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王都より地元が一番?

漸く聞く耳を持った男爵に殆ど押される形でナノルグ伯、学園長に王室からの使者が夏期休暇中にメイデン家まで詫びに伺う、という事で纏まり、男爵は領地に戻っていった。


ついでと言っては難だがナノルグさん他一名が放校処分になった事は既に知れわたっており、彼女が私に明確に敵意を示していた事は周知の事実だったので、私は何も言っていないが髪の事と合わせて様々な憶測というか噂が飛び交ったものの、概ね「ナノルグ令嬢が乱心して刃物を振り回してアリスティア様に襲いかかり、アリスティア様は怪我はなかったものの髪を切られ、ナノルグ令嬢は放校処分になった」という事実に近い感じで落ち着いた、らしい。


あと、

「アリスティア様!寮まで一緒に帰りましょう」

「私も」

「次の移動教室、一緒に行きましょう?」

「図書室に行くなら僕もご一緒して良いでしょうか?ちょうど行くところなんです。あ、荷物持ちますよ」

「なら私も行くわ」

「あ、私も」

「僕も」

………なんだか周りが過保護になった。

「__ジュリア、貴女、何かした?」

「いいえ?アリス(あなた)の人徳でしょ?」

「…………」

人徳って、生徒会役員でもないのに。

そもそもその生徒会役員の二年生の皆様からもちょいちょいお声掛け頂くのだ。

クラリス様なんて「何か困ってる事はない?」なんて朝食の席で訊かれるのが当たり前になりつつある。

なんだか自分が構われなきゃ弱って死んじゃう生き物(因みにウサギは寂しくっても死なないしむしろ孤独に強い生き物らしいが)扱いされてるような気がして落ち着かない。


もしかして、ジュリアの言ってた〝襲われる〟って、そういう意味なの?

あの城で暗がりに引きずりこまれた時みたいに?

ラブレター出して呼び出して?

