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第4話 深い森の奥で 2 - そして、少女は正体を語る -

本日2話目の更新です。


 

 体が動かせない。



 ただそれだけでございました。



 川に落とされた直後、流れに飲まれても生きられるよう、また1秒でも長く生命維持できるよう、最小限の生命活動に切り替えました。


 最低限必要な呼吸と心拍の活動に全てを向けるため、他の体を動かす機能は停止。

 意識を維持する経路も遮断しました。


 内に流れる神力だけは、維持しております。


 神力を停止する、という事は、わたくしたち狭姫族とっては死と同義。

 例え放出しなくとも、人の血と同じように、神力は常に我が身の内を巡っているのです。

 また、生命活動の切り替えと復帰自体が、神力により成されるものなのですから。


 この切り替えを行ったのは、はじめての事です。

 扱いが不慣れなため、昨夜無事に川原に流れ着い時、意識はなかなか覚醒出来ませんでした。


 意識が戻り始めたのは、小屋に担ぎ込まれてから。今も、薄く薄くですが保っております。

 意識が戻れば、神力はコントロールが可能です。

 しかし、体の機能は覚醒はまだ出来ません。


 とは言えいまは、そのアンバランスが良い方向に回ったようです。意識が戻らない体を装い、様子を窺うことができたのですから。



 このお方、狭姫族自体をご存じないご様子。人だと思い込んで何も探られずに済むのは助かります。

 不器用ですが、髪をまとめて水気を取ってくださったのも、ありがたかったですわ。



 一瞬、何のことか分かりませんが、妙な思念が生じたようですね?

 すぐ引いたようですが、ちょっと気持ちの悪い思念ですね。


 ただ、「無防備な少女」にも拘わらず、手は出されないお方です。大丈夫かとは思いますが…。


 念のため、薄く眠りの術を発動致しましたが…神力や魔力への耐性が強いお方ですね。

 魔力も非常に強いとお見受けします。警戒は解くことは出来ません。


 少し手こずりましたが、眠りの術は効いているようです。


 もう一つ。


 目覚めた時に、わたくしの事はすべて忘れていただきましょう。

 新たに人間と関わるなど、もうごめんでございます。


 …少し探ってみますとこのお方、どことなく、ユウヤさまと似たものを感じます。


 以前のように気安く信じることはできませんが、どことなく安心してしまう空気があります。



 少し心が休まってみると…



 暖炉の暖かさが、心のタガを緩めたのでしょうか?


 虚しさ。寂しさ。切なさ。

 そして、激しい怒りが心に渦巻いているのです。



 誰かに吐き出したい。でも、吐き出せる人なんて…。



 いました。そこに。

 どことなく、ユウヤさまの魂と通じる光を感じる、このお方。

 すこし、吐き出してもよろしいでしょうか?


 どうせ眠っておられるのです。

 万が一術が破られ目覚められても、今日の出来事はすべて記憶から消えるのですから。よろしいでしょう?


 すこし、わたくしのくだらない話に、お付き合いくださいませんか?




