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10.カタログ

 とりあえず、習得を目指すスキルは決まった。それぞれのスキルをより詳しく検討すると、以下のような特性を持っていることが理解できた。


 高速探索は、迷宮内でしか効果を発揮しないので、冒険者以外にとっては無用のスキル。一方で、冒険者を続けていくなら探索の効率化のための必須技能と言える。迷宮内を探索できる速度が上がるのだから当然だろう。


 感覚拡張も同様。これを習得すると、迷宮内で下層フロアに進むための階段が発見しやすくなったりするという。


 魔力増量は、万が一イルザの魔力が切れた時のために、レオも収納袋を運用する程度の魔力は保持しておいた方が安全だろうという理由で習得を目指す。


 氷魔法は、炎系の攻撃に耐性を持つ敵が出てきたときのために習得しておきたい。イルザの炎熱魔法は銀級シルバーでも余裕で通用するほどだというが、迷宮冒険者はひとつの属性に頼りすぎると、相性が悪かったりトラップにかかったりした際、あっという間に無力化される危険性がある。外でのセオリーと違って、複数種類の魔法を運用できた方がいいらしい。


 解毒については、低層で頻繁に使用される状態異常が毒だということで、習得目標に加えた。


「オススメの基礎スキルで言うと、ざっとこんな感じかしら。合計で500ポイント必要だから、頑張って稼いできてね」

「ありがとうございます、すごく助かりました! きっと僕だけだったらこんなにバッチリ決められませんでした」

「いいよいいよー」


 なぜかデレデレと頬を緩ませるハンナと、それをにらみつけるイルザを無視して、改めてレオはカタログに目を落とした。食い入るように見つめていると、涎が垂れそうになる。

 何しろ、カタログを見ていると他に欲しいスキルが山ほどあるのだ。持っている自分のスキルのレベルもどんどん上げていきたい。


 しかしどうやら、少なくとも最初のうちは、一つのスキルにまとめてポイントを割り振ってレベルを上げるのではなく、いろいろなスキルの習得に回した方が良さそうだった。


 たとえば、【体術Lv.1】のスキルは100ポイントで習得できるが、すでにレオが習得している【剣技Lv.2】を【剣技LV.3】に上げるには1000ポイントが必要になる。レベルを上げようとすると、一気に必要ポイントが跳ね上がるのだ。

 イルザに至っては習得しているスキルがほとんど上位レベルに踏み込んでいるため、今持っているスキルのレベルをロールで上げるのは、当面諦めた方が良さそうだった。


「外での戦いは基本的には集団戦だから、得意分野を伸ばしてそれぞれに協力し合うのが理想だけど、迷宮内に潜れる人数は限られているからね。最大でもパーティーの人数は五人までだから、一人ひとりがマルチスキルを習得していた方が都合がいいの」

「そういうものなんですね……」

「もちろん、一芸に秀でていることにはそれなりの強みもあるけどね。得てしてそういうタイプは守備がおろそかになるから……」

「たしかに、剣技だけを高めても、剣が折れちゃったらどうにもならないですもんね」


 剣技のレベルをたくさん上げるよりは、魔法を覚えた方が理に適っている、ということなのだろう。

 しかしそれでも、ポイントを払えばロールが手に入るものはまだマシとも言えた。


 レオの【経験効率Lv.7】やイルザの【炎熱魔法Lv.6】クラスになると、レベルアップにはオーダーメイドのロールでしか対応できず、さらには必要なポイント数すらもわからないという。悪いときにはいくら支払っても迷宮管理局では製造できない、ということもあるらしい。


「ま、そういう心配が必要になるのは、金級ゴールド以上になってからだから、ひとまずは基礎スキルを幅広く習得することを目指したほうがいいと思うよ」

「そうします、ありがとうございます! いろいろ教えていただいて助かりました、いつかお礼させてください!」

「お礼……それなら今度、一晩くらい……」


 ぐいっと机に身を乗り出してくる。いままで気づかないようにしていたけれども、イルザほどではないにしろ、ハンナはハンナでものすごくスタイルがいいので、そういう姿勢を取られると机に胸が乗っかるのが分かる。

