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俺はお酒が入るとカッコ良くなるらしいので、幼馴染に飲酒を止められています。えっ、何で?

作者: 墨江夢

『かんぱーい!』


 ゼミ長の掛け声に合わせて、20人のゼミ生たちが乾杯をする。

 その日は年に一度の学部討論会が無事終わったということで、打ち上げを兼ねてゼミの飲み会が催されていた。


 俺・葉山涼太(はやまりょうた)は、現在大学三年生。四年生は就活でゼミ長以外欠席しているので、今集まっているメンバーの中では年長者の部類に入る。

 後輩に取り分けて貰ったサラダを摘みながら、俺は久しぶりのゼミ飲みを楽しんでいた。


 俺はどちらかと言うと、少食なタイプだ。

 10代の頃は食欲旺盛で毎晩白飯をおかわりしていたけれど、20歳を越えたあたりから茶碗一杯もキツくなってきた。


 ラーメンだって、前は大盛りをペロリと平らげられたんだけどな。今は並盛りが限界である。


 その為今夜の飲み会でも、食べることより飲むことをメインに据えようと思っていて。現に俺はサラダに手を付けただけで、その後はひたすら飲むことに徹していた。


 そんな俺を見たゼミ長が、尋ねてくる。


「おい、涼太。よく見たらお前それ、ぶどうジュースじゃねーか。酒を飲まなくて良いのか?」


 そう。俺は既にグラスを3杯空けているが、3杯ともアルコールの入っていないフルーツジュースだった。


「そうですねぇ……。それじゃあ、たまにはお酒を飲んでみるとしますか!」


 ゼミ長からの提案だ。無碍にするわけにもいかない。

 俺はメニュー表を開き、何を飲もうか選び始めた。


「ゼミ長のオススメは何ですか?」

「そりゃあ最初の一杯はビールだろ。「取り敢えず生!」ってよく言うしな」

「成る程。じゃあまずは生ビールにしますかね。……すみまーせん! 生ビールを――」

「ちょーっと、待ったぁ!」


 俺がビールを注文しようとしたその時、同じゼミ所属の幼馴染・西園寺茜(さいおんじあかね)がその声を遮った。

 茜は注文を阻止するかのように、俺からメニュー表を奪い取る。


「コラ、涼太! 毎回言っているわよね? あなたは外でお酒を飲むの禁止!」

「えぇ……」


 現在俺は21歳なので、既に飲酒可能な年齢だ。

 酔いやすい体質ではあるけれど、それでも過去に記憶を失ったことはない。

 それなのに、俺が一貫してノンアルコールのジュースを飲み続けた理由は……茜に強く止められているからだった。

 

「でも、折角の飲み会だし。一杯くらいなら……」

「ダメ」

「ゼミ長からの誘いだぞ? 断るのは、どうかと思うんだが……」

「ダメ」


 何を言っても、「ダメ」の一点張り。取り付く島がまるでない。


 昔から茜の言うことは絶対で、俺が彼女に逆らえた試しは一度もない。

 大人になっても俺と彼女の上下関係が変わることはなく、結局この日俺が酒を飲むことはなかった。


 飲み会は午後9時に終わり、そのまま現地で解散となった。

 自宅が近所の俺と茜は、二人並んで帰路に立つ。

 ほろ酔い気味の茜の顔は、心なしか紅く染まっているように感じた。


 歩きながら、俺は大きな溜め息を吐く。


「なに溜め息なんて吐いているのよ。幸せが逃げちゃうわよ」

「溜め息の一つも吐きたくなるっての。……久しぶりのゼミ飲みだっていうのに、ビールの一杯すら飲めなかったし」


「茜のせいで」と口に出す勇気がなかったので、俺はこっそり彼女にジト目を向ける。

 茜はというと、そんな俺の視線にこれっぽっちも気付いていなかった。


 茜の鈍感さを嘆きながら、俺が再度溜め息を吐くと、


「……そんなにお酒が飲みたいの?」

「……まぁ」


 大学時代だからこそ、経験出来ることもある筈だ。あぁいうバカみたいな飲み会は、きっと社会に出たら出来ないだろう。


「だったらさ、私の家で飲み直さない?」


 予想外の申し出に、俺は思わず「え?」と聞き返してしまう。


「飲んで良いのか、お酒?」

「私の家でなら、ね」


 ……思えば、いつもこうだ。

 飲みの席では決して俺に飲酒を許さないくせに、茜の家限定で彼女は飲酒を許可している。

 

 茜曰く「涼太は酔うとヤバいから」らしいが、悪酔いするタイプではないと自負している。……ヤバいとは、一体何がヤバいのだろうか?


