75:お父さんを殺そう!!!!!!!!!!!!!!
国王様、顔面だけは最強にイケメンなので書籍見てやってください!
「――いくぞ。ヴィンセント、ウェイバー」
「「はっ」」
それは月のない真夜中のこと。
自身の息子と執事を引き連れ、国王ジークフリートは王城の廊下を突き進んでいた。
黄金の髪が麗しく揺れる。その美貌に張り付けられた微笑は世の婦人たちをたちまち魅了してしまうものだったが、彼とは縁が深いヴィンセントとウェイバーは気付いていた……笑みの色が普段とは違うことに。
それはソフィアやウォルフなど、期待している者を前に浮かべる愉悦の笑みでは断じてない。
――汚らわしいハイエナに獲物を奪われた獅子のごとく、牙を剥くような死の微笑だった。
有り体に言えば、今の国王は見たことがないほどに激怒していたのだ。その有無を言わさぬ雰囲気に、背を追う二人はわずかに息が苦しくなる。
かくしていくつかの廊下を抜け、ジークフリートが辿り着いた場所は王城内の中庭だった。
辺り一面に薔薇の咲き誇る赤き園。全ての貴族令嬢(※ソフィア以外)がここで茶会をしてみたいと夢見ている、憧れの王宮庭園である。
――その中央に設けられたテーブルに、王が目当てとする人物は腰かけていた。
まるで『父親』のことを待ち構えていたかのように。
「やぁ、これは父上! 今夜は月が綺麗ですな~!」
快活な声が夜の庭園に響き渡る。
彼の名はニーベルング・フォン・セイファート。この国の第一王子にして、ヴィンセントの長兄に当たる男だ。
その雰囲気はとても明るくて温かかった。父親である国王と同じ金髪の青年だが、ジークフリートの髪を獅子の鬣とするならば、彼のそれは太陽の日輪と言ったところか。
民や使用人にも友好的な態度で接するため、ニーベルングを慕う者はとても多かった。
ああ――そう考えればソフィアとどこか似ているところがあるかもしれないが、ヴィンセントとウェイバーは不思議とそうとは思わなかった。
それがなぜかはわからないが、ともかく今考えても仕方がないことだ。二人は張り詰めた面持ちで、王と第一王子のやりとりを見守る。
「やぁニーベルング、こんばんは。ところで今夜は月など出ていないはずだが?」
「はははっ、ジョークですよジョーク! いけませんぞぉ偉大なる父上、国王たるものそれくらい理解するユーモアがなければ!」
「フフッ……それは御忠告痛み入る。だがすまないなぁ賢き息子よ、今夜の私は戯言に付き合っていられるほど上機嫌ではないのだよ」
そう言ってジークフリートは丸めた書簡を懐から出し、ニーベルングに投げ渡した。
彼はそれを開くとつらつらと読み通していった。
「ふむふむ……『ソフィア・グレイシアに貧民の集団を送り付けた男に対しての調査報告』ですか……。父上よ、この件に関しては俺が調べていたはずですが?」
「あぁ知っているとも。しかし彼女は私のお気に入りでね……君には黙ってこっそりと、独自で調べさせてもらったよ。そこでわかったことがある」
父親の言葉を聞きながら書簡を読み終えるニーベルング。その最後の行には、『――以上の調査を以って、ニーベルング・フォン・セイファートがもっとも疑わしい』とそう記されていたのだった。
この結果に、ニーベルングは肩を震わせる。
「ッ……何なのですかこれは!? しかも調査には、ウェイバーとヴィンセントも協力していたとある!
ああ二人とも、俺のことを疑っていたのか!? 一緒にソフィアさんを困らせた犯人を見つけるため、あちこち駆けずり回っていたというのに!」
「すみませんねぇ第一王子。ですがどうも、どうしても昔からアナタのことは信用ならないと思っていましてね」
「ニーベルング兄様……本当のことをおっしゃってください」
悲壮な声で訴えてくるニーベルングだが、二人は全く意に介さない。
正直なところ彼のことは嫌いではなかった。貧民に対しても心優しい態度はウェイバーがとても好むものであったし、ヴィンセントからしても恐ろしき父親や冷たすぎる第二王子と違ってとても好ましい家族だった。
だがしかし……ソフィア・グレイシアに比べたらどうだろうか?
