表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/78

09.スキルロール

 スキルロール。


 見た目は巻物のようになっているが、中に刻まれているのは文字ではなく、呪である。これを開放するとスキルが体に刻まれ、使用可能な状態になる。

 魔石ポイントと交換で管理局内で手に入れることができる。基礎的なものであれば100ポイント前後で入手可能だが、レアなスキルや高レベル帯のものになると必要ポイント数は跳ね上がり、中には数十万の値が付くロールもあるという。


 この世で迷宮監理局だけが製造できるもので、製造方法は、ほかの特製アイテムと同じく門外不出。魔石と交換で冒険者に販売されることから、魔石の魔力を何らかの形で加工しているのだろうと噂されている、らしい。


 ちなみに、生まれ持ったもの以外のスキルを習得するには通常、訓練や契約などを行わなければならない。冒険者にとってはスキルロールの使用が当然のことになっているが、一般的にはむしろこちらが邪道とされる。強さを金で買うなんてあり得ない、と冒険者を毛嫌いする騎士団員も多い。


 ハンナが薦めてくれたのは、鑑定のスキルだ。

 たしかに、冒険者の必須スキルのひとつと言われている。スキルレベルにもよるが、出くわした魔物の特性や弱点、採取した植物が食用に適しているかどうか、武具の適正や呪い判定、ほかにもフロア内の罠を見抜けたりと、汎用性の高いスキルだ。

 実際、このスキルを身に着けているかいないかで、迷宮探索の難易度はずいぶん変わるらしい。


「じゃあ、この鑑定スキルのロールをください」

「いいの? 他にもいくつか交換できるロールはあるけど……」


 カタログに一度視線を落としたものの、すぐに目を上げて、ハンナの目を見る。


「でも、ハンナさんのオススメなんですよね? じゃあ、僕はこれがいいです」

「……あなた、本当に」

「ハンナさん。さあ、早くレオ様にスキルロールを」


 ハンナが絶句にして頬を染めかけたとき、イルザが横から割り込んできた。何やら視線に敵意がこもっている。


「わ、わかってます。【鑑定】は定番のスキルだから、在庫があるわ。持ってくるからちょっと待ってて」


 奥の部屋に引っ込んだハンナは、すぐに戻ってきた。手には小さい巻物がある。あれが【鑑定】のスキルロールなのだろう。


「イルザ、これは僕が習得した方がいいの? イルザの方が適ってるんじゃない?」

「いえ、レオ様が習得された方が良いかと思います」

「うん。【鑑定】は基礎スキルだから適正は問わない。それに、使用範囲がパーティ全体にまたがるから、どちらが習得しても、解散しない限りは問題ないわよ」

「解散しない限り、か。じゃあ僕たちには関係ないね、イルザ。解散とかしないもんね!」

「レオ様……これはもう結婚……」

「え?」

「なんでもありません。ハンナさん、これは巻物を広げればそれだけで習得できるものなのですか?」

「そうだけど、その前にポイントの支払い処理をしちゃうから、ちょっと待ってね」


 そう言って、ハンナは机の下から管理局のマークが入った収納袋を取り出した。口を大きく開けて、机上の魔石を中に入れていく。


「いまさらだけど、パーティの代表者はレオ君でいいのよね。じゃあ、レオ君のライセンスを貸して」


 言われるがままにライセンスを差し出すと、それも収納袋に放り込まれる。しばらく待っていると、ハンナが袋からライセンスだけを取り出して、返してくれた。


「これでポイントの登録は終了。裏を見て」

「裏? あ、69って書いてある」

「そう。それがあなたが所持している魔石ポイント。こうやってライセンスに刻んでいくのよ」


 ライセンスの裏側には、先ほどまでなかった数字が浮かび上がっていた。もちろん魔術的なプロテクトがかかっているのだろう、指でこすっても消えない。不正はできそうになかった。


「で、溜まったポイントを使うときは、こうするの。ごめん、もう一回ライセンスを貸してくれる?」


 手渡したライセンスを、ハンナが巻物に接触させると、一瞬だけあたりが光った。


「はい、ありがとう。これでスキルロールの使用者登録が終わったわ。ライセンスの裏の数字、減ってるでしょ?」

「あ、本当ですね。69から50減って、19になってる」

「そう。その代わり、この巻物がレオ君のものになったってわけ。こうして使用者登録を済ませないと、スキルロールは使えないの」


 つまり、強盗や盗難にあっても、本人以外には使えないから意味がない、ということか。これはシステムとして非常によくできている。


「さあ、じゃあスキルロールを広げてみて」

「はい」


 渡されたスキルロールを見つめて、ごくりと喉を鳴らす。もちろん、スキルの習得そのものははじめてではないが、ロールを使うのはまた格別の緊張感がある。

 おそるおそる巻物をほどき、中を開く。腕いっぱいにもならないくらいの短さの巻物が開かれ切ったとき、ふっと微風が吹き、レオの前髪をさらった。

 巻物に封じられていた呪が解き放たれ、レオの額に飲み込まれて行く。あっと声を上げようと思った時には、すでに終わっていた。


「はい、これで終了。スキル【鑑定】を習得したわ」

「……なんだか、実感がなくて不思議な感じがします」

「どうせ今日も探索に行くつもりなんでしょ? そしたら、迷宮の中で試してみるといいわ。昨日は見えなかったものが見えるようになっているはずだから」

「はい!」

「うんうん、いい返事。残りの19ポイントで交換できるスキルはないけど、今後のためもあるから、初心者用のスキル一覧のカタログ、ちょっと眺めてみる?」

「いいんですか?」

「もちろん。ついでに、私がちょっとアドバイスしてあげるわ」


 ハンナが分厚いバインダーからいくつかのカタログを取り出して見せてくれる。スキルの数は膨大で、とても覚えきれそうになかった。その上、カタログによって属性順になっていたり必要ポイント順になっていたり、慣れていないと目当てのものを見つけるのも難しそうだ。


「2層まではいまの所持スキルで楽勝だったみたいだから、今後、もっと深くに潜るときに持っていた方が良さそうなスキルを見てみましょうか」

「お願いします!」


 正直、あまりにもスキルの数が多すぎるのと、一見して効果が想像できないものも混ざっていることもあって、自分だけで必要スキルを見極めるのは難しそうだった。こうしてガイドしてもらえるととても助かる。

 銅級ブロンズに昇級するまで、最短であと九日間。分厚いカタログを片っ端からひっくり返し、ハンナとイルザの意見を取り入れたところ、とりあえずこの九日で取得を目指すべきスキルが定まってきた。


<レオ>

【高速探索Lv.1】(200ポイント)……迷宮内での移動が速くなる。

【感覚拡張Lv.1】(100ポイント)……迷宮内での感覚が鋭くなる。

【魔力増量Lv.1】(50ポイント)……最大魔力量が増える。


<イルザ>

【氷魔法Lv.1】(100ポイント)……氷魔法を使えるようになる。

【解毒】(50ポイント)……解毒する。


 とりあえず、これだけ習得できれば、すぐに銅級ブロンズに上がっても、十分以上に通用する、ということだ。

 具体的な目標が定まると、俄然やる気も出てくる。

 レオは今すぐにでも迷宮に行きたい気持ちを必死に抑えるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