 ******************************************




 かつてわたくしは、人間から「女神」などと呼ばれていました。

 その奉られ方は心地よくはありませんでしたが、伝わる敬意には心から応えておりました。


 実際に、わたくしたち種族は、地に遣わされた女神の子孫でした。


 土地に豊穣を与え、人間の繁栄を祝福する。

 人間を脅かすものを、力によって排除し人間を守護する。


 そんな使命を天界の神々より与えられた私たち種族の始祖・狭姫様。

 狭姫様は、人間に限りなく近い肉体を与えられ、地に降りました。

 ここではまだ、種族は形成しておりませんでした。



 わたくしたちは、人間と交わり子を成すことはできません。

 根本的な魂の構成がまったく異なるのです。

 神同士の交わりでしか、子孫を作ることはできないのです。



 幸い、人間の近親婚のような血統による不具合は、神々にはありません。

 ただ、複雑な構成ゆえか生まれることが難しく、寿命が1000年以上もあることも手伝い、子が出来にくく数が少ないのです。


 それでもわたくしたち狭姫様は、狭姫様の守護神として遣わされた武神様と結ばれ、長い時をかけ200の子を成し、種族としての形を成しました。



 人間の血統が一切混じらない、地上に降りた神の血統のみで構成された種族。



 それが、狭姫族でございます。



 狭姫さまがご健在でした頃は、天界の神々とも深く繋がっていたと言い伝えられております。

 しかし、長い時を経るにつれ、天界の神々とのつながりも薄くなり、いまは呼び掛けても全く反応を頂けなくなりました。



 その理由は、わたくしたちには分かりません。



 さて、わたくし個人は、と申しますと。

 種族として形成された狭姫族は、人間の支配総とスムーズに繋ぎが取れるよう、人間の国の仕組みを参考に「王家」を設立いたしました。



 それが、狭姫さま第一子の子孫であり、最も力を持つ系譜である、わたくしの血筋でございます。



 ただし、王家と言えど特権があるわけではありません。

 むしろ、種族全体の動きを把握したり、人間との関係を円滑にするための意見の取りまとめなど、責任の重い雑務ばかりで…。

 しかし、皆わたくし一族を敬い労ってくださいまして、それ故結束が緩むことはありませんでした。


 そんな王家に第一子として生まれたわたくしは、第一王女として恥ずかしくない教育の元、育ちました。


 このような出自でございまして -これは種族すべての者に当てはまりますが-、 実際に神の血統なのですから、人間たちが「女神」と呼ぶのも間違ってはおりませんでした。



 しかし、そのように「女神」と崇め奉った人間たちは…



 実は、わたくしたちを恐れていたのです。



 狭姫族は、強大な力を持ちますが、力を発するのは使命を授かったのは、魔族の襲撃や天変地異のみ。

 人間同士の争いには一切関知いたしません。



 人間同士の争いは、人間の身勝手と傲慢より生まれるものでございましょう?



 神々より与えられた土地を、自ら生み出し開拓したものだと言い張り、その所有を争う。

 そんなものは、わたくしたちの使命から外れたところにある争いでございましょう?



 それが、人間にとっては歯がゆかったのかもしれませんね。



 人間にとっては、魔族だろうと人間だろうと、自らの土地を守り、また獲得する戦いには違いが無かったのでしょう。

 今にして思えば、人間は人間同士の争いにこそ、わたくしたちの力を使いたかったのでしょう。



 ここに辿り着くまでに、何度か人間の戦に遭遇しました。

 …あれはなんですの?

 神の筋の者から見れば、戦いなどというものではありません。



 まるで虐殺。


 

 武器を持たぬ者。

 戦う意思を無くした者。

 深手で戦えぬ者。


 そのような者もその場で殺す。これは虐殺ではありませんか?


 人間は魔族魔族と騒ぎ立てますが、果たしてちらが「魔」なのでしょうか?

 なぜ神々は、あのような人間という存在を、ここまで守ろうとするのでしょうか?


 同じ神の血統を持つわたくしであっても、天界の神々に対して疑問を持たずにはいられません。


 そして、つい先月のことです。

 人間が「ガトレス王国」と呼ぶ国…ここもその一角ですね、ある計画を実行しました。


 狭姫様が降り立った地を領域に含むという、たったそれだけを理由に「女神に世界支配を認められた王室」などとありもしない口実を作り上げ、世界各国の侵略に乗り出したのです。



 しかし、ガトレス王国の戦力だけでは、到底足りません。

 そこで王国は、信じられない暴挙に出ました。


 

 わたくしたち「狭姫族」の魂を解析し、人間や子飼いの亜人に移植し、最強の軍団を作り上げる。

 その目的の為なら魔族さえも利用する…。



 王国はそんな恐ろしい筋書きを、実行に移しました。



 魔族を追い込み、追い詰められた魔族は、王国の狙い通り史上最大規模で人間の土地、ガトレス王国と魔族領の国境の山脈を越え王国に侵攻してきました。


 世界中に散らばり、各地に豊穣の恵みを与えていた狭姫族は、史上類を見ない規模の魔族来襲を理由とし、一か所に結集しました。


 はじめは、王国の人間と共に戦いました

 ところが王国軍は、多くの犠牲を出し軍として機能しなくなった、編成を立て直し再度参戦すると宣言し、途中で兵を引いてしまいました。


 残されたわたくしたちは、必死で戦いましたわ。



 人間が戻ってくると信じて。



 しかし、彼らは戻ってきませんでした。



 それでも、ボロボロになりながら、幾多の犠牲を出しながら、わたくしたちは魔族と戦いました。



 200人ほどおりましたわたくしたちは、20人にまでその数を減らし。

 そこでやっと魔族軍を撃退し、勝利を掴むことができたのです。


 魔族を撃退した後、わたくしたちはその場で他の亜人種と共に傷をいやし、疲れをいやしておりました。


 そこに、人間、ガトレス王国の大軍が再びやってきたのです。


 恐ろしい器具を携えて…





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