 茜の真意はわからない。だけどお酒を飲ませてくれると言うのなら、その厚意に甘えるとしよう。

 

「何かつまみでも買ってくか?」

「カルパスが良いわ」


 俺たちは少し遠回りして、コンビニに立ち寄る。

 コンビニでは、カルパスとスナック菓子と、数種類のお酒を購入した。因みに支払いは、全額俺持ちだった。





 茜の自宅に着いた。

 茜の両親に挨拶をした後で、彼女の自室へ向かう。


 その際、茜の母親から「朝までゆっくり楽しんでね」と言われた。いや、日付が変わる頃には帰宅するつもりだよ?


 茜の部屋のテーブルにスナック菓子やお酒の缶を置き、俺たち自身はソファーに隣り合って座る。

 ソファーは辛うじて二人掛けと言ったところで、並んで腰を掛けると肩や腰が密着した。


 ……まぁ、茜は幼馴染だからな。

 一緒にお風呂に入ったこともあるわけだし、今更ドキドキなんてしなかった。


「涼太は何飲む?」

「取り敢えず、生で」


 ゼミ長に教わったフレーズで、俺は茜に伝える。


「私も同じのにしようかしら。……はい、どうぞ」


 茜は俺に350ミリの缶ビールを渡してきた。

 受け取ると同時に、俺は予ねてからの疑問を彼女に投げかける。


「……飲み会の席で飲んじゃダメで、どうして今は良いんだよ?」

「……わからないの?」


 茜は質問を質問で返す。

 うん、全くわからない。


「わからないのなら、わかるまで考え続けなさい。思考を止めたら、人は終わりよ」


 もっともらしいことを言っているけど、要するに外で俺に酒を飲ませない理由を教える気がないのである。


 疑問は解消されなかったけど、折角飲んで良いとお許しが出たんだ。我慢せずに、お酒を堪能するとしよう。

 俺は缶ビールに口をつけ、グイッと半分ほど飲み干した。


 ……数分後。


「おい、茜。つまみのカルパス、全然減ってないじゃないか。もうお腹いっぱいなのか? それとも……食べさせて欲しいのか?」


 ものの見事に、俺は酔っ払っていた。


 俺はカルパスを一つ摘むと、茜の口に近付ける。

 茜は恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、カルパスの先端をかじった。


「美味しいか?」

「……えぇ」

「本当か? 俺も食べて、確かめてみることにしよう」


 そう言って俺は、カルパスの残った部分を自身の口の中へ放り込む。そのカルパスは、言うまでもなく茜の食べかけだ。


「……うん。確かに美味いな」


 カルパスを飲み込んだ後、俺が舌舐めずりをすると、


「〜〜っ! 〜〜っ!」


 茜は両手をバタバタさせて、声にならない声を上げていた。

 

 何なんだ、この反応は? 普段の茜は、手をバタバタさせたりなんかしないぞ? もしかして、体調が芳しくないのか?  

 もしそうならば、そんな状態で酒が飲みたいという俺の我儘に付き合って貰って、本当申し訳ない。


「どうした? 熱でもあるのか?」


 取り敢えず熱があるかどうかだけでも確認するべく、俺はコツンと自身の額を茜のそれにくっつける。

 ソファーに隣同士でただでさえ近かった俺たちの距離が、ゼロになった。

 

「……カッコ良い(ボソッ」

「ん? 何か言ったか?」


 上手く聞き取れなかったのでもう一度言って欲しいと頼んだのだが、茜には「何でもない!」と拒否されてしまった。


 宣言通り、二人だけの二次会は深夜0時を回る直前でお開きとなった。

 意識はあるので、きちんと自分の足で帰宅したのを覚えている。と言っても、歩いて1分足らずの距離だけどな。


 翌朝。

 目が覚めた俺は……ベッドの中で一人頭を抱えていた。


 二日酔いに襲われているわけじゃない。昨夜の自分を思い出すと、恥ずかしくなるだけだ。


「……また、やっちまった」


 これに関しては、全く自覚症状がないんだけど。

 どうやら俺は酒が入ると、途端にカッコ良くなってしまうらしい。お陰で一体何度、悶絶必至の恥ずかしい言動をしてきたことか。


 昨夜のことを忘れる為に度数の強い酒を飲みたいところだけど、そんなことをすればまたカッコ良い涼太が出現し、本末転倒だ。


 だから、うん。意図的に記憶の奥にしまい込むとしよう。

 そうやって俺は、昨晩の記憶にふたをするのだった。





 ゼミ飲みの日から、数日が経過した。

 

