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新たなる攻略対象

学園の至るところに配置されている庭園のひとつであり、小さいけれど色とりどりの薔薇の茂みがちょっとした迷路みたいになっている一画に私は隠れていた。

現在進行形でちょっと面倒な人たちに絡まれそうになっていたからだ。


やがて無事振り切ったようだ、とそこからひょこりと顔を出し、校舎に向かって歩きだしてすぐに、

「おや?天使のいる天界の庭に迷い込んでしまったようだ__私はいつ死んだのかな」

「っ?!」

背後からの声にびっくりして振り向くと、銀にきらきらした青を混ぜたような長い髪を後ろで緩く束ねた凄い美青年が立っていた。

年齢は二十〜二十五くらいだろうか?

だが、その銀の混ざった青の瞳の輝きはどこか少年じみた雰囲気をまとっている。


__誰だろう?見た事ない。

この学園の関係者ならひと通り覚えているはずなのに。

見上げたまま戸惑っていると、

「驚かせてしまったようで申し訳ない。私はオルフェレウス・ヴィオラ。本日よりこの学園の音楽の臨時講師として着任致しました」

(あゝ、なるほど)

「失礼致しました、講師の先生とは知らずに……」

 慌てて礼を取ると、

「ああいえ こちらこそいきなり声をかけて驚かせてしまって申し訳ない。出来れば教員室までの案内を頼めるかな?薔薇に誘われるまま歩いていたら迷ってしまってね。この学園はとても広いから」

照れたように言う様が、それはそれは絵になる美形講師になんだか目がちかちかするのは気のせいだろうか。


「……そうでしたか」

薔薇に誘われたって、随分詩的な表現だ。見た目も吟遊詩人ぽいし。

「そうしたらここの薔薇の精かと見紛う天使がいたものだから驚きました」

(ええと、)

とりあえずノーコメントを通そうと、

「もうすぐ授業が始まりますので、ご案内致しますね。こちらですわ」

アリスティアは先に先に立って歩き出す。

背後についてきながら青年が問う。

「ありがとう。助かるよ__きみ、名前は?」

「一年生のアリスティア・メイデンと申します」

「アリスティア……君は王族か?」

「いいえ、父は男爵です。王家とは何の関わりもございません」

「すまない、不躾すぎたね。そのー…、どこの姫君かと思ったものだから」

「私は姫君などではありません」

 __なるつもりもない。


 


だが、そんな突っ込みを内包した会話は周囲に聞こえるはずもなく。

二人の出逢いは(はたから見れば)まるで一枚の絵のようだった(当の本人は側から見れないのでわかりようがなかったが)。

校舎内の窓からその様子をたまたま目にした者はは皆息をのんだ。


なかでも窓から身を乗り出すようにして食い入るように見つめていた女生徒の一人はその様子を頰を赤らめて見ていたがやがてはっとしたように青くなると 、「大変!皆に知らせなきゃ」と走り出した。




やたらきらきらした美形の音楽講師を教員室に送り届け、ひとりで教室に向かいながら、

(あの言動とかシチュエーションとか、まるで乙女ゲームみたいだったな?物凄い美形、きらきらしたオーラ、気障な言動。しかもその仕草がいちいち嵌まっていて違和感がない__まさか、隠しキャラとか?)


だったとしても私にはわからない。

だって、前世の私はこのゲームオールクリアはしてないのだ。

よって、全ルートをクリアしたら出てくる隠しキャラ の情報は持っていない。

攻略サイトなり検索していれば名前だけでもわかったかもしれないが、それすらしていない。

というか双子の王子を攻略(それすらざっと通した感じで全スチルクリアとかまでやってなかった)した時点で満足してしまい、それ以降は他に興味が移ってしまったのだ。

プレイした記憶はあっても、そんなキャラの存在は知りようがなかったのだ。




そして今この世界にいる中で誰よりもそのゲームを熱烈にやり込んでいたのは、先程の光景を見るなり走りだし、バタンと目当てのドアに飛び込んだ彼女だった。


「どうしよう?!隠しキャラが来たわ!あのキャラはヒロインが全員を攻略しないと出て来ないはずなのに!もしかしてヒロインが誰も攻略しようとしないからゲーム補正がかかったのかしら?いえ、まさか知らないうちに皆んな落とされて…?!」

入ってくるなりいきなりまくしたてた上に己の言った言葉で青くなるミリディアナに突っ込む間もなく、しかも言われた内容が内容だったので、王太子は鉛を飲んだような顔になった。

