王妃教育だと嘘をついて虐め抜いてやりますわ!
前作の
「え?これって王妃教育の一環じゃなかったんですか?~令嬢は虐められていた事に気付かない」
こちらでリクエストいただいた悪行令嬢視点になります。
前作をお読みになってから読んでいただいた方が良いかと思います。
「ルーシュ・バーネット! ちょっとこちらに来なさい!」
公爵令嬢イザベラの甲高い声が教室内に響き渡る。
ここはブラゼル王国が誇る魔法学園リリアスの最終学年クラスの一つである。
この学園では、15~18歳までの4年間、魔法と政治・経済、社交を学ぶ。
「はい、なんでしょうか?」
呼ばれたのは、この国の王太子アインハルトの婚約者で、赤髪に碧眼の美女ルーシュ伯爵令嬢である。
イザベラは公爵令嬢たる自分を差し置いて、王太子の婚約者に選ばれたこの伯爵令嬢が、疎ましくて仕方がなかった。
取巻きーズ三人と空き教室にルーシュを連れ出してこう告げる。
「いい事、王妃になるための教育は、なにも王城でないと出来ないと言う物ではありませんの。公爵令嬢である私が実践的な王妃教育を特別に教えて差し上げますわ。感謝なさい!」
大嘘である。
そもそもたかが公爵令嬢ごときが王妃教育のなんたるかを語れるはずもないのだが、
「本当ですか、ありがとうございます!」
ルーシュはある意味天然だった・・・
「カバンから教科書を全て出しなさい」
「はいっ」
ルーシュが素直に従うと、
「よろしい、ライザ、エリス、オルガ、やっちゃいなさい!」
「はっ」
取巻きーズがまるで親の敵のように嬉々として教科書をビリビリに引き裂く。
「あの、一体なにを?」
ルーシュがポカンとしながら聞くと、
「王妃たるもの、教科書の中身を丸暗記しておくのは当然。テスト前に慌てて一夜漬けしようなんて言語道断。教科書なんかなくたって次のテストで良い点数を取ってみなさい!」
・・・めちゃくちゃである。
ちなみに偉そうにしてるイザベラ含むこの四人は一夜漬け派だったりする。
(フフン、良い気味。テスト前に最終確認出来なくて大恥かくといいわ)
あくまでも自分基準でほくそ笑んでいたのだが、
「わかりました!」
と、ルーシュにとても良い笑顔を返されたのだった。
~テスト結果~
1位・・・ルーシュ
2位・・・アインハルト
3位・・・メイヤー
・・・
「なんでよ!」
イザベラの慟哭が空しく響いたとさ。
閑話休題
「次は動体視力テストよ!」
懲りずにイザベラが高らかに告げる。
「はあ」
「なによ!その気のない返事は! 言い事、王妃たるもの、常に命を狙われているの。護衛がいるとはいえ、最低でも自分の身を守れなくてはならないわ!」
「まあ確かに」
「そこで今日からこの三人が校内に居る間、あなたを襲うわ。いつどこで襲われるかわからないから常に備えていなさい!」
「はあ、わかりました」
(フフン、あなたは知らないでしょうけど、ライザ、エリス、オルガの三人は女だてらに騎士を目指してる脳筋なのよ。ボロボロにされるがいいわ)
~1週間後~
「ゼイ・・・ハァ・・・ゼイ・・・ハァ 申し訳ありませんイザベラ様、我ら三人がかりで指一本触れることも出来ません・・・」
「だからなんでよ!!」
閑話休題2
「次はサバイバル能力テストよ!」
「は?」
「王妃たるもの、どれだけ過酷な状況におかれても生き残って子孫を残さねばならないわ!」
「いやあの、それと目の前の激流と化した川になんの関係が?」
さしものルーシュもおかしいと思い始めていた。
「この自然の猛威に打ち勝ってこそ、真の王族への道が開かれるのよ!」
「いやこれ普通に死にますって・・・」
