雪の後押し
練習で書いた650文字の短編です。
しんしんと、積もる雪。
今年一番の大寒波らしい。
「この雪じゃあ、お客さん来ないね」
カウンターの中、磨いた皿を片手に京子さんが零す。
昼時なのに、客は俺だけ。
というか。
「俺は客じゃないんですかね……」
「やだー、大事な常連様に決まってるじゃない
愛想笑いで誤魔化された。
──雪はしんしんと降り続く。
「マスター遅いわね。買い物に二時間もかかるのかしら」
あのマスターのことだ。
お客が来ないと踏んで、またパチンコでも打っているに違いない。
目の前に新しいコーヒーが置かれた。
ふと京子さんを見る。
「サービスよ」
ポニーテールを揺らして片目を瞑る仕草に、思わず鼓動が高鳴る。
熱いままカップを傾けていると、店の電話が鳴った。
──雪はしんしんと降り続く。
「──まったく、マスターったら」
やはりさっきの電話はマスターからか。
京子さんの口振りだと、やはりパチンコ……ん?
「どうしたんです、まだ閉店には早いのでは」
ドアを開け、シャッターを下ろす京子さんの背中を眺める。
「この雪で電車も止まっちゃったし、今日はもう閉めていいって」
え。
「やばい、帰れない」
カップを干して、思わずごちる。
「ゆっくりしていけばいいじゃない」
「いや、そういう訳には」
「だって、どうせ今日は帰れないでしょ、私たち」
悪戯っぽい笑みを浮かべて、京子さんはエプロンを外した。
──きっと雪は、朝まで降り続くだろう。