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イリアの幻想旅日記  作者: 空宮海苔
最初の大陸、最初の旅路
4/40

閑話:手紙配達人イリア

 閑話、ということで今回は完全な日常回です。今までは事件性が多少ありましたが、今回はほぼほぼありません。

 やはり、イリアの旅、その日常も描いていきたいなと思っていますので、よければ最後まで見ていってください。

花がちらほらと咲いている広大な草原の上。


「……ふぁーあ」


 私は、空飛ぶ箒の上で大きなあくびをした。


「そんな制御では落ちてしまうかもしれないぞ?」


「えー、だって暇だしねー。じゃあフィルが制御して?」


 フィルのそんな言葉に対し、私はそう返した。


「……いいや、なんでもない」


 フィルは、ぷいと向こうを向いてそう言った。


「おい、じゃあ最初から言うんじゃないよ」


 私はフィルの頭を手刀で小突いた。


「……せーん」


 すると、下の方から何やら声が聞こえたような気がした。


「ん? 今何か聞こえた?」

「そうだな、誰かが呼んでいるようだ」


 フィルは猫だから耳が良い。

 私何を言っているかまで聞こえたらしい。


「――せーん! すいませーん!」


 今度は、私の耳でも聞こえた。


 それを聞いて振り返ってみると、そこには一人の少女がこちらに向かって手を振っていた。

 彼女が着ている服は、街の外に出る用の至って普通の軽装備、にローブ、といった感じだが、その手には杖を持っており、魔法使いであろうことが予測できる。


 歳は私と同じくらいかな?


「降りるか?」


「うん」


 フィルに聞かれ、私はそう答えて下降する。


 しばらくすると、地上についた。

 すると、少女は小走りでこちら側に寄ってきた。


「すいません! 旅人さんですよね? 少しお願いがあるんです」


 すると、少女はそう言って頭を下げた。


「旅人ですよー。で、お願いって何ですか?」


「はい。えっと、私はレネルアって言うんですけど、この手紙をある人に届けて、その人の様子を見に行ってほしいんです。その人は隣のレグルア王国にいて『レイテルア』っていうカフェをやってるんです」


 少女――レネルアはそう私にお願いをした。


「レグルア国のカフェ、レイテルアね……」


 私は、ポケットからメモ帳とペンを取り出して、メモする。

 ちなみに、メモ帳くらいなら軽いし次元収納魔法に入れていない。あと、文字は本当は魔法文字で書きたいんだけど……魔法文字はすぐに消えてしまうのだ。


 ……私ってば結構忘れっぽいのだ。


「おっけーです。あ、あと様子を見るってのはどうすればいいんですか?」


 私はメモ帳をしまって、そう聞いた。


「彼はカイラっていうんですけど、私と彼は一応想い人みたいな感じでして……そ、それで手紙を届けたんですが、何ヶ月も返信が帰ってこなくて少し気になったんです!」


 なるほど、つまりカップルか。

 というか実際に何ヶ月経っているのかは知らないけど、それくらいなら軽くかかるのでは? という疑問は心の奥にしまっておこう。

 そう、私は大人なのだ!


 心の中でそう呟きながら、私はそれを引き受けようと考えた。

 今は暇だしね。


「……なるほど、まあ全然引き受けますよー。とりあえず、何か問題がないか見てくればいいわけですね?」


「はい! そうです! ありがとうございます!」


「全然いいよー。それじゃあね」


「それじゃあ――あ、一つ聞いてもいいですか? ……どうやって箒で飛んでるんですか?」


 レネルアは、そう聞いてきた。確かに、魔法使いなら気になりそうだ。

 なぜなら、箒で飛ぶ魔法使いなんて滅多にいないからだ。そう、箒で飛ぶ魔法使いは幻想なのだ!