流石にそれはない気がする、というか十四才の学生がそんなだと思いたくない、というのは願望なのだろうか。

あの城でのならず者どもはそもそも()()目的だったのはわかるがここは魔法学園だ。

そんな乱れた真似を許されるような環境ではないし(いくらこの国の制度では結婚に年齢制限がないにしても)、許される筈もない。


「皆揃って心配しすぎよ」

とボソッと呟くと、

「実害があったからでしょ」

とにべもなく返されてしまうが。

「だって私男爵家の庶子よ?私よりか弱いご令嬢が(ここには)いっぱいいるじゃない?」

「それを守りたいかどうかは別でしょ?」

高位の貴族をソレ扱い……いやそもそも、

「ジュリアだって高位貴族のご令嬢でしょう?」

「私が貴女よりか弱く見える?」

確かに、か弱いっていうよりしっかり者のお姉さんって感じだけど……解せない。今は一年の生徒会役員も近付いては来ないのに。


そう、アリスティア本人に「不愉快です」、

生徒会長に「距離をおけ」、

男爵に「学園を辞めさせる」

とまで言い切られた彼らは当然(詫びには行った。夏期休暇中の城へのパーティーの招待状も持参したがその場で断られた)近付く事が出来なかった。


その上、前期の終業式の後学園は夏期休暇に入り、寮もその間閉鎖されるのだがその前夜は生徒会主催の新入生の為のダンスパーティーがある。

これは学園に於いても大きな行事で夏期休暇中に自宅でデビューのパーティーなどが出来ない生徒にとっては社交デビューを兼ねる一大イベントだ。

この時期になると生徒たちはそわそわし、パーティーの話で盛り上がる事必至。

その日ばかりは寮の垣根など越えて華やかな正装に身を包み、生徒同士が交流する場であるので声を掛けたりダンスに誘う事だって出来るはず__だったのだが。

パーティーの話が生徒たちの間で始まる頃、話を振られたアリスティアが言ったのだ。

「パーティー?私は出ませんわ」と。

このパーティーは新入生全員が参加する一大行事だ。大事な社交の場でもある為毎年欠席者はほぼ皆無といっていい。休むとしたら病気か身内の不幸くらいなものだ。

「ど、どうして?」

と流石のジュリアも驚き、周囲の友人達も固まるが当の本人は、

「領地にいる父の具合が良くなくて。ただでさえ()()()()で要らぬ心配をかけてしまいましたから__本当はすぐにでも戻りたいのですけど」

だから、終業式が終わり次第領地に戻る事にした、学園長やマダム・ラッセルには許可を取りましたわ。


と彼女が話してるのをまた聞きし、「そんな馬鹿な!」と生徒会役員らはまたも頭を抱えた。

「……そんな、あり得ないわ」

一年で一番の、大がかりなイベント。

乙女ゲームとしても大きな分岐点ターニングポイントであるはずの行事。


「なのに、あっさり“出ません“って……」

「…うっそでしょー…」

呟いたのはマナーレッスンに於いてアリスティアのクラスメイトの二人。

マナーレッスンの成果を存分に発揮する場でもあるはずなのに。


もっと悪い事に彼女の友人たちも何かしら今まであったのだろう、

「アリスティア様がいらっしゃらないのでしたら私…、」

と顔色を悪くした女子生徒に続き、

「私も…」

「僕も」

と何人かが声をあげたのに対し、

「心配いらないわ。そんな夜会で不作法する方はちゃんと生徒会の方々が締め出して下さるわ」

とフォローした上で、

「でもー…どうしても気が進まないのであれば無理して出る必要もないと思いますわ」

とアリスティアは笑顔で続けた。


自分には華やかなドレスは用意出来ない。

借りる事は出来るけれど、それはそれで馬鹿にされるかもしれない。

ダンスやパーティーマナーに不安がある。

誰も誘ってくれなかったら……?恥をかくだけではないのか。

理由は様々だし、確かに学友との交流も大事だけれど。

一番に見せたい相手が学外ほかにいるのなら、それはそれで良いのでは?


とか思ってしまうのは、やはり私が誰にも心が振れてないからだろうか。

 だから、

「じゃあ、デビューしないの?」とのジュリアの問いには

「お父様の具合が良くなれば夏期休暇中にうちでささやかながらして下さるそうよ。私も家族や領民の皆に見て欲しいしお礼も言いたいから丁度いいわ」

と答えた。


だって、育ててくれた父に、優しい姉に、可愛い妹に。

一番に見せたいのだ、今の私は。


そんなアリスティアの言に「そうか!」と不参加を決意してしまう生徒が数名だがおり、目に見えて減っている程ではないが、学園創立以来、異例の欠席者の多さとなった。

しかも、美しい彼女はパーティーの〝華〟となり得る存在だったというのにー…

ミリィやカミラも美少女だが婚約者持ち、しかも相手は王族や高位貴族騎士とくれば声はかけづらい。


引き換えアリスティアは男爵令嬢で、婚約者もいない上にマナー上級者。

という事はダンスも上手いのだろう、男子生徒達だってこのチャンスに声をかけてみたかった(おそらく)一番の相手で。

それが欠席とは。

勿論、パーティー自体は華々しく行われ、一年の生徒会メンバーも華やかな会場を賑わせたし失敗という訳ではないが、そもそも彼女アリスティアが生徒会メンバーになっていれば起きない事態だったろう。

こんなざまでは、

「……先達の方々に申し訳がたたないな」

 ぼそりと王太子が呟いた。




一方、当のアリスティアは

(はぁ。イベント無事回避スルー出来てよかった……)

と安堵の息を吐いていた。


何しろあのパーティーは


 〝声を掛けて来るのが早い順=ヒロインに対して好感度が高い〟とされ、

 またそれに

 ▶︎応じる

 ▶︎応じない

 を選択する事により後のちの好感度の調整が可能、尚且つそれに伴う数値の変動も大きいという困ったイベントなのだ。


ゲーム関係なしに声掛けられたくないし、踊りたくもない。

そもそも断るって現実にあり得なくね?

ゲームなら断っても「そっか、じゃあまた後で」とかにこやかに颯爽と去ってったりするからいいけど、現実ここでやったらアウト案件。


なので私は元々出ないつもりでいた、入学前から(だって対象がアレだし)。


だからお父様始め家族には「こういう設定でいきますのでお願いしますね」とあらかじめお願いしておいたし、そもそもこのイベントに向けての準備もしていなかった(学園では)。


学園側に断るのにちょっと苦労するかも?と思ったが予想外の襲撃にお父様が突撃してきてくれたので存外簡単に許可は降りた。


ただ、ジュリアみたいな友人達が出来る事は想定していなかったので、ちょっと迷った。

だが、日もなかったしジュリアには「良かったらうちの領地でのお披露目デビューパーティーに来て?大したもてなしは出来ないと思うけど、予定があえば」と声を掛けるに留めた(因みにジュリアからは速攻「絶対行くわ!!」と返ってきた)。