 この日もいつものように、大学の講義を受けている。

 因みに隣に、茜の姿はない。幼馴染だからといって、四六時中一緒にいるわけじゃないのだ。


 講義が終わると、少し離れた席に座っていた知己が話しかけてきた。


「葉山、今晩って空いてるか?」

「あぁ、空いてるぞ」

「そうか。もし良かったらなんだけど……飲みに行かね?」


 正直、思ってもいないお誘いだった。


 彼とは顔を合わせれば挨拶やちょっとした雑談こそすれど、二人で飲みに行くような間柄じゃない。

 知り合い以上、友人未満。そんな関係だ。


 これを機に、親交を深めるのも良いかもしれない。

 俺は「勿論行く」と、快諾した。


 飲みの席に足を運んで、彼がどうして俺を誘ったのか理解する。

 居酒屋の個室には、俺を含めて6人の男女が集まっている。構成比は、男3女3。……要するに、合コンだ。


 成る程。俺は合コンの人数合わせで誘われたってわけか。まぁ、それでも誘ってくれたことはありがたいんだけど。


 別に強がって「感謝している」と言ったわけじゃない。

 この合コンに参加出来て良かったと、本当に思っているのだ。

 だって女の子たちは可愛いし、話していて楽しいし、料理は美味いし、女の子たちは可愛いし(大事だから2回言った)。


 合コンが始まって一時間が経過したところで、ふと女の子の一人が俺の手元を見て首を傾げてきた。


「さっきから気になっていたんだけど……葉山くんの飲んでいるそれって、ジュースだよね? もしかして、お酒飲めない系?」

「いや。飲めるんだけど、外で飲むのを禁止されているっていうか」

「禁止? 誰に?」

「それは……」


 幼馴染だと答えようとしたところで、俺は気が付いた。

 ……待てよ。この場に茜はいないわけだし、今なら飲酒しても怒られないんじゃないだろうか?


 俺は酒を飲んだからと言って、暴れたりするわけじゃない。単にカッコ良くなるだけだ(茜談)。

 果たしてそれの、何がいけないのだろうか?


 カッコ良いバージョンの俺は話術も上手くなるし、周りの気配りも出来るようになるし。

 こういう席の場合、寧ろ酒を飲んだ方が良いような気すらしてきた。


 どうして茜が外で俺に飲酒をさせないのかわからない。でも、今はその茜がいない。……ちょっとくらいなら、良いんじゃないかな?


 俺は店員を呼ぶ。

 同年代の女性店員が、すぐに注文を取りに来てくれた。


「すみません、生ビールお願いします」


 アルコールを体内に取り入れた俺は、言うまでもなくやらかし始めた。

 ビールを飲んで以降、一体何度歯の浮くようなセリフを言ったのかわからない。


 明日の朝起きたら、きっとまた恥ずかしさのあまり布団の中で死にたくなることだろう。

 でも、良いじゃないか。それだって、大学時代の貴重な経験の一つだ。


 先程の女性店員が、再度俺たちの個室に来る。

 女の子の一人が注文していたハイボールを届けにきたのだ。


「ご注文のハイボールです。……って、うわっ!」


 その時、ちょっとした事件が起こった。

 店員が足を踏み外し、ハイボールをこぼしかけたのだ。


 このままだと、女の子にハイボールがかかってしまう。そう判断した俺は、カッコ良いバージョンになって何故か上昇した身体能力を駆使して、女の子と店員の間に入った。


 パシャッと、俺にハイボールがかかる。

 