 ……まあ現に私は箒で飛んでいるわけだけど。


「んー、これは自作の魔道具で、ここの魔石の術式を通して、私の魔力で制御して飛んでるんですよ。自分を飛ばすよりずっと効率よく飛べるから、箒で飛んでるんです」


 そう、ただの魔法でも自分を飛ばすことは可能だが、魔力消費が多すぎるし、スピードも出ない。

 戦闘向きではあるけど、移動には使えないのだ。


「へー、自作……すごいですね!」


 レネルアはそう言って褒めてくる。


「まあ、もっと安全な形にしたほうが安全性は上がりますけど、こっちの方が魔力消費は少ないし、速いし……あと、何よりロマンに溢れてます!」


 そう私は言い放った。


「ふふっ、そうですね。ではお願いします!」


 レネルアは小さく笑った。


「はいよー。それじゃあね!」


 私は箒で浮き上がり、レグルア王国へと向かうことにした。


「次の目的地はレグルアか?」


「うん。ちょうど暇だったしね!」


 ◇


 私はレグルア王国の門が見えた辺りで、箒から降りて歩いて門へと向かった。

 ……流石に毎回箒どうのの下りをするわけにはいかないのだ。


 フィルも箒から降りて、私の隣を歩く。


 目の前には、門と壁。どちらもそこまで高いわけではなく、低級の魔物の侵入を阻害する役割だろう。

 左手には、少し小麦畑が見えていた。あそこは壁で囲われてはいないようだ。


 門を見ると、門番は一人しかいないようだった。


「こんにちはー」


 私は、近づいて門番の人に挨拶をした。

 初めてくるところだから、ちゃんと門を通らないとね。


「こんにちは。何か提示できる身分証はありますか?」


 門番の人は、フィルをちらりと見た後に、挨拶と共にそう質問を投げかけてきた。

 この国は身分証の提示式の門のようだ。


 大きい国だと、検問みたいなのも入って面倒なんだよねー。これだと楽で助かる。


「はい。白金級冒険者のプレートを持っています」


「白金級……なるほど。お通りください」


 一瞬驚いたような表情をした後、門番の人は軽く頭を下げ、そう言って私を通した。

 この門番の人はさっきフィルのことをちらりと見ていたけど、今は気にしていなさそうだ。


 フィルがいるとたまーに面倒事が起きたりするけど、今回は白金級だから大丈夫だったのかな?