そして始まった夏期休暇に入ってすぐ、予想通りミセス・ラッセルが王太子その他当事者らに確認したところアリスティアに仕出かした件は当たり前だが事実だったので、怒りくるった女史に特大の雷を落とされた。

「アレックスにギルバート、それにアルフレッド殿下。教師として非常に残念な事に、貴方がたはこの年になっても女性に対しての振る舞いがまるでなっていらっしゃらないようですね?」

「申し訳ありません」

「騎士としてあるまじき事だったと反省しきりです」

「ぼ、いや私はただ__!」


馬鹿。

やめとけ。


とは周り全員の一致するところだった。

「お黙りなさい!誰が発言して良いと言いました?!」

この女史ひとには逆効果なのだから。

「アッシュバルト殿下?王太子ともあろうお方が権力をふりかざして行儀見習いとして預かったご令嬢に対して差別的な振る舞いをなさった事、非常に残念です」

と声だけは落ち着いているが纏うオーラが何ていうか段々ー…なんだろう、背中に炎がみえる。

「それにミリディアナ嬢にカミラ嬢!貴女がたも同時に城に滞在していたそうですね?何故フォローのひとつも入れて差し上げなかったのです?」

ピシリ、と手に持つ棒状の鞭がしなる。

(((((__怖い)))))

「二人には口を出すな、と私が言ったのです。責任は私がー…」

「王太子という身分があるとはいえ、令嬢ひとりの人生にまだいち学生でしかない貴方がどんな責任を取れると言うのです!そもそも行儀見習いにあげるならどうして同じ釣り合いのご令嬢がた同士に分ける事くらいしなかったのです?そうすればアリスティア嬢だけが不当に扱われる事もなかったのではありませんか?」

「そ、それはー…」

単に彼女ヒロインを観察する為だけだったので考えてませんでした。


とは言えない。

言えないから黙るしかない。


五人は姿勢良く立ったまま(アレックスに至っては途中から正座で)ひたすらマダムの尤もな叱責を受け続けた。


そしてへろへろになった彼等に次に控えていた難題は"メイデン男爵家への謝罪"。


メイデン男爵への謝罪は加害者エレノアの父ナノルグ伯爵、学園長、王家の順で行く事になったが先頭きったナノルグ伯爵がやらかしてくれた。

さすが令嬢モドキの親もといアルフレッド言うところの〝権力志向の真っ黒ジジイ〟と呼ばれるだけあって、謝罪モドキとしか言い様がなかった。


それはそれは金ぴか豪華な四頭立ての馬車で乗り付け、(筋肉より脂肪が多いので締まらない)胸を張って偉そうにメイデン男爵家の前に降り立ったが、

「娘を襲撃した者の親が謝罪に来るとは聞いていたが思い違いだったらしいですな。謝罪するつもりの人間がこんな勲章でも貰いに来たような格好で来るはずがないし私は貴方を知らん。訪ねる家をお間違いのようだ」

と門前払いをくらった。

ナノルグ伯爵は地団駄を踏んで激怒したが周囲の領民の白い目に気付き不承不承引き返した。


メイデン男爵は速攻で学園に向けて「あんなに偉そうに踏ん反り返ってやって来る謝罪を受けるつもりはないので二度と来ないでくれ」と伝魔法クレームを入れ、仰天した学園長が慌てて伯爵に確認を取ると、

「舐められてはいけないと思いましてな」などと抜かして凱旋した英雄みたいに偉そうにメイデン男爵領入りした事がわかり、頭を抱えて王室に報告したところ王太子達はまたも頭痛を覚えたが、即刻ナノルグ伯爵の元にマダム・ラッセルを派遣しナノルグ伯爵に〈きちんとした謝罪のしかた〉を叩き込み、改めて謝罪したいので と訪問の意を伺うと「娘は学園を辞めさせるから謝罪はいらん。体調が余計に悪化するし迷惑なので来ないでくれ」というセリフと共にメイデン男爵が娘の退寮手続きと退園の意を学園の事務統括に伝えて来た為どうかもう一度だけ、と頼み込んでナノルグ伯、学園長、マダム・ラッセル、それに王家の使者が纏めて謝罪に行くという構図になりこれにはさすがにナノルグ伯も縮こまるほかなかった。


