婚約指輪を失くした伯爵サマ
もうお互いをよく知って、この人なら大丈夫だと信じていた。
ある日、伯爵サマは『婚約指輪』を失くしたと頭を抱えていた。わたしはどこで落としたの? と聞いたけれど、分からないと素っ気ない返答。しかも、そのまま『婚約破棄』を突き付けてきた。
頭が追い付かなかった。
婚約指輪が無くなったくらいで……婚約破棄? どうして? また買い直せばいいのではと提案したけれど、彼は拒絶した。そんなのは本物の愛ではないと。もう無理だ、やっていけないと口にした。
……その瞬間、わたしの中で全てが崩れ去った。
やっぱり、彼はそうだったのね。それが紛れもない真実であり、わたしを愛していなかったという証拠。
ねぇ、そうなのでしょう。
伯爵サマ。
わたしの目の前には、全身を映し出す『鏡』があった。これは我が家系に代々伝わる魔導具だった。わたしを裏切り、悲しませた者は鏡の中に閉じ込められてしまうのだ。そんな憐れな彼は鏡の中にいた。
指輪を失くし、愛がないことを自白した。更に決定的な真実を彼は話した。どうやら、伯爵は婚約指輪をわざと失くし、他の女性と駆け落ちするつもりだったらしい。最低だ。
もう許せないし、彼を戻す予定もない。わたしは指を鳴らし、彼の意識を戻す。すると、伯爵は助けてくれと懇願する。もう無理。その鏡の世界に一生閉じ込められていなさい。
◆
鏡にカバーを掛け、わたしはお屋敷を出た。外には幼馴染の騎士がいた。爽やかな顔立ちでこちらを歓迎し、わたしを連れて行ってくれた。もう戻る気はない。
彼が婚約指輪を失くしたように、わたしは鏡を失くす。もう彼と向き合う必要はないのだから――。
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亡国の大聖女 追い出されたので辺境伯領で農業を始めます
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