無礼者に引導を
遅くなりました、0時に間に合わせるのが難しくなってきました&直し切れてなかったらすみませんm(_ _)m
一階ホールに出るとマダム・ラッセルと生徒会長とクラリス様、それにカミラとミリィがいた。
?
なんだこの面子?怪訝そうな私に生徒会長が口を開く。
「すまないな、こんな時間(夜にしては早いが確かに寮の門限は過ぎている)に。本来は呼びつけるべきではないのだが」
「全くです」
すまなそうな生徒会長に、マダム・ラッセルは容赦なく追い打ちをかける。
(ほんとに公平な先生だなぁ……けど、国王陛下と王妃殿下から呼び出し?なんで??)
「心配いらない。国王陛下におかれては息子である王太子の命を救ってくれた礼を述べたいとの事だ」
「私も特例の生徒夜間外出の付き添いとして行くので問題ありません」
「はぁ……?」
それなら、別に今夜じゃなくていいと思うのだが。
「今夜を逃すと君は学園を去ってしまうかもしれないという懸念からだろう」
「…………」
(なるほど。でもってもうそんなに詳しく国王に報告いってるのか。まあコトは王太子の襲撃なんだから当然と言えなくもないけど、私を城に呼ぶ事なくない?封蝋付の書状でも特殊伝魔法でも送ればいいんじゃ?)
とか思う私にお構いなく、
「__と、言うわけで私とミリィが貴女に付き添って行くことになったの。生徒会長は身分上は問題ないけど、男性だから馬車に同乗していくわけにいかないから」あゝクラリス様は貴族じゃないから無理って事か。
そりゃあ巻き込まずに済むにこした事ないけど。
一年生徒会役員絡みは面倒な気しかしないんだよなぁ。そもそも国王陛下の勅使って拒否権ないんだけど。
やっぱりこっそりお父様に伝魔法送っとくんだった、ジュリアには同じ学園内だし送っといた(“なんか国王陛下から呼び出しだって“とだけ、ミセス・ナタリーがノックして来た時)けど。
そんな訳で、やたら豪奢な馬車に揺られてやって来ました、来たくもないお城に。遠目から、いや近くで見ても綺麗なんだけどさ?じゃあ住んでみたいかって言われたら「いや、別に」と答える。
無駄にでかくて広くて不便そうというか。
前世が狭い方が落ち着く日本人だからか、内実を知って幻滅しているからなのか、自分ではよくわからないけれど。
到着後、「こちらへ」と恭しく連れてこられた謁見の間。
マダム・ラッセルは控室で待つと別れ、ミリィとカミラは私と同時に入室し、既に部屋に待機していた王子ら三人と並んだ。
彼らは窓際に一列に立ってるので、私だけが部屋の中央に取り残される形だ。
私、制服だけどいいのかな?
まあ、室内の端に立ってる五人も制服だしいいのか、寮から来たから当たり前だし。
謁見の間と言っても広さはあまりない。
謁見の間といっても幾つもあって広さや用途も様々。
大中小とすればここは小、秘密の会合用ってとこだ。
正式な謁見じゃないし妥当なとこだろう、無駄に広くても声届かなそうだし。
当の国王夫妻はまだ来てないけど。
最上の身分なんだから当たり前なんだけど、私がお礼して欲しい訳じゃないんですからね?
