュリアと一緒に生徒会入りしてはどうか?という主旨だったのだと思う。
それきりかと思ったのだが以降、週イチの割合で会長はお昼やお茶に誘いに来る。勿論二人きりではないのだが。
その合間を縫うようにしてアルフレッドやアレックスも誘って来る。
生徒会長に関してはあまり無下にも出来ないので三回に一回くらいはご一緒しているがこの二人に関しては全てお断りしている。
そして案の定、就任と共に女生徒達から絶大な支持を受けているヴィオラ先生は何故か行く先々に現れる。
今日も図書室で本を探している所に声をかけられた。
「やあメイデン嬢。探し物かい?」
「はい。次の授業の参考になる資料を探しに」
「ならば私も手伝おう」
「いえ、それは、」
対外的に色々マズいのでは、と断りを発する前に、
「ひとりの生徒に過剰な接触は感心しませんよヴィオラ先生」
「アルフレッド、授業の下準備の手伝いをしようとしただけだが?」
「彼女は手伝いなど必要としてないし必要なら自分の友人に頼むでしょう」
「やれやれ、頭が固いね。今たまたま近くにいる私がやるのがいちばん手っ取り早いだろう?」
「たまたま__ねぇ、どうもいち教師としては距離が近過ぎるような気がしますが?ただでさえ先生は女生徒達から熱視線を浴びられているのですから特定の生徒と親しげになさるのは控えた方がよろしいかと?そもそも先生が担当なさってる授業ではないでしょう」
「生徒会役員でもある王子殿下のお達しとあらば仕方ありませんね。ではまた、金の姫君」
憤るでなく不満を顔に出すでもなく、まるでお伽話の騎士のような礼を取って恭しく去るヴィオラ先生に沢山の視線がふりかかる。
(一見おっとり動いてるみたいに見えるけど、隙がない)
アリスティアはぼんやりそんなことを思った。
こんな風に、ヴィオラ先生とエンカウントするとかなりの確率でアルフレッドの牽制が入り、ヴィオラ先生は大げさに嘆いて去っていく。
いくら断ってもアレックスもやたら懐いてくるし私にはわけがわからない。
おかしい。
ゲームの開始は回避した筈だし、互いに好感度の上昇があるような何かも起こってはいないのに。
(なんで乙女ゲームの逆ハールートみたいになってるの?いや、王太子とギルバート、婚約者持ちは来てないからある意味間違ってないのか??
生徒会長が隠しキャラなのかと思ったけど、もうすぐ卒業だし口説かれているわけではないから違う……よね?
ヴィオラ先生も隠しキャラっぽいけど…、いやむしろ乙女ゲームの王道中の王道っぽい人だけど。甘い台詞を吐かれたからといってドキッとするとかは別にないし)
むしろ、彼等の誰かひとりでも側に来ると注目の的なので来ないで欲しいのだが___そんな私の心中をわかっているのか、それとも敢えて無視しているのか、
「ごめんね、邪魔して?」
とデフォルト笑顔で言ってくるアルフレッドに、
「いえ。元々手伝ってもらうつもりではなかったですから」
と返すと、
「相変わらずだね」
と苦笑して去っていく。
〝相変わらず〟なんて台詞が出る程親しくなった覚えはない。
そう去るアルフレッドの背中に心中で毒づいた。
そんな私の胸中に関係なく(主に彼等からの接触過多のせいで)、
「アリスティア様は最近アレックス様と親しくされている」
「アルフレッド殿下との身分違いの想いに身を焦がしている」
「ヴィオラ先生と生徒会長とを天秤に掛けている」
等々あらぬ嫌疑(?)をかけられ始めた私だが、一番有力なのが
「ヴィオラ先生とアリスティア様はこの学園の薔薇の庭園で互いにひと目で恋に落ちたが教師と生徒という立場ゆえ互いに想いをひた隠しにしておられる」
というもので。
いやいや、あり得ないから!
「でも、アリスティア様は模範生よ?先生とそんな関係になるなんてあり得ないわ」
「まあ、ヴィオラ先生は教師といっても二十四歳だとおっしゃられていたわよ?あり得ない話ではないわ」
「確かに。それに、並ぶと とてもお似合いだし……」
「そう!そうなのよ!ヴィオラ先生が初めてこの学園に来た日、私も見ていたのだけどまるで一枚の絵画のようだったわ!」
生徒のひとりがうっとりとして言うと、
「私も見たかった……」
「私も」
「私だって!」
「ヴィオラ先生は本当にお美しいものね。確かに隣に並ぶならアリスティア様くらいでないとお似合いになりませんわ」
「そうよ!ミリディアナ様やカミラ様もお美しいけれど、ご婚約者がいらっしゃるし」
「そうよね。決めた!私、お二人を応援するわ」
なんて方向にいった話は知らなかったが、事件は起こった。
移動中、結構な高さの階段から突き落とされたのだ。
すれ違いざまとん、と押された体は手すりを乗り越え、二つ下のの階段に向かって落下した。
(ここ四階__!!)
慌てて浮遊魔法を使おうとしたが落下速度の方が早い。
予測不可能だったのだから当然だ。
私は声をあげる間も無く落ちたが、周囲からは悲鳴があがった。