2話 想いと危機
toaに代わりまして村野きさらです。自分からしたらここが第一話なので、せめて二話まで読んでくださると嬉しいです……
思わず大声を出してしまった私だけど、何とか天使には気づかれてないみたい。ていうか、消えた?
立ち上がって辺りを見渡してみても、天使はどこにもいなかった。私たちのことを見失い天使たちはどこかへ行ってしまったのだろうか。
「よく分からないけど助かったみたい。エリー、立てる?」
「あ、ありがとう、ソフィー」
私はエリーに手を貸して起き上がるのを手伝う。彼女の手は白くて小さかった。これぞ女の子って感じ。でも、だからこそちょっと力を加えたら折れてしまいそうな。そんな脆さを感じた。
やっぱりエリーは私が守らなくっちゃ。
「そ、ソフィー、そんなに私の手を見てどうしたの?な、何かおかしなとこある?」
エリーが不安そうに私を見る。
そんなに照れなくても良いのにって思ったけど、それは違うって思い直した。
そうだ、エリーが血を浴びたのは手だったんだ。
私の軽率さを呪う。一番不安なのはエリーなんだ。自分が何か得体の知れないものに変わってしまう恐怖。そして……、私に見捨てられるかもしれないっていう不安。
でも、それは杞憂だよ、エリー。エリーはいつまでもエリーだし、私はいつまでもエリーの親友だから。
そんな事を考えていたら、私はいつのまにかエリーの体を抱きしめていたみたいだった。
「き、急にどうしたの?私から離れたほうがいいよ、ソフィー。いつ他の人みたいに狂っちゃうか分からないからっ」
エリーの体は震えていた。目に見える脅威だった天使から逃れて、これからの不安が噴出したんじゃないかな。
「エリーはエリーだよ。狂ったりなんてしないよ。しても、私は絶対見捨てない」
私の思いを素直に伝え、エリーの頭を優しく撫でる。エリーは震えたままだったけど、しばらくしたら落ち着いたみたいだ。
「……ソフィー、ちょっとの間このままでいいかな?」
「うん、いいよ」
風に揺れる小麦畑の中で、私たちはエリーの気がすむまで一緒に抱き合っていた。
「なんかこうやって畑の中を歩くのってちょっと背徳感あって楽しいね」
立派に育った小麦、しかも収穫間際のものを踏み荒すのはちょっと申し訳ないけど、今しか出来ない感じがして楽しい。
「そうかな……?農家の人が一生懸命作ったって考えたら気がひけるよ」
だけど、根が真面目なエリーは恐る恐る歩いてる。
ふふ、やっぱりエリーは何も変わってないや。
「まずはあそこの小屋まで行こっか。人が居たらいいんだけど」
私は畑の切れ目にポツンと立っている木造の小屋を指差す。農家の人のものだろう。
今は状況の把握がしたい。私もエリーもパニックの中でスマホを落としてしまった。情報を得ようとしたら人づてに聞く以外に方法はない。
「うぅ、勝手に畑に入ったこと怒られるかなあ」
小屋の前まで来たところでエリーがそう呟きながら逡巡する。
エリーらしいけどこんな状況で悩んでても仕方ないでしょ。なるようになれだ。
「すみませーん!誰かいますかー!?」
呼び鈴なんてなかったから、とにかく大声で叫びながら扉を叩く。でも、いつまで経っても誰も出てこなかった。人の気配がしない。
「ん……、開いてるね」
ドアノブは楽に回った。鍵はかかっていないらしい。ちょっとお邪魔させてもらおっか。
「ソフィー!勝手に入って大丈夫なの!?」
「大丈夫じゃないけど大丈夫だよー」
焦るエリーの相手はそこそこに私は小屋の中を物色する。やっぱり無人だった。どうやらここは住宅じゃなくて倉庫みたいな場所なようだ。まあ、狭いもんね。
「ほら、エリー。入ってきなよ」
エリーが未だに外からビクビクしながらこちらを伺っていたから中に招く。
「ソフィー、やめておいたほうがいいよぉ」
でも、エリーはまだ躊躇してるみたい。
「エリー、旅をするには私たちには足りないものがいっぱいある。それをちょっと借りるだけだよ。エリーも手伝って」
エリーは不満そうだった。だけど、私たちのこれからのためだって何度も説得すれば渋々小屋の中に入ってきた。
「じゃあ、何か使えそうなものを探そう」
私とエリーは手分けして小屋の中を探索した。
私たちに足りないもの。水や食料も必要だし、情報も移動手段も何もかもが足りてない。そんな中でもこれから絶対必要で私が今まで持ったことがないものがある。
「あった……」
私は小屋の隅の方にあった棚から拳銃を見つけた。鍵がかかってなかったけどそんなに不用心で良いのかな。まあ、今はラッキーだけど。
「結構重いな……」
それは奪うことになるかもしれない命の重みなのだろうか。大きさに反して私の手にずっしりとのしかかった。
でも、あの天使や狂ってしまった人達に話し合いは通じない。いつか使わなければいけない時が来ると思う。
いつか見た映画の真似をして構えてみる。そして、意識を研ぎ澄まして考える。
エリーが危ないとき、例えばまたあの天使が現れたとして私はこの引き金を弾けるだろうか。
数秒の後、私は拳銃を下ろした。こんなに震えてちゃ問題外だなって自嘲しながら。
そんな時だった。エリーが必死の剣幕で駆け寄ってきた。
「ソフィー!狂った人達がいっぱい来てる!」
「本当に!?」
窓から確認すると確かに何十もの生気を失った人が小屋に近寄ってきている。彼らがやって来る方向は私たちが来た方向。ということは街から来たのだろう。そんなに早くに追いつくなんて……。
「ソフィー、どうしよう……?」
エリーが私にすがりつく。彼女の不安を和らげたいのだけど、私の体も緊張でまともに動かない。
彼らと小屋の距離が10メートルを切った。もう時間がない。
「エリー、大丈夫だよ。私に考えがあるから」
私はようやく動いた手でエリーの頭を優しく撫でる。
「ほ、本当……?」
まあ、つよがりなんだけどね。本当にどうしたら良いんだろう。 今出来ることはエリーに悟られないよう努めて自信のある表情を取り繕うのみだ。
(でも、いざとなったら私を身代わりにしてでも……)
私は右手に握った拳銃に目を落とした。