第1話 再会 - しかし、封印は受け入れらません -
- …封印を、受け入れろと仰るのですか?-
ユウヤさまのお言葉に、思わず問い返してしまいました。
共に逃げよう。
共に生きよう。
誰にも見つからぬ土地を見つけ結界を張り、二人だけで生きよう
そのようなお言葉を頂けるとばかり思っておりました。
それなのに…。
- ユウヤさまも変わってしまわれたのですか?
他の人間どもと同じように、変わってしまわれたのですか? -
ユウヤさまは私を見つめ静かに、諭すようにお話しくださいました。
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嘗て人間は、わたくしを「女神」などと呼びました。
しかし、その人間たちは、あっという間に裏切りました。
わたくし一人ではありません。
種族の皆が、人間に利用され、裏切られ、蹂躙されました。
そんな人間の中でただ一人、人間に力を奪われたわたくしを救い出し、ずっと守り続けてくださった人。それが剣士・ユウヤさまでした。
しかし彼も、最後の味方であった彼も、わたくしの盾となって倒れました。
人間であるにも拘わらず、簡単に掌を返した人間に疑問を投げ掛け、力を奪われたわたくしを、命をかけて守ってくださったユウヤさま。
そのユウヤさまに無数の剣が振り下ろされ、倒れる姿。
目蓋の裏に張りついて離れないあの光景が、わたくしの心の全てを変えました。
人間も。世界そのものも。この惨状を放置し、わたくしたちを見捨て、一向に姿を見せぬ神々も!
全て、全て壊れてしまえばいい。
見捨てられる哀しみを。
奪われる絶望を。
そして、ゆっくりと死が迫る恐怖を!
すべて、味わうがいい!
その絶望の中で、その身を焼かれるがいい!
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それから。
わたくしは、王国を滅ぼし、人間を端から殺しました。
それでも憎悪の炎は燃え尽きませんでした。
それどころか、まだ手を付けていない他の国々は、わたくしを「悪魔」と呼び、「討伐」などと言い始めたました。
その様子は、まるで茶番。
悪魔? 討伐?
疑うことを知らず、ただ尽くしていただけの私たちを罠にはめ、弱らせ、捕らえ、蹂躙し、惨殺した人間が!…それを仰いますか?
人間の反応で例えるなら
「はぁ?」
と、耳に手をかざしておりますわ。
どちらが悪魔なのでしょう?
どちらが討伐されるべき存在なのでしょう?
なんの冗談なのでしょう!もう笑いが止まりませんでした。
しかし笑えば笑うほど、憎悪は深く大きくなっていきます。
国境を越え、また端から燃やしました。
いつしか討伐軍が組まれ、わたくしを追ってきます。しかしたかが人間。止められるとでも思っているのでしょうか?徒党を組めば何とかなる、人間の戦略はいつもそう。そんな単純な手で、100%の力を取り戻した狭姫族が討てるとでも?
思う存分、何の後顧の念もなく、破壊の限りを尽くします。
何を気にすることもなく、何の抑制もなく力を放出するのは、とても気持ちの良いものですね。
とは言え、ここまで激しく放出しますと、如何にわたくしと言えど力を使えばそれなりに魔力も体力も消耗します。たまには休み、力を補充し溜めなければなりません。
二日前から、使い果たした力を元に戻すために、この洞窟の奥のさらに奥に隠れました。あと一日も経てば、完全に復活するでしょう。力が戻ったならば、また…。
そんな折のこと。
あの時、わたくしの盾となり、何度も斬り付けられ、倒れ、息絶えたと思っていたあのお方が、わたくしを見つけやって来たのです。
そう。それはユウヤさまでした。
そのお姿を目にし、お声を耳にし、言葉を交わしたとき、わたくしの心に暖かい何かが灯りました。
- ご無事だったのですね。
いえ、無数の傷。荒い呼吸。
お体はご無事ではないでしょう。
しかし、少なくとも、生きていらした。
それだけでも… -
あの頃の穏やかな心が戻ったかのようでした。
しかし。
ユウヤさまの口から発せられたお言葉は…。
本日もう1本更新します
1,2話がセット、その後背景が見えてきます。