80:覚醒! クズ魔王VSガチクズ聖女!
『シリウスの街から王都まではかなりの距離があるが、まぁソフィアさんほどの魔法の使い手ならば数時間もあれば辿り着けるだろう。――よし決めた。今宵、月が昇るのと同時に虐殺劇を決行しよう』
夕暮れが赤く街を照らす中、ニーベルングは軽い調子でそう言い切った。
そこに躊躇など一切ない。第一王子の身でありながら、この男はあっさりと民を殺すと宣言してみせた――!
「まっ、待ちなさいニーベルングッ! アナタは民衆たちに強くなって欲しいから私をシンボルにしたいんじゃなかったの!? それなのに殺すってっ」
『ハッハッハッ、なぁに気にするなソフィアさん! なにせセイファート王国には腐るほどの人間がいるんだ。たとえ王都の連中が数万人ほど死んだとしても、それを礎として他の数百万人が強くなってくれれば大成功だ!』
「成功もクソもないでしょうッ!?」
ダメだコイツ、完全に頭が終わっているッ!
君主論の一つに『支配者は民衆を個ではなく数で見なければいけない』というものがあるが、こんな場面で持ち出していい理論じゃない!
『ではさらばだ聖女よ、魔王ニーベルングとしてアナタの到来をお待ちしよう。その優しさを力に変えて、どうか素晴らしい「聖女伝」を作り上げてくれたまえッ! ワハハハハハハッ!』
哄笑と共にニーベルングは蜃気楼の中に消えていく。
手を伸ばそうとしても無駄だ。元よりアイツの本体は王都にいる上、どれだけ真摯に訴えようが大虐殺を実行するつもりでいるだろうから。
全ては、この国を良くしたいという『優しさ』を胸に――最悪の王子は太陽のごとく瞳を輝かせながら、姿を霧散させたのだった……。
「――どう転んでもソフィア・グレイシアをこの国のシンボルにするため、善意で虐殺劇を実行するとは。やれやれ、とんでもないことを考えるなぁ兄者は」
「ッ!」
まるで他人事のようにつぶやいたのは第二王子・バルムンクだ。そんな彼の空虚な瞳を私は強く睨みつけた!
「バルムンクッ! 仮にもアナタも王族でしょう!? あんな民衆の命を何とも思っていない男に従って、アナタは一体何を考えているの!?」
「特に何も考えていないさ。――思考するのは面倒だからなぁ。その点、部下という立場は気楽でいい。上司の指令に従っておけばいいだけだからな」
「はぁッ!?」
思考放棄であんな男に協力しているですって!? なんだそれはふざけるなッ!
そう私が叫ぼうとした時だった。不意に鋭い疾風が私の側を通り過ぎ、バルムンクに向かっていたのだ。
それは剣を手にしたヴィンセントくんだった――!
「貴様ァーーーーーッ!」
「むっ」
焼け爛れた全身から血を滲ませながらも、必死の形相で突きを放つヴィンセントくん。
だがバルムンクは大剣を盾とし、彼の命懸けの特攻をあっさりと受け止めてしまったのだ。
ギィイイイイイイッ! という鋼の音が、夕日の中に響き渡る。
「ぐぅう……ニーベルング兄様のことは、もういい……! たとえどれだけ狂っていようが、彼は彼なりの理想を抱いて暴走を開始したのだろう。だったら真っ向から打ち砕いてやるのみだ。
ああ、だけど――バルムンク兄様ッ! アンタは本当に何なんだよッ!?」
傷だらけの背中より暴風を吹かせ、ヴィンセントくんは目の前の男を押していく。
それによって徐々に地面を抉りながら後退していくバルムンク。そしてついに、ヴィンセントくんの刃を受けていた大剣の腹に亀裂が入り始めた……!
「僕は家族として信じたかったッ! いつも冷めた顔をしたアンタにだって、夢や理想ややりたいことがあるんだって! そしてそれを知りたいと思っていたッ! 仲良くなりたいと思っていた!!