何回も相手をするのが面倒だと思った男爵は「謝罪は受け取るが、娘が学園を続けるかは本人に任せる」と とっとと追い返した。




そんな一連の出来事に深々と嘆息し、「なんなんだ……」と呟く王太子に返ってくる声はない。

何故なら今彼は部屋にひとりきりだからだ。

こんなつもりではなかった。

あの時のミリィの「女性が書いたもの」との推測は当たっていたし、ミリィに彼女を害する気持ちはなかった。

だから彼女が「シュタイン令嬢の顔色が悪い」と言ってきた時はまさか"本当はミリディアナが裏で糸を引いていたのではないか"と言い張るつもりなのか?ミリィは彼女を心配していたのにー…!

 

__とその思いが先走って、つい声を荒げてしまった。


その結果、本来なら「生徒会メンバー全員で避暑地の別荘に行って交流を深める」というイベントは発生しようがなくなり、せめて休暇中少しくらいは交流を持てないかと茶会やパーティー等に誘ってはみたが、当然の如くというか予測されていた というべきか 、

「本日は領地の○○様の家に招かれておりまして」

「領地のどこそこに行く予定になっておりまして」

と悉く綺麗にかわされた。

業をにやして、

「何故そんなに予定が詰まっているのだ?」

 と"伝魔法"で訊けば

「男爵家令嬢としての役目を果たしております」

 と返され返す言葉がなかった。



 別に自分達も暇じゃないのだが、なんだか負けた気がした。





 そんな中、

「僕がメイデン家の領地まで行ってくるよ」

とアルフレッドが言い出し、「__は?」となる空気も気にならない様子で彼は続ける。

「だって、僕達は部下の報告書でしか彼女のこと知らなかったでしょ?書類を読んだだけで知ったつもりになってた。あの娘の容姿ひとつにしたって〝メイデン男爵の令嬢は美しいと評判でなかでも次女のアリスティア嬢は絶世の美少女だと言われている〟、それで僕たちはどう思った?〝自分が美しいと称賛されるのが当たり前と思ってるに違いない〟。勝手にそんな風に感じたんじゃなかったっけ?報告書にはそんな事何も書いてないのにね。他にも〝男爵家には9才の頃引き取られそれまでは市井で暮らしていた〟__それを〝きっと礼儀もなってない令嬢に違いない〟そんな風に捉えたんじゃなかった?で 、実際そんな風に扱った__結果どうなった?」

