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入道雲の裏側で

作者: 橘暁子


 ジャングルジムに登る。

 

 大人から見ると、きっとなんてことない高さなのだろう。

 

 けれど、ちいさな子どものわたしからすれば、とても高くて。

 

 頭の上、どこまでも広がる青い空には、白い雲。

 

 そう、あれは、入道雲……と、言うのだったか。

 

 もくもくと大きな雲が、遠くに見える山の上から、どこまでもどこまでも、天に向かって広がっていく。



 今日のわたしは、どこかぼんやりしている。

 

 ぼんやりしたまま下を見れば、同年代の子どもたちがきゃいきゃいとはしゃいでいる。

 

 いつもなら、わたしもその輪の中で一緒にはしゃいでいたのだろう。でも今日は、どうしてもそんな気持ちになれなかった。

  


 再び目線を上げる。

 

 きれいな青の中にある白は、透明できれい。それでいてどっしりと重く、はっきりとその存在を主張している。



「人はね、死んでしまうと天国に行くんだよ」

 

 ふと、今よりもっと小さいとき、お母さんがわたしに言った言葉を思い出す。

 

 天国ってどこだろう、と思う。

 

 天の国って書くくらいだから、こうしてわたしが見上げている空のどこかにあるのだろうか。

 

 もしかしたら、あの入道雲がそうなのかしら。

 

 だってあんなにどっしりはっきりしている。

 

 あそこまで、どうにかして登って行ったら、私の足も乗っかるんじゃないだろうか。

 

 今見えているみたいに、ふかふかした感触で。

 

 もしそうだったら、きっと夢みたいに楽しいだろう。

 


 わたしは今、あの入道雲を見上げることしかできないけれど。


 もしかしたら、もしかしたら。

 



 あの入道雲の裏側では、死んでしまった人たちが、こちらを見下ろしながら、楽しく笑い合っているのかもしれない。




「おばあちゃんは、あなたをずっと、天国から見守っているからね」



 最後に聞いた、おばあちゃんの声を思い出す。

 

 おばあちゃんはしわしわで、へんぴなとこに住んでいて。

 

 土の香りのする家が、じゃりじゃりするこたつが、わたしはあんまり好きではなかったけれど。

 


 顔をもっとしわしわにして笑うおばあちゃんは、誰よりもわたしにやさしかった。


 

 ずずっと、鼻をすする。そして、めいっぱい、空に――空に浮かぶ入道雲に、手を伸ばす。

 

 もし、あの入道雲の裏側に、天国というものがあるのならば。

 

 伸ばした手を、ゆっくりと振る。

 

 おばあちゃんに、この手が――むりやり笑ったこの顔が、見えるといいな。

 

 さびしいけれど、かなしいけれど。

 

 わたしは今日も、元気にやっていますよ。

 

 だから――どうか、わたしを見守っていてね、おばあちゃん。




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― 新着の感想 ―
[良い点]  お馬鹿な作品群の中で珍しく真っ当なのです。 [気になる点]  ……何かが足りない。あと少し。真っ当だからこそ。  最後の一文ないしは二文。難しい言葉にするわけではなく、もっと……ストン…
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