 虚を突かれて呆然としているレオに向かって、これ幸いとハンナの手が延ばされた時だった。


「ハンナさん、冗談は大概にしないと焼き殺しますよ?」


 イルザは完全な笑顔を浮かべていた。完全な笑顔だ。にもかからず、毛穴という毛穴から殺気が発散されているのだから、女性というものは恐ろしい。

 さすがに身の危険を感じたのか、レオの右頬に延ばされかけていたハンナの手が引っ込む。今後、指一本でも触れたら殺す、という強い意志がイルザの全身から感じられた。


 イルザはちょっとだけ過保護なんだなあ、とレオは思う。そこまで心配してくれなくても、ハンナが危害を加えることはないだろうに。

 こほんと咳払いをして、ハンナが距離感を取り戻す。


「それじゃあ、お礼代わりにちょっと真面目に聞いていい?」

「なんですか?」

「結局、あのスキルの効能は分かった?」


 ハンナはそっけなさを装っていたが、眼鏡の奥でかすかに目が光るのがわかった。

 【カリスマ】。

 迷宮管理局の膨大なデータベースにも未登録のスキルだという。そこに興味を持つのは当然のことだ。もちろん、ハンナには恩があるし、期待には応えてあげたい。

 しかし、レオは首を振った。


「迷宮に行けばわかるかなと思ったんですが、特に何もなかったような気がします。イルザ、気づいたことはあった?」


 イルザはちょっと首をかしげて昨日の探索を追想した後に、諦めたように首を振った。


「いえ、特には。はじめての探索にしてはレアな発掘物があったり、武器持ちにエンカウントしたりしましたが、それはどちらかというと【幸運】に属する効果でしょう。我々は持っていないスキルですから、あれらは偶然と見るべきかと」

「ということです、お役に立てずにすみません」

「ふーん。そっか。低層じゃ発揮されないスキルなのか、それともすでに発動しているのを自分たちが気づいていないだけなのか……」


 ハンナは腕を組んで考え込んだ。聞くと、未知のスキルの解明と、その習得をスキルロールに落とし込むことは、迷宮管理局の重要な活動のひとつらしい。


「ま、いいわ。【カリスマ】について何かわかったら、また教えてくれる? その代わり、それまでは私がしっかりサポートしてあげるから」

「心強いです、分かったら必ずご報告します」

「うんうん、レオ君は本当に素直でいい子だねえ。よしよししたくなっちゃう」

「完全に同感ですが、話を進めてください。さっきのカタログ、スキルロール以外のものも載っていたようですが?」

「さすが、目ざといですね、イルザさんは。お察しの通り、魔石ポイントは、スキルロール以外のアイテムにも交換できます」

「アイテム?」

「そう。その収納袋みたいな、迷宮管理局の特製アイテム。どれも迷宮の外じゃ役に立たないけど、探索を効率化することにかけてはスキルよりも有用なものがそろってます!」


 しかもこのアイテム類、ここでしか手に入らないよ、と商魂たくましいことをウインクとともに告げる。たしかに、収納袋やオートマップがないと、迷宮探索の難度は何倍にも跳ね上がるだろう。この手のお役立ちアイテムを数多く製造しているのであれば、だてに迷宮管理局を名乗っていない。


 つまり、魔石ポイントには使用用途が三つあるということだ。

 ひとつ、1ポイントあたり銅貨10枚に換金。

 ひとつ、スキルロールと交換。

 ひとつ、管理局特製アイテムと交換。


「で、これがそのアイテムリスト」

「うわ、すごい。欲しいものがいっぱいある!」

「そう。レオ君たちは実力は十分だから、さっきの最低限の基礎スキルだけ習得しちゃったら、戦闘力を上げるよりも、むしろアイテムに投資したほうがいいかもね」


 迷宮内を照らし続ける【たいまつの宝石】や、迷宮内での食事をおいしく調理できる【夢幻のフライパン】、鉱石を簡単に採掘できる【黄金のつるはし】など、ハンナが広げてくれたリストには冒険者垂涎の品が列挙されていた。


「中でも私のオススメはこれだね。【ポイントフラッグ】。低層を攻略しているうちは必要ないけど、昇級を目指すなら持っておいた方がいいよ。2本目までは安いし」


 ハンナが推薦してくれたのは、迷宮内にセーブポイントを設置できるアイテムだった。


「迷宮内の任意の場所にこれを立てておくと、いつでもその場所に移動できるっていうアイテム。慣れた冒険者はこれを二本持って迷宮に入るの。一本はまず入り口に設置して、もう一本は最深到達層に設置しておく。そうすると、いつでも帰りたいときに脱出できるし、再度迷宮にアタックするときにも、前回到達したところからすぐにリスタートできるってわけ」

「す、すごい! 欲しいです、【ポイントフラッグ】!」

「ただし、発動には十秒以上かかるし、結構な魔力を消費するし、エンカウント中は発動が強制キャンセルされるから戦闘からの離脱には使えない。それでも良ければ1本目は100ポイント、2本目は200ポイントで交換可能」


 欲しいスキルと合わせて、合計800ポイント。

 この先の九日間で集めるべきポイントの目標が完全に決まった。

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