「国王陛下、並びに王妃殿下のお越しです」
私はすぐに礼を取る。
端に立っている彼らも同様だ。
「皆、顔をあげなさい」
王妃様の声が優美に響く。
顔をあげると優しげに微笑む美しい女性と隣の国王陛下__どちらも初対面だし美形だが__双子の王子のストロベリーブロンドの髪とエメラルドの瞳の色は王妃から受け継いだとひと目でわかる。全く同じ色だ。
「良く来てくれましたね メイデン男爵令嬢……まあっ!あ いえ、こんな時間に呼びつけてごめんなさいね?何しろ急な大事だったものだから__あなた」
ちら、と王妃が目で促すと横の国王が、
「うむ。我が息子達を救ってくれて礼を言う」
「畏れ多いことでございます」
とまた礼を取る。
これ繰り返す訳じゃないよね?これじゃ礼されてんだかしてんだかわからない。
そう思ったのが通じたわけではなかろうが妃殿下は合理的な方らしい。
「ここから先はいちいち頭を下げなくていいわ。王子二人とアレックスを良く助けてくれました。ありがとう、メイデン嬢。それに、貴女には色々やらかしているみたいね?その件についても謝罪させて頂戴、ごめんなさいね。アッシュは物事を固く考えすぎるとこがあるし、アルフはその辺さらっと流せるけれど流しすぎなところがあるからかしら、こんな可愛い子に……」
「?」
ハァッとため息を吐かれる王妃様は大変美しいが、何の話だ?
「あぁ、変な意味じゃないのよ?話に聞く限りではとても勇敢なお嬢さんて印象だったから。まさかこんな天使みたいなご令嬢とは思わなかったのよ。__我が子ながら嘆かわしいわ」
「??」
最後の異様に低くなったひと言だけ聞き取れなかったが、双子の王子が固まったのはわかった。
「どうかこの先も同級生として仲良くしてやって頂戴」
「嫌です」と言いたいけど、
「勿体ないおおせでございます、王妃殿下」
頭を下げなくていい、と言われたので顔を上げたまま言う。
微笑みを浮かべるまでは無理だし多少ひきつってはいても緊張しているからで許される範囲に収めることはできただろう。たぶん。
「__成る程ねぇ」
不敵に微笑む王妃様に何か異様なものを感じる……のは私だけではないらしい、慣れてる筈の五人も固まってるから。
でも、何故か視線は私に集中している。
まさかまだ疑われてる?訝しげに見返す私を満足そうに見やって、
「ふふっ、ごめんなさいじろじろ見ちゃって。あの蛇は貴女も気付いてるでしょうけどキメラだったわ、送りこんだ黒幕もじき特定されるでしょう」
そっか、なら良かった。
だが、
「母上!そこまではっ…、」咎めるように王太子が口を挟む。
私には言うつもりじゃなかったって事か?
「お黙りなさい。彼女も当事者で被害者なのですよ?」
「っそれは__、」
「心配しなくても彼女は触れ回ったりしないでしょう。ねえ?」
「はい。勿論でございます」
私ははっきりと妃殿下の目を見て答える。
泳がせたら疑われそうだからだ。
「それで、王家としては今回のお礼として何か貴女に褒美をとらせたいのだけど、何か欲しい物はない?」
との問いに、
「いえ。此度のお言葉だけで充分に存じます」
個人的にこの人たちから何か賜りたくはない、高くつきそうだし。
「ここまで呼びつけておいてそういうわけにもいかないでしょう」
言われてみればそれもそうだが、
「では私でなく父に賜わりたく存じます」
領民や父男爵に有利になるならば、それも良いだろう。
「貴女個人にはないの?ドレスとか宝石とか?」
「そういうおねだりはいずれ愛する殿方が出来た時にとっておこうと思っております」
私は僅かに微笑んで答えた。
つまり「今愛しく想う殿方はここにおりません」とにこやかに告げるアリスティアの様子にちょっとだけ、あくまでちょっとだけ、ショックを受ける攻略対象達だった。
「ふふ、わかったわ。メイデン男爵に改めて取らせる事に致しましょう。今夜は来てくれてありがとう」
「とんでもございません。お会い出来て光栄でした、国王陛下、並びに王妃殿下」
そうして退出する国王夫妻を見送って、その場はお開きになった。
緊張が解けて軽く息を吐いたが、そのまま帰らせてくれるわけではないらしく、王子たち五人と別室に案内され、
「__今回はすまなかった」王太子が頭を下げてきた。
今回"は"?
"も"じゃなくて?