「イザベラ様、さすがにこれはマズイかと・・・」
取巻きーズもさすがに諌める。ちなみに今日は二人しかいない。危機察知能力に長けた一人が早々にイザベラを見限っているのだが、イザベラは気付いていない。
「おだまり!! ルーシュ・バーネット、怖じ気づいたのかしらあ? ちなみにアインハルト様は余裕でクリアしてたわよ~」
(フフン、そんな訳ないじゃない。普通に死ぬっての)
「本当ですか! だったらやります!」
チョロ過ぎるぞルーシュ・・・
「お行きなさい!」
ドンっとルーシュの背中を押すイザベラ。取巻きーズの二人が思わず目を瞑る。
川に投げ出されたルーシュが激流に落ちる盛大な水音が・・・響かなかった。
「あ~怖かった~浮遊魔法があるとはいえ、やっぱ落ちるのは怖いですよね~」
水面ギリギリで空中にプカプカ浮いてるルーシュが呑気に語っていた。
「アハハハハ・・・」
(イザベラ様が壊れた・・・)
「ルーシュ様、よろしいでしょうか?」
「あら影さん、なにか?」
「影さんって・・・まあ影なんですが」
王太子の婚約者であるルーシュにも当然影はついている。
もちろん、普段は裏方に徹して護衛対象に話し掛けることなどないのだが
「さすがに今回の件は看過出来ません。アインハルト殿下に報告しますがよろしいですね?」
「いえいえ、殿下もお忙しいでしょうから報告は必要ありませんよ。この程度自分で解決出来ないようじゃ王妃なんて務まらないと思いますし」
「そういう問題じゃないと思うんですが・・・はぁ、わかりました」
閑話休題3
「イザベラ様、もう止めませんか・・・」
遂に取巻きは一人になっていた。
「まだよ! まだ私は終わってない!」
「はあ、次はなにするんですか?」
「高い所よ!」
「は?」
「あの女、落ちるのが怖いって言ってたじゃない? きっと高所恐怖症なのよ、そうに違いないわ! 恐怖にかられて魔法の発動どころじゃなくなるはずよ!」
(いやいや誰だって落とされたら怖いって、大丈夫かこの人・・・あぁやっぱあの二人のようにさっさと逃げれば良かった・・・)
「てな訳で屋上よ!」
「屋上ですね~わあ~良い景色~」
「あら? ルーシュさん、ほら見て見て、校庭に何か落ちてるわ?」
「どこですか~?」
「ほらほら、あれよっ!!」ドカっ!! ヒュ~~~
(殺ったわ! 遂に殺ってやったわ!!)
ピョーン
「あはは~見て下さいイザベラ様~今度は風魔法でクッション作ってみました~トランポリンみたいで気持ちいい~」
「アハハ~楽しそうね~・・・」
(今度こそ逃げよう)
遂に取巻きは一人もいなくなった・・・
閑話休題ラスト
「全くもう! 役に立たない取巻きだこと! この私を一人にするなんて! まあいいわ、今回はお父様におねだりして、S級冒険者を三人も揃えたのだもの。今度こそルーシュも終わりよ。今頃は」
ドッカーーーン!!!
「なんだあの爆発は!」
「通学路の方だぞ!」
「うわ、ひでぇ・・・三人倒れてるぞ。見た所冒険者かな?」
「なんだ、仲間割れか?」
「魔物じゃないだろな・・・とにかく騎士団に連絡だ!」
「・・・なんでこうなるのよ~!」
イザベラは遂に万策尽き果てた・・・かに思えたが・・・
ある日、校庭の中庭を腕を組んで仲睦まじく寄り添う男女に目を止めた。
それは王太子のアインハルトと最近身分もわきまえず幅をきかせているアリス・オコネル男爵令嬢だった。
二人を見た瞬間、イザベラの頭に天啓が閃いた。
イザベラはニタァと怪しげに微笑むとルーシュを探しに走り出していた。
その道の先が自らの破滅に繋がるなんて思いもせずに・・・