78:親父はパーティーの場で十代の子にキスを迫って、そして兄貴はそんな女の子に惚れ込んで親父をぶっ殺した家庭環境をしているよ、バルムンクッ!
前回のあらすじ:頭の狂った煉獄さんみたいな厄介オタクからスパチャで王位をプレゼントされたソフィアちゃんは、とっても気持ちが悪い悪いなのだった。
次回、『ほとばしる解釈違い! 暴走する想いが止まらねぇ、拉致りに弟向かわせます!』
「――以上が、昨晩あったことの顛末となる」
「……ええ……」
もはや言葉が出なかった。
ヴィンセントくんの話を聞き終えた私は、ただひたすらに“どうしてそうなった”と頭を抱える。
いやいやいやいやニーベルング王子――ねぇ本当にちょっと待って、私に対して解釈違いもいいところでしょッ!?
要するにあれだよね。国民全員にやる気になって欲しいから、完璧な天才のジークフリートを排して頑張っている凡人な私を祭り上げようってことだよね? それでみんなに見習ってほしいって。
バッ……バカじゃないのーーーーーーーッ!?
貧乏で不幸な家庭に生まれたから仕方なく頑張ってきただけで、頑張る必要がなかったら頑張らないよッ! こちとら平和なスローライフを目指してるんだよバァァァカッ!
それなのに例の反逆の王子は、王家に生まれて才能もめっちゃあるらしくて外面も完璧に保てて人気のあるパーフェクト人間だっていうのに、いきなり私みたいな貧乏令嬢に王位をブン投げてきて『世界一の大国を率いろ、優しくて強い君なら民衆の模範になれるはずだ! 王は無理を言うなと諭してきたが、俺は信じてるぞハッハッハ!』とか……はぁぁぁぁぁ……。
――よし決まった。
「そいつのこと、ブン殴りに行きましょう」
そう告げた瞬間、ヴィンセントくんとウェイバーさんが一秒の間もなく頷いた。
背後に控えていたウォルフくんも拳をパンッと打ち鳴らせる。
「ああ、行こう……何発でも兄様をブン殴ってやろう……!」
「行きましょう。アレはこの国を終わらせる存在です」
「こいつらに同感だな。胸糞悪くて仕方ねぇ」
怒気を放つ三人。もはや語り合わずとも、ニーベルングという男は駄目だと誰もが確信しきっていた。
そう――あの野郎は『強くて優しいソフィアさんに女王になって欲しい』だの『民衆に成長してほしい』だのと聞こえのいい利他的なことを言っておいて、結局は自分の欲望をベラベラと垂れ流しているだけなのだ。
現にニーベルングは、私の都合なんて一切聞いちゃいない。こちらが一つの領地を取りまとめるのにも精いっぱいな思いをしているというのに、『お前なら女王くらい出来る』と無理やり頑張らせようとしている。そんなものは命令されているのと何も変わらないだろうが。
「断言するわ、ニーベルングはどうしようもないクズ野郎よ。そもそも私の人間性を確認するために貧民の人たちを押しかけさせた時点で、人を駒としか見ていないのは明白じゃない……!」
気に食わない、本当の本当に気に食わない。
私がこの世で一番大嫌いなのは、貧しい人を虐げる権力者だ。私利私欲のために貧民を利用するその邪悪さ、貧乏令嬢として絶対に許してなるものか。そんな奴が優しさを語るな。
そうしてみんなでニーベルングに逆らう覚悟を決めた、その時。
「ッ!?」
――不意に悪寒を感じた私は、直感のままに双剣を抜く!
次の瞬間、診療所の壁を斬り裂きながら全方位より風の刃が襲来する――!
「ハァァアアアーーーーッ!」
いきなりの出来事に驚いている暇なんてない。
ここには身体を動かすことの出来ないヴィンセントくんとウェイバーさんがいるのだ、動体視力をフル稼働させて全ての風刃を斬り払うッ!
そしてッ、
「そこだーーーーーッ!」
半壊した診療所の外に見知らぬ人影を見た私は、そいつに向かって建物の瓦礫を蹴り込んだ!
人間の頭サイズはある上、蹴り飛ばす瞬間に混合術式で小爆発を起こして勢いを倍増させたのだ。並みの相手ならこれで死ぬはずだが、
「――突然の襲撃を防いだ上に反撃までしてくるとは。これは兄者が惚れ込むわけだ」
冷めた声と共に一閃。その男は身の丈ほどもある大剣を身軽に振るい、あっさりと瓦礫の礫を防いでしまったのだった。
彼は虚ろな緑の瞳で私のことをジッと見る。
「なるほど、美しい。容姿もよく磨かれている」
「っ……誰なの、アナタは」
突如として現れた謎の美丈夫。よく整った顔をしているのに、全ての感情が欠落したような冷たさが気持ち悪い。こちらを褒めてきた声だってとても平坦だった。
なんだこの人……剣を向けられているっていうのに、戦意どころかやる気すらも感じられない……!
その真っ白な髪も相まって、枯れ果てたミイラでも相手にしているみたいだ。
一体何を考えているのかは分からないけど……でもこのタイミングでの来訪者と言ったら、放った相手は一人だろう。
「アナタは、ニーベルングからの使者ね?」
「正解だ、『女王ソフィア』よ。
私の名はバルムンク・フォン・セイファート。この国の第二王子にして、兄者であるニーベルングに協力する者だ」
――さぁ女王よ、王都までどうかご同行ください。
そう言って彼は、一切表情を変えないまま胸に手を当て、臣下の礼を執るのだった。
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