なんてツッこみは隠して無言のままその顔を見返す。
「君がいてくれて助かった。感謝している__ありがとう」
「私からもお礼を。殿下の命を救ってくれてありがとう」
とミリディアナが続く。
「いち国民として当然の事をしたまでです。まだ何かお話がおありなのでしょうか?」
「っメイデン嬢!その態度はないだろう、こんな時間にわざわざ城に招かれておきながら__」
それは、
「うるさいです、この似非騎士」
こっちのセリフだっての!!
「え、似非騎士だと?」
「ええ。初めて会った時からの貴方の態度は嫌味・暴言・脅迫じみた忠誠の促しばかり、紳士的な態度とはほど遠く、騎士道精神の欠けらも感じられない。貴方にとって私は淑女ではないからこその態度だったとしてもありえません、私から見た貴方はただの躾のなってない狂犬です!」
「なっ……」
「前々から思ってましたがいい加減、その話してる間に割り込む癖を直したらどうですかっ!そんなことではいずれ主あるじである殿下の品性まで疑われ、部下の方にもあの上司はどうせ最後まで言わせてもくれずまともに聴く耳を持たない方だからと、本来真っ先にされるべき報告もされなくなりますわよっ?!」
「っ!!」
「そもそも言いたい事があるならいちいち横から突っ込んで来るのでなく、正面から一人で来られませ!それともそんな事も貴方はひとりではできませんの?本っ当に、見掛け倒しですわね!」
妃の座も、逆ハーも狙ってない私が何故こんな扱いをされなければいけない?
卒業したら、ギルドに入る。
放校でも退学でも、この国には留まらない__こんな奴らの下はごめんだ。
「何を勘違いされているか知りませんがお城に呼ばれただけで喜ぶ女の子がいるわけないでしょう、女の子は紳士的で優しい騎士や王子様にお姫様扱いされるからこそ嬉しい気持ちにもなったりするんです、こんな時間に呼び出されてこんな扱い受けて有り難みを感じるとでも?!勘違いも甚だしいですわ、こんな事も言われないとわからないくせに女性を馬鹿にするのもいい加減にしてくださいませ!ええ本当に!二度と私に話しかけないで、そしてできれば二度とその顔も見せないでいてくださるとありがたいですわ。今度同じ事をされたなら、私二度と貴方と顔を合わさずに済むように他国に移住しますからそのおつもりで!」
ギルドのトップはギルドマスターだ。
それも各国にあり、ランクアップするにつれ出入り自由な国も増える。
別の国にだって、実力で行けるようになればいい。
そうすれば、国の許可なんて要らないのだ。
私はこの人たちを主として仕えるつもりなんてない。
言うだけ言ったらちょっとすっきりした。
固まったギルバートを前に、
「帰ります」
とさっさと踵を返した。
黙ってそのやり取りを見ていた四人が一斉に反応する。
「私も寮に戻るわ。行きましょうミリィ」
「ッカミラ、でも__、」
「彼女を連れ出した以上、無事に寮に帰す義務が私達にはあるのよ。マダム・ラッセルも寮監の先生もお待ちだわ」
カミラはさっさとミリィの手を取ってアリスティアの後に続く。
ギルバートの方は見なかった。
「この件については僕も彼女に賛成だ。僕がまだちゃんとお礼言えてないのに……仕える相手を敬うのは悪いことじゃない。でも、彼女の言う通り自分の忠誠を誰彼構わず強制するのは違う」
