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3話 決意と銃

 刻一刻と近づいてくる狂ってしまった人々。そんな彼らを撃ち殺してしまうのは殺人だろうか。でも、ここで彼らを倒さなければ私たちが死ぬ。

 私は右手にずっしりと伝わる重いものを握りしめた。緊張と恐怖からくる手汗で少し手が滑る。人間のものとは違った不規則な足音が徐々に近づいてきていた。私は咄嗟に小屋の出口付近に立てかけられていた木の板を小屋の門のところにかませて鍵のようにした。

これでしばらくは時間稼ぎができるはず……


 数秒後、ドアがドンドンとたたかれる音が小屋の中に響いた。

怖い。怖い。だけどそれはエリーも同じ。私は後ろを振り向きエリーの表情を確認する。

とてもおびえていて目に涙がたまっていた。しかしそんなエリーの顔を映した私の視界も涙でぼやけてしまっていた。何泣いているのソフィー。あなたがエリーを守らないと……


 「エリー、必ず私が守るから……!何に代えても……!」


 「待って。ソフィー、何があってもソフィー自身を粗末にしないで。一緒に逃げないとだめだからね!」


 エリーのその言葉で涙が吹っ切れた。それと同時に私は冷静さを取り戻した。しかし異常なまでの拍動は収まる気配がない。もし、彼らにドアを突破されたとして、私が持っているのはただの拳銃で、何十もの狂人に打ち勝つことは不可能だろう。私は右手に握っていた拳銃をポケットに入れて、汗で濡れた右手を今日試着したままの水色のワンピースで拭いた。

 私は急いで薄暗い小屋の中を探った。

 その間にもドアは何度も何度もたたかれていて、ただただ恐怖だけが募る。


 私が地面に落ちていた大きな木の板を何とかずらした時だった。周りと同じコンクリートの床が現れるかと思ったが、そこだけは金属板でできていて、取っ手がついていた。それはまるで地下への隠し通路のようだった。


 「ソフィー、これ、何かな?」


 「わ、わからない…… で、でもとりあえずこのままここにいるよりは安全だと思う。エリー、早くこの中に逃げて!」


 私はエリーが入れるようにその金属製の板を持ち上げた。正直重たかったがエリーの命がかかっていると思えば、不思議と力が出てくる。

板を持ち上げた先には下へと続く階段が伸びていた。

 エリーが、その階段へ一歩踏み出した時だった。ミシミシと音を立てながら扉の鍵の役割を果たしていた木は勢いよく割れた。


 「ソフィー! ソフィーも早く逃げて!!」


 「いいからまずはエリーが早く逃げて‼」


そんなやり取りをしている間にも狂った人々が小屋の中へ入ってきた。


「エリー‼ いいから早く中に入って‼」


 私はエリーに対して怒鳴った。それはエリーに腹が立ったとかそんなのじゃない。

でも少し私自身をないがしろにしたのは事実だ。


「ぜ、絶対生きて帰ってきてよね……」


 私はこの言葉に対して何も言えなかった。


 エリーが階段を下っていった音を確認し、私はポケットに入れていた拳銃を咄嗟に取り出して、銃口を狂人のうちの一人の腹部に向けた。

本当なら即死にできる頭や首や心臓を狙いたかったが、そんなところを狙えば必ず返り血を浴びてしまうだろう。

 私は右手で銃を持ったまま、スライドを引き、引き金に人差し指をかけた。私は左手を添えて、引き金を引いた。それと同時にとてつもない破裂音が小屋の中に響き渡り、暗かった空間に一瞬の赤い光が現れる。予想以上の反動に私はうろたえてしまったが、次に聞こえてきたのはうめき声だった。


 一瞬心の中で喜ぶが、それはまだ早かった。その一人を撃ったとしてもまだ何十人といる。どうしよう。このままだと弾の数が圧倒的に足りない……

 その時、まだ真夜中だというのに突然外が明るくなった。

 この異様な光にはもう慣れてしまった。私は希望を感じるとともに、エリーのことを心配する。ゾンビのようになってしまった人々はその 光の方を一斉に眺めていた。

 私はこの後に起きることが分かってしまう。

このままだとおそらく私も返り血を浴びて狂ってしまい殺されてしまうだろう。

 私は急いで重い金属の板を半分持ち上げて、そのできた隙間から中の通路へと足を踏み入れた。


 金属板は自然と閉まり、中から鍵がかけられる仕組みになっていたため、私は念のために少しさび付いていた鍵を閉める。

 さっきの天使の光を見た直後の私の目にはあたりが何も見えない。壁に手を当てながらゆっくりと一段ずつ降りていく。

 すると突然奥から足音が聞こえてきた。 


 「ソフィー! よかった。無事に帰ってきてくれて……」


 その声は紛れもなくエリーの声だった。声が聞こえた次に、温かい人の体温が私を包み込む感触が伝わってきた。


 「ソフィー、お帰り。本当に帰ってきてくれてよかった……」


 「エリー、エリー……」


 今更、恐怖がぶり返してきて言葉が思うように出てこない。


 「どうしたの? 大丈夫だよ……」


 エリーはそう言いながら、少し身長的に無理をしながら私の頭をなでてくれていた。


 その瞬間、私の心からは何かリミッターが外れたようだった。


「エリー…… 怖かったよぉ……」


 気が付けば、私はひどく哭いていて、エリーにしがみついていた。

 それはついさっきの出来事の恐怖が残っていたせいかもしれないし、これからの未来が不安に感じていたせいかもしれない。

 ただ、今も泣いている私の頭をずっとなでていてくれているエリーとならばなんとかやっていけそうな気もする。

 私は急な恐怖からの解放と、エリーに抱きしめられるという安心感で徐々に瞼が重くなっていった。




 




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