流れ星
「そんなところで何やってるんだい?」
夜道を歩く旅人は海を眺め椅子に座る少女に声をかけた。
「…はぁ、何?これからいこうってタイミングで声をかけてくるなんてタイミングの悪い…」
「ごめんよ、旅人として少し話を聞きたいだけさ。大して時間はかけさせないよ」
「こんな私に声をかけるなんてあんたも物好きね」
「物好きじゃなきゃ旅なんてしてらんないよ」
「まぁ、予定が少しくらい遅れたって関係ないわ、過程がどうであれ結果は変わらない訳だし」
「ありがとう助かるよ」
旅人は少女の後ろに立った。
「どうせなら、隣にきたらどうなの?まぁ慣れてるから構わないのだけど」
「隣よりこっちのが話しやすそうだったからついついね」
「で?聞きたいことって?」
「空に見える赤い流れ星のことさ」
「貴方って結構面白い表現の仕方するのね。みんなあれが落ちてくるって言って気が狂ったように逃げようとしたり暴れたり、悟りを開いたふりして現実から逃げたりでまともな人はいなくなって社会は大混乱よ。あなたもこんな時に来るなんて運がないわね」
全てをあきらめて呆れたような、しかしどこか憐みのこもった台詞だった。
「僕の国もずっと昔だけど彗星が落ちてくるって言われて大騒ぎした時があったんだ。まぁ、ただの杞憂で素通りしてってなんもなかったのだけどね」
「励まそうとしてくれてるの?」
「僕の国の恥ずかしい昔話をしただけさ」
「ありがと」
少女は海を見つめたままお礼を言った。
「そうだ、流れ星に願い事してみたらどうだい?案外叶うかもよ?」
「…まぁ、どうせだしやってみようかしら」
「なんて願い事するんだい?」
「いつか自由に歩けるようにお願いするだけよ」
「そうかい」
少女は目を閉じ手を合わせる。
それと同時に足元に光が集まり
「…?」
少女に足の感覚が宿り、恐る恐るといった様子で一歩を踏み出しおぼつきながらも立ち上がる事が出来た。
「どうだい、歩けるようになった気分は?」
「最高よ!こんな世界にもこんな素晴らしい奇跡があったのね!まだこの世界も捨てたものじゃないわね!」
新たに得た足を使い少女は軽快に跳ね回る。得てから僅かな時間しかたっていないというのに長年愛用してたかのように違和感なく歩き、走り回った。
旅人は来た道を戻るように去って行こうとする。
旅人は振り返らず少女に
「じゃあね」
「えぇ、さようなら」
別れの挨拶を終えると旅人は元の道へ身を引き返し、少女は崖から身を投じた。
「この世界に来た記念に僕も一つお願いしとこうかな」
旅人は頭上から落ちてくる空を覆いつくすような隕石に目を閉じ手を合わせた。
海の見える崖ってシチュエーション、ラブコメとかだと肝試しの時に結構出るよね。もしくは怖い話とかで飛び降りるの見ちゃったやつとか。