アルフレッドが冷たく行ってその場を後にする。
棒と立ったまま動かないギルバートに、
「お前が私、いや王家に忠誠を誓っていることはありがたく思うよ。だが、何事にもやりすぎは禁物だ。尤も、俺も他人の事は言えないが」
と王太子が労わるように、ぽんと肩を叩いた。
そうした蛇騒ぎがあってヒロインとの距離がますます広がった数日後、彼は何やら人が集まっているのに気付く。
場所は中庭だ。そしてどうやら中心にいるのは当の彼女らしい。
__また何かあったのか__?
“ヒロイン“という存在には、とにかくイベントという名のハプニングがついて回る物らしい。
あちらに気取られないよう、そっと近づいて物影から覗きこんだ。
木の上で子猫が降りられなくなっており、アリスティアはじめ何人かの生徒がそれを助けようとしているらしい。
「どこから迷いこんだのかしら?」
「先生を呼んだ方が……」
という生徒たちに対し、
「それでは下での騒ぎに驚いて余計に上にいってしまう可能性の方が高いわ。それに、」
何か考えるようにアリスティアが言い、
「じゃあどうするの?」
とジュリアが訊ねると、
「ちょっと行ってくる」
と、捲れあがらないようにスカートの裾を抑え、ふわりと体が浮き上がった。
見ていた彼は驚いた。
__無詠唱で自身を浮かせる事が出来るのか!
アリスティアはあっさりと高い木の上まで到達し、
「はい 怖くないからねー?落ちついて?ね?」
いきなり目の前に浮かびあがってきた人間を威嚇する猫に笑顔で手を伸ばす。
そのふんわりと微笑うさまに猫も助けてくれる相手とわかったのか威嚇をやめおとなしくなる。
そうしてその猫を柔らかく腕に抱きアリスティアは木の下に降りてきた。
ジュリアも目をぱちぱちさせているし、(覗き見含め)周りの生徒も言わずもがな。
浮遊魔法、それも軽い物__生き物となれば、尚更だ__を、持ち上げる事はできても正確に思った通りの場所に降ろせるレベルの魔法使いは珍しい。
しかも、無詠唱であっさりやる魔法使いなんて見たことがない、という顔だ。
だが、これだけ自在に使えるなら。
案の定、ジュリアが怪訝そうに、
「猫だけ降ろせば良かったんじゃないの?」
「魔力持ちの猫ちゃんじゃ反発されるかもしれないじゃない」
確かに、魔力のある動物でしかも自覚がない場合身の危険を感じれば知らず魔力で反発する。
反発して、周りに魔力の残滓が広がったらこの場にいる全員が危険だ。
そこまで瞬時に見越して行動したのだ。
ジュリアは呆れと感心が入り混じった瞳で溜息を吐いた。
因みに物陰から覗き見ている人間も同じ顔をしていた。
「この猫、抱いてみてわかったけどやっぱり強い魔力を持っているわ。だからここに入って来れたんじゃないかしら?」
「そうなの?私にはわからないけれど……」
「うん。私も見ただけでは微かにしかわからなかったけど、先祖に魔獣の血でも混じってるのかしら?」
長く続いた魔獣と魔獣でない生物の自然交配の結果、こうした動物は少なくない。そして特に害がない限り人間側も何かするわけでもない。
見た目は普通の動物と変わらないし魔力の遺伝率は低い。
「それにしても、」
「……可愛いわよねぇ」
ジュリアと私は顔を見合わせた。
「寮監の先生に、お願いしてみましょうか」
寮生のペットは禁止だが、寮監には生徒に危険を及ぼさない限り許可される。
「それがいいわね」
盛り上がって寮に向かう彼女らを見送って、彼は姿を現わし呟いた。
「あんな顔も、出来るんだな……」
因みに反対側から見た人間も似たような想いを抱いたことに気付いたものはいなかった。
だが、場所は違えどそれを目にしての二人の感想は同じだった。
「「まるで天使の微笑みだ」」と。
『知らなかった、彼女はあんな春の陽だまりみたいに笑うんだ』
「あんな笑顔、見た事ない」
『なんで今まで気がつかなかったんだろう?』