「はーい。ありがとうございます」


 ◇


 街の中に入って少し進むと、奥には大きめの王城が見え、その下には城下町として、レンガ造りの民家が立ち並んでいる。

 昼間だからか、今私達が歩いている大通りは繁盛し、多くの人が行き交っていた。

 馬車も数台見えるし、人も多い。

 道には屋台がいくつか並んでおり、その店主と談笑している親子が見えた。


 レグルアはこの街一つで構成された国だが、人は多いようだ。


「えーと、カフェレイテルアか……」


 私はメモ帳を取り出し、名前を確認すると、レイテルアを探すことにした。

 辺りを見渡しながら歩くと、少し奥に、右向きの矢印が書かれた案内の看板が見えた。


 ――カフェ『レイテルア』はこちら


「おっ、あったね。フィルも気をつけてー」


「分かっている」


 ……フィルは小さいから、人混みの中だとたまに見失うのだ。

 もちろん、一人で戻ってくることも多いけどね。


 ◇


「ここね」


 私が立ち止まったのは目的地。

 見た目は至って普通の石造りのレンガ屋根に、窓もついている。

 普通のカフェに見えるが……立て看板には、何やらハートのマークと共にカップル専用メニュー、とかが書いてある。


「カップル限定メニュー、か。カイラというやつは既に恋人がいるのに大丈夫なのか?」


 フィルはそう疑問を口にした。


「逆に、カップル……自分を含む、に楽しんでもらえたら嬉しい、みたいな感じじゃない? カップルの気持ちは分かるから、みたいな」


 ……そういえば、レイテルアという名前、レネルアと似てるよね。

 いや、多分関係ないだろう、ウン。


 私は頭の中に浮かんだ『バカップル』という単語をかき消すように歩き出した……


「そういうものか」


「あとただの店員かもしれないしねー」


 私達が店内に入ると、案外そこは普通のカフェだった。木製の家具に、受付。上からはカンテラがぶら下がっている。

 人はちらほらと居て、閑古鳥が鳴いているわけでもなかったし、壁に貼り付けてある手書きのメニューも見たことあるようなものがあった。


 あと大事なところだが特にカップルだらけ、ということもなかった。


 ……少し安心だ。


 さて、目的はここの店の店長、だとは思うけど、とりあえずカイラっていう人。

 私は受付を見つけると、受付の男性に聞いてみることにした。


「すいません。カイラさんっていますか?」


「はい、うちの店長ですが……何か用ですか?」


 ……どうやら、店長だったようだ。

 つまり、メニューも名前もカイラさん考案ということになる。


「はい。レネルアさんという方からカイラさんに手紙を預かっていまして、この場で渡してしまってもいいですかね?」


「手紙……ですか? 待っていてください、店長を呼んできます」


 受付の人は私の言葉を聞くと、怪訝そうな表情を浮かべ、そう言った後に足早に店の奥へと消えていった。


 そして、少しすると奥から、受付の人と共に男の人が一人出てきた


「こちらが店長のカイラです」


「こんにちは。カイラです、えっと、レネルアからの手紙を持っているって本当ですか?」


「はい、本人から頼まれて預かって――」


「ほ、本当ですか? だって、今までずっと手紙はとどいてなくて――」


 私が言いかけると、焦ったような様子でそう言った。


「お、落ち着いて? ――レネルアさんは、手紙は送っていたそうですが、知らないんですか?」


「――あ、そういえば、手紙あったような……」


 と、受付の男性が、思いついたようにそう呟いた。


「え? 勝手に手紙処理してたのか?」


「い、いや……渡し忘れてたっていうか、その、すまん」


 カイラがそう聞くと、困ったような表情で受付の人は謝った。


「は、はぁ……そうだったのか。でも安心した。何かあったらどうしようかと……」


 ホッと胸を撫で下ろすカイラ。


「え、えっと、もう大丈夫そうですか?」


「あ、はい。すみません、お見苦しいところを……手紙、ありがとうございます。恩に着ます」


 そう言ってカイラはぺこりと頭を下げてきた。

 このカイラさんはバ――レネルアのことになると少しで暴走してしまう印象があるけど、全く悪い人じゃない、どころかいい人のように見えた。


「いえいえ。それでは私はこれで、さようなら」


 と私が去ろうとすると、カイラに引き留められた。


「あ、一つお礼をさせてください。ご自由に一つメニューを無料でご提供いたしますよ」


 と、メニュー表とともに提案された。

 メニューをちらりと見たが、知らないメニューもあれば、見たことあるメニューもあった……けど、ここで挑戦して見る気にはなれないから、普通のものを頼もう。

 私はそう考え普通のカフェラテを頼むことにした。


「じゃあ……普通のカフェラテでお願いします。流石に通りすがりの店で挑戦するのはちょっと怖いですしね」


 私はそう言って愛想笑いをした。


「それもそうですね。では分かりました」


 カイラさんも小さく笑って、店の奥に消えていった。


 ◇


 私はストローでカフェラテをズズズと飲みながら、窓の外を眺める。


「実はあんまりカフェとか来たことないんだよねー」


「そういえば、旅の道中でも行っていなかったな」


 でも、案外悪くないかもしれない。

 と言っても明日の私はそんなこと忘れているかもしれないが。


 ……まあ、それも気ままな旅の醍醐味! ――ということにしておこう。


「そうそう。じゃ、そろそろ出よっか」


 飲み干したカフェラテをゴミ箱に捨て、ここを出ようと席を立った時――


「――カップル限定メニューって頼めないのか⁉? だってあれ美味しそうだから気になるんだよ、俺も欲しいんだ!」


 とある客の悲痛な声が響いてきた。

 声の主は一人の中年男性のようだ。


「申し訳ございませんお客様、それは限定メニューとなっておりまして――」


「……ええっと、あれ大丈夫かな?」


「ふむ、ただのクレーマー、とも言い切れなさそうだし大丈夫ではないか?」


 私がそう聞くと、冷静に分析を口にするフィル。

 ……ほんとにいいのかな?


「それなら出すのやめてくれ! 出すならカップル限定カフェとかにしてくれ! そしたら諦めもつくから……」


 なんだか非常に哀愁漂う声だ。


「す、すいませんお客様……」


 しかし、店員は……あれ困ってるの? なぜだか本気で申し訳無さそうにしている雰囲気が漂っている。


 ――ただまあ、ちょっと大変そうだから、手伝っておこう。


 私はさり気なくその客の後ろを通ると、足で魔法を発動。

 その客の足に電流を流し、床に魔法文字で「一回落ち着きな?」と書いた。


「いてっ! ――あ、ああ……えっと、すまん。じゃあ帰る。お代はこれで」


 その客は一度足を振り上げると、床を見て、そう受付に謝罪し、足早に店を立ち去った。


 私はそれを見て、魔法文字をすぐに消した。


「そ、そうですか? あ、ありがとうございましたー……」


 なんだか困惑している様子の受付をよそに、私も店から出た。


 少し店から離れると、フィルが喋りだした。


「ははは、なんだか去り際に面白いものが見えたな」


 そう言ってフィルは面白そうに笑った。


「……フィル、前私に『性格が悪いな』とか言ってたわりに、フィルの方が悪いんじゃないの?」


 私はフィルを半目で睨んだ。


「確かに、そうかもしれんな」


 ニヤリ、とフィルが笑ったような気がした。


「はぁ、まあいいけどね」


 私もそう言ってふっと笑った。

 最後までお読みいただきありがとうございます。

 ちなみに「カフェのメニューって何があるん?」みたいなところが地味に苦労しました。私は""インドア派""なので……

 ちなみに、ストローってこの時代にあるのかな? と思ったんですが、イリアにカフェラテをストローですすって欲しかったのであることにしておきました。


 さて、最後の方にはなんだかかわいい中年の方がいらっしゃいましたが、気にしないでください。


 やっぱり常連の店でカップル専用とか言われると、なんだか悲しくなってきますからね。

 ……まあ私はカップル専用メニューとか見たことないですが。

 

 今後は、こういった形で完全な日常回、のようなものも用意したいなと思っています。やはり、日常を描くことでこの世界に深み、と言いますか、現実味のようなものが帯びてくる気がしているので、こういった部分もいくつか増えてくると思います。

 一、ニ、三話はイリアがどんな人間なのか、というのを多少知っていた方が面白くなると考え、事件的なものが多くなってしまいましたが……


 さて、ここからはいつも通りのお願いになります。


「面白かった!」、「続きが見たい!」


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「ここはよくなかったな」、「ここ変だな」


 と思ったり、そういった違和感や矛盾等を見つけた場合は、上の感想欄やレビュー欄から、それらについて書いてくださると今後の改善に役立ちますので、してくださると非常に嬉しい限りです。

※作者はガラスのハートの持ち主なので、言い方だけはオブラートに包んでいただけると助かるなぁ、なんて……思います、ハハ。


 ご感想や評価、ブックマークをしてくださった方のご自宅には、すし飯と焼き海苔、あとは少しのいくらをプレゼントいたします。手巻き寿司、美味しいですよ。私はいくらとまぐろが好みです。

 ……もちろん嘘です(伝統芸能)。

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