8話 家族と目的地
村野です。ちょっと短くなってしまいました。
私はセラフィムから貰ったスマートフォンで地図アプリを開いた。エリーもそれを覗き込む。ちなみにこのスマートフォン見たことない機種だ。seraphimってロゴが刻まれてるから恐らくセラフィムの自作だろう。何でもできるな、あの人……。
セラフィムは無事なのかな。少し心配になったけど、今は信じるしかない。私は不安を飲み込んで画面に目を落とした。
「私たちは今ここか……。何気に初めてきたね」
地図に刺さった現在地のピンを確認する。私がエリーを抱えて走れる距離だから、この麦畑と町の中心部はそれほど離れていない。だけど、わざわざ遊びにくるようなところでもないし、今まで来たことはなかった。
「やっぱり綺麗だなあ。こういう風景って」
エリーが辺りを見渡してポツリと呟く。
「ここは人工みたいだけどね」
私はセラフィムが作った小麦の模型を指差した。でも、気持ちはエリーと同じだ。
「また見に来ようよ。全部終わったら」
エリーは何も言わなかった、でも確かに頷いた。
「さて、どこに行こうか。多分北はまずいよね」
私は地図の範囲を広げ、この国全土を画面に映す。
北がまずい理由は簡単だ。北には大都市が多い。私たちの町は国の中心から南に外れているわけだ。大都市ということは人口が多い。それはダンタリオンが入り込んだときパンデミックが起きる可能性を示している。巻き込まれてしまったら危険だ。
逆にここよりさらに南は農業地帯になっている。南西は企業が進める大規模農業が行われていて、南東は農村がポツポツと点在している。よそ者が簡単に入り込めるものだろうか。
東はかつて栄えた工業都市。炭鉱でかなりの人数が働いていたらしいが、石油が登場してから次第に寂れていった。今では北の海沿いの工業地帯が取って代わった。
西に行けば遺跡や城が多く残った外国からも大勢人がやってくる観光地帯に着く。ここもダンタリオンが侵入すれば大混乱が起きるだろう。
天使について調べるなら、危険を承知で北や西に行くべきかもしれない。多分天使はダンタリオン感染者を抹殺するために動いているからだ。
まあ、でも一番最初に向かうのはセラフィムに言われたとおり家族の元だ。エリーとも意見が一致した。
一度はエリーを抱えて走った道を、エリーと一緒に逆に辿る。
もしかしてこのまま町まで戻ればいつも通りの日常に戻るんじゃなんて思う。そんなわけないのにね。
「お父さんとお母さん、大丈夫かなあ……」
エリーはさっきからずっとこんな調子だ。いざ家族の様子を確認するとなると不安が込み上げてきたのだろう。
心配ないよってエリーを撫でるけど、否定しきれない自分がいる。むしろこうやってエリーを慰めてる私の方がより不安なのかもしれない。
私の両親はまだ小さい弟と一緒にお祭りを回る予定だった。だから、私とエリーと同じように感染者に遭遇していたとしてもおかしくない。
「……」
ふと見上げればひたすらに青い空が広がっていた。雲が一つも見えない。いつもなら気分が上がるだろうに、今日は不気味にしか思えなかった。
町はごった返していた。といっても祭りで盛り上がっているじゃない。パニックになった人々と事態の解明と沈静化を図る警察で揉みくちゃになっているんだ。軍までもが出動しているようで、この町の混乱が収まる様子はない。
でも、パッと見た限りではダンタリオンの感染者も天使もいないようでそこにはホッとした。
たださっきから何度も電話をしているのに誰にも繋がらない。エリーも同じで悲愴感に満ちた表情をしている。
不安は募るばかり。しかし、私たちの足は着実に答えへと進んでいく。