9:金髪の騎士
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「うぅ~ん……」
窓から指し込む朝日に照らされ、私は気だるげに目を覚ました。
そうして起き上がろうとして気付く。ベッドの上で、たくましい上半身を晒したウォルフくんに抱き締められている状況に。
……あーそうだ。私、昨日ウォルフくんと寝たんだった。文字通りの意味で、普通に寝たんだった……!
「ぐぉ~……すんすん……!」
「んんっ……もう、しょうがない子だなぁ……」
私のことをギュッと抱き寄せ、なにやら胸や首のあたりに鼻をこすりつけてくるウォルフくん。
正直かなり恥ずかしいけど、叩き起こす気にはなれなかった。だって彼……本当にビックリするほど知識を教えられてないんだもん……!
昨日、軽々しく「愛してる」なんて言ってくるウォルフくんにみっちり常識を叩きこむため、彼のお部屋に行ったのだ。
そうして色々とお話してみたのだが、まず語彙力がなさ過ぎて、私に対して『親愛』と『熱愛』のどちらを持っているのかすらわからなかった。
本人曰く、「お前といるとホワホワするぜ!」とのこと。ホワホワって何さって追及すると、「ホワホワはホワホワだろッ! ホワホワ以外にホワホワな言葉なんてあるのかよ!?」って強く熱弁された。
うん……本人がそう言うなら、もうホワホワってことなんだろう。なんかもう色々と面倒になったので、私に向けられている想いは『親愛』でも『熱愛』でもない第三の愛情、『ホワホワ』ってことで決着がついたのだった。
その瞬間、なぜか彼は勝ち誇った顔をした。なんでじゃ。
というわけで、とりあえず「愛してる」って言葉は気軽に使わないようにだけ教え込んで、帰ろうとする私だったけど――、
「……一緒に寝ようぜって言って、無理やりベッドに引っ張り込んでくるんだもんなぁ。あの時はどうなることかと思ったよ……」
「ぐぉ~……!」
のんきに寝ているウォルフくんの頬をビヨーンと引っ張る。
……彼に知識がなくて助かった。どうやらこのイヌ耳王子様、赤ちゃんはコウノトリが運んでくるとガチで信じているらしい。一緒に寝るという言葉も一つの意味しかないと思っているのだろう。
う~んどうしよう。一般的な常識だったら喜んで教えてあげられるけど、そういう知識を教え込むのは流石に恥ずかしいしな~……!
「むぐっ……ソフィアぁ……いろいろありがとうなぁ……ホワホワしてるぜぇ……」
「……もう、だからホワホワって何よ……」
私の胸元に顔をうずめ、安心しきった表情で寝言を呟くウォルフくん。そんな彼の黒髪をついつい優しく撫でてしまう。
結局、彼が私に対してどんな愛情を持ってくれているのかはわからない。
でも少なくとも、年上だけど年下な男の子に好かれているという事実に、私の胸は温かくなっていったのだった。
◆ ◇ ◆
ウォルフくんと組み始めてから一週間とちょっと。私たちは毎日のようにダンジョンに潜り、モンスターどもを倒しまくっていた!
「やぁソフィア嬢、今日も大儲けだったね。はい、素材買い取り額の十万ゴールドだ」
「ありがとうございますっ!」
受付員のレイジさんからお金を受け取り、意気揚々と冒険者ギルド内の酒場に向かう。
そこでは既にウォルフくんが、お酒……ではなくジュースをグビグビと飲みながら腰かけていた。イヌ耳王子さまは子供舌らしい。
「よぉーソフィア、金は受け取ってきたか?」
「もう、ウォルフくんってば先に飲んで! こういう時はカンパーイってするものなんだよ?」
「がははっ、まぁいいじゃねぇか! よぉし今日も戦いまくった分だけ飲みまくって食べまくろうぜー!」
そう言って大量の料理を注文するウォルフくん。もう、調子に乗っちゃってー。
……でもはしゃぎたくなる気持ちはわかるかな。最近の私たちは本当に絶好調なんだから!
私も席に着くと、彼に報酬の半分を差し出した。
「はいウォルフくん、分け前の五万ゴールドだよ! 今日もいっぱい稼いじゃったねー!」
「おうよ! いやぁ~すげーよなー俺たちってさー! たしかこの国の連中は、一か月働きまくってもせいぜい30万ゴールドくらいしか稼げないんだろ? ンなもん、俺たちだったら一週間もかからずに稼げるぜ!」
「たしかにすごいことだよね。……はぁ、前はこうもいかなかったのになぁ……」
かつての苦労を思い出し、私はぽつりと呟いた。
前世の私の稼ぎは、一月に十五万から二十万くらいがやっとだった。
しかも頑張って働いて少しずつ貯金しても、怪我をして動けなくなったらあっという間にパーだ。何度か経験したけど、辛かったなー本当に。
「あん? 何だよ前って?」
「何でもない。それよりもウォルフくん、大怪我だけには気を付けようね? ちょっとした傷なら私の回復薬で治してあげられるけど、骨折とかになると流石に無理だからね?」
「わかってるっての! 俺も早く金を稼いで自由になりたいところだが、無茶して死んだら元も子もねぇからな~……」
そう言ってウォルフくんは冒険初日にぶつけた背中を忌々しそうに擦るのだった。
おぉ……前世では『狂犬ウォルフ』と呼ばれていた彼が、常識的な発言をするようになるなんてッ!
嬉しくなった私は、思わず彼の頭へと手を伸ばしてしまう。
「よーしよしよし、そうだよウォルフくん! 平和なのが第一だよ! これからも無理せず安定した暮らしを目指していこうね!」
「ふあっ!? や、やめろオラァッ!? お前に撫でられるとなんかすっげーハワハワするんだよ!」
頬を赤らめながら必死に私の手を払いのけようとするウォルフくん。
ふふふ、嫌がってるように見えて気持ちいいんでしょーわかってるよー? 撫でまくるたびに「ふぁあ……っ!」って息が漏れてるもんね! うりうりうり~!
「やめろぉー!」
「あははははっ!」
そうして、彼の顔がとろけきるまで撫でまくっていた――その時。
「フッ。まさか凶暴で手が付けられなかった貴様が、若い女に弄ばれて痴態を晒しているとはな。ずいぶんと楽しそうにしているじゃないか……我が父上の奴隷風情が」
まるで歌うような美声と共に、皮肉げな笑みを浮かべた金髪の騎士が、私たちの前へと姿を現した。
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