貧民に優しいとはいえ、ハオ・シンラン率いる組織『冥王星』が危険な薬をスラムにバラまいていると知っても、率先して動くというようなことはなかった。
ヴィンセントにも優しいとはいえ、あくまでも優しかっただけだ。いくらワガママな性格に育とうが、叱ることは一切なかった。
ああ――いつだって本気で人のために動いてきたソフィアと比べたらよくわかる。つまり彼の温かさは、表面上だけのものであったのだと。
そんな偽りの太陽を前に、国王ジークフリートは溜め息を吐いた。
「ニーベルングよ……別に君が人気取りのために気安く振る舞っている件については構わない。為政者ならば大なり小なり自分を偽るものではあるし、その明るさで救われた者もいるだろう。
だがしかし……ゆえにこそわからないなぁ。どうしてそんな風に評価を気にする君が、国でも話題のソフィアくんを困らせるような真似をしたのだね。貧民の集団を焚きつけて押しかけさせるなど、イタズラにしては少々度が過ぎていると思うが?」
決して声を荒らげることなく、それこそ理性的な父親が息子を諫めるような声色でジークフリートは問いただす。
だが、その目からは一切の感情が消え失せていた。
そう――先ほど彼が言ったように、ソフィアは王の『お気に入り』なのだ。その言葉の重要性は常人などとはまるで違う。
ジークフリートはいくつもの国を支配し、『何百万』という民衆をその手に収めた大王である。ゆえに十年に一度の天才と呼ぶに相応しき人物なら百人は見てきたし、世界三大美女なら三百人は見てきた。
支配下に置いた人間の数だけ、彼の目はとてつもないほど肥えているのだ。
そんな男がお気に入りとまで呼んだ少女に手を出したとあれば、このまま穏便に終わるわけがなかった。
「さぁ、釈明したまえニーベルング。どうして私の聖女にあんな真似をした? もしもくだらない理由であれば、ヴィンセントが王位に近づくことになるぞ」
言外に『内容次第では殺す』と言い放つジークフリート。
そんな父に対し、第一王子はやれやれと肩をすくめながら口を開いた。
「もはやヘタな演技は通じませんか……。ああ、俺はですねぇ、父上……本物の『聖人』というやつに出会ってみたかったのですよ。だからこそ、アナタが聖女と呼んでいるソフィアさんのことを試したわけです」
「なに……?」
息子の言葉にジークフリートは眉根を顰めた。背後に控えているヴィンセントとウェイバーも同様だ。
ニーベルングは言葉を続ける。
「まったく、民衆というのは単純だ。『優しい王子』というだけでほとんどの者が慕ってくれる。ただ優しいだけの人間なら山ほどいるというのに、そこに立場が付いただけで誰もがたちまち大絶賛だ。
隣人に気安い男と民衆に気安い王子――前者はむしろ鬱陶しいと思う者すらいるというのに、後者を嫌う者は今のところ見たことがないな」
どこかうんざりとした声で語るニーベルング。太陽のごとき雰囲気は陰り、快活とした笑みは影も形もなくなっていた。
だが、
「そんなある時だ……今から数年前、俺はグレイシア領からやってきた使用人からソフィアという少女の存在を知った。聞けば仮にも貴族令嬢の身でありながら、民衆のために幼い時から働いてきた素晴らしい聖女様だとか。
フフッ……最初は鼻で笑ってしまったさ、『どうせその女も人気取りのために仮面を被っているに違いない』とね。それきりすっかり忘れていた。
ああ、だがしかし――今から数か月前、彼女の名を再び聞くことになる。馬鹿にされた仲間のために立ち上がり、王族であるヴィンセントに剣を突きつけた女としてな……ッ!」
萎えていた声に熱が灯る。
冷めきっていた偽りの太陽から、感情の炎が沸き上がり始める――!
「「ッッ……!」」
その様にヴィンセントとウェイバーは警戒した。今のニーベルングからは、これまでになかった危険な雰囲気が漂い始めたからだ。
「なぁおいわかるか!? いくらヴィンセントが嫌われ者のゴミとはいえ、王族に喧嘩を売ったのだぞ!? そんなもの、すでに人気取りという範疇を超えているだろうがッ!