「「「「…………」」」」

沈黙が降りる。


「実際見極めるつもりで呼んだのに、僕たちはちゃんと見てた?見てないよね?全然。ていうか見せてくれないよね今のままじゃ」

「だから、領地まで行くと?」

「もちろん王子として行くつもりなんかないよ。ちゃんと変装して立ち寄った旅人みたいな感じで行く。あの領地では王室関係者なんて歓迎されそうにないからね」

「そうね。バレたら石ぶつけられるかも」

「そういうこと。気をつけるよ」

と苦笑いしたアルフレッドは現在馬上の人である。

髪と目の色を変え、護衛一名と二人で旅人に身をやつしている。


まあ、本人(とそのお付き)が旅人のつもりでも傍目には〝自分探しの途中の良いとこのボンボン〟だが、王族にみえないだけ成功マシだと言えよう。

何より当の本人があまり気にしていない。

造作が整っているから地味に装ったところで目立つのは当たり前、というか他人の好奇の目に晒されるのは子供の頃から当たり前であったのだから。


〝見目麗しい双子の王子〟。


それが自分達の評価だった。


最初の〝鏡に映したよう〟から〝聡明な兄王子〟と〝無邪気な弟王子〟に変わったのはいつだったろうか。

王太子という立場を重く受け止め慎重に振る舞う兄に対し、人好きのする笑み、無邪気な振る舞い、砕けた口調。

それらを含め容姿は自分を守る武器だった。

単なる貴族の集まりでも、まだ年若い故にたまさか関わる外交でも、抜群の威力を発揮してきた武器。


だから、処世術には自信があった。

誰相手にも上手く話を聞き出す話術、事を有利な流れに運ぶ何気ない言葉や仕草。そんなものは身に付いていて当たり前で、難しいと思うことなんてなかった。

それなのに、あの娘には自分の笑顔ぶきがどこまでも通じない。


それにあの時の言葉。

 〝助けてもらいましたよ?〟

 「助けてくれるなんて、思ってなかったけど」

と言う心の声が含まれたあの言葉は、自分達の助けなんて元々アテにはしていなかったという何よりの証左で。


くやしかった。

こちらの思惑を見透かされている事も、単純に自分の容姿ぶきが通じなかったことも。

メイデン領は肥沃な土地と聞いてはいたが、想像以上に豊かに整った町である。

旅人で余所者の自分にも冷たいでなく踏み込みすぎる所もなく、領民同士がギスギスしている感じもない。

メイデン男爵が慕われている領主なのは知っていたが、男爵本人だけでなく、娘達も父親同様領民に愛されてるようだ。

というのも、領主様の娘が、とかアリスティア様のー…とか言う言葉があちこちから聞こえるからだ。


だが、それはそれで「随分露骨じゃないか?」と横の従者に尋ねる。

「ええ。ですが正体がバレているというわけでもなさそうですがー…」

と小声での従者とのやり取りの後、

「落ち着かないかい?申し訳ないねぇ、何しろ町中浮き足だってるからねぇ」

と宿の女将さんに声をかけられる。

「何かあるのかい?」

これ幸いと何気ない振りで訊いてみると、

「ああ、三日後には領主さまのご令嬢アリスティア様の社交デビューのお披露目パーティーが男爵家で行われるからねぇ。皆その準備、というかお祝いしたくてたまらないのさ、領主様は良い方だしアリスティア様はそれは美しくなられたから」

女将はまるで自分の娘の事のように目を細める。

「へぇ。ここのご令嬢は王都の魔法学園に入ったって聞いたけど、王都でデビューしなかったのかい?」

「あぁ。本当ならねぇ。でも、学園が夏期休暇に入る前に男爵様が体調を崩されちゃってねぇ、急遽早めにお戻りになったんだよ。ならここのお屋敷で出来るだけ華々しくしようってさ!まぁ、良い事だと思うよ。王都ってのはとにかく…、」

「とにかく?何かあったの?」

「いや、まあ人によるだろうけどね!わざわざ王都でのパーティーになんか出なくてもご令嬢の縁談には事欠かないだろうし」

それは初耳だ。

王都の評判(というか王室)がよろしくないのは予想通りだが。

それに口実だと思っていたメイデン男爵の病気というのもどうやら真実らしい。

「そのご令嬢の相手ってもうあらかた決まってたりするのかい?」

「いいや?なんだいあんた旅の人なんだろ?」

女将が訝しげな顔になる。

(不味い、踏み込みすぎたか?)

「ごめんごめん、いや、ただそんなに美しいご令嬢ならうちの若君にどうかなって、ちょうど同じ年だし」

とそらっとぼける様子には隣の従者が吐きそうになっている。

とりあえず無視するが、あとで覚えてろ。

話してくれていた女将は苦笑いし、

「まあ、無理だろうねぇ。今だって降る様な縁談申し込みが来てるのを男爵様が捌いてるって話だ。アリスティア様の姉のイリーナ様もまだだし、男爵様はまだお嬢様がたを手放す気はないんじゃないかねぇ」

女将は笑っているがアルフレッドは息をのんだ。

(__驚いたな。もっと身分の高い貴族ならともかく、男爵家で娘が三人もいるならとっくに婚約者を縁付けててもおかしくないのに)

どうやらあの男爵は本当に中央の権力には興味がないらしい。

あれば、めぼしい貴族に今回のパーティーの招待状の一通も送ってておかしくないのに。

男爵の人脈ならそれなりの人数を集められる筈なのにそれもなく、本当にごく内輪のパーティーですませるらしい。

(……何なんだあの親子は)

「どうしますか?殿下」

「出来ればそのパーティーに潜り込みたいがツテがないしな……」

そもそもこのレベルの変装では見破られそうだし、学生の身で軽減されてるとはいえ公務も残してきている。見られるものはひと通り見た事だし、

「今回は戻るしかないな……」

ただでさえ目立つよそ者、長逗留はよろしくない。


後ろ髪をひかれつつ、アルフレッドはメイデン領を後にした。




 


アリスティアのデビュー、ジュリア目線や夏期休暇はムーンライトWeb版に載せてあります。

よかったら覗いてみてくださいm(_ _)m

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