「ちょっとミリィ、それは流石にアッシュが気の毒よ?」

「はっ…!ごめんなさい、私ったらつい、」

慌てて赤らめた顔に手を当てて謝罪する様子は普段(一般に知られているいかにもな公爵令嬢)の姿と違い可愛いらしい。


「その美形って音楽の臨時講師のヴィオラ先生よね?」

「そう!しかもこのキャラは全対象を攻略するだけでなく、加えてランダム発生イベントの全スチルまでフルコンプしなければ出て来ないレアキャラなの!その美しい声にささやかれようものなら一瞬で恋に落ち、その声と竪琴で一曲捧げられようものなら美の女神でさえ恋に落ちてしまうだろう美声と美貌を兼ね備えた美青年!身分を隠し各国を吟遊詩人のように渡り歩いているけれど実はとある国の高貴な方の落とし胤で自国では公爵位を持っているのですわ!」

「そ、そうなのか……」

婚約者の余りの熱量に引き気味になりながら言う。

「落とし胤、か。講師としてこの国に潜り込んできたのか?」

「まあ、ヴィオラ様は地位や権力には興味をお持ちではないですわ。自国での権力闘争に巻き込まれるのを厭んでお忍びで各国を放浪されているのです。でも、ヒロインに出会い一生流浪の身でも構わない、と思っていた彼の考えに異変が生じるのです。ヒロインを幸せにしたいと思い身分を明かし、最後ヒロインに求婚するのですわ」

「え と、それ、もし彼女が受けたらどーなるの?」

こちらも珍しく引きながら訊ねるアルフレッドにミリディアナは食い気味に嬉々として続けた。

「もちろん!ヒロインは頬を染めながら“貴方について参ります“とオルフェレウス様の手を取って二人でオルフェ様の故郷に帰るのです!オルフェ様は公爵として、ヒロインは公爵夫人として仲睦まじく暮らすのですわ!ハッピーエンドです!しかもしかも、オルフェレウス ルートをフルコンプすると見られるスペシャル映像がとてつもなく素晴らしいのです!『私の我儘で貴女を祖国から引き離してしまった。これからは貴女だけの為に奏で、歌うと誓おう』とオルフェ様が竪琴を手に歌う姿もさる事ながら歌声も素晴らしいのですわ!!美しいテノールでありながらその容姿に見合った色気がありたまらない、とネットでは〝こっちが真のメインルート〟と言わしめる程でっ……!」

ときめき乙女モードが止まらないミリディアナに対し、

「__つまり、あの音楽講師と彼女がくっついたら他国にお嫁に行っちゃう、て事?それまずいんじゃない?」

「はっ!そうでしたわ!」

「義姉上、次期王太子妃としてそこは引き離すべきでしょう、何喜んじゃってるんですか」

幼馴染であり婚約者の弟でもあるアルフレッドはプライベートではミリディアナを〝義姉上〟と呼ぶ。ミ

リディアナも「まぁ殿下ったら……!」と困りつつ喜んでいるのがわかるので、周囲も訂正しない。


「いや、ほんとに。〝ヒロインが他国の者と恋をして手に手を取って国外に嫁いでしまう〟なんて事態を嬉々として話してちゃダメでしょ?メイデン嬢にはここにいてもらわなきゃいけないんだから」

「も、申し訳ありません。余りにもさっきの光景があのスチルそのままだったので、私ったら。彼女にはこの国に留まってもらわないといけないのに!」

「そうだな。最良は学園内、無理ならば王都内、最低でもこの国内にいてもらわねば困る」

「今回は母上達にも出張ってもらって何とかなったけど、次もこんなワケにはいかないんだから兄上もしっかりしてよ?実際〝その時〟が来たら僕達は彼女の力を借りて危機を乗り切らなきゃいけないんだから」

「?母上にあそこまで言われたのだから、それを翻すようなことはないだろう」

「甘い。そもそもあの時彼女は〝勿体ないおおせでございます〟て言っただけで否とも是とも言ってない。あの後次はないとは言ってたけどね?今度はいちいち話を通さず先に引っ越してから退学届けだけ送って来るつもりかもよ?あの娘の決断力と行動力を舐めちゃダメだ、同じ手は通じない」

「「っ!」」

基本ヒロインに対してはアッシュバルトもギルバートも全く上手くやれていないだけに、言い返す言葉がない。

「とにかく、あの音楽講師とアリスちゃんが親しくならないように見張らないとね……」




悪役令嬢があまり喋らないのはこういう理由でした(笑)元からこういう人です。

前世の記憶がある/なしに関わらず情報量には差があります。

お察しの通り、子猫救出イベントは

ミリディアナ◯プレイ済み

アリスティア×未プレイ(スキップしたので見てない)て感じです

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