 グラスは店員がキャッチしていたので、割れることはなかった。不幸中の幸いだ。


「葉山くん!? 大丈夫!?」


 ハイボールをもろに被った俺を、女の子が心配する。

 俺は自分の服の惨状なんて見向きもせず、彼女に尋ねた。


「そんなことより、君は濡れていないか?」

「うん。私は大丈夫だけど……」

「良かった。折角おしゃれしてきたのに、その服を台無しにするわけにはいかないからな」

「葉山くん……」


 勿論、店員へのフォローも忘れない。

「申し訳ありません!」と何度も頭を下げる彼女に、俺は優しく微笑んだ。


「気にしないで下さい。怪我なくて、何よりです」


 誰も怪我をせず、誰も損をしない。みんなが嫌な思いをせずに済んだのなら、それで良いじゃないか。

 俺の服が犠牲になったけど、こんなの洗えば済む話だし。


 ちょっとしたアクシデントはあったけれど、こうして合コンは恙無く終わったのだった。





 合コン自体は、昨夜で終わった。でもそこでの出会いが一期一会になるわけじゃない。

 翌日。昨日合コンをした女の子の一人が、早速俺に話しかけてくれた。俺がハイボールから庇ってあげた子だ。


「葉山くん、おはよー! 昨日は楽しかったね!」

「あぁ。俺も楽しかったよ」

「それでね。もし葉山くんさえ良かったらなんだけど……また、一緒に飲まない?」

「そんなの、断る理由がないだろ」

「本当!? それじゃあ時間と場所は、また連絡するね!」


 足取りも軽やかに、彼女は去って行く。

 そんな彼女と俺を……隣で茜がジッーと見ていた。


「……何だよ?」

「べっつにー。デートに誘われて良かったねって思っただけで」

「デートって……また飲み会に誘われただけだって。他のメンバーもいるっての」

「そんなわけないでしょ。あの子、完全に恋する乙女の顔してたわよ。あれは絶対サシで飲んで、その後部屋に連れ込み既成事実を作るつもりだって」

「いやいや、そんなバカな……」


 昨夜の飲み会でしか話していないけど、彼女が良い子だということはよくわかる。ハイボールで濡れた服を、一生懸命拭いてくれたし。


「良い男の前では、女は肉食動物と化すのよ。……それより今の会話で一つ気になったんだけど、飲み会って何?」


 ……ヤベェ。うっかり茜に内緒で飲み会に参加したことを自白してしまった。


「……黙秘権を使用する」

「うるさい、全部吐け」


 胸ぐらを掴まれ、脅されて。俺は泣く泣く昨夜飲み会もとい合コンに参加したことを白状した。

 その時何を話したのか。どんなアクシデントがあったのか。あと……茜に黙ってお酒を飲んだことも。


 俺の話を聞いた茜は、大層ご立腹だった。


「涼太……私はいつも、あなたに何て言っていたかしら?」

「……外では酒を飲むなと言っていました」

「そうよね。それじゃあ何で、涼太は昨日お酒を飲んだの?」

「それは……答える前に、一つ聞かせてくれ。お前こそ、どうしてそこまでして俺に外で酒を飲ませたくないんだよ?」


 茜以外の人間の前で飲酒したのは、昨晩が初めてだ。

 先程の女の子の反応を見てもわかるように、俺が周囲に実害を与えたとは到底思えない。

 外で飲酒を禁じられる理由なんて、やはりない筈だ。


「だって……お酒を飲んでカッコ良くなったら、みんな涼太を好きになっちゃうじゃない」


 ……は?

 あまりに突拍子もない茜の答えに、俺は言葉を失う。


「現にさっきの子、間違いなく涼太のこと狙ってるし。……涼太は私のものなのに」

「えーと……つまり茜は他の人に俺を取られたくなくて、俺に外で酒を飲ませなかったってこと? 俺のことが……好きってこと?」


 茜は顔を赤く染めながら、一つ頷いた。


 もう20年近く茜と一緒にいるけれど、彼女が俺に恋愛感情を抱いてくれているなんて知らなかった。


 でも、茜が俺に外での飲酒を禁じている理由が知れて良かった。

 その理由ならば、今後俺は思う存分酒を飲むことが出来る。


「なぁ、茜。もし俺がお前のものになれば……お前の彼氏になれば、外での飲酒を許してくれるのか?」

「それは……まぁ、そうなるかな」


 勘違いして欲しくないのは、外でお酒を飲みたいから茜と付き合うんじゃない。茜が好きだから、外でお酒を飲めるようになるのだ。


 それから数週間後、ゼミ長主催の飲み会が再度催された。

 俺はその時、ゼミ生の前で初めてお酒を飲んだ。

 

 カッコ良い言動ばかりする俺と、そんな俺にメロメロな茜。

 あとで聞いた話だが、飲み会での俺たちのイチャイチャっぷりは、言葉に出来ないくらい凄いものだったらしい。

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