「どうして今まで見せてくれなかったんだ」
『そんなの決まってる』
「そんなの当たり前だ」
自分達が、笑わせる努力をした事がないからだ。
ある意味気付けただけで僥倖かもしれない。
彼らのように高い身分だけでなくそれに見合った容姿くれば、人は勝手に寄って来る。
だからこそ、それ(容姿にも身分にもとくに頓着しない)が通じない女性を振り向かせたいなら好かれる努力が必要だということを教える人間がいないのだから。
「で?」
「で?じゃないよ、だって僕達彼女のあんな顔見た事ある?ないよね?実際すぐ〝可愛い猫だね〟って話しかけたらあっという間に貼り付いた笑みに戻っちゃった」
「まあ、そうね。それで、どうしたいわけ?」
「それは、今は言わない」
言ったって仕方ない。
話しかければ答えてはくれるけど誘いには応じてくれないし、自分を見る目は冷たい。
どころか"殿下のファンの女生徒の皆様に怨まれるのであまり近付きすぎないで下さい"ってお願いされてしまうのだ、凍りついた笑みを貼り付けた彼女に。
だが、ここで引く訳にはいかない。
さっきの猫を助けた時の観察力と行動力、それに見合う魔力、更に制御する能力。
確かに彼女ならば相応しい。
彼女が本当に〝伝説の乙女〟ならば、学園にいてもらわなければ困るのだ。
「どうすればいい……?」
もうひとりも、誰に訊くでなく呟いた。
アルフレッドがひとしきり嘆いて去った後、話を聞いていたカミラは年齢に似合わない重い息を吐いた。
アッシュバルトは現在ここには来ていない。というか、ここ最近別行動の事が増えた。
「このままでは生徒会長への指名は難しい」と言われた事がよほどこたえたのか、もっと職務をこなさなければとの思いからか飛び回っている。
別に〝王太子だから〟〝王子だから〟生徒会長、生徒会役員にならなければいけないというわけでない。
一種の慣例というだけだが、「代々の王太子は皆この学園で会長を務めてきたのに自分は不甲斐ない」と思ってしまうのが彼らしいといえばいえるのだが。
因みにギルバートもそんな王太子に付き従っていて今は不在、いるのはミリィとカミラの女子二人だけだった。
「イベントだわ……」
「イベント?」
「そう!ここに至るルートは幾つかあって誰が通りかかるかはその時までわからないのよ!王太子殿下が通りかかった場合、"淑女たるものが人前でする事ではないよ"って注意されるんだけどー…」
「確かに言いそうだけど」
「その後"だが、子猫を速やかに助けようとするその気持ちは尊い"って優しく言うのよ!」
「それちょっと苦しくない?」
「誰が通るにせよ、その後の展開を左右する大事なポイントになるのよ!」
「で?それ、アルフレッドならどーなるわけ?」
「え "可愛い猫だね"ってまず微笑んで……」
「そこは合ってるわね」
「で?ヒロインの反応は?」
「 誰にせよヒロインは"も、申し訳ありません!"て可愛らしく頬を染めるんだけど」
「……ないわー」
「……確かになさそうね」
ミリディアナはしゅんとした。
件の黒猫は南寮の寮監のペットとしてノエルと名付けられ、女生徒達のマスコットとして定着し、アリスティアを筆頭として女生徒がしょっちゅう連れ歩く姿が見られるようになった。
生徒会との距離感は相変わらずだったが、そんな中一人だけいつもと違う行動を取る者がいた。
「メイデン嬢、ちょっといいかな?」
当のアリスはもちろん、彼女を囲む一団にちょっとした衝撃がはしる。
中でもジュリアは明らかに眉を顰めた。
そんな親友を尻目に、
「まあ。一体何のお話でしょう?ランバート様」
「い、いや大した事ではないのだが、君に先日のお礼を……」
あゝ蛇から助けた事か。
あのまま意識戻ってなかったからあの後の騒ぎにもこの人参加してないんだっけ。辺境伯の跡継ぎがコレで大丈夫かって正直ちょっと__いやかなり__不安だな?