さらにソフィア・グレイシアの活躍は続く。彼女は危険を冒してまで貧民を食い物にするテロ組織に挑み、見事に人々を救ってみせたというのだ! ここまで来たらもはや演技もクソもあるかッ! 彼女は心から民衆を想う、本物の『聖女』に違いないッ!」
テンションの上昇は止まらない。
仮面を被っていた頃のニーベルングを暖かな陽光と例えるなら、今の彼は灼熱の紫外線だ。太陽が持つ危険すぎる側面を隠すことなく露わにしていた。
そんな彼の見たことのない狂気を前に、父親であるジークフリートは目を細める。
「それで、ソフィアくんの聖性を確認するために貧民を押しかけさせたと?」
「そうとも。俺のようなクズとは違う本物の聖者がどう対応するか見てみたかった。
そして……彼女は見事に期待に応えてくれたさ。人間とは仲の悪い亜人種どもに囲まれ、気を抜いたら暴動でも起きかねない状態だというのに、貧民たちを受け入れてみせたのだ。
さらにこれは全くの偶然だが、街の中心にダンジョンが発生した直後という大混乱のタイミングでそれをやってのけたのだから素晴らしすぎるッ! 金目当てで近づいてきたゴミどもの世話など焼いている余裕なんてないだろうに!」
あぁ素晴らしい、素晴らしすぎるとニーベルングは蕩けた笑顔でソフィアを想う。
まずこの国によって祖国を滅ぼされた亜人種たちから信頼を勝ち取っただけでも素晴らしいというのに、そんな彼らとの関係が壊れるかもしれないリスクを冒してまで貧民たちを救うなどありえない。
そんなことをしたら間違いなく、住民同士のトラブルが起きないために領地を駆けずり回る日々の幕開けだ。個人の喧嘩が両族同士の激突に発展してしまうのかもしれないのだから、その心労は計り知れない。
さらに発生してしまったダンジョンへの対処や、冒険者ギルドと冒険者たちを迎え入れるために店舗を揃えなければいけないなどの作業を合わせれば、もはやソフィアのスケジュールは殺人的なものになっているだろうとニーベルングは予想する。
それは比喩表現ではなく本当の意味でだ。このままいけば過労死するか、あるいは不満を爆発させた領民に襲われるか、そんな未来しかありえない。
そのような苦労しかない茨の道を選べる者を、聖女と呼ばずして何という?
「俺はずっと人間の優しさなど信じてこなかった。結局は誰もが打算ありきや自己陶酔のためにやっていて、命の危険が絡むとあれば即座に己が身を優先するだろうと思っていた。特に貴族や王族ならば当たり前のことだとな。
しかしソフィア・グレイシアは違う……彼女こそ、『聖女伝』に記すにふさわしき人物だッ! 彼女のような誰かのために死ねる人間が実在したんだーーーッ!」
カハハハハハハッと狂ったように笑うニーベルング。
――なお、当たり前だが全ては彼の勘違いである……!
ソフィアがヴィンセントに喧嘩を売ることになった件は、うっかり彼に酒をぶっかけてしまったから決闘に持ち込んで亡き者にしようというクソみたいな理由だった。
ウェイバーやウォルフと共に『冥王星』を潰した件も、一人でいると組織の者に狙われるかもしれないから強い二人にちょこちょこ付いていこうというカスな考えからである。
そして多忙な状況で貧民を受け入れた件も、明らかにハオ・シンランなる少年が怖くて、彼の訴えをビビりながら聞いてあげたというザコっぷりなのだが――当然ニーベルングは気付かない。
あれほどまでに優しき人物など『本物の聖女』か、自分をよく見せることに才能と運を全ツッパした『本物のクズ』のどちらかだろう。むろん前者だと彼は信じていた。
かくして狂信するニーベルングに、ジークフリートは呆れたような声で問いかける。
「なるほど、君の思惑は理解した……理想の女性が見つかったようで何よりだ。しかしニーベルングよ、彼女が本物の聖女だとわかったところで、それで一体どうしようというのだね? 求婚でもする気か?」
「はははっ、ご冗談を父上! 俺のようなクズがソフィアさんに釣り合うわけないでしょう」
何を言っているんだかとニーベルングは愉快げに笑う。
そんな彼のソフィアに対する熱烈ながらも確かな敬意を前に、国王を含めた男たちが『要するにコイツ、厄介なファンになっただけか』と溜め息を吐いた――その瞬間、
「あぁ、ソフィアさんこそこの国の指導者に相応しい。だから父上、死んでくれ」
――そう言って手のひらを突き出し、摂氏数千度の灼熱光を放ったのだった。
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