だけど何なんだよ、思考すらも面倒って!? このからっぽの人形野郎がッ、それがアンタの真実なのかよ!」
血を吐くような叫びが……否、彼は本当に血を吐きながら兄に向かって訴えかけていた。
そんなヴィンセントくんの必死の表情を前に、バルムンクはわずかに目を見開き――、
「――黙って寝ていろ第三王子。お前の出しゃばる場面ではない」
どこまでも冷たい声でそう言い切って、ヴィンセントくんのものより何倍も激しい暴風を全身から放出した!
「ぐあぁーーーーーーーッ!?」
「ヴィンセントくんッ!?」
吹き飛ばされた彼の身体をどうにか抱き留める。
だがその勢いは凄まじく、私とヴィンセントくんは揉み合うように地面を転がされてしまう。
そうして地に伏せる私たちを見下ろしながら、バルムンクはゆっくりと背を向けた。
「ソフィア・グレイシア、王都に来るなら覚悟してこい。
お前に名誉を与えるために討たれるべき魔王になると言ったニーベルングだが、ヤツは本気でお前を殺しに来るだろうさ。
手抜きなど言語道断。『自分が信じた至高の聖女は俺くらい打ち破れる』と信じて――世界最強のジークフリートを打ち破った力を、お前にぶつけてくるだろうよ」
最後まで感情のない声色で、絶望的な言葉を残すバルムンク。
言うだけ言うと彼は暴風をその身に纏い、一瞬にして去っていってしまうのだった。
「……なによ、それ……」
ゆっくりと立ち上がりながら、私は小さな声で呟く。
ああ……もはやわけが分からなさ過ぎて笑えてきそうだ。第一王子と第二王子の反逆なんて、そんな事件は『前世』になかった。
本当に何なんだこれは?
ただの貧乏令嬢だった私が不思議なことに二度目の生を得て、そうして必死で頑張った果てに――些細な勘違いから、歪みきった『聖女伝』が打ち立てられようとしていた。
書き手は魔王ニーベルングで、こちらの意志なんて一切無視だ。
本当は名前すらもない端役だった私を主人公と思い込み、ヤツはこの国を地獄に変えてまで物語を紡ぎあげるつもりでいる。
なんだそれは、どんな不条理だ。
「っ……私は、私は……ッ!」
私は聖女なんかじゃない。聖女伝のヒロインになんて成り切れないッ! 私は自分さえ幸せになれればそれでいいと思っているクズ女だ。重苦しい運命なんて背負わせるなッ!
あまりの負担に心が張り裂け、そう叫んでしまいそうになった――その時、
「ソフィア」
聞き慣れた声が耳朶を震わせる。
呆然と声のしたほうを向くと、そこにはウォルフくんが唇を引き締めて立っていた。
その身体にはいくつもの破片が突き刺さっていてボロボロだ。おそらくはバルムンクの襲撃時、崩壊していく診療所の瓦礫からウェイバーさんとヴィンセントくんを守る盾になったのだろう。
全身からボタボタと血を流す彼の姿に、私は冷静さを取り戻される。
「ァっ、ウォ、ウォルフくんっ、治療を……!」
「こんな傷くらい舐めてりゃ治る。それよりも心配なのはお前だ、ソフィア」
そう言って彼はゆっくりと歩み寄り、私の身体を抱き寄せるのだった。
「あっ……!?」
「辛そうな顔してるぜ、ソフィア。心優しいお前のことだ……どうせ自分が変なヤツに好かれたせいで、王都の連中が巻き込まれちまったとか思い詰めていたんだろう? そんなもんは断じて違う、お前のせいなわけがあるかよ」
ふわりと私を抱き締めながら、ウォルフくんもまた私に対して勘違いのイメージを語る。
魔王ニーベルングと同じく、私みたいなクズ女を心優しいと言うけれど……でも、アイツと違ってウォルフくんの勘違いは暖かかった。
ははっ……そういえば出会った頃からそうだったかもしれない。
勝手な期待から重荷を背負わせるニーベルングと違い、ウォルフくんは「いつかお前を守れるようになりたい」ってずっと言い続けていたっけ。
実際にそれで何の気なしにドラゴンを倒せるようになってしまったのだから笑えてしまう。そんな本物の天才が、私みたいな凡人を相手に何を夢見ているんだか。こちとら元は根暗女で、笑顔すらも偽物だっていうのに。
ああ――だけど、
「……うん、ありがとねウォルフくん。キミのおかげで元気になれたよ」
「おうっ、そりゃよかったぜ!」
本音を隠した私の言葉に、ウォルフくんは心から嬉しそうな笑顔を浮かべるのだった。
うん、本当に綺麗で明るい笑みだ。ニーベルングの明るさしかないおぞましい笑顔とは断じて違う。
今自覚した――私は彼の勘違いに応えたい。
どうしようもない元根暗女な私だけど、そんな私を心の底から想ってくれるウォルフくんの信頼にだけは応えたい! 彼や仲間たちの前では、いつまでも最強の『聖女』でいてやりたいッ!