「〝大した事じゃない〟と思う礼なら、しなくても一緒なのではなくて?」
私が何か言うより先にジュリアが突っ込んだ。
「何だと?!あっ、いや、」一瞬気色ばんだアレックスだが、相手がバーネット侯爵家の娘だと認識すると口籠った。
(__わかりやすいなあ)
〝辺境伯〟は代々続く家柄ではあるが伯爵家。
ジュリアの家は歴史は浅くとも侯爵家。
家格だけでいったらジュリアの方が上なのだ。
このボンボン、社交にも向いてなくない?剣も魔力もそこそこ使えはするが突出してる、とも言いがたい。
少なくとも魔力や成績だけでいえば私の方が上だ、顔は良いけど。
紫の瞳と黒い髪の美少年だし、背もそこそこ高い。
体格は攻略対象の中では一番華奢だけど、何ていうか辺境伯っていうより宮廷の貴公子って感じ。
いや乙女ゲーキャラとしては良いんだろうけど、いざって時に頼りにならなそう。
ていうか、ならなかった。
「い、いやその、すまない決して命を助けられた事を〝大した事ではない〟と思ってるわけではなく、伯爵家として正式に何か、と。その話を」
アレックスの殊勝な態度に面喰らったジュリアがどうする?と目で合図してくる。私もアレックスのこんな態度は初めてだ。
「そうですわね。伯爵家として、と仰るならそれは家同士の話ですから__父 男爵を通して下さいませ」
「!い、いや、それだけでなく僕個人としても君にお礼を言いたいんだ。次の週末に時間を貰えないだろうか?町に良い店があるんだ。そこの個室を押さえたから良かったらー…、」
(はぁ?!)
と私が心中ツッコミするのと同時にジュリアが、
「婚約者でもない女性といきなり二人きりとは……非常識に過ぎるのではありませんか?」
「!妙な邪推をしないでもらいたい。ただ食事をするだけだ!」
「だったらわざわざ個室でなんて必要ないではないですか」
「人が大勢いる場所では落ち着いて話も出来ないだろう という配慮からだ」
「配慮?婚約者でもない年頃の男女が個室で二人きりになる事を周りがどう見るか の配慮はないのですか」
「そんな邪推をする輩は放っておけばいい」
(うわぁ、)
「何ですって?!」
ああヤバい、ジュリアがキレそう。もう半分キレてるけど。
そもそも、
「ジュリアの言う通りですわ。婚約者でも身内でもない男性と個人的に二人で食事に出掛ける気はございません。例えそれがただの〝御礼〟だったとしても です」
なんだって全く好意を持ってないこいつと週末出掛けなきゃならんのだ?
「!」
「確かに周囲の何もわかってない方の雑音など気にする必要はございません」
「っそれならな…「__ですが」?!」
そこんとこ、わかってない。
「それは〝私がそこまでしてしたい行動か〟によります。そもそも私とランバート様はそこまで親しくはありませんよね?私、初めて会った時から叱責ばかりされておりましたもの」
さり気に城での雑言三昧を差していってやるとアレックスの顔が青褪めた。
「あ、あれはそのっ、」
「御礼の言葉は今受け取りました。ランバート家から何かしたいと仰せならメイデン家の方に。私への個人的な礼はこれ以上は不要ですわ。失礼します」
言い返す隙を与えずにその場を去った。
「お見事」とジュリアが小さく言ってくれたが、珍事はそれだけで終わらなかった。放課後生徒会長がわざわざ一年生の授業終わりにやって来て、「メイデン嬢。明日の昼食を一緒にどうかな?」と言ってきた。
(は??)
「えぇと……」
(なんで??)
「君とは一度ゆっくり話したいと思っていたんだ。勿論二人きり というわけじゃない、こちらはクラリス嬢に同席してもらう。君の方もいつも一緒にいる友人と来るといい。勿論明日が無理なら別の日でも。君に合わせよう、いつなら可能かな?」
しかも、アレックスと違って誘い方に隙がない。
ちらりと横のジュリアを見ると構わない、と目で返されたので
「はい。では、明日」と答えて帰寮した後頭を抱えた。
なんで??
アレックスに何があった??
あと、生徒会長ってゲームじゃ名前すら出て来なかったよね??
先に卒業しちゃうキャラだし、まさか一年のうちに攻略したら出て来る系の隠しキャラとか??いやでも口説かれたわけではないし。
(__わからん)