「ふふっ、ふふふふ……!」
思わず笑顔がこぼれてしまう。
だって私は要するに、王子様たちからチヤホヤされたくて勘違いを維持しようとしているのだから! こんな聖女がいて堪るかッ! やっぱり私はクズ女だ!
ああもう、だけどそれでいいよもう。
たとえ本当は汚れていようが、クズで根暗な偽物の聖女だろうが……それでも、手にした絆は本物だからッ!
だから、
「――みんな、私のことを助けてくれるッ!?」
「「「当たり前だーーーーーーーーッ!」」」
私の叫びに数えきれないほどの声が返ってくる!
バルムンクの野郎が派手に診療所を爆散させたのだから当然だろう――私のことを心配し、シリウスの街のみんなが駆けつけてくれていたのだった!
「ソフィア様、我らは種族は違えど仲間です! どうか頼ってください!」
「ソフィアさまァッ、何があったか知らねーけどお助けしますぜッ!」
息を切らしながらも集まってくれたみんなに感謝する。
さぁ、私に名誉を捧げたいニーベルングの『優しさ』をグッチャグチャに踏みつけてやろう。
クズ女はクズ女らしく、みんなを事件に巻き込んでやるのだ!
――そうしてシリウスの街のみんなと解決すれば、王都を救った偉大な名誉は『亜人種』と『貧民』にまでも分散するのだから。
それに、
「ヴィンセントくん」
「っ……ああ……!」
私の声に、横たわっていた第三王子も立ち上がる。
そう……私は何がどう間違っても女王になるなんて負担は背負いたくはない。だったら解決法は簡単だ。クズ女らしく、任せられる人物に任せればいいのだ。
ゆえに、さぁ、
「第三王子ヴィンセント、王族の名に懸けてアナタが魔王を殺しなさい。ニーベルングは私を指名しているようだけど、知らないわよそんな願い。クズの嘆願など豚の鳴き声と同然だわ」
「フッ……やはりキミは痺れる女性だ、ソフィア・グレイシア。ところで全身傷だらけで立っているのも辛いんだが……」
「もちろん共闘くらいはしてあげるわよ。でも、最後はアナタがトドメを刺しなさい」
「……ああ、了解したよ『聖女ソフィア』。王族として、弟として、必ず魔王を討ち取ってみせよう。――そして僕が、王となるッ!」
弱った身体を気合で支え、ヴィンセント・フォン・セイファートは高らかに宣言する。
よーしこれで私の未来は明るい! 魔王と一緒に戦った仲間となれば、国のシンボルになるとはいかずともかなりチヤホヤされるはずだ! 責任を負うのは大嫌いな私だけど、チヤホヤされるのは大好きなのだッ!
そして友達のヴィンセントくんが王様になれば、きっとお小遣いとかくれたり良い感じの結婚相手を紹介してくれたりするだろう。
これで私の王族になるというクソめんどそうなバッドエンドルートは断たれたはずだ。ヨシッ!
かくして出撃の準備は整った。
さぁ、わからせてやろうニーベルング。お前の思惑は一切通らないということを。
ただただ名誉を吐き出すだけで死んでいけ。私が気持ち良くなるために、お前という存在がいるのだーーーーーーーーーーッ!
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